誰もいないはずのリビングで足音が…一級建築士が見た「こだわりのマイホームづくり」の致命的なミス
プレジデントオンライン / 2023年11月22日 13時15分
■後戻りできない住まいづくりの致命的なミス
住まいは人生で最大のお買い物。致命的なミスは避けたいですよね? そのため、事前にWEBでハウスメーカー選びから予算などいろいろ調べあげて慎重に打ち合わせを進める方が多いと思います。
しかし、いくら慎重に住まいづくりを進めても起きてしまうのが、後戻りできない致命的なミス。
そこで今回は、当事務所にご相談にこられたお客様の「やってしまった後悔だらけの住まいづくり」をご紹介するとともに、致命的なミスを防ぎ満足のいく住まいづくりを成功させるためのポイントをご紹介したいと思います。
■業者への要望は口頭ではなく書面で渡す
![雑草](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/9/1200wm/img_195f91ed99d313398f88919ed53e0433450047.jpg)
家の新築時におこるミスで多いものが、「大切な木を切られてしまった」「祠をこわされた」など敷地内の樹木や建造物に関するものです。大きな木は敷地を整地する業者も気を付けるのですが、比較的小さい低木や、石を積み重ねたようなかたちの祠ですと、障害物として伐採したり、または取り壊してしまうことが多いのです。
こういったミスが起こる一番の原因は「伝達ミス」です。住まいづくりには、はじめの窓口となる営業担当者から建築士などの設計者、そのほか施工を指示する現場監督や、実際に建物をつくる基礎屋さん、とび職人さん、大工さんに電気・給排水などの設備屋さんなど、じつに多くの人がかかわっています。「きちんと現場監督に伝えたのに……」という施主も多いのですが、多くの方がかかわっている現場で、実際に建物をつくる大工さんなど職人さんまで打ち合わせ事項がきちんと伝わっていないことが多いのです。
このような致命的なミスを防ぐためにとる方法としては、伝え方が大事になってきます。大切な伝達事項は、打ち合わせの際に口で伝えるのではなく、きちんと紙や打ち合わせ簿などに書いて工事施工者やハウスメーカーの担当者に伝えましょう。そうすれば「切ってはいけない木」や「壊してはいけない祠」などに現地でロープを張るなどのマーキングや養生をしてくれるため、施工ミスを防ぐことができます
打ち合わせを進めていくなかで発生した変更事項なども、同様です。変更内容がきちんと反映されるように、メモや打ち合わせ簿などで設計士や工事関係者に伝えましょう。目に見える形で残しておくと、間違いが減るのでおススメです。
■隣家の換気扇や排気口の位置は必ず現地で確認
窓の位置など建物の配置の問題も、後から変更がきかないため、重大なミスにつながります。窓については方位、「隣家からの視線」や「道路からの視線」は気にして間取りづくりを進めるのですが、臭いなどについてはノーマークなご家庭も多いのです。とくに臭いに悩まされるのが、換気扇が大きい隣家の「料理のにおい」と「入浴時のにおい」。自宅のお料理や自分のお風呂上がりの臭いは気にならないのに、隣の住人のものが自宅で臭うとなると、やはり嫌なものです。
![隣家と自宅の配置図](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/7/1200wm/img_a7ef89d13295daa9a2b28bf36d1a7d88156216.jpg)
こういったミスが起こる原因は「現地での確認不足」。とくに隣家の浴室からの排気やキッチンからの排気が自宅の敷地のどこにあるのかは必ず確認して、その位置の近くにリビングや個室などの窓や給気口が設置しないように間取りを工夫して設計してもらいましょう(図表1参照)。とくに都心の住宅密集地では、隣家のキッチンや浴室の排気位置が、自宅の個室窓や給気口と接近することが多いので要注意です。
■住宅密集地は隣家からの「共振」現象に注意
![階段](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/a/1200wm/img_4a79633f60c5bd84589dda54f8e9ccf2167633.jpg)
オカルト話はいつの時代でも人気ですが、本当に自宅で起きた場合はどうでしょう? くつろいでいるときや静かに読書を楽しんでいるときなどに、誰かの足音が聞こえてくるのは嫌ですよね。足音が聞こえる原因の多くの場合が「振動による共振」といわれています。近年では二重サッシの窓や壁の断熱化により、直接、くしゃみや会話・TVの音など、隣家の生活音が聞こえてくることは少なくなりました。しかし住宅密集地では建物自体が近いため、隣家の振動を自宅で受けてしまう「共振」現象がまれに起きてしまいます。
