1on1には「5つの目的」と「9つのテーマ」がある…若手には「過去」、幹部候補には「未来」について聞くべき理由
プレジデントオンライン / 2023年11月22日 15時15分
※本稿は、世古詞一『マンガでよくわかる1on1大全』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■1on1の5つの目的
1on1が形骸化してしまったり、継続されなかったりする理由の大きな原因のひとつに、目的の共有ができていないことがあげられます。私が研修などで1on1を実践している上司側に目的を伺うと、「仕事以外の話をしてお互いを知る」とか「普段話せていないことを話す」「健康について確認する場」など断片的な話は出てきますが、戸惑う方がほとんどです。そこでまず、5つの1on1の目的を理解しておく必要があります。
② モチベーションケア
③ 中長期の成果
④ 成長促進
⑤ 働きがいの向上
「信頼関係づくり」=お互いを広く深く知ることで、信頼関係を築くことができます。
「モチベーションケア」=1on1を実施することで最低限、不安(モヤモヤ)の解消ができます。仕事をしていると様々な葛藤や想いが出てきます。それによるストレスを軽減し、解消することができます。
「中長期の成果」=「中長期的な成果を出すためにどんな取り組みが行えるか」など、クリエイティブな対話をすることができます。また、継続して成果を生むための「仕組み」を考えるなど、改善や改革に向けて考えることもできます。
「成長促進」=前回の1on1以降、業務を通じてどんな成長があったか、どんな学びを得たかを話し合います。また、上司からのフィードバックを通じて、振り返る時間を取ることができます。
「働きがいの向上」=仕事に対する自分の想いを振り返ったり、組織について理解します。そうすることで、自分が行っていることと組織とのつながりを見出す時間をつくることができます。
■「業務・個人・組織」と「過去・現在・未来」を掛け合わせる
そして目的のすり合わせができたら、目的に沿った具体的な対話テーマについて話しましょう。
特に、話すイメージが湧く「テーマ」をたくさん洗い出しておくと、今後のテーマに困らなくなりますので、1回目は「今後の対話テーマの洗い出し」をテーマにするとよいでしょう。
具体的にどんなテーマを話せばよいかは非常に大きな課題です。少なくともテーマが決まれば、話を進めることができます。私は、上司と部下が組織で対話すべきテーマの全体像について「すり合わせ9ボックスⓇ」というフレームワークを考案し提唱しています。ここではポイントだけお伝えしましょう。
まず、上司と部下が話すべき軸として「業務・個人・組織」と3つの軸があります。そしてそれを3つの時間軸(過去・現在・未来)で区切った9つのテーマを、上司と部下が対話すべき全体像としています。
これらのテーマについて、お互いの認識を深いレベルで「すり合わせ」ていくことが、1on1で重要なことです。9つのテーマについて簡単なイメージを持っておくだけでもテーマ抽出の助けになるでしょう。
![出典=『マンガでよくわかる1on1大全』](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/6/1200wm/img_d6a0a2f4be41e18ac6d3d332c0756916353388.jpg)
![出典=『マンガでよくわかる1on1大全』](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/f/1200wm/img_ef0a723a0b8fb4520c13c38a6d68fb71380619.jpg)
![出典=『マンガでよくわかる1on1大全』](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/2/1200wm/img_c2d36b3d74e1bde762378fa73fe65aaf376828.jpg)
■業務から何を学んだか、今後どう改善するかを尋ねる
△ 業務レベル
◆(業務×過去)振り返りボックス
過去に行った業務の振り返りをテーマにします。部下が内省をしながら、業務を通じて成長したことや学んだこと、得たことについて再認識できる時間です。振り返りの気づきを、次の業務改善に活かしていくこともできます。
![出典=『マンガでよくわかる1on1大全』](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/e/1200wm/img_9eed17c02da2b244f4fd947ed64865e5369553.jpg)
![出典=『マンガでよくわかる1on1大全』](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/4/1200wm/img_e454d74fb357b5c872d05ef7ad9635cb376679.jpg)
![出典=『マンガでよくわかる1on1大全』](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/e/1200wm/img_de39595807b331705031c9fdacd884ac399893.jpg)
◆(業務×現在)業務不安ボックス
現在部下が業務を通じて感じている不安についての解消や解決がテーマです。顕在化している不安はもちろん、潜在的に抱えているモヤモヤとしたものも具現化していきます。また、不安がなくとも、業務を通じてさらに満足感や充実感を高めていくにはどうしていくか? など、ポジティブな面を伸ばしていくこともここに入ります。
◆(業務×未来)業務改善ボックス
今後の業務の効率化や改善などがテーマです。部下側は、業務を通じて「もっとこうしたらいいと思うんですよね」と何となく思っている問題意識を準備してくるとよいでしょう。また、自分が手がけている企画や業務について、さらに改善していくためのアイデアを上司と議論する場として活用するなど、クリエイティブな時間にしていきます。
