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政権交代はあり得ないのだから、岸田首相は居座るべきだ…「日本の首相はすぐ変わる」は世界の恥である

プレジデントオンライン / 2023年11月17日 15時15分

神田憲次財務副大臣が辞任し、記者団の取材に応じる岸田文雄首相=2023年11月13日午後、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

岸田内閣の支持率が下落を続けている。八幡和郎さんは「早くも『岸田おろし』を望む声があるが、日本の首相はあまりに早く交代しすぎだ。主要国の大統領や首相の平均在任期間は5~10年であり、岸田首相もそれくらいの長期政権を前提に、骨太な政策を進めるべきだ」という――。

■日本の首相はコロコロ交代しすぎている

岸田首相の在任期間が、10月で2年に達したのを機に、「もう交替したら」という声が高まっている。だが、日本の首相の任期は、世界各国の大統領や首相、国内の知事や社長たちと比べて異常に短い。

日本は戦後78年間で35人の首相が誕生した。とりわけ、1993年~2012年は20年足らずの間に延べ14人と、目まぐるしく首相が交代した。2012年以降は、第2~4次安倍内閣が約8年間続いたものの、菅義偉首相は約1年で岸田首相にバトンタッチした。

日本の歴代首相
首相官邸「歴代内閣」より作成

かつて、「首相が短命」といえばイタリアが有名だったが、最近では日本の代名詞となりつつある。このことは特に、外交の世界で日本の信頼性を著しく傷つけている。

本記事では、主要国の制度や首脳と比較し、どうして日本では短いのか原因を探ってみたいと思う。

■「並み以上」のアメリカ大統領は2期8年

主要国のリーダーの選ばれ方と任期を見ると、大統領直接選挙を実施しているのが、アメリカ(各州で選挙人を選ぶという変則的な形)、フランス、ロシア、韓国だ。

アメリカは4年任期で、戦後に憲法を改正して連続3選を禁止にした。戦後、選挙で選ばれた大統領のなかでは、アイゼンハワー、レーガン、クリントン、ブッシュ(子)、オバマの5人が2期目を最後まで務めている。再選に失敗したのが、カーター、ブッシュ(父)、トランプの3人だ。

ニクソンは再選されたが、ウォーターゲート事件で失脚し、ケネディは最初の任期の後半に殺害された。副大統領から昇格したなかでは、トルーマン、ジョンソンは再選に成功し、フォードは失敗した。

普通に選ばれて2期目に挑戦した場合だけみれば、6勝3敗なので、並み以上なら2期8年が標準ということになる。

フランスは、ド・ゴールが2期目から直接選挙で選ばれるようになった。当初は任期7年、再選制限なしだったが、現在では任期5年、3選禁止である。第五共和制になってからの8人の大統領のうち、ド・ゴール、ミッテラン、シラク、マクロンが再選、ジスカール・デスタン、サルコジが再選に失敗し、オランドは立候補しなかった(ポンピドゥーは1期目任期途中で死去)。アメリカほどでないが、再選されて計10年務めることが基本だ。

■プーチン大統領は「最長6期」に布石

ロシアも3選禁止で、当初4年だった任期が6年に延長された。エリツィンが再選されたものの任期途中で辞任し、大統領代行から2期務めたのがプーチンだ。他の人を挟めば再び大統領になることができるため、2008年にメドベージェフに譲って自らは首相に就任し、4年後の2012年に復帰した。

本来ならば、プーチンは2024年に任期満了を迎えるはずだったが、2020年の法改正で、任期上限を「通算2期」とする一方、大統領経験者の任期数をゼロとみなすことが決まった。この結果、来年の選挙にも立候補することができ、再選されればさらに2期、83歳となる2036年まで大統領にとどまることが可能になった。

2014年10月16日ベオグラードでの軍事パレードに参加するプーチン大統領
写真=iStock.com/dicus63
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dicus63

韓国は、任期は5年で再選できない。1988年に第六共和国となり、盧泰愚が大統領となってから現在の尹錫悦に至るまで8人の大統領が当選している。そのうち、朴槿恵は4年足らずで職務停止になったが、ほかは任期を満了している(盧武鉉は途中、2カ月ほど職務停止)。

