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年46万円の給与増法案→批判されたら自主返納…「国民の気持ち」がまるでわからない岸田首相の経済オンチ

プレジデントオンライン / 2023年11月14日 13時15分

記者会見する岸田文雄首相=2023年11月2日午後、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

次々と「経済対策」を発表しているのに、岸田政権の支持率低迷が続いている。フリージャーナリストの宮原健太さんは「岸田首相は国民の生活実感がまるでわかっていないようだ」という――。

■政府の「経済対策」に感じる違和感

岸田文雄首相が発表した「経済対策」の内容に違和感を持った人は少なくなかったのではないか。

いまは国民を物価高が襲うインフレ局面であるのにもかかわらず、「デフレ完全脱却」をテーマに掲げているからである。

そして、この食い違いにこそ、岸田首相の経済対策が国民生活の実態とズレてしまっている根本原因があると考えている。

そもそも、岸田首相が物価高の中で「デフレ完全脱却」を掲げたロジックはどのようなものだったのか。

11月2日の記者会見で岸田首相はまず、日本経済について「バブル崩壊後の30年間、我が国はデフレに悩まされてきた」と振り返り、具体的に「日本企業は、短期的な業績改善を優先して値下げをし、そして利益を確保するためにコストカットを進めてきた。あえて単純化すれば、賃金・投資を抑え、下請企業に負担を寄せてきた」と述べた。

実際に日本では賃金がなかなか上がらず、物価変動を加味した実質賃金は1996年をピークに減少傾向が続き、「失われた30年」と呼ばれている。

これに対して、岸田首相は「この2年間、経済界に賃上げや設備投資、研究開発投資を強力に働きかけてきた」として、その結果、「30年ぶりとなる春闘における大幅な水準の賃上げ」などを実現できたと自らの成果を強調した。

■岸田首相の認識はあまりに楽観的すぎる

一方で、現在も「賃上げが物価上昇に追いついていない」と指摘し、「デフレから完全に脱却し、賃上げや投資が伸びる、拡大好循環を実現するために」給付金や減税などの経済対策を実施していくと発表したのである。

つまり、いま日本では物価や賃金が上がっており、長らく経済を苦しめてきたデフレから脱却しつつあるので、給付金や減税などの経済対策を通して、経済の好循環を生むサポートをしていくというわけだ。

この岸田首相のロジックは本当に正しいのであろうか。

確かに、2023年春闘の正社員の平均賃上げ率は3.58%と約30年ぶりの高水準となった。

ただ、これは岸田首相が「強力に働きかけてきた」成果というよりも、物価高によって引っ張られる形で賃金が上昇した側面が大きい。

日本が長らく苦しんできたデフレから脱却する好機として、現在の経済状況を捉えるのは楽観が過ぎるのではないだろうか。

■「日本経済の成長」による物価高ではない

そもそも、日本で物価高が起きている原因は、原油産出国であるロシアがウクライナに侵攻したことによって世界的なエネルギー価格の高騰が起きたからで、コストプッシュ型のインフレと言える。

さらに、日本ではアベノミクス以降の金融緩和政策が続いている。一方、アメリカは物価上昇を抑えるために連邦準備制度理事会(FRB)が金利の引き上げを繰り返しているため、金利差によって円安が進み、物価高の要因の1つとなっている。

つまり、外的要因によって物価が上がっている側面が大きく、日本経済が成長していることによって物価高が起きているわけではない。

もちろん、コロナ禍が明けて需要が回復してきている部分もあるが、コロナ禍からの反動であることを考えると、経済が好調だとは言えないだろう。

やはり、現在の物価高や、それに伴う賃金上昇を「デフレから脱却して経済の好循環を生むチャンスだ」と発信することには違和感があるのだ。

足早に帰路に就く人々
写真=iStock.com/AzmanL
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AzmanL

■ポジティブに捉えようと躍起になっている

そもそも、このタイミングで大規模な総合経済対策を打ち出すこととなった理由は、物価高対策であったはずだ。

「デフレ完全脱却」などと掲げるよりも、「世界的なエネルギー価格高騰や円安で物価が上がっているため、経済対策で国民の生活を支えます」と発信した方が、何十倍も分かりやすい。