とくに階段の昇降などからくる音は低周波のため響きやすく、窓が二重サッシだったとしても、振動として外部から伝わるため、対策が難しいのです。「共振」現象は、隣家との距離が近いと起きやすいといわれていますが、具体的に何m以内だと起きる、どんな建材だと起きやすいなど分かっていることが少ないため予防策が難しく、隣家から5mくらい離れていた場合でも共振現象が起きたケースもあります。
建築材料や距離・間取りなど様々な悪条件がそろって起こることが多い「共振」現象。確実に防ぐ方法はなかなかありません。しかし、とくに低周波の「足音」が問題になりやすいことから、隣家の間取りを推測し、廊下や階段など「足音」が発生する場所がなるべくリビングダイニングや寝室と近くならないよう、間取りや敷地の配置を工夫することが大切です。
■「調湿作用」がある壁にカビが大量発生
![部屋干ししている洗濯物のイラスト](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/1/1200wm/img_4138554e3b5a0bfc42f854096418fc53348106.jpg)
共働き家庭が増えて、いまではあたりまえになった洗濯物の「部屋干し」。この「部屋干し」ですが想像以上に大量の水蒸気が部屋内に発生することご存知でしょうか。だいたい5kgの洗濯物で約3リットルの水蒸気が発生すると言われています。そのため、4人家族の場合は、一日の洗濯物の量はおよそ6kgなので、毎日約3.6リットルの水蒸気が部屋に放出していることになります。すごい量ですよね? この水蒸気が湿気の多い梅雨に放出されたら、いくら「調湿作用」をうたっている壁紙やタイルでも限界があるのはお分かりだと思います。
そのため「部屋干し」をする場合は、除湿や換気、またはサーキュレーションなどにより空気を動かすなどの対策をしないと、「調湿作用」をうたっている壁紙やタイルだけでは、壁や床にカビが発生しやすいのです。こういった問題は「建築材料の効果にたいする期待値が大きい」ときに起こります。つまり家を建てる施主は「調湿効果がある=湿度を調整してくれる=カビが生えない」と過度の期待を持ってしまいがちなのです。しかし壁材や床材などの建築材料による「調湿効果」は、換気扇や除湿器ほどの効果はなく、あくまでも補助的な効果にとどまります。
このような失敗を防ぐ方法としては、あらかじめ建材の持つ効果の範囲を商品メーカーや設計者などに確認したり、また過度の期待を抱かないことも大切です。そうすれば、たとえ建材の効果が少なかったとしても、建物を建てた後に大きな不満が残ることも少なくなります。
■理想のイメージと実際の仕上がりが全然違った
「玄関ドアは天井までの高いイメージだったのに、梁(はり)が出ていた」(東京都 50代男性 会社員)
「インテリア性を高めるためキッチンレンジフードをとってわざわざ壁付の換気扇にしたのに配線が壁にむき出しでかえって見栄えが悪くなった」(神奈川県 40代女性 会社員)
「給気口やエアコンなど建築設備の設置位置が目立つため、おしゃれな部屋のイメージと違った」(千葉県 40代女性 会社員)
「玄関にニッチを作り間接照明を四方に入れたら、ネオンのようになってしまった」(千葉県 40代女性 会社員)
「こんな部屋になると思っていたのに、イメージと違った」という後悔も大変多い失敗の一つです。平面図という記号や文字が書かれた2次元の情報から、完成形である3D立体をイメージしなくてはいけないので、当然ですが施主にとっては難しい作業になります。建築士のほうも平面図にすべての情報を書き込んでいるので、細かい図面の説明を省く傾向があります。
そのため、窓のイメージや天井のイメージ、エアコンや給気口・換気扇・コントローラーなどの設備機器の設置イメージなどが、想像していたものと違うことがたびたび起こるのです。とくにインテリア性にこだわる場合、イメージしている「自分の好きな空間」というものが具体的に建築士に伝わりにくいため、各部屋細かく具体的に希望するイメージを伝えていかないと、後悔する原因になりやすいのです。このような失敗をしないためにも建築士との「イメージの共有」はとても大切になってきます。
![間取り図の部屋ごとのイメージ画像](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/1/1200wm/img_41f1702eb77b999b192719805f7c82bb266893.jpg)