■イギリスの「名首相」は10年務めている

国会の多数派が首相を出す議院内閣制は、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダ、インドがその代表だ(形式的には投票でなく国王や大統領が任命するところも多い)。

英国では任期5年だが、途中で解散されることが多い。終戦直前の総選挙で労働党が勝利して以来、労働党2期、保守党3期、労働党2期、保守党1期、労働党2期、保守党4期、労働党3期、保守党が4期目となっている。

総選挙で敗北したときに首相が交代するほか、長期政権になると任期半ばあたりで交代して次の総選挙に備える。戦後の首相は延べ18人(ウィルソンが返り咲き)で平均在任期間は、4.3年だ。

最近ではトラスがわずか49日の在任期間で退任し、イギリス史上最短となったが、サッチャーとブレアが10年余り、マクミラン、ウィルソン、メージャー、キャメロンが5年以上だから、普通は4~5年、評判が良ければ10年というあたりである。

■ドイツの外交力強化は長い首相在任の成果

ドイツでは、下院の任期が4年で、総選挙で敗れるか、高齢で引退したり死去したりしない限り、首相が途中で辞任することはない。ただ、比例代表制であるので、任期途中で連立の組み替えがあることがある。

戦後の首相はわずか9人で、平均で10年足らず。アデナウアーが14年、コールが16年、メルケルも16年である。ブラントは5年足らずで死去し、それを引き継いだシュミットは8年も首相の座にあった。戦敗国として不利な立場にあったドイツが外交で上手に立ち回れているのは、この政権の安定性が大きいと思う。

イタリアは、比例代表制のために政権交代が多かった。一時は選挙制度を改正して二大勢力に収斂されたが、また、もとの木阿弥。それでもかつてよりは安定しているし、政党人抜きの実務者内閣なども登場して、かえって評判が良かったりする。

1946年の共和国発足以来、現在のメローニ首相は31人目であるから、平均2.5年である。ファンファーニが5回、アンドレオッティとベルルスコーニが3回、ほかに6人が2回就任しているから、政権自体はもっと短いスパンで交代していることになる。

■カナダもインドも「平均寿命」は5年前後

戦後のカナダの首相は13人で、現在のジャスティン・トルドー首相の父親のピエール・トルドーが2度政権を担っているから、政権の平均寿命は5年半である。

インドは初代のネルーから数えて現在のモディが14人目だが、うち2人が2回務めているので、政権の平均寿命は5年足らずである。国民会議派と人民党系で政権交代が比較的円滑だ。

中国は一党独裁国家であり、毛沢東が20年余支配したあと、鄧小平がいわば闇将軍のような存在だったのでややこしい。鄧小平、江沢民、胡錦濤が10年ずつくらい支配し、習近平も同じかと思っていたが、規約を改正して「2期10年」制限を撤廃した。今年3月から3期目に入り、さらに権力に留まる見通しで、独裁化が心配だ。

これまでは、だいたい10年という長さがひとつのめどになっているのは、安定性と行き過ぎた長期政権の弊害除去とのバランスがほどよいところで、それが中国経済の大発展をもたらしたといえるのに心配だ。

一方、日本の首相は、戦後78年間で延べ37人に上る(吉田茂と安倍晋三は再登板)。政権の平均寿命は平均2.1年で、極端に短い。

これでは、外交上の信用もさることながら、国内でも大きな改革はできない。新しい政策を提案し、法律を成立させ、細則を決めて予算化し実行するには、3~4年はかかるものだし、官僚にとってもすぐに交代する首相は怖くもなんともなく、官邸主導など無理である。

■岸田首相は「早く辞めてほしい」「総裁任期まで」

毎日新聞が9月に行った世論調査で、在任期間2年を迎える岸田文雄首相について、いつまで首相を続けてほしいか尋ねたところ、「早く辞めてほしい」が51%、「来年9月の自民党総裁選任期まで」が25%、「できるだけ長く」は12%だった。

同様の問いで8月に行われたJNNの調査では、それぞれ、23%、57%、14%だったが、いずれにしても、来年の自民党総裁選挙の岸田再選を支持する人は、回答なしを除いて計算すると、15%以下にとどまる。

