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「正直タワマンに住んでいる優越感はある」…話題のタワマン文学はどこまでが本当なのか

プレジデントオンライン / 2023年11月24日 10時15分

勝どきから見た中央区佃エリアに林立するタワマン。タワマンは規制緩和や耐震技術の進歩によって、2000年代初頭から多く建設されている。

高級タワーマンションに住む人々の生活の悲哀を描き、SNSで話題を呼んだ「タワマン文学」。誰しもが羨むような学歴や職業、生活を手にしていながらも、自分の人生にどこか虚無を抱えている人々を描いている。そんな世界は本当にあるのか? 都心のタワマン居住者に、真相のほどを聞いた。11月24日(金)発売の「プレジデント」(2023年12月15日号)の特集「『新NISA』儲かる人、大損する人」より、記事の一部をお届けします――。

■タワマン文学を本気で信じるのは残念

「タワマンで子育てをするようになって気づいたことがある。住んでいる階数、部屋の値段、夫の職業、年収、子供の成績――。この建物では、付き合いがある人たちの間でありとあらゆる情報が筒抜けとなり、比較の対象となるのだ。誰も表立って口には出さないが、誰が上で、誰が下かという序列は明確にある」

これは、タワマン文学『息が詰まるようなこの場所で』(KADOKAWA)にある一節だ。「タワマン」とは、一般的には20階以上、高さが60メートルを超える超高層マンションを指す。そこでは、一つの建物の中に“階級”があり、それを物差しに見上げられたり、見下ろされたりする……、おそらく多くの人にとっては非現実的な話だろう。だが、この作者は、実際にタワマンに住んでいる医者の知人に取材して得た情報をつなぎ合わせて書いた側面もあると言う。

「“マンションクラスタ”のネタとして見る分には楽しいが、本気でそれを信じているのは残念なことだと思う。タワマンはただの住居であって、それ以上でもそれ以下でもない」

盛り上がりを見せるタワマン文学にドライな反応を見せるのが、フリーで働くエンジニアの男性(43歳・都内中堅私大卒・年収2800万円)だ。渋谷駅近くにそびえ立つ、築7〜8年のタワマンに恋人と3年ほど住んでいる。

「私が住んでいるマンションでは、マウンティングのような行いは確認できていない。もちろん、他の住人やファミリー層とは挨拶もするし、何階に住んでいて何の仕事をしているとかまで知っている。ただ、プライバシーを重視した建物なうえ、タワマン文学に描かれているようなパーティールームで交流会をするほどお互い干渉しない」

作品の舞台と同じ、湾岸エリアのタワマンに住んでいるコンサルティング会社を経営する男性(35歳・東大卒・年収3000万円)にいたっては、他の住人と「ほぼ交流がない」という。

「高層階行きのエレベーターと低層階行きのエレベーターに分かれているので、逆側の人の情報なんて全く知りません。もし同じエレベーターに乗り合わせても、挨拶はしますが、部屋番号も名前さえも知りません」

■パーティールームで、実際に夜な夜な行われていること

先ほどの渋谷タワマン居住者の回答で出た「パーティールーム」という言葉。タワマンには備わっていることが多く、食事ができるようにダイニングテーブルやカトラリー(ナイフ、フォークなど)が装備されているタイプや、カーペットを敷いて子どもたちが遊べるようになっているタイプ、キッチンが併設されているタイプなど、マンションによってさまざまな造りがある。

基本的に住人であれば誰でも利用することができ、タワマン文学では、このパーティールームで何かと催し物をしたがる住人がいて「富のアピール」の象徴にもなっている。

「以前、月島にあるタワマンのパーティールームで聞かれた異業種交流会に参加したことがあります」

こう打ち明けたのは、都内にある“普通の”マンションに住む会社員の男性(31歳・地方国立大卒・年収480万円)。参加費は5000円で、経営者志望の垢抜けない男女が中心だったという。

