貧乏家庭から東大を目指すなら「文系より理系」がいい…世帯年収300万円から合格した東大生のアドバイス
プレジデントオンライン / 2023年12月4日 13時15分
■「数学が得意かどうか」で文系、理系を決めるのは危険
みなさんは学生時代、どのように文系に進むか理系に進むかを選択しましたか。
僕が実際に学校現場に行って話を聞いている限りでは、数学が得意であれば理系、そうでなければ文系といったように、数学が得意科目か否かで文理を決めている学生が多いようです。数学が苦手な学生ほど、文系に行きたがります。しかし、数学だけで文理を決めるのは大変危険な行為。むしろ落とし穴にはまりかねません。
例えば、落ちこぼれたちが一念発起して東大を目指す受験漫画『ドラゴン桜』では、理系が有利であるとされています。その戦略は、東大の国語と英語で点数をとって、数学と理科は低い点数で乗り切ることでした。
■多額のお金を投入すれば簡単に攻略できる科目
実際に東大に通っている私からすると、理由は異なりますが、理系を目指す点においては彼らの意見に賛同できます。なぜなら、東京大学の国語は全く点数が取れないため、文系入試では「国語が得意」でも強みにならないのです。理数科目や英語で逃げ切らなくては合格できません。
今の受験で重点を置くべき科目は、英語と理数科目です。国語や社会は満点が取りにくい教科ですが、英語と理数科目は満点が容易に狙える。特に英語は豊富な教育投資をもってすれば、簡単に攻略できます。
本日は、お金の視点から考える文理選択についてお伝えします。
■「点数戦略」を怠る学生は受験で失敗する
結論から言えば、「教育投資をする余裕があるなら文系が有利。それ以外なら理系が有利」です。
一般に、文系の大学受験で使う科目は、英語、国語、社会です。理系の場合はこれが英語、数学、理科に変わります。もちろん大学によっては、文系でも数学を、理系でも国語を受けさせられる場合がありますが、多くの大学はこれら3科目で受験生を判別します。
受験で外してはならないのが、点数戦略です。どの科目に何点の配分があり、それぞれ何割をとって、合計何点で合格する。このイメージができていない学生は、軒並み受験に落ちます。
例を挙げると、私が東京大学文科三類を受験したときは、
国語 70点/120点
数学 50点/80点
社会 70点/120点
合計 270点/440点
で合格する算段をつけていました。東京大学を文系受験する場合、二次試験では440点満点中の250~270点程度をとっていれば、ほぼ合格最低点に届きます。僕が文科三類を受験したのも、この合格最低点が東大文系の中で一番低いからでした。
■「国語」「社会」は点差が開きにくい
ここで問題になるのが、理系は理数科目で点数を稼ぐことが容易ですが、文系はそれがしにくいことです。理科や数学は、本人の努力とセンス次第では満点を狙うことができます。一方で、国語や社会科目は、難関大学になればなるほど、点数を稼ぎにくくなります。
それは、難関大学特有の記述試験に原因があります。国語や社会は、受験生レベルでは、試験時間内に満点答案を作るのが難しい場合が多いのです。
実際に、東京大学の試験では、国語が120点満点とされているにもかかわらず、私の個人的な調査では85点以上をとっている学生を見たことがありません。私の聞いた中での最高点は83点でした。多くの学生は50点から60点に落ち着いており、合格者でも不合格者でも、それほど点差がついていない印象があります。
同じように、論述式の試験が行われる社会科目も、120点中の90点以上をとっている学生を見たことがありません。やはり多くの学生は合格者でも70~80点程度に落ち着いていて、ここでも差がつきにくいのです。
国語や社会は記述全体の中に、どれだけ答えとなりうる要素があるかで採点がなされます。自分の頭の中ではある程度分かっていたとしても、それをどれほど分かりやすく採点者に伝えられるかが重要になります。
