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日テレが払う放映権料は数十億円…沸騰「箱根駅伝」主催運営・関東学連の知られざる"収入・支出"の家計簿

プレジデントオンライン / 2023年11月21日 11時15分

画像=関東学生陸上競技連盟 東京箱根間往復大学駅伝競走公式サイトより

2024年の箱根駅伝は第100回の記念大会。例年以上の盛り上がりと高視聴率が予想される。スポーツライターの酒井政人さんは、「主催・運営する関東学連では資金や財務の情報は非公開。日本テレビが支払う放映権料が複数年で数十億円になるなど巨額マネーが集められているが、どこにどのように配分されるのか、SNSを中心に不透明さが指摘されている」という――。

※本稿は、酒井政人『箱根駅伝は誰のものか「国民的行事」の現在地』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。

■「お金」の問題――収益は一体どこに⁉

箱根駅伝は関東学連が主催・運営するが、任意団体のため、資金や財務の情報は一切公開されていない。そのため、集まった資金がどこにどのように配分されるのか、SNSを中心に不透明さが指摘されてきた。

筆者が関係者に取材したところ、正確な額はわからなかったものの、日本テレビが関東学連に支払う放映権料は複数年契約で数十億円になるようだ。特別協賛のサッポロホールディングスはテレビ中継が始まった頃(当時はサッポロビール)からの筆頭スポンサーで、2024年開催の第100回大会で38年連続。スポンサー料は1回で8億円とも10億円ともいわれている。

協賛はミズノ、トヨタ自動車、セコム、敷島製パンと業界大手が並ぶ。ほかにもNTTドコモなどがスポンサーとして名を連ねている。イメージ抜群の箱根駅伝は各企業にとって広告価値が非常に高い。各スポンサーの広告効果は、60億円相当といわれているほどだ。

なおテレビCMだけでなく、トヨタ自動車は運営車両を提供しドライバーを派遣。セコムは警備を担当して、ミズノは関連グッズを販売している。

読売グループが巨大な利益を得ているはずだが、主催する関東学連はというと、実はそれほど潤ってはいないようだ。「視察」という名のもと世界選手権の観戦ツアーを組むなど、選手たちが知ったら「なぜ?」と感じるような支出もあるが、選手たちに還元している部分も少なくない。学生トップクラス選手の海外遠征や、国内レースでも一定タイムを切った場合、その費用(交通宿泊費)を補助しているのだ。

例年11月下旬に開催している関東学連1万m記録挑戦競技会は昨年度の場合、日本選手権申込資格記録(28分16秒)の突破者、指定タイム突破者(29分00秒、29分20秒)には奨学金を授与している。また全日本大学駅伝の出場校にも強化費が支給されている。

支出のなかで一番大きいのが箱根駅伝の運営管理費だ。217.1kmもの距離で行われるため、20〜30数m置きに走路員を配置するとすれば、往路だけで4000〜5000近い人員が必要になる。加えて、スタートとゴール、各中継所はさらに警備を強化しないといけない。2013年のボストンマラソンで爆発事件が勃発したこともあり、国内レースもセキュリティーを強化しており、その費用がかさんでいるのだ。

警視庁と神奈川県警合わせて約2000人の警察官に加えて、警備会社(セコム)のスタッフを全国から400人ほど動員。ほかにも約1800人の学生補助員、それから東京陸協、神奈川陸協の審判員約2000人も箱根駅伝を支えている。

学生補助員には交通費と食事代が支給されている。もちろん警備員と審判員には報酬も必要だ。他にも中継所付近の商店に関東学連のスタッフが手土産を持参して挨拶まわりをするなど、これだけのイベントを実施するにはお金だけでなく、手間がかかっている。

関東学連のある関係者は、「放映権は確かに莫大ですけど、大会運営費も莫大なんです。実際には放映権分を全部使っているような状況なんですよ。箱根駅伝グッズの収益が入ってくるので、それくらい分が黒字という感じです」と話している。

■大学の格差問題――予算のある大学は年間2億円近い

日本陸上界のなかで「箱根駅伝」は異質な存在だ。熱狂的な人気と、巨大マネーを動かす一方で、他種目の選手からは妬まれている。長距離以外の種目でオリンピックに出場した元選手は「僕らはオリンピックに出てもさほど騒がれなかったですけど、長距離は箱根駅伝に出るだけで『凄い』と言われるんです」と苦笑いしていた。