それでも、岸田首相が記者会見で「デフレ完全脱却」にこだわったのは、今の日本経済を少しでもポジティブに捉えようと躍起になっているからだとしか思えない。

永田町を取材していると実感するが、政府は現状がどんなに悪くても、良いように捉えて発信しようとする傾向がある。

現状が悪いと認めてしまえば、現政権への批判を許すことになってしまうからだ。

驚くべきことに、2日の会見では、岸田首相は「円安」という言葉を一言も発していない。

物価高対策が今回の経済対策の主要な項目であるにもかかわらず、日本で物価高が起きている要因については、一切説明がないのだ。

外的要因によって物価高が起きているという実態をごまかし、物価高によって起きている賃金上昇などを自身の成果として強調する。

あまりにも歪んだ発信をしていると言わざるを得ないだろう。

■なぜ今すぐに実施できない「減税」なのか

このような歪みは経済対策の内容そのものにも影響を与えている。

それが、国民からの評判も悪い「減税政策」である。

今回の経済対策で最も注目されているのは、国民に直接恩恵が届く減税、給付金政策だ。

低所得者には世帯に対して、これまでの支援と合わせて10万円を給付する一方で、それ以外の国民には所得税や住民税を1人計4万円減税するものとなっている。

給付金は年内から年明けにかけて迅速に配布する一方で、減税は来年6月に実施される予定で、物価高対策としての即効性の低さが批判されている。

ただ、岸田首相に言わせれば、実は減税は物価高対策ではない。

岸田首相は記者会見で、給付金は「緊急的な経済支援対策」である一方、減税は「本格的な所得向上対策」と説明している。

記者会見する岸田文雄首相。次々と「経済対策」を発表しているが、岸田政権の支持率低迷が続いている
記者会見する岸田文雄首相。次々と「経済対策」を発表しているが、岸田政権の支持率低迷が続いている(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

つまり、給付金は現在の物価高に対応するための支援である一方、減税は来年6月のボーナスのタイミングに実施されることで「給与明細の金額が増えて所得が上がった」と実感してもらうために行われる。

そして、「所得が上がった」と実感してもらうための減税こそ、賃金が増えて景気の好循環を生む「デフレ完全脱却」にかこつけられているのである。

■経済対策がズレている根本原因

だが、現在の物価高に苦しんでいるのは低所得者だけではない。

厚労省が7日に公表した毎月勤労統計によると、今年9月の実質賃金も昨年の同じ月と比べて2.4%減となり、18カ月連続でマイナスとなっている。

中間層を含めた多くの国民が物価高で苦しんでおり、一刻も早く給付金などの支援を受けたいと考えているはずだ。

しかし、岸田首相が「デフレ完全脱却」にこだわるあまり、多くの人々が恩恵を受けるには、来年6月の減税まで待たなければいけなくなってしまった。

物価高の経済状況をポジティブに捉え、デフレからの脱却に重心を置いて経済対策を打とうとしている岸田首相と、物価上昇によって生活が苦しくなり、一刻も早い支援を求めている国民との間に大きな乖離(かいり)が生じている。

この乖離こそが、岸田首相の経済対策が、国民生活から大きくズレてしまっている根本原因だと言えるだろう。

■「聞く力」は一体どこで発揮されているのか

しかも、岸田首相の考え方の裏には、物価高が外的要因によって起きているという事実関係をきちんと説明せず、高い賃上げ率などを自身の成果だと強調したいという意図も透けて見える。

日本経済や岸田首相自身をより良く見せようとする屁理屈により、経済対策が大きくゆがみ、それに国民が付き合わされていると言っても過言ではないだろう。

そのような岸田首相の打算は既に国民に見破られている。

記者会見で「デフレ完全脱却」を繰り返す岸田首相の姿が、あまりにも国民生活からかけ離れてしまっているがゆえに、多くの人は共感できなくなってしまっているのだ。

そのため、2日の経済対策発表後も政権支持率の下落は止まっていない。

岸田首相は10月、政権発足から2年を前に首相官邸で「聞く力と決断し実行することのバランスが政治に求められる」と記者団に語っている。

その「聞く力」は一体どこで発揮されているのだろうか。

今国会では、特別職の国家公務員の給与を引き上げる法案が成立する見込みで、岸田首相は年間46万円、大臣や副大臣は年間32万円の給与アップとなる予定だ。

これについて松野官房長官は、「自身を利するような考えはないが、万が一にも国民の不信を招くことがあってはならない」と述べ、首相と政務三役は、年収アップ分を国庫に返納する方針を明らかにしている。

政治不信が高まる中、なぜ自身や閣僚の賃上げも盛り込んだままの「給与増法案」を出してしまったのか。なぜ後手に回って「自主返納」するのか。岸田首相はどこまでもズレている。そう思わざるを得ないが、いかがだろうか。

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宮原 健太(みやはら・けんた)
ジャーナリスト
1992年生まれ。2015年に東京大学を卒業し、毎日新聞社に入社。宮崎、福岡で事件記者をした後、政治部で官邸や国会、政党や省庁などを取材。自民党の安倍晋三首相や立憲民主党の枝野幸男代表の番記者などを務めた。2023年に独立してフリーで活動。YouTubeチャンネル「記者VTuberブンヤ新太」ではバーチャルYouTuberとしてニュースに関する配信もしている。取材過程に参加してもらうオンラインサロンのような新しい報道を実践している。

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(ジャーナリスト 宮原 健太)

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