なぜゴルフが上手い人はスイングが軽いのか…運動性能を劇的に変える「筋肉のつながり」という重要概念
プレジデントオンライン / 2023年11月23日 10時15分
※本稿は、きまたりょう『世界一わかりやすい 筋肉のつながり図鑑』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■かたい部位だけをほぐしても、身体は改善しない
私がストレッチトレーナーとして働き始めた頃、お客様の中に、身体が一向に変化しない人が一定数いました。伸ばす部位を変えてみたり、関節にアプローチしたりと試行錯誤しましたが、正直お手上げ状態でした。
この悩みを解消するために様々に勉強した結果、「全身のバランスを総合的に見なくてはならない」という結論に至りました。
身体の専門家、特に整体師などが「身体はつながっているからねぇ」と言いながら、コリを感じる部分ではなく、別の部位を施術されたこと、もしくは見たことはないでしょうか。
身体に詳しくない人からすれば、「よくわからないけどいろいろつながっているんだな」ぐらいの認識ではないかと思います。
そのように施術をするのは「全身の筋肉のつながり」へバランスよくアプローチをしていくことが重要だからです。
怪我しやすい人は筋肉のつながりのバランスが悪くなっている状態がほとんどで、怪我しにくい人は全身が総合的にバランスが整っていることが多いのです。
本稿では専門家ではない一般の方でも「筋肉のつながり」を理解できるように、身体がどのようにつながっているのかの一例、そしてその「つながり」を知ることでどのようなメリットがあるのかなどをなるべく専門的な言葉を使わずにお話ししていきたいと思います。
■筋膜は「納豆のネバネバ」のようなもの
まず、全身の「筋肉のつながり」を知ることで得られるメリットを主に3つ挙げましょう。
②怪我予防になる
③セルフケア・メンテナンスの効果が上がる
これらのメリットをご説明する前にそもそも全身の「筋肉のつながり」の説明からしなければ理解しにくいかもしれません。
ここでいう「筋肉のつながり」とは「筋膜」が筋肉同士をつなげているということです。
まず筋膜というと多くの人が「筋肉を覆っている膜でしょ」と想像するかと思いますが、厳密には筋肉だけでなく、骨、靭帯(じんたい)、内臓、神経、血管など様々なものを包んだり、へだてたりしています。
筋肉を包んでいる膜のことは日本語では「筋筋膜」と呼び、骨を包むものを「骨膜」と呼び、それぞれ名称があります。
それらをまとめて「筋膜」(専門的には英語でファシア)と呼びます。
筋膜は想像以上に3次元的な組織です。
誤解を恐れずに表現すれば、納豆をかき混ぜたときのネバネバ部分が筋膜で、豆の部分が筋肉や骨です。すべての豆がネバネバを介してつながっています。
■筋膜の状態が悪いと体も動かしづらくなる
その筋膜は筋肉と筋肉を束ねながら、一つ一つを隔てています。
これはオレンジの断面をイメージするとわかりやすいです。オレンジの断面には白い薄皮が外側で全ての身を包み、さらに一つ一つの実を分けています。一つの筋肉が硬くなると周辺の筋肉に影響があるのはこの筋膜によるものが大きいです。
筋膜にはもう一つ大切な役割があります。それは身体のセンサーとしての機能です。筋膜は身体がどの位置にあるのか、そして身体がどのような圧、振動、伸長などを受けているのかを常に感じ取りその情報を脳に送っています。この筋膜の状態が悪くなるとそのセンサーの働きが悪くなり、身体を思ったように動かしづらくなります。
身体は筋膜によってつながっていることは間違いありませんが、どのようにつながっているのかは専門家によって若干意見が異なります。
それは「筋膜」という組織の重要性が最近まで知られておらず、解剖の時にゴミとして捨てられていたからです。さらに亡くなった方の身体の中の筋膜は状態が変化してしまい研究自体がとても難しいことも一因としてあると思われます。
今回はその数ある筋膜の一つのモデルを取り上げて説明していきます。
■ゴルフで「手打ち」になる人は体幹が足りない
それでは3つのメリットをご紹介していきしょう。
①「筋肉のつながり」を知ると運動のパフォーマンスが上がる
よくゴルフなどの指導で「手打ちにならないように、腰から動かして」などというアドバイスを聞きます。これは「筋肉のつながりを意識して」と言い換えることができます。
身体の中には「腕のつながり」や「らせんのつながり」というものがあります。「腕のつながり」は胸や背中から指先にかけての筋肉を連結させているつながりです。
「らせんのつながり」とは体幹に巻き付くように筋肉同士を連結させているつながりです。手打ちを回避するには主にこの2つの「筋肉のつながり」が協調して動くことが重要になります。
![【イラスト】腕のつながり](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/2/1200wm/img_328cc07a14e1241719d9d1581def80cb484290.jpg)
![【イラスト】らせんのつながり](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/5/1200wm/img_55cb78a67f908923062d408eaefa3766491127.jpg)
体幹の筋肉は腕よりも大きな力を出すことができます。ですが腕の力だけに頼ってしまうと、思いっきりスイングしたとしても意外と飛距離は伸びません。上手な人を見ているとやはり体幹の力を効率よく腕に伝えるように軽やかにスイングしています。
これは身体に巻き付くように存在している「らせんのつながり」の力を巧みに「腕のつながり」に伝達できているからです。
■「筋肉のつながり」を意識すると怪我も減らせる
上記の2つの「つながり」はあくまでもイメージがしやすいように説明しましたが、他にも様々な「筋肉のつながり」を使って動いています。
先ほどの「らせんのつながり」などに加えて腕と対角にある脚を連結させる「運動のつながり」などもゴルフのスイング動作に大きく貢献しています。その他、テニス、水泳など競技においても「筋肉のつながり」を理解することでより効率的な動作を可能にします。
