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「ピーツピ・ヂヂヂヂ」は「警戒し・集まれ!」だ…シジュウカラが文法を持つことを証明した"ルー語の実験"

プレジデントオンライン / 2023年11月25日 10時15分

(写真提供=鈴木俊貴)

仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは山極寿一、鈴木俊貴著『動物たちは何をしゃべっているのか?』(集英社)――。

■イントロダクション

ペットと暮らしていると、動物でも人間の言葉を理解しているのでは、と感じられることがよくあるという。

近年の動物の認知やコミュニケーションに関する研究によると、動物たちは互いに、われわれが想像するよりも複雑なメッセージをやりとりしているという。動物はどんな言葉を使っているのだろうか。

本書では、野鳥のシジュウカラの言葉を解明した気鋭の研究者である鈴木俊貴氏と、ゴリラの研究で知られる著名な霊長類学者にして京大前総長の山極寿一氏が、動物のコミュニケーション、ヒトの言葉の起源などについて、最新の知見を紹介しながら語り合っている。

鈴木氏は、終日森に籠り、シジュウカラと同じ環境に身を置くことで、シジュウカラが何を考え、どのように世界を見ているのか、想像できるようになったという。そして実験により鳥類でありながらその言葉に「文法」があることを発見した。

著者の山極寿一氏は現在、総合地球環境学研究所所長を務める。鈴木俊貴氏は東京大学先端科学技術研究センター准教授。2022年8月、国際学会で「動物言語学」の創設を提唱した。

1.おしゃべりな動物たち
2.動物たちの心
3.言葉から見える、ヒトという動物
4.暴走する言葉、置いてきぼりの身体

■シジュウカラは「タカが来たぞ!」とウソをつく

【鈴木】僕みたいに一年の半分以上、朝から晩まで森に籠る生活をしていると、毎日のように新しい発見があるんですが、たとえば、シジュウカラに高度な意図みたいなものを感じることもよくあります。

【山極】たとえば?

【鈴木】大きな鳥とのエサをめぐる競争だとシジュウカラが不利になる。そんなとき、シジュウカラはウソをつくんです。「タカが来たぞ!」といって注意を促す鳴き声を出すんですね。すると他の鳥はびっくりして逃げますから、シジュウカラはそのスキにエサを手に入れるんです。

■シジュウカラが文法を持っていることを実験で確かめた

【山極】鈴木さんの研究ですごいと思う点は、これまでの鳥類の音声研究は主に求愛の文脈にフォーカスされていたんですね。ですが鈴木さんは、求愛以外について研究し、シジュウカラが鳴き声によって複雑なメッセージを伝えていることを明らかにした。

【鈴木】古くから、文法を持っていることこそがヒトと他の生き物を隔てる点だという考え方もありました。動物は色々な鳴き声を発するけれど、特定の鳴き声に対して特定の反応を返しているだけで、複雑な文は作れないでしょ? という主張です。ところが、シジュウカラは文法を持っているんです。僕はそれを実験で確かめました。

シジュウカラは「ピーツピ・ヂヂヂヂ」と鳴くことがありますが、実はこれ、二つの鳴き声の組み合わせになっているんです。「ピーツピ」は「警戒しろ!」という意味で、天敵が出たときに使います。一方、「ヂヂヂヂ」は「集まれ!」という意味で、たとえばエサを見つけた個体が仲間を呼ぶときに発します。なので僕は、「ピーツピ・ヂヂヂヂ」は「警戒して・集まれ!」という「二語文」になっているのではないかと考えました。

ニホンシジュウカラ
(写真提供=鈴木俊貴)

■「ピーツピ・ヂヂヂヂ」=「警戒して・集まれ!」

【鈴木】ただ、二つの語を組み合わせているといっても、これだけでは文法がある証明にはならないですよね。文法の特徴の一つは、同じ単語が並んでいても、語順が変わってしまうと意味やニュアンスが変わってしまうことです。たとえば日本語だと、「持って・きて」と組み合わせる場合と、「きて・持って」と連ねる場合では、意味が全然違いますよね。文法のルールがあるからです。

そこで僕は、シジュウカラ語にも同じことが言えないか実験することにしました。録音した「ピーツピ・ヂヂヂヂ」をパソコン上で編集し、「ヂヂヂヂ・ピーツピ」という人工の音列を作って聞かせてみたんです。というのも、「ピーツピ・ヂヂヂヂ」は、必ず「ピーツピ」→「ヂヂヂヂ」という順番で鳴かれるんですね。

【山極】なるほど。ではそのルールを破ると……?

