運の量に上限はない…羽生善治と藤井聡太に共通「いい運の流れ」を持つ人の"綿菓子のように軽い生き方"
プレジデントオンライン / 2023年11月20日 15時15分
※本稿は、桜井章一『雀鬼語録 桜井章一名言集』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「運が流れ込んでくる入口」を増やせ
運に恵まれる人は、運が流れ込んでくる入口をたくさん持っている。片や、運の入口が少ない人は、そのことを半ば運命のようにあきらめているかもしれない。
だが、運の入口を増やすことはさほどむずかしいことはではない。意識や行動の習慣を少し変えるだけでその数は増やせるものだからだ。
入口を増やしたところで、そもそもその人の一生における運の量は決まっているのではないか――そんなふうに考える人も少なくない。
■運に「上限」はあるか
ものすごくラッキーな出来事が起こった人が、その後、まったくツキがなくなってしまうことがある。そしてたいてい、「あのときに一生分の運を使ってしまったんだ」という感想を漏らす。
大ブレイクしてテレビ番組などに引っ張りだこになった芸人がいつの間にか姿を見せなくなり、「そういえばあの人どうしたんだろう」となることがたまにある。そんなとき、周囲の人は「あの人は運を使い切ってしまったのかもしれない」という感想を抱く。
実力以上に大きな運が舞い込むと、人はそうした感慨を抱くことが多い。
「幸運なことがあると、相殺するように“よくないこと”も起きるんじゃないか」。そんな不安な心理が働くのだ。
■運が育っていく生き方
はたして、大きな幸運に恵まれると、人は本当に一生分の運を使い尽くしてしまうのだろうか。
そんなことはけっしてない。
運というのは、埋蔵量に限りがある鉱物や石油といった資源とは違う。運の総量は、運命のように定まっているわけではない。一生の時間のなかにおいて、それは無限にあるのである。
大きな運に恵まれたことで自分を見失ったり、驕(おご)って油断したりして、その後に運に恵まれない人生を歩む人はたしかにいる。だが、「あんな成功をしてすごいな」と周囲から思われる人が、上昇気流に乗ってさらに大きな成功を手にすることはいくらでもある。
自分を正しく持ち、しかるべき行動を重ねていけば、運は枝葉を伸ばすように大きくなっていく。運とのつき合い方がうまければ、運が運を呼び、運が自動的に増殖していくような人生を歩むことができるのである。
■固定観念が心を重くする
運の入口を増やすためには、どのように意識や行動を変えていけばいいのか。基本姿勢や習慣はどうあるべきか。その要(かなめ)となるものは何か。
ひとつは意識によって生まれるさまざまな「思い」をどう扱うかが、重要なポイントになる。「思い」というものは、重く持ってはいけない。あくまで軽く持つようにしなくてはいけない。
心は思いを深めるほど重たくなる。ひとつのことをずっと考え続けたり、何度も無意識に反芻(はんすう)したりすると、強い思い込みになる。そうやって思い込んだものは固定観念となって、心の底に沈んでいく。
底に固定観念という思い込みが堆積していくと、心はその重みで安定を増すかのように感じるが、それは錯覚にすぎない。周りが「ただの思い込みだよ、固定観念にすぎないよ」と諭(さと)しても、なかなか聞く耳を持たない。
だから、まるで錘(おも)りがついたかのように沈んでいる「思い込み」を引き上げようとしても、すんなりとはいかないことが多いのだ。
■思いを軽く持つ
誰しも心の底に何らかの不安を抱えている。心というものはいつも揺れているのだ。そんな不安を覆い隠し、固定してくれるのが、思い込みであり、固定観念である。
だが、思い込みや固定観念というものは、強ければ強いほど、常に変化してやまない世界に柔軟に対応できなくなってしまう。そうなれば、運というチャンスが流れ込んでくる入口を自ら塞(ふさ)いでしまうことになる。
また、「思いを重くしない」姿勢を常に心がけるようにすると、マイナスの思いに引っ張られない生き方ができる。
思いを重くしない、すなわち思いを軽く持つというのは、「ふと思う」というときの感じに近い。怒りや悔しさなどマイナスの感情が湧いても、束の間感じて後へさっと流すことができれば引きずることはない。
これが「思いを軽く持つ」ということである。
■藤井聡太と羽生善治に共通するもの
棋士の藤井聡太さんは、負けたときに悔しい感情を引きずらないようにしている、と雑誌のインタビューで語られていた。敗因はむろん分析するが、次の勝負に集中するために感情の切り替えは素早くするという。
それが自然とできるのは、やはり思いを重くしない感性を持っておられるからだと思う。
同じ棋士である羽生善治さんとは、これまでに何度もお会いしているが、お話をうかがっていて言葉の随所に感じるのは、やはり鮮やかな感性ともいうべきものである。何十手先も読むような天才的な思考力と併せて、羽生さんはきわめて鋭い感性を持っておられるのだな、とお会いするたびに感じる。
ふつうの人ならそこまで高い確率はむずかしいだろうが、羽生さんは「直観の7割は当たる」と語っている。これも際立った感性がベースにあればこそだろう。
![目を閉じて何かを感じている人](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/3/1200wm/img_d32eecd598b74d0e25fb9a901579459f332720.jpg)
