38年ぶり"道頓堀ダイブ"で日本人の給与はアップするか…前回V後は「バブル→崩壊→長期低迷」の地獄道だった
プレジデントオンライン / 2023年11月15日 11時15分
■岡田阪神“アレのアレ”の経済効果はあるのか
今年は阪神タイガースが38年ぶりに日本一に輝きました。今回はその後の38年間の日本経済に関して所感を述べさせてもらいます。
私は住んでいた地域の関係で小学生の頃から近鉄バッファローズのファンで、近鉄がなくなってからしばらくはどこのファンでもありませんでしたが、高齢者になり昔が懐かしいのか、最近ではバファローズの系譜であるオリックスファンを自認しています。オリックスは、以前はそれほど強いチームではありませんでしたが、最近では3年連続でリーグ優勝など、かなりの好成績を残しました。そのオリックスは日本シリーズで奮闘しましたが、阪神が最終戦の第7戦で見事に勝ち、日本一となりました。
38年前、1985年に阪神が日本一になった時には、3番掛布、4番バース、5番岡田の3主砲がいてチームをけん引しましたが、主軸選手の一人だった岡田監督が今回チームを頂点に導いたことは感慨深いものがあります。
一方、日本経済は前回阪神が日本一になったすぐ後頃から、すさまじいバブルを経験、そしてその後は長期間にわたって低迷を続けています。38年ぶりの阪神日本一は果たして何をもたらしてくれるのでしょうか。
■阪神と日本経済…前回優勝38年前に起きたこと
阪神が前回優勝した1985年以降を簡単に振り返りましょう。この年は夏以降に大きなニュースが相次ぎました。私は、その頃、留学のためにアメリカの北東部ニューハンプシャー州に住んでいたのですが、8月に日航ジャンボ機が墜落したのです。お盆前で羽田から大阪・伊丹に向かうジャンボ機が機体の金属疲労により群馬・御巣鷹山に墜落し、乗員乗客のほとんどが亡くなりました。米国でも毎日のようにテレビで大きく放映されていました。米国にいても心が痛んだことを今でも覚えています。
経済的な大ニュースは、9月に「プラザ合意」がありました。主要5カ国の蔵相・中央銀行総裁がニューヨークのプラザホテルに集まって会議を開いたのです。会議のテーマは、円安がメインでした。そのせいで米国は多額の貿易赤字を抱えていました。米国はレーガン大統領の時代でしたが、貿易赤字と財政赤字の「ふたごの赤字」に悩まされていた時期でした。
私は、留学直前は東京銀行(現三菱UFJ銀行)で為替ディーラーの見習いの仕事をしていたこともあり、当時のドル・円レートには大いに関心がありました。プラザ合意直前には240円くらいだったのが、合意後は1年ほどの間に100円ほど円高となりました。
■1985年の日本経済、世界経済
当時の経済の規模はどんなものだったのか。国内で作り出される付加価値(売上高-仕入れ)の合計である「名目国内総生産(GDP)」を見ると、1985年は321兆円でした。直近の2023年4~6月期の年換算は589兆円ですから、当時は現在の54%程度の水準です。
![【図表1】名目GDP比較](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/2/1200wm/img_f27487dce77a51f7b5e1acaf7f446402195814.jpg)
名目国内総生産(GDP)は給与の源泉ですから、給与水準も今の半分程度でした。「実質国内総生産」の成長率は5%程度でした。
ちなみに1985年当時の米国の名目国内総生産(GDP)は4兆3000億ドル、当時のレートで換算した日本は1兆4000億ドル程度で世界第2位でした。ちなみに、第3位の西ドイツは6000億ドル強、8位の中国は3000億ドル程度でした。世界全体では12兆4000億ドルでしたから、それぞれ米国は約35%、日本は約11%と世界の中で大きなプレゼンスを持っていたと言えます。
日本は高度経済成長が終わって安定成長期に入っていましたが、1ドル240円程度のドル・円レートの水準は、日本の輸出にはとても有利で、先にも述べたように、とくに米国においての貿易赤字が大きな問題となっていました。米国での自動車や家電の輸出が急増し、議会の前などで日本車や日本製の家電製品がハンマーで打ち壊されるといったデモンストレーションが行われたのもこの頃です。