「そのタワマンに住む経営者が主催していて、パーティーに来ていたのは、20代半ばくらいの男女20人ほど。地方出身者が多く、みんな安そうな靴を履いていました。主催者と話して言われたのが、『初月で数十万円稼いだ』とか、『開始数カ月で数百万円稼げるようになれるよ』とか……もうおわかりでしょうが、ネットワークビジネスのカモを集めるために、定期的にタワマンのパーティールームが使われているみたいです。主催者の名前をネット掲示板で調べると、『早く逮捕されろ』などと書かれていました(笑)」

【図表】「タワマン文学」の舞台となった湾岸エリアの主なタワマン密集地域
豊洲、東雲、月島、晴海、勝どき、有明、台場、港南、芝浦など、タワマンが密集する人気エリアが東京の湾岸地域にはいくつもある。

先ほどのコンサル会社を経営する男性は、「タワマン文学以上にくだらないことが毎夜のように行われている」と苦笑いを浮かべる。

「20〜30代の素性もわからない固定メンバーが“男女の交流の場”として使用しているケースが多いですね。だいたい20人くらいの規模で、新規の女性を招いてはワイワイしているイメージです。景色を見ながらキザなセリフでも言っているんじゃないですかね?」

外から見ても謎に包まれており、住人でも理解に苦しむのがパーティールームという存在のようだ。できるだけ近寄らないようにしているらしい。

話を変え、なぜ今のエリアのタワマンを選んだのか。まずは渋谷に住むエンジニアの男性の回答から。

「竣工後、一定期間が経過し、住人の質が落ち着いて入退去が少ない物件を選んだ。そもそも湾岸エリアには興味はないし、住もうとも思わない。自分なりに理由があって、街としての歴史が浅いし、無機質でどこにでもあるショッピングモールも面白みがない。決定打となっているのが、地盤の弱さ。『安全に建てている』ことを謳(うた)い文句にするけど、自然災害は人間の想像力を簡単に超えてくる。大地震が来た後に、どっちが正しいのか、答え合わせができるんじゃないかと思う」

かなりシビアな意見を言われてしまった。湾岸エリアに住む前述のコンサル会社経営者の回答はいかに。

「ネタにはされてしまっていますが、私は、エリアもマンションの種類もどうでもよかったんです。共用施設(ゲストルーム、スカイラウンジ、シアタールーム)が充実しているかどうかを第一に住居を探していました。原材料費の高騰した昨今よりも、2000年ごろに造られたマンションのほうが、設備が価格に対して豪華な傾向があり、結果今の場所に落ち着いた形ですね。住宅のグレード自体も基本的に高いから隣室の物音も聞こえないし、断熱性に優れているので、ある程度収入がある人だったら選択肢としてはアリだと思うんですよね」

豊洲にあるタワマンのエントランス
豊洲にあるタワマンのエントランス。広いロビーの受付にはコンシェルジュが常駐している。

湾岸エリアのタワマン住人も、基本的に「単純にいい住宅だから」という目線で選んでいるようだ。「ただ……」と経営者の男性は付け加える。

■優越感を覚えることは正直あります

「家に友人を招いて飲み会をすると、『誰かの家を借りてるの?』と聞いてくることがあって、優越感を覚えることはありますね。自分が成功した証しとして、タワマンに住んでいることが自信になるのは確かです。もちろん、タワマン文学に登場してくるような承認欲求の強い人物にはならないようには戒めていますよ(笑)」

“いまだ根強いタワマンブランド”の影響を受けていることも、住民の偽らざる本音だろう。

もともと、タワマン文学はSNSのネタ投稿から生まれたものだ。ギャグ・小噺の類のものから、徐々に真剣に悲哀を表現しはじめ、現在の状況がある。その歴史を理解して、「フィクション」として読むのが、タワマン文学の一番の醍醐味なのではなかろうか。

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東田 俊介(ひがしだ・しゅんすけ)
ライター、編集
大学を卒業後、土方、地図会社、大手ベンチャー、外資など振り幅広く経験。超得意分野はエンタメ。

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(ライター、編集 東田 俊介 文=東田俊介、撮影=藤中一平)

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