■運の流れがよくなる「感じる力」
磨かれた感性を持つには、重たい思いに囚(とら)われたりして必要以上にものごとを考えない習慣を持つことが大事だ。感じる力は、考えることに執着していては絶対に生まれないからである。
羽生さんの場合は、考えるべきときと感性にまかせるときとがバランスよく並んでいるのだと思う。
感じる力というのは、このように思いをどう持つかということに密接に関係している。
瞬間フワッと湧いてきて、またいつの間にか消えていくような綿菓子のような軽さ。そんな軽みのある思いを連ねていくように生きていければ、運の流れは間違いなくよくなるはずだ。
■「力を抜く」ことの本当の意味
「思いを軽く持つ」につながることで、もうひとつ重要なのが「力を抜く」だ。
運をつかもうとする人は、がんばってそれを握ろうとするだろう。だが、力みは往々にして的を外し、不必要な消耗を招く結果になるものだ。力が入り過ぎてはかえって運は遠のいていくのである。
では、力をうまく抜くにはどうすればいいのか。
力を抜くことは、ただ無力な状態になる脱力とはまったく違う。力をうまく抜くと、力んでいるときの何倍ものエネルギーが生まれのである。
スポーツアスリートが体の使い方において、力をうまく抜くための工夫を凝らすのはそのためである。
■体重60キロ半ばでも100キロの相手を倒せるワケ
私の麻雀道場には、ボクシングやレスリングなどさまざまな分野の格闘技の選手が体の使い方に関するアドバイスを求めてやってくる。ただの麻雀打ちにプロの格闘家たちがアドバイスを聞きたいというのは、常識では理解しがたいことかもしれない。
私は、力を抜くのがどういうことなのか実地に感じてもらうため、相撲のような形で彼らと組み合ったりする。ところが、体重60キロ半ばの私が力を抜くと、100キロ近くある相手を押し倒してしまうのである。
彼らの頭のなかは「?」でいっぱいだが、本当の意味で力が抜けると、このように常識でははかれないことが起きるのである。
もっとも、私と同じように彼らが力を必死で抜こうとしても、どこかに力みが残る。力を抜き切ることはなかなかできないのは、「力を入れてがんばる」のはいいことだという思い込みが強くあるからだ。その意識は深くこびりついて簡単にはとれない。
■勝負の流れは「つかむ」より「触れる」
力を抜こうとすれば、かえってその意識が邪魔をして抜き切れないものだ。ならば、どうするか。「つかむ」という感覚ではなく、「触れる」という感覚を日ごろから持つようにすればいい。これは前述の「思いを軽く持つ」感覚に通じる。
![桜井章一『雀鬼語録 桜井章一名言集』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/2/1200wm/img_b256f05bf6493e9e6b833a6a94b3ea70156008.jpg)
私は、麻雀において「触れる」感覚をもっとも大事にしてきた。牌は持つのではなく軽くそっと触れる。勝負の流れが生み出す“見えない渦(うず)”のようなものに触れるかのようにして牌を素早く切る。私の動きは、こうして常に軽く触れる感覚で貫かれている。
麻雀の勝負はつかみどころがないほど変化に富んでいる。一瞬、一瞬で形勢が目まぐるしく変化し、具体的にこういう形をつくって勝ちにいこうなどという発想は通用しない。
瞬間閃(ひらめ)くものにさっと触れることで新しい形が生まれたら、次の瞬間には消え去り、別の形らしきものが現れるという繰り返しだ。
麻雀における勝負の流れはつかむことはできない。勝ちをがっちりつかもうとすると途端に形を変えてスルリと逃げてしまう。だからこそ、「触れる」という感覚が大事なのだ。
■つかもうとするから、スルリと逃げていく
仕事でも人間関係でも、私は「触れる」感覚を持つようにしている。「手に入れよう」とか「こうしてやろう」と思いながら、強くつかみにいくとたいていその通りにはならないものだ。
「夢をつかめ」という人がいるが、夢はつかもうとするほどつかめない。夢はつかむのではなく触れる感覚で向かうものだ。
運もまた同じだ。運はつかもうとすれば手からスルリと逃げていく。軽く触れるだけでいい。欲張ってつかもうとすると、途端に「触れる」感覚は消えてしまう。
何事にも常に「触れる」感覚でいることだ。その感覚こそ、運に長く恵まれるうえでこのうえなく大事なのである。
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雀鬼会会長
1943年東京・下北沢生まれ。大学時代に麻雀を始め、裏プロとしてデビュー。以後、圧倒的な強さで勝ち続け、20年間無敗の「雀鬼」の異名をとる。現役引退後は、「雀鬼流漢道麻雀道場 牌の音」を開き、麻雀を通して人としての道を後進に指導する「雀鬼会」を始める。モデルになった映画や漫画も多く、講演会などでその雀鬼流哲学を語る機会も多い。著書に『負けない技術』『流れをつかむ技術』『運を支配する』『感情を整える』『群れない生き方』など多数。
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(雀鬼会会長 桜井 章一)
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