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「23区内・新築」の意外な落とし穴…将来不安から不動産投資に手を出した年収800万円エリート男性の後悔

プレジデントオンライン / 2023年11月29日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

不動産投資は難しい。気軽に始めた人が大きな損をすることもある。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「不動産投資は片手間で稼げるようなものではなく、本腰を入れた勉強が必要だ。勢いで手を出すのはやめたほうがいい」という――。

※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

辻野さん(仮名/34歳)のケース
年収 800万円
貯金 1000万円

■先行き不透明な会社内で流行っていた「不動産投資」

給料の天井が見えてしまった時。仕事人生に疲れてしまった時。ふと、手を出してしまう人が多いのが「不動産投資」です。エリート・知識人も陥落してしまう不動産会社の営業トークには、ある秘密がありました。

年収800万円を稼ぐ大手メーカー勤務の辻野栄太郎さん(仮名/34歳)。勤務先は誰もが知る老舗メーカーですが、先輩たちの給料を聞くにつけ、先行きは明るいものではないと感じていました。そのわりに仕事は激務で、お金をつかう暇もなく、貯金は1000万円になっていました。仕事にもいまいち情熱が持てず、老舗メーカーゆえか、最近はトレンドを読み間違えがちで業績は伸び悩み、給料も頭打ち。果たして定年まで会社は無事なのだろうか――。そんなぼんやりした不安を抱えていたのは周りの同僚も同じで、社員たちの間で流行っていたのが、「不動産投資」でした。

不動産投資を始めるには、事実上年収のラインがあります。最低でも500万円程度以上の年収がなければ、不動産投資のための融資を受けられないのです。ですから、不動産会社の営業部員は、大企業や公務員などに的を絞って営業をかけることが多いです。辻野さんの周りで不動産投資を始める人が多かったのも、やはり不動産会社からの営業を受けたことがきっかけとなった人が大半でした。

■頭金は最低限、好条件でローンを組めた

不安を解消するための“副業”を考えていた辻野さんは、同僚から不動産会社を紹介してもらい、大手企業勤務という特権で、1%台という低金利でローンを組めることを知り、35年ローンで23区内に新築マンションを3000万円台前半程度の金額で購入します。

居住用の住宅ローンの金利は現在、変動金利で0.5%ほどになりますが、不動産投資の場合、住宅ローンよりも金利は割高になります。また、金利条件は年収や勤務先、金融機関などによって大きく異なり、場合によっては3%、4%台になる場合もあります。そんな中、辻野さんの1%台という金利は不動産投資ではかなりの好条件。しかも、低金利で不動産投資を始められる“特権階級”の場合、頭金のハードルも低く設定されていることが多く、辻野さんの場合も頭金は10万円のみ。残りの3000万円程度を35年という長期ローンで組むことができました。このような破格の待遇は、老舗大手企業の信用力の賜物といえるでしょう。

辻野さんは将来に備え、早速購入したマンションを貸し出し、賃貸収入で安定した暮らしを手に入れようとします。

■「新築」「23区内」は高ポイントに見えるけれど…

……と、ここまで読んでくださった方は、「何が問題なの?」「エリートサラリーマンはいいよね」と思われるかもしれません。しかし、今回の学びは、ここからが本番なのです。

まず、辻野さんの選択した物件に大きな落とし穴がありました。「新築」「23区内」という点です。どれも不動産投資としては高ポイントに見えそうですが、実は問題大ありです。

「新築」についてはこの連載で何度もお伝えしてきたとおり、「新築プレミアム」として、新築物件を販売するための宣伝費や人件費などが上乗せされており、実際の市場価格から2割ほど売値にプラスされています。ですから、辻野さんの購入した本来の物件価値は、2300万~2600万円ほどになります。

続く落とし穴②は、「23区内」という立地について。たしかに、都心5区と言われる千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区であれば資産価値は高いのですが、辻野さんの購入した物件はギリギリ23区内といえる立地。しかも、駅からの距離は13分。不動産投資においては、「駅徒歩10分圏内」か否かで、その価値が天と地ほど変わります。大げさでなく、「徒歩10分」か「徒歩11分」かというこの1分の差で、坪単価が高い首都圏の物件価格には明らかに影響があるのです。

東京タワーが見える風景
写真=iStock.com/voyata
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/voyata

■不動産会社の“鉄板営業トーク”

辻野さんのローン返済額は月10万を超えていましたが、家賃9万5000円で貸し出していました。この時点ですでに毎月5000円の赤字になっていますが、マンションの立地と市場相場を考えた場合、新築であっても10万円では借り手がつかず、結局、9万5000円の家賃で貸し出すしかなかったのです。また、借り手がつきにくいことからもわかるように、こうした新築で購入した立地の微妙なマンションは売却も難しくなります。

