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池田大作氏死去で宗教界に禁断メスが入る可能性…連立解消論浮上の自公"崩壊ドミノ"で彼らが最も恐れること

プレジデントオンライン / 2023年11月22日 11時15分

中国の胡錦濤国家主席と会談する創価学会の池田大作名誉会長(=2008年5月8日、東京・千代田区のホテルニューオータニ)[代表撮影] - 写真=時事通信フォト

■カリスマ逝去がもたらす宗教界・政界の大変化

創価学会の名誉会長池田大作氏が11月15日に亡くなったと18日に報じられた。今年3月には幸福の科学総裁、大川隆法氏の訃報が届いていた。戦後の新宗教を牽引したカリスマの逝去に、宗教界や政界に激震が走った。人口減少や宗教2世問題などによって、新宗教が弱体化しつつあるなか、今後の日本の宗教を取り巻く環境がどうなっていくのかを考えてみる。

池田氏の逝去が伝えられた18日。くしくも私は東京都八王子市にいた。この日は創価学会の創立記念日にあたっていた。八王子は、池田氏主導による創価学会拡大の一大拠点となった地である。学会の総本部があるのは都心の信濃町だが、ここ八王子にも重要施設がひしめき、多くの学会関係者が居住している。学会員のための仏壇店なども点在する。

創価学会が八王子に進出する嚆矢(こうし)となったのは創価大学の開学である。「人類の平和を守るフォートレス(要塞)たれ」。この建学の精神を掲げ、1971(昭和46)年、創価大学が中央自動車道八王子インターチェンジに近い場所に開かれた。池田氏にとって、子弟のための教育機関の整備は悲願であった。当時は第2次ベビーブームの最中。将来の会員育成こそが創価学会の未来を左右することを見込んでのことである。

創価大学
撮影=鵜飼 秀徳
創価大学 - 撮影=鵜飼 秀徳

新宗教系の大学は、天理教の天理大学、金光教の関西福祉大学など限られている。ちなみに幸福の科学はハッピー・サイエンス・ユニバーシティを2015(平成27)年に開学させているが、こちらは文部科学省の無認可校である。

創価大学と、他の伝統宗教系大学とが異なる点は、仏教学部や神学部などの宗教系学部がないこと。これは徹底した平和主義を唱える創価学会が、過去の戦争の遠因となった「宗教教育の強制」を嫌ったからといわれている。

池田氏が「フォートレス」と位置付けたように、創価大学開学を皮切りにして八王子に巨大な教団施設が次々と建設されていく。1983(昭和58)年には、創価大学の向かいに東京富士美術館を開館させる。同美術館はおよそ3万点もの収蔵品を誇り、ラ・トゥール『煙草を吸う男』(17世紀)や、マネの『散歩』(19世紀)など名だたる名画も少なくない。なお、巨大な新宗教団体が美術品を蒐集し、展示している例は、世界救世教のMOA美術館(静岡県熱海市)や、神慈秀明会のMIHO MUSEUM(滋賀県甲賀市)など各地にある。

池田氏の訃報の翌日、東京富士美術館を訪れると、『世界遺産 大シルクロード展』を開催していた。多くの来場者の姿があったが、同館公式サイトで訃報を伝えた以外は普段と変わらぬ様子であった。

■旧統一教会だけではない、創価学会にも「宗教2世」問題

美術館のラウンジからは、池田氏が「本陣」と位置付け、創価学会初代会長の牧口常三郎を顕彰した東京牧口記念会館が視界に飛び込んでくる。1993(平成5)年に完成した白亜の殿堂である。牧口記念会館の内部には、650畳もの広さを誇る大礼拝堂などがあるとされているが一般公開はされておらず、ベールに包まれている。12本の太い柱が特徴的なルネサンス様式の建築で、高さ125メートル、延べ床面積約2万平方メートルを誇っている。当時の創価学会の隆盛のほどを窺い知ることができる建造物である。

