なぜYouTubeで毎晩新作コントを配信するのか…若手お笑い芸人が考えるテレビとネットの関係性
プレジデントオンライン / 2023年11月25日 13時15分
■YouTubeを中心に急速に浸透しているお笑い芸人
――レインボーのYouTubeチャンネルは登録者が111万人(10月18日現在)と大人気です。新作コントを毎日配信されていて、いまでは1800本を超える動画があります。なぜそこまでYouTubeに力を入れるようになったのですか。
そうですね。今までは劇場などでネタを披露して、テレビに出演する。そして、芸人としての面白さを認知される……というのが一般的だったと思います。しかし、僕たちは「コントを見てもらえるならYouTubeだって全然かまわない」と相方の池田と決めて、2019年から毎日のように動画を配信するようになりました。
その結果、テレビの出演がまだあまりない中でも、YouTubeを通して知って貰えるようになりました。特に爆発的に再生回数が伸びたのは、自身の経験をもとにネタを書いた「家にまで来たのにその気がない女に説教する男」(2019 年9月配信)というコント動画です。
言ってしまえば、「有名な芸人トップ10」には入れないけど「YouTubeで最も再生されている芸人トップ10」には食い込む可能性が見えてくるという若手芸人ではかなり特殊な状況になってます。
■コンプレックスが笑いになる
――――お笑い芸人を目指したきっかけを教えてください。
すごく簡潔にいうなら、自分自身にコンプレックスがあったから……かもしれません。それ以外にも、人を楽しませたいという欲求ももちろんありましたけど。
みなさんはどこまでご存じか分かりませんが、お笑い芸人ってこの世にあるどんなコンプレックスも武器にすることができる衝撃的な職業なんです。
僕は学生時代に童貞だったのがものすごいコンプレックスでした。僕のような童貞コンプレックスを持っている人も、太っていると悩む人、背が低いと自信を失う人、髪が薄いとまわりからイジられる人、そしてなにより普通すぎるというコンプレックスすらお笑いの中では個性になってしまう。
コンプレックスを笑いに変えて、世の中の人たちに喜んでもらえるって本当にすごい仕事だなと思っていました。
■芸人の活動は無限大に広がっている
――YouTubeだけでなく、小説やドラマ出演など幅広いジャンルで活動されています。なぜ新しい分野に挑まれるのでしょうか。
僕はYouTubeやドラマ、小説、マンガの原案に関わることもすべて芸事だと思っています。今は自分を表現する方法がたくさんあるし、「笑わせたい」という気持ちはなにをしていても頭から離れません。なので、小説もコントと同じようにつくることを心がけました。
『説教男と不倫女と今日、旦那を殺す事にした女』というタイトルだけ見ると、すごくシリアスな小説だと思われそうですが、セリフの応酬やクスッと笑えるワードなどを組み込んでいます。
![『説教男と不倫女と今日、旦那を殺す事にした女』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/d/1200wm/img_ad8d87c4854dfbf4eeaa8eef172507d5983966.jpg)
まわりの人から見ると、未知の仕事に挑戦していると思われるのかもしれませんが、仕事のジャンルは違っても自分が面白いと思うことを追求する気持ちは変わりません。
例えばSNSや動画配信など、手軽に自分の思っていることを表現できるようになっています。僕自身、コロナ禍で家にこもっているときになんとなく「小説でも書いてみるか」と思ったのがきっかけで小説を出版することになりました。当時は「小説家になろう」という考えは1ミリもなかったですが、出版社の編集の方の目に留まったおかげで、自分の半生を重ねた小説が出来上がりました。
最近では、お笑い芸人が本を出版するというのはエッセイやビジネス書、小説などかなり受け入れられていると思います。40年前にお笑い芸人が本を出版するというと、かなりハードルが高かったでしょう。
数々のお笑い芸人がこれまで「本を出版しませんか?」という声に対して「やります!」と返事をして面白いものを残してきてくれたからこそ、僕は小説を書けた。僕は小説以外にも、ドラマに出演させていただいたり、マンガの原案を考えたり、いろいろな形で自分の魅力を表現できているので、すごく恵まれているなと思います。