また、7月には親戚である宮沢喜一氏の在任期間を超えたとか、来年2月には鈴木善幸氏を超えて、戦後トップ10入りするという記事も出ている。これまでの総理のなかでとくに評判がいいわけではないので、そろそろ辞めろといわんばかりである。

だが、全国47都道府県のトップである知事はどうだろうか。1947年に公選で選ばれるようになってから71年が経過しているが、総計で約340人が務め、だいたい10年間、つまり、2期ないし3期が平均的な在任期間だ。

■日本の首相が短命になってしまった理由

東証第一部上場企業の社長は、平均7.1年(会社四季報をベースにした東京経済大学の柳瀬典由ゼミの学生たちの計算)だそうだ。

こうした数字と比較して、どうして首相だけが、そんな頻繁に交替してしまうのか理解に苦しむ。

その理由のひとつは、中選挙区制の時代に派閥が異常に強くなり、その思惑によって短期で派閥の領袖(りょうしゅう)が総理となる慣習が残っているためである。

それから、与党と野党の関係も影響していると言えるだろう。55年体制で自民党・社会党の二大政党が成立し、その後も、だいたい自民党が与党で左派的な野党が第二党という状態が続いているのだが、与野党の最大の対立は憲法改正の是非である。

そのため与野党の攻防戦は、自民党とその連立勢力が国会で3分の2を制するかどうかが焦点となる。立憲民主党は口では「政権交代」と言うが、自民党以外の政党は改憲を阻止することを目標にしていて、政権を取ることはそもそも狙っていない。

■「強い野党」の不在が、政権を傲慢にさせている

有権者も同じだ。過去記事でも指摘したように、野党の支持率は合計で15%ほどしかなく、国政選挙で30%以上の得票をしたとしても、投票の過半は、政権交代を希望してのものでない。

海外の事例を見ても分かるように、主要国の大統領や首相の平均の在任期間は5~10年。日本のように、任期途中で与党内から辞任要求が高まるのは稀であり、長期政権になって連続登板が禁止されていたり、次の選挙は新首相で臨むほうがいいと判断したら交替するだけである。

政府が傲慢(ごうまん)にならないようにさせる抑止力は、政権を奪取するかもしれない野党の存在が大きい。その意味で、現在の日本の自民党永久政権というのは、民主主義の利点を発揮しにくい体制である。だからこそ、国民の意思とはかけ離れた政策ばかりが実行され、自民党の派閥の都合で政権がコロコロと変わってしまうのだ。

自由民主党本社
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

■日本の首相も5~10年は務めたほうがいい

いつまでも憲法改正問題を引っ張るのは、国益を損ねることにつながる。ほどほどのところで片付けて、二大政治勢力が10年~20年ごとに政権交代するという状態が、日本にとって好ましいのではないか。少なくとも、首相は主要国のように5~10年は務めたほうがいい。

岸田内閣の支持率は減っているが、数字ほど深刻に受け止める必要はない。支持率低下に怯え、人気取りのような中途半端な政策を打ち出しているのが、むしろ逆効果になっている。

安倍晋三元首相の場合は、30%といわれる保守層を固めて党内から崩されないようにしから落ち着いた政策運営ができ、選挙を打つタイミングでは中道リベラルにすり寄った。だからこそ、歴代最長となる8年8カ月、首相であり続けた。

岸田首相は、安倍路線の基本を維持する姿勢を示し、憲法改正や皇位継承問題は安倍氏との約束だからしっかり取り組むと明言して総裁選に臨めばいい。ただし、経済政策は生き物だから、最晩年の安倍氏が言っていたことに囚われていてはダメだ。

一方、公明党との関係や無党派層は確保しておいたほうが賢明だ。保守派の離反は放っておけばいい。保守派は岸田内閣を支持しなくても、自民党候補への投票はやめないし、離党する国会議員などほとんどいるはずない。岸田首相は、自ら辞めると言わない限り、来年の秋は再選だというくらいの余裕をもったほうが右顧左眄(うこさべん)しない国政ができるだろう。

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八幡 和郎(やわた・かずお)
徳島文理大学教授、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス、八幡衣代と共著)、『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎』(光文社知恵の森文庫)、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)、『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)など。

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(徳島文理大学教授、評論家 八幡 和郎)

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