優先順位を間違えると、人生そのものをしくじる…ハーバードMBA出身者が「仕事選び」で最優先すること
プレジデントオンライン / 2023年11月23日 9時15分
※本稿は、野々村健一『問いかけが仕事を創る』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「仕事ってそもそも楽しいものなんですか?」
新しいものをつくることは、楽しいことです。私はそう感じていますし、だからこそ、新しい事業なり、商品なり、サービスや体験を作り出したいという企業の方と一緒に新しいものをつくることを仕事にしています。
IDEO Tokyo(アメリカのパロ・アルトに本拠を置くデザインコンサルタント会社の日本オフィス)が立ち上がってからまだ間もない頃、衝撃的な体験をしました。日本の経済成長を牽引してきたあるメーカーに勤める方、50人ほどに調査の一環として話を聞いたときのことです。「仕事でのやりがい、楽しさをどのようなときに感じるか」を尋ねたのですが、最も多かった答えは「仕事ってそもそも楽しいものなんですか?」というものでした。「仕事は仕事なので、楽しいかどうかは別ですね」という言葉も、所属部門を問わず多くの方から聞かれた言葉です。
その会社の文化、風土に関係しているのかもしれませんが、日本を代表する、労働環境にも恵まれた大企業に勤める人たちによるそういった言葉は、正直ショックでした。起きている時間のうちの大半を占める仕事が楽しくなく、それをそういうものとして諦め、疑いを持っていないことは驚きでした。そして、その後多くの企業で同様の状況があることを知りました。
■なぜ「仕事は苦行」と感じてしまうのか
しかし、仕事は楽しいものですし、もしそうでないなら、努力と工夫次第で楽しくすることができる、と私は思っています。
新しいことも、人に指図されて取り組むとなると苦行かもしれませんが、能動的に問いを立て、これだと決めて取り組む仕事であれば、楽しさで溢れるものです。やりがいを感じなかったり、楽しくなかったりするのは多くの場合、それが自分自身で立てた問いではなかったり、それに対して自身の創造性を自由に発揮できていないことが原因であることが多いのではないでしょうか。
今でも「仕事は苦行で然るべき」といったような意見が散見されますが、私はこれには反対ですし、もし本当に苦行と感じるのであれば、そこには疑問を呈すべきです。昨今、自身の仕事をより自分のやりたい仕事へと変貌させていく「ジョブクラフター」という人たちも注目されるようになってきました。私も数人こういった人たちを知っていますが、一方でなかなかそうもいかないという人たちがいることも事実です。
■まず「他の人を手伝うこと」から始めてみる
大変な状況の中で働く人に「問いかけをつくって、自身の状況にも疑問を持つべきだ」などと伝えてもなかなか共感は得られないと思いますし、「そうは言うけど……」といった気持ちになるのではないかと思います。
人によっては、問いを立ててもそこから行動するのはとても勇気が必要なことですし、恐怖すら感じる人もいるかもしれません。しかし、少しでも何か変えたいことがある、あるいはあるかもしれないと感じた場合、動き出さなければ景色は変わりません。
そんなときはまず、「他の人を手伝うこと」から始めてみることを勧めます。
自分ですべてを背負うのではなく、何か新しいことに挑戦しようとしている人、創ろうとしている人、もしくはそういったグループでも良いと思いますが、そういった人をサポートしてみることから始めるだけでも様々なことが変わっていきます。
当たり前ですが、ネガティブな人の周りにいれば自分もネガティブになります。その逆もそうで、自分の周りにポジティブな人が多ければ自分もポジティブになっていきます。「たぶん無理」「きっとできない」「そんなに甘くない」などと、自ら可能性を手放してきたように感じているとしたら、そのように思わせる強い存在がどこかのタイミング、あるいは今も周囲にいることが大きく影響しています。
![パソコンを見ながら話すビジネスチーム](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/0/1200wm/img_c015c5b84c5ae52279336ef1cf6d1d16300183.jpg)
■成功者が身近にいれば「自分も成功したい」と思う
子ども時代に持っていたほどの万能感を持つことは難しいかもしれませんが、大人になった今は、「本当に無理なのか」「できないのか」「自分が甘いのか」は、自分で決められます。また、「できる」と言ってくれるポジティブな人とだけ付き合い、ネガティブな人はできるだけ遠ざけることも自分の判断でできます。そして、ポジティブな人との関わりを増やす最も簡単な方法は、ポジティブな人を応援すること、自らの手を動かして手伝うことです。
IDEOの人事考課の項目には、「他者の成功を支える」という言葉があります。他人を成功させることが評価の一部になっているので、点数を稼ぐために誰かを支えようと考えている人もいると思うかもしれません。しかし、そんなことはありません。「他者の成功を支える」を考課項目として挙げているのには、別の大きな意味があります。