文中の表現や歴史用語などを使えば部分点がもらいやすい回答を作ることができますが、最終的には採点者の受けるニュアンスの勝負になるので、必ずしも「この表現を書いたから○点」と保証されません。極論を言えば、考えが模範解答に沿うものであっても、それをうまく採点者に伝わるように書けなければ、0点もありえます。
■理数科目は簡単に満点を目指せる
一方で、理数科目に限ってはその限りではありません。最終的に出てくる答えをみれば一目瞭然ですし、途中式も「どこまでを書いたら○点」と決められているので、配点にブレは生じません。理科や数学は実際に満点をとっている人もいます。
私の友人には、理科と数学で合わせて240点のうち、230点近くを得点して合格した人もいます。この友人は、国語と英語の成績が壊滅的だったにもかかわらず、理数科目で合格に必要な点数の90%以上を稼いだため合格しました。
もちろん、国語や社会で満点答案を作ることも不可能ではないでしょう。しかし、それは何年も入試業界の最前線で戦い続けている予備校教師レベルの話。時には、その予備校ですらも間違いを指摘されます。東京大学の1983年の日本史の問題は、過去の予備校の模範回答と思われるものを「なぜ間違えているのかを指摘せよ」と受験生に問う設問だったといわれています。
受験生のレベルで満点合格答案を、それも一発勝負の緊張感がみなぎる入試会場で、試験時間内に作り出すのは不可能に近い。どう頑張っても、平均点前後に落ち着くのが関の山でしょう。前述した東大国語で83点を記録した私の友人は、おそらく全東大受験生でもトップ1%に入る成績だったはずです。
■文系は「英語ができるかどうか」のテスト
ここで述べている内容は、東京大学に限った話ではありません。ほかの大学についても、国語や社会は点数が取りにくいのです。例えば、私立大学の社会は難問奇問が多いことで有名です。「漢委奴国王」で知られる金印は有名ですが、これがどこで出土したのか。誰が掘り出したのか。重さは何グラムで、一辺は何センチか。答えられるでしょうか。
福岡県の志賀島で出土したところまでは知っているかもしれませんが、発掘者の名前や、その重さなどは答えられないでしょう。
理系ならば、理科や数学で点数を稼げば、勝ちパターンに入ることができます。それでは、文系はどこで点数を稼ぐのか。国語や社会で点数を稼げないならば、英語で稼ぐしかありません。文系入試は、実質「英語がどれだけできるか?」のテストなのです。
もちろん、理系でも英語ができれば有利に事を運べます。しかし、理系が理数科目でも英語でも点数を稼ぐ選択肢があるのに対して、文系はほぼ英語一択。この選択肢の狭さが特徴です。
■英語で「帰国子女」に張り合えるか
英語を強化するには参考書、塾、英会話スクールなど、さまざまな方法があります。ですが、これらを凌駕(りょうが)する最強の対策方法があります。それは留学です。子供が幼いうちに、海外に送って早期英才教育を施す。これに勝る英語対策はありません。
実際、東京大学に通う学生には、帰国子女がたくさんいます。両親の仕事の都合や、本人の希望などの理由で、幼いころにまとまった期間を海外で過ごしている人が多いのです。彼ら彼女らは、東京大学の試験も英語で突破しています。数学や社会が多少苦手でも、英語で点数を稼げば、ぐっと負荷が軽くなります。
数学が80点中30点も取れない友人がいました。東京大学に合格したいなら、せめて40点は欲しいといわれています。この友人は、英語の試験で120点中の100点を記録し、見事弱点をカバーしました。
■「英語有利」のアドバンテージは高まりつつある
ここで述べている英語有利の風潮は、何も東大だけに限りません。むしろ東大以外の受験生はみんな、これからリスニング能力を鍛える必要に駆られています。
2021年から実施されている共通テストでは、英語の配点がセンター試験とは異なります。これまではリーディング200点のリスニング50点だったのが、今ではリーディング100点のリスニング100点。完全に1対1の配分に変化しています。
