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「死にゆく子供の姿を撮って」半狂乱で親が戦場写真家に頼むワケ…「幸せとは何ですか?」戦場の人々の共通回答

プレジデントオンライン / 2023年11月23日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/South_agency

パレスチナ・ガザ地区、ウクライナなど世界各地で多くの無辜の一般市民が命を落としている。戦場カメラマンの渡部陽一さんは「自由を奪われた戦場の現場で、日本に向けて『知ってほしい』と呼びかけている人がいることを、僕は写真を通じて伝えていきたい」という――。

※本稿は、渡部陽一『晴れ、そしてミサイル』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■「選べる幸せ」があること。これが平和の条件

ここでは、あらためて「平和」について考えてみたいと思います。

平和とは、いったいどのような状況なのでしょうか。そして、平和のために、僕たちができることはあるのでしょうか。

戦場や紛争地帯で出会った方たちに、僕がよく聞く質問があります。

「幸せとは何でしょうか?」

すると多くの方から、「やりたいことを自由に選べること」という答えが返ってきます。

つまり、戦場ではやりたいことを自由に選べないのです。やりたいことといっても、日本で暮らしていれば当たり前に、したいと思ったらできることばかり。好きな食べ物を食べる。家族で一緒に暮らす。学校に行く。休日に遊びに行く。その程度の選択の自由がない。

独裁者がいたり、攻撃を受けて住む家を失ってしまったり、家族や子どもたちの命まですべて奪われてしまったり。自分の判断で「こうしたい」と思うことができない。それが平和を失った国の実情です。

平和とは、やりたいことを自由にやれること。人がそれぞれ自由に選ぶことができる「選択肢」があることです。明日にも爆弾が落ちるかもしれない。軍隊に召集され、避難を強いられ、家族みんなで暮らせない。だから、したい暮らしができない。そういった不自由さは、今の日本にはひとまずありません。その意味で日本は、平和に近い国といえるでしょう。

世界の選挙を見ていても、国民がリーダーを選ぶ大事な基準のひとつに、一般の市民が「自由な暮らし」を送れると思うかどうかがあります。

ウクライナもそうでした。ヨーロッパにおけるもっとも貧しいグループに属していたウクライナは、それまでの政府の汚職体質、私腹を肥やすばかりで国民が自由に暮らせるような政治をやろうとしないトップたちに嫌悪感を抱き、2019年の大統領選挙に出馬したゼレンスキー氏を大統領に選んだのです。

低所得や不十分な社会保障で苦しんでいたウクライナ国民が、ロシアとの関係が深い指導者や、裏でロシアとつながっていることが疑われている指導者ではなく、政治経験がない元コメディアンを選んだ。これはウクライナ国民の、自由で豊かな暮らしへの渇望とも見えました。

結果として戦争に突入し、ウクライナ国民の自由はますます奪われているとも言えますが、国民の士気は高い。それはロシアに抗い戦うことが、自国を守るだけではなく「自由と民主主義陣営の防壁」といった意味合いを持つからでしょう。

貧しさから脱却し、自由を求める国の人々。そこに「自由は認めない」として戦いを挑む、強権体制や過激派組織。自由を求めて戦い、戦いが自由を奪っていく。歴史のゆりかごの中で繰り返されてきたことです。

選べる選択肢が少ない、禁止されていることがあまりに多いのは危険です。極端な攻撃や奪い合いにつながりかねません。たくさんの選択肢があると地に足をつけて、肩の力を抜いて、どれを選ぶべきか冷静に判断できる。そうした中であれば争いを回避することもできるはず。

日本では当たり前のようにある「選べる幸せ」。これがあることが、平和のひとつの姿であると言えるでしょう。

■日本の暮らしにある、世界とつながるきっかけ

今の日本にも、貧しく、孤立してしまう人たちがいます。ひょっとしたら「日本に住んでいても、選べる幸せはない」「日雇いのバイトしか仕事がなくて、友達もいない。やりたいことがあっても、お金がなくてできない」などと苦しく感じている人もいるかもしれません。

戦場から日本に帰ってくると、日本の暮らしの中には世界とつながるきっかけや入り口がたくさんあると感じます。自分にはできないと思っていても、ちょっとだけ見方を変えて世界を知り、ちょっとした行動を起こせば世界とつながることができる。

本を読むことでも、好きなマンガや映画について究めてみることでも、友達に会いにいくことでもいい。一歩踏み出してみると、新たな感覚を得ることができます。そして思いもよらなかったことに、気づくことがあります。

そのことが僕たちの可能性を広げてくれる。別の、新たな選択肢を自分にもたらしてくれることもあるはずです。小さな行動で、新しいチャンスを手に入れることもできるのです。