■ライフスタイルやキャリアについて相互理解を形成する
△ 個人レベル
◆(個人×過去)パーソナリティボックス
パーソナリティとは、生まれながらに持つ性格、後天的に身につけた能力など、その人の思考や行動パターンを形成するものです。これら過去において部下が培ってきたパーソナリティを、対話によって自己認識できることで成果や成長への助けになります。特に、現在ある自分の強みについて、そのルーツを振り返ることはおすすめです。
◆(個人×現在)ライフスタイルボックス
ライフスタイルとは、仕事以外の主に4つのテーマがあります。
①心身の健康。②仕事以外で気にかかること。特に家族のこと。③趣味や関心事について。④ライフワークや副業など、仕事以外で頑張っていること。
これらの人生や生活全般の事柄、考え方について、上司と部下の相互理解を形成していきます。
◆(個人×未来)将来キャリアボックス
将来やりたいことや、なりたい姿を共有します。上司と部下の目線をすり合わせることで、直近の業務や役割について、その方向に向かう確率は高まるでしょう。さらに、現在行っている業務と将来とのつながりが見いだせることで、今の業務に意味を感じることができ、業務に集中できる状態がつくれます。
■会社のカルチャーや今後の方針について理解を促す
△ 組織レベル
◆(組織×過去)理念・制度・カルチャーボックス
組織の理念や価値観、制度、歴史やカルチャーなどの組織の考え方を理解します。さらに、組織と自分との接点を考える時間としても活用できます。会社に入った動機や、入社後どう感じたか? などを考えることで、会社とのつながりを意識できるはずです。組織理解は、評価を考える上でも役立ちますし、もし転職しても、前職を深く理解している経験は、次の会社で必ず役立つはずです。
◆(組織×現在)人間関係ボックス
現在のチームメンバーや、組織にいる人のことについてのテーマです。上司と部下双方につながりがある人や仲が良い人、または苦手と思う人などの話をすることで、お互いが知らない一面を知ることができます。また、知らない面を補足し合うことで、組織にいる人に対する認識の違いをなくすことができます。さらに、そのような中から上司と部下双方にとってお互いの人間観などの考え方や価値観を相互理解する機会にもなります。
◆(組織×未来)組織方針ボックス
今後の組織方針や全体進捗など、上位階層で行われている議論や問題意識をテーマに対話をします。部下にとってはチームや組織を考える良い機会になります。また、会議で全体に話された内容について、個別に確認をする機会として活用します。上司は「伝えた」だけで終わらずに、部下は頭だけの理解に終わらないように、改めて自分の言葉で相互にすり合わせる時間として機能します。
■9つのテーマすべてを話す必要はない
さらに、これらのテーマを単体ではなく、9つのボックスの全体像で認識しておくと、各ボックスのテーマのすり合わせだけではなく、ボックス間をつなげる意識が持ちやすくなります。
たとえば、今半期の組織方針を伝え(組織方針)、それに基づいて、個人目標を設定して不安を確認する(業務不安)。さらに、目標達成することでどんな能力が得られるのか(パーソナリティ)のすり合わせと、どう自身のキャリアに結びつくのかを確認する(将来キャリア)ことができます。これにより、部下も自分の業務を単体で捉えるのではなく、自身の成長や組織とのつながりを感じることができるようになるのです。
ちなみに、これらの9つのテーマを全部話す必要はまったくありません。テーマを探すときの材料としての活用に留めましょう。こうして、話すテーマの見通しを立てておくことは、上司と部下ともに対話の助けになります。
■若手とベテランとですべき話題は異なる
まだ成長盛りの若手メンバーであれば、5つの目的の内の「成長促進」を意図して、業務の「振り返り」をテーマにするのがお勧めです。業務の中で得た気づきや発揮された強みを言語化していくことで、成長を実感できるでしょう。
![世古詞一『マンガでよくわかる1on1大全』(かんき出版)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/d/1200wm/img_8d8aef58ae9092f393be43cf58c4ec61122365.jpg)
また、シニアのメンバーであれば「中長期の成果」を目的として、業務改善をテーマとすると抵抗感無く受け入れてもらえます。シニアメンバーの持つ経験や知見を基に、さらなる業務の効率化やイノベーションの種などを探すべく、ブレーンストーミングを行うのは有効です。
さらに、管理職を志向しているメンバーであれば、組織レベルを中心に、組織方針や今後のチームの将来像について対話を行い、目線をすり合わせて引き上げていくこともできます。
このようなツールを活用することで、毎回場当たり的に話すのではなく、意図してその時々で必要なことを話すことが可能になり、お互いに心にゆとりを持つことができるのです。
実りのある1on1にするために、ぜひ以上のことを参考になさってください。
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組織人事コンサルタント
早稲田大学政治経済学部卒。一般社団法人1on1コミュニケーション協会代表理事。 株式会社サーバントコーチ代表取締役。VOYAGE GROUP(現 株式会社CARTA HOLDINGS)の創業期より参画。2008年独立し、コーチ・コンサルタントとして様々な人の人生とキャリアの充実、目標実現をサポート。コーチング、エニアグラム、NLPなど、10以上の心理メソッドのマスタリー。著書に『シリコンバレー式 最強の育て方 人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング』(かんき出版)などがある。
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(組織人事コンサルタント 世古 詞一 漫画:英賀 千尋)
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