箱根駅伝常連校のある監督も、「日本テレビのおかげで箱根駅伝が大きくなったのは間違いないんですけど、その弊害もあります。全国で一番になったわけでもないのに、関東ローカルの大会で少し活躍しただけで、マスコミが取り上げてくれるのでカン違いしている子がいるんですよ」と漏らしている。

関東インカレを取材していても長距離の熱狂ぶりを実感している。他の種目は世界大会に出場経験のある選手くらいしか取材は殺到しないが、長距離種目は入賞しなかった選手でも記者やカメラに囲まれるのだ。同じ大学の陸上部員でも待遇は大きく異なる。強豪大学の場合、長距離はスポーツ推薦が毎年10〜15枠ほどあるが、他の種目は非常に少ない。長距離種目の場合、インターハイに出場するレベルでも“争奪戦”になるが、他の種目はインターハイで入賞してもスポーツ推薦で入学するのが簡単ではない。

駅伝出場大学
撮影=プレジデントオンライン編集部

近年は大学の“格差”も問題視されている。今年は早稲田大学競走部が駅伝強化プロジェクトのためのクラウドファンディングを実施して、2000万円以上の金額を集めたことがスポーツ界で注目を浴びた。

1914年に創部した早稲田大学競走部は箱根駅伝で13度の総合優勝。瀬古利彦、渡辺康幸、竹澤健介、大迫傑ら日本長距離界のスーパースターを輩出してきた。大迫が大学1年時の2010年度には「駅伝3冠」(出雲、全日本、箱根)に輝くも、その後は苦戦を強いられた。

輝かしい歴史を誇る名門だが、他の駅伝強豪校と比べると、決して“恵まれた環境”というわけではない。スポーツ推薦は長距離だけだと3枠ほどしかないのだ。

そして今回のクラファンで“資金不足”も表面化したともいえるだろう。他の駅伝強豪校と比べてスポーツ推薦枠が極端に少ないだけでなく、授業料免除なども基本的にはない。

花田勝彦駅伝監督も現役時代はいくつもの奨学金を利用して、学生生活を送っていた。具体的な費用を話してくれる指導者はなかなかいないが、筆者が聞いた範囲では、年間の強化費(合宿や遠征費など)は数千万円というところが多い(免除した授業料、大学の設備費などは除く)。

なかには2億円近い大学もあるようだ。強豪校は夏に10日ほどの合宿を3回、12月(箱根駅伝メンバーを中心に20人ほど)に1回、3月に1回、年間で50日ほどは合宿をしている。部員50人のチームが1人1泊8000円(3食付)×50日、移動費をプラスすると、年間の合宿費だけで2000万円近くかかる(部員個人がいくらか負担している大学もある)。チーム強化には多額なお金が必要なのだ。

大学の予算だけでなく、宗教系の大学では寄付金が多かったりもするし、あとは契約しているスポーツメーカーからサポートを受けている大学もある。これらのトータルが部の運営費となるわけで、指導者の“力量”だけでチームは強くならない。

■留学生を抱え込み、意図的に飼い殺しにする大学も

それから箱根駅伝に出場中、もしくは狙える大学は学内に400mのオールウェザートラックを持っており、寮内に高気圧酸素ルームと低圧低酸素ルームを完備しているチームもある。

酒井政人『箱根駅伝は誰のものか「国民的行事」の現在地』(平凡社新書)
酒井政人『箱根駅伝は誰のものか「国民的行事」の現在地』(平凡社新書)

またケニア人留学生を入学させるのも費用がかかる。どこに予算をかけるかは各大学によって異なるが、強くなるために“お金”は欠かせない。

あるベテラン監督は、「十数年前までは、ある程度の分別があったんですけど、近年は予算のある上位校が有力選手を抱え込むようになり、どんどん格差が出てきているんです。5000m14分00秒前後の有力選手だけでなく、14分20秒前後の選手も獲得しているので、完全に二極化していますね。箱根駅伝は10人しか出場できないんですけど、他に行って強くなったら困るので、自分たちで囲って選手を飼い殺しするわけです」と困った顔をしていた。

大学のブランド力に差がある一方で、予算の格差も顕著になっている。現在の箱根駅伝は、「公正な競争」になっていない。それは問題視していくべきだろう。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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