いくら破格の高待遇で不動産の購入ができたとはいえ、なぜ辻野さんは毎月赤字になるような不動産投資をしたのでしょう。この時、お客を落とす不動産会社の“鉄板営業トーク”がありました。

1つ目は、「節税効果」。不動産投資をできる方は高収入でエリートの方が多いので、税金が高い場合が多い。不動産所得は給与所得等との総合課税なので、不動産所得でマイナスが出れば、その分、税金が安くなる可能性があるのです。辻野さんの場合、不動産所得がマイナスなので、給与所得から不動産所得を差し引くことができるため、そのぶん課税される金額が小さくなります。

■「月5000円で資産と保険を手に入れられるんです!」

「思ったような家賃収入が入らなくてもその分節税になります!」という営業トークは、所得税を多く払っているエリート層には響くようで、「なるほど!」となってしまう。しかも、不動産投資1年目は物件購入の手数料やローンの諸経費などで経費計上が多いため、マイナスが大きく出ることが大半。節税効果も実感しやすいため、ますます営業の術中にはまってしまうんです。

とはいえ、多くの方が2年目からは給与所得から差し引けるマイナスの不動産所得の金額は小さいので、節税効果は薄くなっていきます。そこで、ダメ押しの営業トークが、「毎月5000円でこの家があなたの資産になる」。さらに畳み掛けるように、「もし何かあったときには、この家をまるまるタダで、奥さんのものとして遺してあげられます。月5000円で資産と保険を手に入れられるんです!」。ここで出てくる保険とは、団体信用生命保険のことで、不動産投資でも団信に加入できるので、家族のいる方は、ますます「いいね!」となってしまう。結婚を考えていた辻野さんの心にも響き、契約となったのでした。

積み上げられた「TAX」と書かれた木製ブロックの横で、「TAX」と書かれたカードがハサミで裁断されている
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■新築マンションを買っても儲けはほとんど出ない

本来、将来を安定させるための“財源”として始めたはずの不動産投資にもかかわらず、資産価値として疑問符がつくような物件を購入する方がいるのは、このような不動産会社の巧みな営業トークがその裏にあったのです。私も間近で見たことがありますが、高学歴高収入のエリートを相手に、熱く、ハートフルなトークで彼らを納得させてしまう営業のスキルは、目を見張るものがあります。

ただ、不動産投資は長きにわたる投資です。不動産会社の方は最初5年、10年のシミュレーションは見せてくれますが、時間が経つにつれて新築の価値は落ちていきます。そうなると、家賃をさらに下げなければいけないかもしれないし、クリーニングやメンテンスといった費用も増えていく。辻野さんは新築プレミアムの問題もあって、売却益を出すことも難しいので、そういったことをすべて考慮すると、新築マンションを買っても儲けはほとんど出ないと考えていいと思います。

■自分の家を買うときのローン金額が限られてしまう

あと、不動産会社の営業トークに出てこないのが、不動産経営者としての視点です。赤字になれば節税効果はあるかもしれませんが、経営者としてはマイナス評価ですから、今後、2軒、3軒と事業を拡大したいと思ったときに、銀行から融資が受けにくくなる可能性があります。それに、不動産投資ですでにローンを組んでしまっているので、いざ自分の家を買おうと思ったとき、借りられるローンの金額は限られてしまいます。もしかすると、思うような家が買えなくなってしまうかもしれません。逆のパターンも同じで、居住用の住宅ローンをすでに組んでいる場合、居住用のほうで枠いっぱい借りていたら不動産投資はできません。

■不動産投資は本腰を入れた勉強が必要なもの

完璧な物件は存在しませんし、そもそもいい物件は、すでに不動産投資をガツガツやっている“上客”にしか情報が流れない世界です。ただ、そういった意味では、お得意さんになって関係性を作れれば、成功の道が作れるとも言えます。私のお客さまを見ていると、5、6軒の不動産投資をしている方は“お得意様”のフェーズに入っています。9軒保有している方は、お持ちの物件すべてが都心の一等地にある優良物件なので、70歳の段階で家賃が40万~50万入ってくる未来が描けています。

電卓の上に載っている3つのミニチュアハウス
写真=iStock.com/Egor Novikov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Egor Novikov

とはいえ、最初からそこまで大きな投資ができる方も多くないでしょう。物件が都心5区ではなかったとしても、これから不動産投資を始める方は最低限、地域の家賃相場は調べましょう。あと、そのエリアが今後開発される可能性があるかどうか、将来性はどうなのかということも重要です。

辻野さんの例でいえば、忙しくてお金に困ってもないし、とりあえずローンは好条件で組めるからやっちゃえ、という勢いで始めてしまったことがまずかったと思います。不動産投資は片手間で稼げるようなものではなく、本腰入れて勉強が必要なもの。その覚悟を持って、あと、営業トークだけではなく、自ら勉強・調査しながらすすめてほしいと思います。

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高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。

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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)

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