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なぜ「海外企業に負けているはず」と思い込んでしまうのか…日本人が誤解している「日本企業の本当の強み」

プレジデントオンライン / 2023年11月23日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RainerPlendl

日本企業は「海外で流行の経営技術」が好きだ。慶應義塾大学商学部の岩尾俊兵准教授は「日本企業がこぞって取り入れている海外の経営技術は、実は日本由来のものが多い。日本企業は強みを自ら捨ててしまっている」という――。

※本稿は、岩尾俊兵『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■流行におどらされて強みを自分で破壊している

これまで日本企業は世界に通用する経営技術を生みだし続けてきた。

しかし、日本の産官学はこうした経営技術をコンセプト化して世界中に発信することにかけては、海外と比べて一歩出遅れていたといえる。こうした発信ができれば日本の産官学にとって多くのメリットがあるにもかかわらず、である。

それどころか、日本の経営技術がアメリカをはじめとした海外企業や海外研究者によってコンセプト化され、日本に逆輸入されることさえあった。経営技術の逆輸入という状況は、流行におどらされて自社の強みを自分で破壊してしまうことに等しい。

もちろん、経営技術をコンセプト化しないメリットも、当然存在する。たとえば、経営技術を自分たちにしか分からない言葉で語り、ムラ社会的に深く文脈に依存した状態にすることで、競合他社から容易には真似されなくなるというメリットである。

ただし、一時期はこうした状態だったトヨタ生産方式という経営技術も、後にはアメリカにおいてコンセプト化されていることを考えると、こうしたメリットは「時間稼ぎ」の効果しかないだろう。

■なぜ日本企業は強みを捨ててしまうのか?

それでは、日本企業はなぜ、自らの強みを捨ててしまうのだろうか。

日本発の経営技術が逆輸入される状況は、必ずしも悪意ある人物によってもたらされるのではない。現場は愚直に経営技術を開発し続けており、経営者は真面目に国内外から情報収集を欠かさない。

そんな状況にあって、経営者が経営技術を逆輸入し、さらに現場はなまじ実直であるために「そんなもの現場ですでにやっていることの焼き直しですよ」などとは意見しない。

それゆえに、誰一人悪者はいないまま、逆輸入された経営技術がそのまま現場に導入され、ときとして日本の現場を破壊するのである。

ここで、日本企業が「なぜ強みを捨てようとするのか」「何に負けたのか」について、直接的な原因から順に、真因にまでさかのぼって考えてみる。

経営技術の逆輸入という状況が発生する第一の原因は、経営者がアメリカや諸外国から日本にもたらされたコンセプトに触れたとき、「これはもしかしたらすでに日本の現場でもやっているのではないだろうか」と考えもしないことである。

■「海外に負けているはず」という思い込み

これがたとえば半導体センサーの購入などの通常の取引であれば、自社に需要があるか、すでに導入しているシステムがないか、現場に問い合わせるのが普通の経営感覚・リーダー感覚・ビジネス感覚だろう。その上で、コストとメリットを比較衡量して導入を決めるのが、一般的なビジネスパーソンである。

しかし、これがコンセプトや、コンセプトを基にしたパッケージやソフトウェアの導入となると、「海外に負けているはず」という思い込みが勝ってしまうのではないだろうか。そのため、現場に確認を取らずに導入を決定するか、確認してもすでに実施している経営技術と同一だとは気づかない。

だまし絵を鑑賞するとき「このだまし絵は○○にも見えますよ」と教えられないと、その仕掛けに気づけないように、人間は「見たいものを、見たいような姿で、見る」のである。だから、まず必要なのは、拙著『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)で紹介している事例などを見て「経営技術の逆輸入は思っているよりも頻繁にある」ことをしっかりと認識することである。

そうすることで、海外から発信された流行のコンセプトに触れたとき、一度立ち止まることができる。そして、ときには「たしかにこのコンセプトはすばらしい、しかしこれはもう現場で実施している」と認識し、その上で「これからは、わが社の取り組みを○○というコンセプトで説明することも可能だな」といった形で逆に利用すればよい。もうすでにやっていると鼻で笑うのではなく、海外のコンセプトをしたたかに利用するのである。

■技術はあるのに、モデル化することに興味がない

もちろん、立ち止まって考えてみても、海外からきたコンセプトが現状では自社に足りない場合もあるだろう。その場合は、そのコンセプトを謙虚に、積極的に、取り入れればよい。

いずれにしても、新しい経営コンセプトに出会ったときには、一度は立ち止まってみることが大事である。

こうすれば、経営技術の逆輸入による現場の混乱はある程度避けられると考えられる。もちろん、本書を読めばその点はすぐにクリアできるというのは言い過ぎかもしれない。しかし、本書がきちんと読まれさえすれば、日本の産官学に支配的だった間違った認識は、多少なりとも変化するだろう。

ただし、これはもっとも“表層的な”原因とその解決法である。

これだけでは、経営技術の逆輸入を避けられても、日本からの発信にはつながらない。日本の産官学が、日本発の経営技術を使って、これまで以上の利益を得るという状況には直結しないのである。