■ダメなことを自分で直そうとしなくなったら終わり
――たいへんな行動力ですね。
いろんなことをさせていただいていますけど、だからといって行動力があるわけではないんです。むしろ、僕はなかなか行動できない。小説を書くときも、コントのセリフを考えるときも先延ばしにしてしまう癖があるので。
ではどうして小説が書けたのか、というと一気に5時間通して書く時間を定期的につくるからなんです。そうやって、行動力を集中力で補って、なんとかギリギリ書き上げるということをしていました。
自分の特性を知るのは大事ですが、僕はその特性を理由に自分の悪いところを直さないという考え方はあまり好きではなくて。
例えば「だらしないのが自分だから~」と言う人を僕はかっこ悪いと思います。他人から言われるならまだしも、ダメなことを自分で直そうとしなくなったら終わりだなと。だから、行動力についてはまだまだこれから改善の余地があると思っています。
■自分のためにも相手を許す
――人生を振り返って自分を変えられたという経験はありますか。
僕はすぐに人のことを嫌いになってしまうタイプで、しかも表情にすぐに出る。電車を降りるときに肩がぶつかっても気にせずに走り去ってしまう人を見ると、瞬間的にイラッとしてしまいます。
見知らぬ他人にイライラするのも疲れてしまうし、これからも付き合いがある人のことを嫌いになってしまうと、いろんなことがうまくいかなくなってしまう。これは問題だなと思ってからは、イライラする前に自分を納得させるワンクッションを入れるようにしています。
電車を降りて肩がぶつかって、一瞬イラッとしたらそのときに「でも、あの人にも帰りを待っている人がいるんだろうな」とか、「自分の大切な人が事故に遭って急いでいたのかもしれない」と考える。そうすると自分の怒りを鎮められる、ということを学びました。人を許せるようになると自分の心が安定するので、自分のためにも相手を許すというのはこれからも大切にしていきたいです。
■笑いとアイデアが生まれる仕組み
――自分を変えたことで、ビジネス面でうまくいくようになったと感じる部分はありますか。
『THE EMPTY STAGE』という芸人が集まる即興ステージに出たときに、相手のことを否定せずに会話するというのを学びました。
「あなた浮気してるでしょ?」と振られたときに「してないよ」と返すと、話がそこで止まり全然展開していかないんです。だから、否定するのはご法度。ではどうするかというと「……お前いつから気付いてたんだよ」と認める。すると、面白いように話が転がっていきます。
例えば、会社で上司に企画を提出するときに「いや……こういうところが良くない」という言葉で始まってしまうと、なかなかポジティブには考えられないと思います。それよりは、「なるほど、いいね。それをもっと青春っぽい印象にするなら、どんなものになるかな?」と言われたほうがアイデアは生まれやすい。
自分の思い描く素敵な上司は「いや……」という言葉からは話さないでしょう。いったん自分のことを認めてくれる人に惹かれるのは当然です。だって、一緒にいて気持ちいいですから。
僕も、昔は相方の池田とネタ合わせをするときに「いや、それつまらない」と言っていた時期があります。だけど、ある日池田から同じセリフを言われたときに僕はイラッとしてしまったんです。自分は言うくせに言われたらムカついてしまう。これは良くないですよね。
自分が言われてうれしい配慮は自分から取り入れて、よりよい関係を築いていけたほうがきっとたくさんの笑いとアイデアが生まれると思います。
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吉本興業所属。相方の池田直人とお笑いコンビ、レインボーとして活動。千葉県千葉市出身、血液型O型。毎日コントをアップしているYouTubeチャンネル『レインボーコントチャンネル』の登録者数は100万人を突破している。
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(芸人 レインボー・ジャンボたかお 取材・文/ライター・山岸南美)
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