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欧米人は「楽天がある日本」がうらやましい…超円安なのに日本が「アマゾン年会費の安い国」である理由

プレジデントオンライン / 2023年11月16日 11時15分

4年ぶりに会場で開催された「Rakuten Optimism2023」で基調講演をする楽天グループの三木谷浩史会長兼社長。「チャットGPT」を開発した米オープンAIと協業することを明らかにした(神奈川県横浜市のパシフィコ横浜)=2023年8月2日 - 写真=時事通信フォト

楽天は12月から楽天市場のポイント還元プログラム(SPU)を改訂する。それに対し、ネットでは「ポイント改悪」という激しい反応があった。ジャーナリストの大西康之さんは「日本に楽天が存在しなかったら、アマゾンのサブスク料金やスマホの通信料などは、もっと高くなっていただろう。『ポイント改悪』がここまで話題になる理由を考えたほうがいい」という――。

■楽天ポイントの改訂は「改悪」と言えるのか

楽天グループが12月1日から、楽天市場のポイント還元プログラム「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」を改訂する。大まかには楽天モバイル利用者の還元率を引き上げ、その分、楽天市場や楽天カードの還元率を下げる内容だ。例によって、ネット民たちは激しく反応している。

「過去最大級の改悪。楽天経済圏は崩壊しました」
「楽天さん、今までお世話になりました」

プログラムの改訂を発表した11月1日以降、X(旧Twitter)ではこんな書き込みが溢れた。

11月9日、楽天グループの決算発表記者会見でも質問が出た。

「ネットでは改悪、改悪と大騒ぎになっていますが」

楽天グループ会長兼社長に三木谷浩史は苦笑いしながらこう言った。

「何かを変えると、必ずそういうことが起きる。楽天経済圏を使ってもらっている8割の方にとっては、お得になる改訂だと試算していますが、そうでない人がいるのも事実。丁寧に説明していきます」

■楽天モバイルユーザーを優遇する試み

ここで楽天のSPUについて簡単に説明しておこう。

楽天市場会員の還元率は1%(これを楽天では「1倍」と呼ぶ)。つまり1000円買うと10ポイントがつく。このポイントは楽天の各種サービスで10円として使える。これが基本だ。

楽天市場以外のサービスを使うとSPUで還元率が上がっていく。例えば楽天カードに入ると「ポイント2倍」となり、楽天市場の1倍と合わせて3倍になる。還元率は3%になり、1000円の買い物に対して30Pがつく。

今回の改定では楽天モバイルに加入した人のポイント倍率を従来の3倍から4倍に引き上げた。スマホでダウンロードしたゲームや有料アプリの支払いを楽天モバイルの課金システムで行う楽天モバイルキャリア決済の利用者もポイント倍率が0.5倍から2倍になった。

「楽天市場」公式サイト「SPUの特典内容変更について」より
「楽天市場」公式サイト「SPUの特典内容変更について」より

要するに「ポイントをたくさんあげるから楽天モバイルを使ってね」というわけだ。しかしネットメディアや新聞、雑誌の報道でご存じのように、今、楽天の財政は火の車である。9日に発表した第3四半期(23年7~9月)の連結最終損益は685億円の赤字。携帯電話に参入して以来、設備投資がかさみ、四半期ベースでは12期連続の最終赤字になっている。

事情が許すなら楽天もモバイルユーザーのポイントアップだけで済ませたいところだろうが、台所が苦しいのでそうもいかない。そこでモバイル以外の様々なサービスの倍率をちょこちょこ下げて帳尻を合わせた。それが今回の「改悪」の正体だ。

■プレミアムカードの利用者には不評だが…

一番、割りを食うのが楽天プレミアムカードの利用者だ。年会費無料の楽天カードと違って年1万1000円の会費を取る楽天プレミアムカードには4倍のポイントがついていた。カード決済で年間55万円以上使えば元が取れ、国際線のVIPラウンジが無料で使える「プライオリティパス」がついていたので、海外出張や海外旅行が多い利用者に人気だった。

それが今回の改定でポイントが2倍(元を取るのに110万円の買い物が必要)に減り、プライオリティパスの利用も「年間5回まで」の制限がついた。

海外出張が多い筆者の知人も「改悪」を知り、「だったら有料のカードは別の会社にしようかな」と悩んでいた。楽天側は「楽天経済圏のサービスをフルフルで使った場合の最大倍率は15.5倍から16.5倍に増えるので改悪ではない」と説明しているが、そんな人は滅多にいないだろう。

それにしてもなぜ、SPUの改定がこれほど大騒ぎになるのか。俯瞰(ふかん)で考えれば、それは楽天市場や楽天カードが我々の生活に不可欠なものになっており、楽天ポイントが楽天経済圏(楽天市場、楽天トラベルなどのネットサービス、楽天カード、楽天証券などのフィンテック・サービス、楽天モバイルなどの通信サービスなど、楽天グループが提供している各種サービスの総称)の中で事実上「通貨」として機能しているからだ。

■楽天が日本にあってよかった

楽天市場の立ち上げから四半世紀余り。楽天が築いてきた経済圏は巨大だ。楽天市場の国内流通総額はコロナ後も順調に伸びており、今期は6兆円を突破する勢いだ。2022年の全国の百貨店の売上高の合計が5兆1400億円だから、楽天市場単独でこれを上回ることになる。

しかも6兆円の中身は、カニ、ウナギ、お節、ビール、お菓子、アパレルなどを扱う全国5万6000店の中小零細企業である。中には楽天市場での成功がきっかけて「全国区」のブランドにのしあがった会社もあるが、こうした企業は楽天市場がなければ、全国の消費者を相手にすることはできなかった。