それは、「誰かを成功させようとする人の集まった組織では、速く広くクリエイティビティが伝染する」ということです。成功する人が身近にいれば、自分も成功したいと思う。何かを成し遂げた人が近くにいれば、自分も成し遂げてみたいと思う。だから、新しい何かに挑戦する誰かを応援し、手助けすることは、自分のためにもなるのです。
そして、そういった人の多くは“I’m helping a friend right now to……”(今、友人が◯◯するのを手伝っていて……)ということを仕事以外の場面でも口にします。
■ハーバードMBA出身者の「キャリア選択の軸」
アメリカのビジネススクールで非常に驚いたことの一つに、学生の卒業後の仕事の選び方がありました。
多くの同級生は、「やりたい仕事」という文脈はしっかりと持ちつつも、「会社」ではなく「自分の住みたい街」や「ライフスタイル」、さらには「自身の望む生き方を実現できる場所」という軸でキャリアを選択していました。これはまだまだ日本には浸透していない考え方なのではないかと思います。
一方、このような流れはアジア各国に押し寄せています。アジアで働くビジネススクールの卒業生たちと会ったり、人材採用にも関わっていくなかで、日本周辺の人材市場の状況を見る機会がありますが、ここ数年アジアでの人材流動性は高まり続けています。これは現地の人材に限りません。欧米を含め様々な地域から非常に多くの人材がアジアに流れ込んでいます。また、流れ込んでくる人材の特徴としては、従来的なビジネスパーソンに限らず、デザイナーやエンジニア、イノベーションの領域に関わる人材など、多岐にわたっていることです。
上海、香港、天津、バンコク、シンガポール、ジャカルタ、さらにはヨーロッパやアメリカ等、こういった市場をまたいでの人材の流れがあるのです。この流れからは、日本は長らく蚊帳の外でしたが、ここ数年、そういった人材が日本にも流れ込み始めています。その理由は、彼らが「共感できる面白いチャレンジと、そのための場」が少しずつ日本でも出てきているということです。
■「魅力的な人材が集まる企業」はどこが違うのか
私の関わっていたベンチャーキャピタルにも、非常に多くの外国人起業家が相談に来ていましたし、その流れは今も続いています。彼らの多くは「当たり前」とされている様々な事象に問いかけを投げかけています。
企業や社会が面白い問いかけをしていくことで、ますます魅力的で多様な人材が集まってくるでしょう。
![野々村健一『問いかけが仕事を創る』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/0/1200wm/img_8074d4865578e3e3825b9a353d8dbb97267609.jpg)
「グローバル人材」という言葉はだいぶ使い古されてきましたが、これを従来の「企業で重宝されていた人材」と対比させて考えるならば、その意味は「自分から働く場所を選べる人」ということになるのではないかと思っています。
仕事や会社から選ばれるのではなく、自分から仕事や働く場を選んでいくというイメージです。会社にこだわらず、好きな仕事、楽しい仕事をしていく。いくつかの言語が使えたり異文化圏で働いたりというのは、その一側面にすぎません。また、日本語だけを使っていても、働く場所を能動的に見つけてグローバル人材として働くことはできます。
一方、日本で暮らす私たちは日本がそういった人材にとっても魅力的な国に映るよう挑戦を続けることも重要だと考えます。そうすることで、私たち自身もさらに面白い問いかけに多様な仲間たちと挑戦していくことができるからです。
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デザインコンサルタント
慶應義塾大学卒業後、トヨタ自動車入社。米ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得後、IDEOの日本オフィスの立ち上げに参画し、同支社代表兼マネジング・ディレクターを務める。国内外のさまざまな企業や団体とのプロジェクトを手がける一方、IDEO在籍中にベンチャーキャピタルファンドD4Vの設立にもファウンディングメンバー兼パートナーとして関わる。現在は大手グローバルコンサルティング企業の執行役員兼パートナーとして新たな未来戦略×デザイン×イノベーション組織の立ち上げに挑戦中。名古屋商科大学大学院国際アドバイザリーボードメンバー。日本オープンイノベーション大賞内閣総理大臣賞選考委員(第5回)、Design Leader Impact Award 2023審査員等を歴任。
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(デザインコンサルタント 野々村 健一)
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