【鈴木】実験で、シジュウカラに「ピーツピ・ヂヂヂヂ」という正しい語順の鳴き声を聞かせると、警戒しながらスピーカーに近づいてきました。しかし、ルールを破った「ヂヂヂヂ・ピーツピ」を聞かせると、シジュウカラはそんなに警戒しないし、スピーカーにもほとんど近付いてこなかったんです。

つまり、シジュウカラはきちんと語順を理解して、「ピーツピ・ヂヂヂヂ」=「警戒して・集まれ!」であることを理解したということです。この実験を論文にして発表したのは2016年ですが、ヒト以外の動物ではじめて文法能力が確認されたと、ずいぶん注目してもらえました。

■ルー大柴の「ルー語」に注目して実験を行う

【鈴木】ところが、この実験だけでは十分ではなかったんです。ルールを破ると意味が通じないからといっても、それだけで文法の存在を証明したことにはならないだろうと僕が考えを改めたからです。そこで翌年、新たな実験を計画しました。

文法には「はじめて聞く文章でも、文法のルールを守っていれば理解できる」という特徴があります。その特徴をよく理解しているのが、タレントのルー大柴さんです。2000年代に彼の作るルー語が流行ったじゃないですか。「寝耳にウォーター」みたいに、日本語と英語がごちゃ混ぜになっている文章です。

こんな言葉を作る人はまずいないから、ほとんどの人にとってははじめて聞く文章なのに、聞けば意味がわかります。「寝耳に水」だな、って。それはつまり、日本語と外国語が混じっていても、文法的には正しいからです。

【山極】興味深い。

【鈴木】僕はその実験で、複数の動物種からなる群れ社会である「混群」に着目しました。僕がフィールドワークをしている軽井沢だと、冬になるとシジュウカラはコガラっていう別の種類の鳥と一緒に群れをなし、生活するんです。

【山極】混群ね。霊長類でも見られる現象です。

長野県軽井沢町の浅間山の冬景色
写真=iStock.com/wataru aoki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wataru aoki

■同じ鳥でも、種が別だと「言葉」が違う

【鈴木】同じ鳥でも、種が別だと、「言葉」が違うんですよ。シジュウカラ語だと「集まれ」は「ヂヂヂヂ」ですが、コガラ語だと「ディーディー」になります。面白いのは、こんなに音が違っていても、シジュウカラはコガラ語を理解できることです。コガラが「ディーディー」と鳴くと、シジュウカラも集まってくる。

そこで、ルー大柴さんです。日本人がルー語を理解できるのは文法のおかげですよね。ならば、シジュウカラが鳥の世界のルー語を理解できれば、やっぱり文法があるということになるわけです。

【山極】なるほど。しかし、どうやったんですか?

【鈴木】録音した鳴き声を編集し、「集まれ」だけをコガラ語の「ディーディー」に置き換えたんです。つまり、「ピーツピ・ディーディー」です。これは、シジュウカラ語とコガラ語の混合文。いわば鳥のルー語です。それをシジュウカラに聞かせてみたところ、ちゃんと通じたんです。56羽に対して試しましたが、ほとんどの個体があたりを警戒しながら音源に近づいてきました。

ところが、文法的に間違っている鳴き声、つまり「ディーディー・ピーツピ」を聞かせても、ほとんどのシジュウカラは無反応。この実験から、シジュウカラも人間のように、文法を頼りにコミュニケーションをとっていることがわかりました。

■踊るために直立二足歩行を始めたんじゃないか

【山極】踊りの発生は、音声の発生とセットなんです。どちらも直立二足歩行が条件ですから。手足をついて両手・両足で歩いていると、前肢に体重がかかって胸が圧迫されますから、大きな声が出せません。

【鈴木】立つと上半身が自由になるから、人類は踊りも手に入れた。それがちょうど歌うにも適した姿勢だった。これらの進化は関連しているわけですね。

【山極】私は、我々人間が二足で立って歩いているのは、我々が踊ることになった原因ではなくて、結果であるとさえ思います。踊るために直立二足歩行を始めたんじゃないかと。

【鈴木】それほど、人類にとって踊りが重要だったと?

■他者と共感する力が必要になり、踊りや音楽が進化した

【山極】そうです。だって、ヒト以外の類人猿は今も森を出られないんです。天敵が来たら木の上に逃げないといけないから。だけど、ヒトが進化したサバンナには森がないから、なんとかして天敵に立ち向かわないといけない。ときには、自分を犠牲にしてまで集団のために行動する必要だってあったでしょう。だから他者に共感する力が必要になり、そのための踊りや音楽が進化したんだと考えています。

山極寿一、鈴木俊貴『動物たちは何をしゃべっているのか?』(集英社)
山極寿一、鈴木俊貴『動物たちは何をしゃべっているのか?』(集英社)

【鈴木】なるほどなあ。そういえば鳥の場合も、都市に出てくる鳥は、群れを作る種類が多いような気もしますね。そして、よく互いに鳴き交わしています。

【山極】ヒトに限らないけれど、集団で興奮を共有しているからこそ可能な行為ってありますよね。敵の集団に打ち勝つとか。強い感情の共有がなければできないことです。しかし、興奮しているだけでは集団としての行動はできません。そこで必要になるのが、言葉ではないか。「あそこを攻撃せよ」とか、一定の目標を与える。つまり、言葉は、感情のエネルギーを制御して方向性を与える役割を持っているんじゃないか。

【鈴木】なるほど、言葉の意味というのは、そういうところから生まれてきたのかもしれないですね。

■コメントby SERENDIP

本書の対談は、後半からヒトという生物の本質、そして現代社会批評に及んでいる。森の中で自然と一体となって研究を進めた鈴木氏と、ゴリラの群れの中で過ごした山極氏は、ともにAIやメタバースの発展と普及により、言葉やコミュニケーション、そして脳の機能から身体性や感情が削ぎ落とされることを危惧している。テクノロジーの発展による利便性を享受しながらも、ヒトが動物であることを忘れないことが、人間の可能性を広げる上で重要なのではないだろうか。

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