具体的な方法としては、文章や口で説明するのではなく、図表2のように間取り図の部屋ごとに好きなイメージ画像を用意することです。好きな壁紙や床材・トイレや洗面台などのイメージや、取り入れたい窓のイメージや天井から梁などを出さずスッキリさせたい場所などを整理して、設計者と意見をすり合わせ、細かく打ち合わせをしていくことが大切です。この作業により、バラバラだった家族の意見をより理想に近い形にまとめることもできます。好きなイメージ画像をWEBで集める際に参考にしたいのが「ピンタレスト」や「ルームクリップ」など、あらゆるタイプのインテリア画像が豊富なためおススメです。
■憧れの家具を置いたはずが居心地の悪い部屋に…
「窓が開けにくい、動きにくいなど部屋が使いづらい」(東京都 50代男性 会社員)
「憧れていた家具を置いたら狭くなり、なにをするにも動きにくく、くつろげない」(東京都 40代女性 会社員)
多くの方が誤解しているのですが、家具は買っておけばよいというものではありません。家具の大きさやレイアウトは、じつは間取りと密接に関係しているのです。つまり間取りには窓や通路・エアコンなどの建築設備などの「制約」がありますので、そういった条件を考えて家具を配置しないと、部屋は狭く動きにくくなったり、エアコンの風が気になったり、居心地が悪い部屋になります。こういったミスを減らすには間取りを作成する時点から、「どんな家具を置いて生活したいか」を具体的にイメージすることが大切です。例えばソファは幅2m50cmくらいのカウチソファにして、ダイニングテーブルは大きめの6人掛けを置きたいのであれば、サイズや形を間取りの中にあらかじめ配置することが大切です。もう少し具体的に考えてみましょう。
下の図表3は当事務所にいらしたお客様のリビングの間取りです。リビングには大きめの窓があり、その窓のそばに図表4のように大きなカウチソファを置きたいという当初からの希望がありました。
![リビングの間取り](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/9/1200wm/img_79add45c3bdace8f4176e02e10538a53455157.jpg)
![カウチソファを置いたリビング](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/5/1200wm/img_652cb11f7d2011ab21e97d15eb6c412d432182.jpg)
■置きたい家具に合わせて間取りを考えるのが正解
しかし、実際にカウチソファを置くと窓への動線がふさがれるため、カウチソファにのらないと窓を開閉できません。ふかふかしたソファにのるという行為は面倒な為、だんだん窓を開けることがおっくうになるという不便が生じます。そのため、図表5のようにカウチソファをやめて小さめのソファにする方法や、図表6のようにカウチソファはそのままで、別の場所にあらたに窓を設けるなどの工夫をしなければ残念な住まいになってしまうのです。
![小さめのソファを置いたリビング](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/3/1200wm/img_c3fa4a17af4e926b012aae31b3c09300449573.jpg)
![窓を増やしたリビング](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/5/1200wm/img_056ce5e67c516e10828c63da0026f7b4434557.jpg)
このように家具選びと間取りは密接に関係しているため、先に置きたい家具を考え、それから間取りをつくっていくのが家づくりの正解なのです。この家具選びは面倒ですが、置きたい家具のイメージが具体的であればあるほど、結果として間取りづくりや壁紙などの内装イメージもスムーズに進み、トータルでコーディネートができるため、住まいづくりが満足いくものになります。実際に優秀な建築家は、家を設計する前に施主と家具屋さん巡りをするそうですよ。
家は3回建てて、初めて満足いくものができると言われています。それほど住まいづくりは、難しいものです。今回あまりWEBには載っていないリアルな失敗事例をご紹介しました。ぜひ、ご自宅の満足いく住まいづくりにお役立てください。
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300軒以上のリビング・寝室・子ども部屋の模様替えを行い、模様替えのスペシャリストとしてTVや雑誌でも活躍。近著に『狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール』(彩図社)がある。
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(「COLLINO一級建築士事務所」主宰、一級建築士 しかま のりこ)
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