(写真左)東京富士美術館/(写真右)牧口記念会館
撮影=鵜飼 秀徳
(写真左)東京富士美術館/(写真右)牧口記念会館 - 撮影=鵜飼 秀徳

開館直後、この場所でオウム真理教による池田氏襲撃事件が発生する。オウム真理教は創価学会を敵視していた。教祖の麻原彰晃(元死刑囚)は部下に命じ、サリン散布による池田氏殺害をもくろんだ。複数人のサリン中毒者が出るが池田氏は無事で、後に事件が明るみになった。

創価学会の八王子進出に危機感を抱き、反学会キャンペーンを張った国会議員もいた。自民党の小林多門氏は自公連立政権発足前の1999(平成11)年の総選挙で、「八王子を創価学会の城下町にしてはならない」と訴え、公明党候補の高木陽介氏に勝利したエピソードも残っている。

さて、強烈なカリスマ性を持っていた池田氏の逝去は、創価学会のみならず、他の宗教教団あるいは政治へ少なからず影響を与えそうだ。ひとつは信仰の継承問題だ。

学会の入会のピークは、終戦後から高度成長期にかけて。1950年代以降、2代目会長の戸田城聖氏が「折伏大行進」と呼ばれる大布教活動を展開し、当初は数千人だった会員数を一気に増やした。後を継いだ池田氏は、公称827万世帯の国内最大規模の新宗教にまで育てあげた。

その背景には集団就職で都会に出てきた若者らがいた。彼らは、故郷の菩提寺やイエの縛りから解き放たれた一方で、都会で孤独を強いられていた。特に女性は都会でも就労の機会が得られず、新たな「居場所」を創価学会や霊友会、立正佼成会などの新宗教に求めたケースも少なくなかったのだ。

こうしたマンパワーを背景にして池田氏によって、公明党が設立されると1967(昭和47)年の衆院選初進出において、いきなり25議席を獲得した。1983(昭和58)年の衆院選では結党以来最高の59議席を獲得している。

だが、近年の公明党の票数は、じりじりと減少に転じている。

■連立解消論浮上の自公“崩壊ドミノ”で学会が恐れること

2005(平成17)年衆院選比例区では898万票の過去最高得票を獲得。参院選比例区でも、2004年に862万票を記録していた。しかし、2021(令和3)年の衆院選比例区では711万票にとどまり、ピーク時と比べれば187万票の減少となっている。2022(令和4)年の参院選比例区では618万票と、ピーク時よりも244万票も減らしている。

創価学会票の低迷は、戦後の大量入会からかれこれ半世紀以上が経過し、彼らの多くが死亡、あるいは高齢化を迎え、次代の継承がうまくいっていないことを示している。

旧統一教会問題を発端として、創価学会にも「宗教2世」問題が降りかかっている。かつて、故郷を離れ、既存宗教から創価学会へと転じる若者がいたように、今度は学会から2世や3世が離れていっているのだ。池田氏の死去をきっかけにして教団組織が求心力を失い、一気に弱体化していく可能性も捨てきれない。

鵜飼秀徳『絶滅する「墓」:日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)
鵜飼秀徳『絶滅する「墓」:日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)

池田氏の死去が直接、宗教界全体への影響を与えることはないだろう。しかし、池田氏亡き後の、自公連立体制の動向に気をもむ宗教関係者は少なくない。

今年5月、公明党は衆院選東京選挙区で自民党の候補者を推薦しない方針を表明。両党の関係は良好とはいえない状況が続いている。にわかに連立解消論も浮上しているが、仮に公明党というタガが外れた場合に、宗教界に政治のメスが入る可能性もある。

宗教界が最も恐れるのが、宗教課税へと舵を切ることである。宗教法人は法人税や固定資産税、相続税などが非課税とされてきた。宗教法人への非課税優遇は、信教の自由を守るための必須事項ではあるが、一方で国民の反感・反発も大きい。それでも本格的に宗教課税の議論がなされてこなかったのは、公明党の反発が予想されたからだ。

池田氏の死去、それに伴う教団の弱体化によって、自公連立の枠組みを崩壊させるドミノ現象が起きた時、宗教課税という激震が走る可能性はゼロとは言い切れない。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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