![【イラスト】後ろの運動のつながりが伸びる動き](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/2/1200wm/img_f279e31aa806ba355d7db505a7bbe7ae395279.jpg)
![【イラスト】後ろの運動のつながりが縮む動き](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/3/1200wm/img_7351c4113826ca51b749d3512559b4a0383180.jpg)
②「筋肉のつながり」を知ることで怪我予防になる
程度の差こそあれ、どんなスポーツにも怪我はつきものです。例えばテニス肘と呼ばれる肘の痛みは主にバックハンドの動作などの繰り返しによる負荷が蓄積されて起こります。
軽度であれば、この時に患部を休ませれば良いと考えるかもしれませんが、より根本的にこの怪我を予防するにはやはり「筋肉のつながり」を理解することがおすすめです。
ゴルフの手打ちの件と同様に、テニスの動作もいかに体幹と腕が強調して動くかが重要です。特に肘や手首などは痛めやすい部位です。体幹と腕を一体化させて動かすことで、打つときの衝撃を脆弱(ぜいじゃく)な部位だけでなく体幹にまで分散させることができます。
さらに一体化することでより力強い安定した動作になります。
もちろん限度を超えた繰り返しの動作は部位を痛める要因になりますが、「筋肉のつながり」を意識することでより怪我をする可能性を減らせます。
![テニスをプレー中の女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/0/1200wm/img_c070f948d3f8a7d2270e7eb5d9ac9a57312950.jpg)
■親指寄りの力は胸に、小指寄りの力は背中に届く
体幹から指先にかけての2つの「筋肉のつながり」があります。
①親指から身体の前側で胸の奥の筋肉へとつながるライン。②小指から肩甲骨を介して背骨につながるラインです。壁を押すなどの動作で親指寄りに押すことで胸に負荷がかかりやすく、小指側寄りに押すことで背中に負荷がかかります。
このように「筋肉のつながり」を理解していれば、負荷がかかりすぎな動作やフォームなども予測、察知しやすくなります。筋膜には先に説明した通りセンサーも備わっており、怪我をしない人は自然とそのような感覚が身についているとも言えます。
③「筋肉のつながり」を知るとセルフケアの効果が上がる
セルフケアで前屈のストレッチなどをする際にこの「後ろのつながり」が伸びてくれることで前屈のストレッチがやりやすくなります。「後ろのつながり」は身体の背面にあります。頭から背骨に沿って下降していき足の裏まで続いているつながりです。前屈はハムストリングなどのもも裏を伸ばすことが一般的ですが、このつながり上にある足裏、背骨に沿った筋肉などを緩めることでより深く前屈のストレッチができるようになります。
![【イラスト】後ろのつながり](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/8/1200wm/img_78dbb658c1ef23e32ea6074a2723877b493320.jpg)
■肩が凝る人は、下半身や腕のケアも必要
エクササイズをする時に個別の筋肉を狙いたいのに、他の部位に効いてしまうことや、全身を連動させたいのに一部の筋肉だけが疲労してしまうことがあります。「筋肉のつながり」は動作のつながりとしても説明しやすいモデルです。同じつながり上にある筋肉は基本的には連動しています。つまりそこを理解することで個別の筋を狙ったり全体的に連動させることが可能になります。
![きまたりょう『世界一わかりやすい 筋肉のつながり図鑑』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/3/1200wm/img_2354d8be201552a475a6e9ec0d5bdfbc175985.jpg)
ネット上にはたくさんのストレッチ動画やエクササイズ動画などがあります。どれも素晴らしいものですが最終的にはそれを行う本人に合っていなければ意味がありません。
肩が凝る理由を単純に肩周りだけと考えるのか、それとも「筋肉のつながり」を理解して下半身や腕などのケアをするかでは結果は大きく変わります。
「筋肉のつながり」は今まで一部の専門家だけが知っているものでした。ですが専門家だけでなく、普段身体を動かしている一般の方でもなるべく理解できるようなイラスト豊富な本を作りましたので、詳しく知りたい方は是非拙著『世界一わかりやすい筋肉のつながり図鑑』(KADOKAWA)をお読みいただければ幸いです。
筋肉のつながりを知り、「全身を総合的にみる」という意識をつかむことが、スポーツのパフォーマンスや怪我予防などに非常に重要です。
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米国Dr.Ida Rolf Institute認定ロルファー。アメリカ・コロラド州にあるDr.Ida Rolf Instituteで731時間の解剖学、生理学、機能解剖学、実習のトレーニングを受講。加えて大手ストレッチ専門店での4年間の経験、その他約400時間以上のセミナー・ワークショップなどで技術と知識を深める。Instagram(@ryo_kimata)にて「筋肉のつながり」イラストを定期的に投稿しており、そのわかりやすさからセラピストやトレーナーを中心に支持を集めている。初著書の『世界一わかりやすい 筋肉のつながり図鑑』は発売1カ月で3万部突破。
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(ストレッチトレーナー きまた りょう)
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