楽天は政府が「ふるさと納税」を始めるよりはるかに前から「ネットの力で地域をエンパワーメントする」という理念を掲げ、地方の零細企業にネットの使い方を教えてきた。消費者の方も、楽天市場がなければこれら地方の企業が扱う商品と出会うことはなかった。

ナショナルブランドのメーカーと全国チェーンのスーパー、百貨店などの巨大流通資本に支配されていた日本の消費を中小零細に開放した。「消費の民主化」である。

大赤字を出しながら挑んでいるモバイル事業も「携帯の民主化」だ。楽天モバイルがサービスを開始した2020年時点で月額7000円を超えていた日本のスマホ料金の平均は、22年までに5000円台前半まで下がった。楽天モバイルが打ち出した「データ使い放題で月額3278円」という価格破壊に応戦する形でNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクが格安プランを出したからだ。その結果、すべてのスマホユーザーは毎月1000円以上、料金負担が減ったことになる。

■アマゾンが値上げを躊躇する

楽天は「金融の民主化」にも一役買っている。楽天カード、楽天証券、楽天銀行はネットのパワーを使うことで、クレジットカードや証券投資や銀行決済の敷居を下げ、誰もが気軽に使えるサービスにした。SBI証券を追いかける形ではあるが、楽天証券は10月1日から国内株式の取引手数料を無償にした。メガバンクや証券会社が支配していた金融市場を民主化してきたのだ。

楽天の存在は巨大企業が支配する市場を民主化するだけでなく、新たな支配者から守る役割も果たしている。アマゾンジャパン(東京・目黒)だ。同社は8月24日、有料会員「プライム」の年会費を4900円から5900円に引き上げた。月間プランは500円が600円になった。

玄関の前に置かれたアマゾンプライムの箱
写真=iStock.com/Daria Nipot
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Daria Nipot

アマゾンプライムはアマゾンで買い物した時の配送料が無料になり、映画のプライムビデオや音楽配信のアマゾンミュージックが利用できる。アマゾン経済圏にどっぷり使って生活している多くの人にとって年会費の2割値上げは大きな痛手だ。

それでも日本のアマゾンユーザーは恵まれているほうである。値上げしたとはいえ、米欧に比べると日本の年会費は格段に安いのだ。アマゾンがEC市場を支配している米国の年会費は139ドル(約2万1000円)、英国は95ポンド(約1万7600円)、ドイツは89.9ユーロ(約1万4600円)である。

■「ポイント改悪」と騒いでいる場合ではない

5900円でも「高いなあ」と思っている日本人から見ると、とんでもない値段だが、他に有力ECサイトがないこれらの国では、この値段が通ってしまう。「嫌なら使わなくていい」と言われても、アマゾン経済圏にどっぷり浸かった人々は抜けられないのだ。

では日本だけがなぜ安いのか。ある業界関係者は「楽天市場の存在が重石になっている」と指摘する。アマゾンは自社倉庫のメーカーなどから仕入れた商品を在庫しておき、ネットで注文が入ると配送する仕組み。出店企業に仮想商店街の軒を貸している楽天市場とはビジネスモデルが異なるが、日本におけるアマゾンの流通総額は楽天市場とほぼ拮抗(きっこう)しているとされる。

渋谷のスクランブル交差点を渡る人々
写真=iStock.com/Mlenny
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mlenny

不用意にアマゾンプライムの会費を引き上げれば、バランスが崩れて利用者が楽天市場に流れかねない。この微妙なパワーバランスが米欧より6~7割安い日本の会費に表れている。逆に楽天の存在がなければ、日本の会費も米欧並みの1万5000~2万円になっていたかもしれないのだ。

楽天の場合「ポイント改悪」と言っても1~2%。つまり「1万円買って100円から200円」のレベルだが、楽天がなければ日本のECユーザーは年間1万~1万5000円も余分な出費を強いられる、という仮説が成り立つ。楽天プライムカードのSPUが4倍から2倍に減ったくらいで、騒いでいる場合ではないのである。

■既得権益をぶち壊した楽天の存在意義

携帯電話も楽天が参入していなければ、大手3社による寡占が続き、月額7000円強で高止まりしていた可能性が高いし、フィンテックもメガバンクや大手証券会社の対応が遅く「リアルの窓口に足を運んで高い手数料を払うのが当たり前」という状況が続いていたかもしれない。

流通、金融、通信。大資本ががっちり支配していたこれらの分野に新しいやり方で挑戦し、その市場を民主化したのが楽天だ。当然、既得権益を奪われた人々は楽天についてネガティブな情報を流す。楽天市場なら「実際に物を見ずに買うなんて、粗悪品をつかまされる」、金融なら「大事なお金をそんな危なっかしいところに預けて大丈夫か」、通信では「つながらない携帯なんて使い物にならない」。それがネットで増幅され「アンチ楽天」のムードが生まれる。今回の「ポイント改悪」もそうした流れの一つだろう。

将来、楽天経済圏が圧倒的に強くなれば、楽天そのものが既得権になる可能性はある。だが少なくとも現時点では、楽天が存在することで、これらの市場に競争が生まれ、結果として消費者、国民の利益が守られている。相変わらずネットでは「楽天はもうお終い」と声高に言う人々が後を絶たない。彼らは「ECの会費や、金融の手数料や、携帯電話の料金が爆上がりする未来」を望んでいるのだろうか。

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大西 康之(おおにし・やすゆき)
ジャーナリスト
1965年生まれ。愛知県出身。88年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。98年欧州総局、編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年独立。著書に『東芝 原子力敗戦』ほか。

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(ジャーナリスト 大西 康之)

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