経営技術の逆輸入的な状況が発生するもう一歩深い原因は、日本の産官学がコンセプト化にあまり積極的でなかった点にある。コンセプト化には抽象化や論理モデル化といった特徴がある。そして、日本の産官学は、どちらかといえば、具体的な経営技術を開発しつつも、それを抽象化・論理モデル化することにはあまり興味を持たなかったのである。

■日本企業は「組織能力の抽象化・論理モデル化」が苦手

その理由は、①抽象化・論理モデル化のメリットが認識されなかったことと、たとえこれらのメリットを認識したとしても、②抽象化・論理モデル化する組織能力が相対的に低かったということが挙げられるだろう。

ここで、①のコンセプト化のメリットは、本書を読んだ方にはもう伝わっているだろう。そのため次に考えるべきは、②の抽象化・論理モデル化の組織能力である。

ただし、ここでの「能力」とは「個人の能力」ではなく「組織能力」である点が重要だ。個々人の抽象化・論理モデル化の能力だけでいえば、日本人の能力は世界的に見ても低くはないだろう。数学や物理学の分野で日本人が活躍できていることや、高等学校での数学教育が世界最高レベルであることからも、それは傍証される。

これに対して組織能力というのは、個人の集合である組織のつながり方や仕事のやり方のルーティンといった、組織に蓄積されている能力のことを指す。この組織能力の中に、抽象化・論理モデル化の力を決定するものがあるのである。

オフィスで対話中のビジネスパーソンたち
写真=iStock.com/FangXiaNuo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FangXiaNuo

■論理モデルがなくても、阿吽の呼吸で説明できる

たとえば、組織内で抽象的なモデルを使った議論を重視する人事評価がおこなわれているか、会議の際に論理モデルにもとづいた説明が求められるか、先輩から後輩へ抽象化・論理モデル化のノウハウが口頭または文書で伝授されているか、といったことにより、このタイプの組織能力の強弱は影響を受ける。

また、そもそも抽象的な議論をする機会がどの程度あるかによって、論理モデルを使った抽象的な議論への「慣れ」も変わってくるだろう。

その点、日本語という、世界的にみると相当に特殊な言語を用いる集団内において、しかも民族的にも多様性に乏しく、日本的経営にみられる濃密な人間関係にもとづいたチームワーク重視の経営をおこなってきた日本企業は、論理モデルを使って他者を説得する必要性や機会に乏しかった。論理モデルを用いなくとも、文脈に依存した議論、いわゆる阿吽の呼吸や根回しによって、協働が十分可能であったためだ。

すなわち、日本企業の強みでもあったチームワークが、コンセプト化、抽象化、論理モデル化の能力構築に制限を加えていたと考えられる。

■まずは根拠のない自虐をやめること

同じことは、政界・官界や学界にもいえるかもしれない。岩田龍子『日本的経営の編成原理』(文眞堂)が指摘するように、濃密な人間関係に根差したチームワーク重視の組織運営という日本的経営の特徴は、そもそも日本の社会全体の特徴から生まれたものである可能性もあるためだ。

岩尾俊兵『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)
岩尾俊兵『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)

こうしたことを総合すれば、まずは日本式経営に対する根拠なき自虐をやめ、経営技術の逆輸入という状況を認識したら、次は日本の産官学はコンセプト化の組織能力が低かったことを反省し、それを克服する手段を講じるべきだろう。

そのためには、まずは日本の産官学におけるコミュニケーションは文脈依存度が高いことが多いと認める必要がある。その上で、今後は意識的に抽象度の高い議論や論理モデル作りをおこなうべきだ。そして、そのために人事評価や会議の運営方法など、組織ごとに工夫すべきことがあると考える。

このように、経営技術の逆輸入という状況は、意識一つで解消することができるのだ。その意味では、日本経済を取り巻くさまざまな問題の中では比較的取り組みやすいものであるといえるだろう。

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岩尾 俊兵(いわお・しゅんぺい)
慶應義塾大学商学部准教授
1989年、佐賀県有田町生まれ。父の事業失敗のあおりを受け高校進学を断念、中卒で単身上京、陸上自衛隊、肉体労働等に従事した後、高卒認定試験(旧・大検)を経て、慶應義塾大学商学部を卒業。東京大学大学院経済学研究科マネジメント専攻博士課程を修了し、東京大学史上初の博士(経営学)を授与される。大学在学中に医療用ITおよび経営学習ボードゲーム分野で起業、明治学院大学経済学部専任講師、東京大学大学院情報理工学系研究科客員研究員、慶應義塾大学商学部専任講師を経て現職。専門はビジネスモデル・イノベーション、オペレーションズ・マネジメント、経営科学。著書に『イノベーションを生む“改善”』(有斐閣)、『日本“式”経営の逆襲』(日本経済新聞出版)、『13歳からの経営の教科書』(KADOKAWA)がある。

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(慶應義塾大学商学部准教授 岩尾 俊兵)

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