大学入試の最前線では、それだけ英語力を、とりわけリスニングやライティングなど、実際に運用する能力を重視しているのです。英語が得意であることは、昔から受験生にはアドバンテージでしたが、それのもたらす有利度合いは年々増加しています。
受験に勝つなら、英語力を鍛えるのが一番。そのためには、わが子を連れて海外周遊したり、留学させたりして、経験を積ませる。富裕層有利の時代は、ペーパーテストにも迫っています。
■理数科目は自学自習に困らない
一方で、理数科目は本人の努力に大きく依存します。数学が苦手な人ほどセンスで対応しようとしますが、受験数学のレベルならば、むしろ「努力」で対応できる幅のほうが広い。
というのも、難関大学の入試問題であれ、過去問や定番問題を複合した出題が多くを占めるためです。参考書や過去問をどれだけやりこんだかが反映され、これらをよく研究していれば、「あ、この問題は○○年に出た過去問の類題だな」と解けるようになります。いかなる環境でも、数冊の参考書さえあれば、十分対応可能になるのが理数科目の特徴です。
昨今は、いわゆる「チャート式」と呼ばれる辞書のような数学参考書や、『1対1対応の演習』や『理系/文系数学の良問プラチカ』などの優秀な問題集が豊富に存在します。理科科目でも、『良問の風』『名門の森』などの定番参考書がある程度固定化しており、やるべきことには困りません。
実際に、僕は高校3年の時に受けた模試で数学3点をとってしまったのですが、半年間かけて「青チャート」と呼ばれる参考書を仕上げた結果、東大入試の本番では40点近くを得点することができました。参考書だけでも、東大入試で戦えるレベルまで仕上げることは十分可能なのです。
困ったら自学自習に困らないのが、理数科目の特徴です。さらに、ある程度お金をかけられるのならば、塾や予備校に通えば、講師からの手厚い解説を基に理解を深めることもできます。
■富裕層有利の受験に対抗するなら「理系」を選べ
さらに、公文式のような安価で算数を学べる塾が全国展開されていることも、追い風になります。実際に、東大生の多くは小さなころから公文式に通っています。公文式は、綿密に練られたカリキュラムに従って子供たちが自習する形で学習が進むので、本人の理解度に合わせながら学習することができます。とにかく量をこなすので、しっかりした計算力が付くことも特徴です。
当たり前ですが、これらの対策は、子供を留学させたり、海外移住したりするよりも、ずっと安価に済ませることができます。お金や余裕がないなら理系を勧めているのは、ここに理由があります。文系入試とは違って、突破口が多い分、受験の対策もある程度カスタマイズ性があります。
学校教育の現場では、今の英語有利の風潮が学生たちまで届いていません。その結果、文理選択は数学が得意か不得意か、ただそれだけで決めてしまっています。ですが、本当の論点は英語が得意か否かにあります。リスニングやライティングを含む英語が人よりも得意ならば、東大受験だって簡単に乗り越えられます。一方で、これら能力に難があると、文系受験は暗雲が立ち込めてきます。
より富裕層が有利になっていく受験の最前線。理系入試には、貧乏な境遇から抜け出るための「一発逆転」の可能性が残ります。将来の進路が決まっていないのであれば、一発逆転をかけて、東京大学や京都大学の理系を目指すのも、一つの道ではないでしょうか。
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現役東大生ライター
世帯年収300万円台の家庭に生まれ、金銭的余裕がない中で東京大学文科三類に合格した経験を書いた『東大式節約勉強法 世帯年収300万円台で東大に合格できた理由』の著者。他にも『人生を切りひらく 最高の自宅勉強法』(主婦と生活社)、『東大大全』(幻冬舎)、『東大×マンガ』(内外出版社)、『東大式時間術』(扶桑社)などがある。
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(現役東大生ライター 布施川 天馬)
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