そこで取りまとめられたのが、先に述べたプラザで合意だったのです。翌年の1986年には150円程度、87年には120円程度まで急速に円高が進みました。
■バブル景気の発生
日本では円高による懸念が広がりました。当時の日本は輸出主導でしたので、円高により輸出産業が大打撃を受けると考えられたのです。政府は円高対策もあり、金利を下げるとともに資金供給量を極端に増やしたため、その後のバブルにつながったのです。
当時は、ちょうど外資系金融機関などが日本に進出を始める時期と重なったのですが、今と違って大手町界隈でも、外資系金融機関の眼鏡にかなうようなビルはほとんどありませんでした。当時は赤坂のアークヒルズだけが外資のレベルに合うビルと言えたほどでした。
そこで、ビル開発が始まったのですが、円高対策のための低金利、資金供給量の増加が、銀行の融資を通じて、不動産業界を活気づけました。
当初は大手町、そして東京駅の反対側の八重洲あたりで土地取得が進んだのですが、それが周辺地域に広がりました。どんどん地価が上がるので、今度は投機目的の資金も不動産業界に流れ込み、「地上げ」が横行してバブルが発生したのです。都内の住宅地の地価が、数年で4倍に跳ね上がったということもありました。
余った資金は株式やゴルフ会員権にも流れ込みました。プラザ合意直後の1985年11月2日に1万2808円だった日経平均株価は、89年の最終取引日には3万8915円まで上り詰めました。一気に3倍以上です。また、現在は4000万円程度で取引されている小金井カントリークラブの会員権が4億円をつけるということが起こったのもバブル期です。
また、余った資金は銀行融資を通じてM&Aの原資ともなり、三菱地所がニューヨークのシンボルのひとつロックフェラーセンターを買収、その後、破綻した青木建設がカリフォルニアの超名門ゴルフ場のペブルビーチ買収などに動きました。
名目国内総生産は、90年には437兆円となり、85年と比べて4割近く増加しました。まさにバブルだったのです。
しかし、バブルはしょせんバブルですから、不動産税制の変更や、銀行の融資スタンスの変化で、あっけなく崩壊しました。日経平均株価は89年末が先ほど触れた3万8915円がピークで、翌年1990年には一気に下落、土地はそれより少し遅れて急速に価格を落としました。先に述べた4倍に上がった住宅地はそれほどの期間が経たない間に4分の1に下落しました。バブルは90年代前半に崩壊しましたが、GDPは96年には504兆円、97年には515兆円まで伸びました。
■バブル崩壊と長期低迷が続く
前回の阪神日本一から38年、日本経済はずっと伸び悩んでおり、今年はドイツに名目GDPで抜かれる予想です。数年後にはインドにも抜かれると推測されています。名目国内総生産(GDP)の世界シェアは、38年前の半分以下です。
また、この38年の間に一時は80円を切る水準まで円高が進んだのですが、現在の150円前後という為替レートは、1985年のプラザ合意からしばらくした水準と変わらないというのは歴史の偶然でしょうか。
ここまで述べたように、前回阪神が日本一になった時には、その直後にバブル経済が始まり日本経済は世界でのプレゼンスを高めましたが、その後、経済が長期間にわたり低迷しました。消費税は上がるものの、国民の給料はほぼ上がっていません。かつて円高時代の日本人は海外旅行を格安で楽しみましたが、今は大勢のインバウンドの客は日本旅行をリーズナブルに満喫しています。
岡田阪神の優勝は日本経済のターニングポイントとなるのでしょうか。吉か凶か、どのような変化をもたらすのか。ロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナ、各地で激化する衝突は日本のさらなる物価高の要因になる中、タイガースの栄冠が、企業業績や社員給与アップの機運を後押ししてくれたら……。来シーズンのプロ野球の動向とともに、注目していきたいです。
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小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)
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