■戦場には「私たち」を知ってほしい人たちがいる

僕は戦場取材に入るとき、現地の人々の生の声に耳を傾けながら、戦場に生きる人たちの普段の姿を撮りたいと考えています。戦火の中にも、胸が痛むようなつらい現実だけでなく、温かな人々の暮らしがあるからです。

そこに日本人の僕たちと変わらない素顔を見つけると、親近感を持って、世界の国々に生きる人たちを捉えることができます。

その一方で、戦場ではあまりに悲惨な光景に遭遇することもあります。思わずカメラを置いて、その場をそっと離れるしかない場面。多くは、子どもの命が奪われる瞬間です。

あるときは、こんなことがありました。

銃撃を受けた小さな子どもが、避難所の病院に運び込まれてきた。お医者さんたちによる必死の処置が施されており、子どもの両親はもう半狂乱状態になっている。こういうとき、僕は写真を撮ることはできません。

渡部陽一『晴れ、そしてミサイル』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
渡部陽一『晴れ、そしてミサイル』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

僕はカメラを置いて、病室を出ました。そして静かに待っていました。

すると、病室からお父さんが泣きながら飛び出してきて、僕の手を引っ張るのです。強い力で、僕を病室に引きずりこみ、必死で、今にも亡くなろうとしている我が子の写真を撮ってくれと言っている。

今、自分の子どもの命が奪われようとしている。そして、そのことが誰にも知られずに、まるでなかったことのようにされていく。自分たちの国には独裁者がいて、情報統制されているから、このことは国の外の人たちには報じられない。

だから撮ってくれ。今、起きていることを、外の人たちに知ってほしい。気づいてほしい。そしてどうか、攻撃している人たちを止めてくれるような動き、世界のうねりをつくり出してほしい。お父さんは、泣きながら僕に頼みました。

■爆破テロの被害を受けた家族の声

実はこうした状況は、テロの現場や戦場ではよくあることです。家族の遺体を撮ってほしい。これほど残酷な殺され方をしている様子を。また、お葬式の最後のあいさつをしている、家族が泣きじゃくっている様子を撮ってほしいと言う。

僕には撮ることができない、と言って外に出ていると、手を引っ張りながら頼みこまれる。そして、どうか世界に、そして日本に配信してくれという。

彼らはただ、知ってほしいのです。これが今起きているテロや戦争の現実、犠牲になっている現場そのものなのだと。次のページの写真は、パキスタンの病院で撮影したものです。2007年7月、首都イスラマバードでイスラム教の神学生が治安部隊と衝突し、イスラム教の礼拝所モスクに立てこもる事件が起こりました。パキスタン軍によると、この戦闘によって40人以上の死者が出たといいます。

パキスタンの病院で撮影した子どもを亡くした家族の写真
撮影=渡部陽一
パキスタンの病院で撮影した子どもを亡くした家族の写真 - 撮影=渡部陽一

■子どもを亡くした家族の写真

神学校を率いる指導者は、アフガニスタンの過激派組織タリバンとの関わりがあったため、この事件がタリバン側の強い反発を呼び、報復のための自爆テロなどが激化しました。

この写真は、報復による爆破テロによって子どもを亡くした家族の写真です。自分の子どもが犠牲になったことを確認して、我を忘れてしまった状態です。この病院には、爆破テロの犠牲になった一般市民が多数運び込まれていました。とても残酷で悲しい場面でした。

日本で暮らしている人の感覚であれば、こうした極限状態のときは、ふつう、写真を撮らないでほしいと思うものです。しかし、彼らもやはり「伝えてほしい」「こうしたテロの悲しい状態を、日本に暮らす人たちにも届けてほしい」と訴えていました。

「傷ついた私たちを撮って」
「亡くなった子どもを撮って」

こういう声を聞くと、胸が締めつけられるような気持ちになります。

世界のさまざまな、自由を奪われた戦場の現場で、日本に向けて「知ってほしい」と呼びかけている人がいることを、僕は写真を通じて伝えていきたいと思います。

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渡部 陽一(わたなべ・よういち)
戦場カメラマン
1972年、静岡県生まれ。明治学院大学法学部法律学科卒業。学生時代から世界の紛争地域を専門に取材を続ける。戦場の悲劇、そこで暮らす人々の生きた声に耳を傾け、極限の状況に立たされる家族の絆を見据える。イラク戦争では米軍従軍(EMBED)取材を経験。これまでの主な取材地はイラク戦争のほかルワンダ内戦、コソボ紛争、チェチェン紛争、ソマリア内戦、アフガニスタン紛争、コロンビア左翼ゲリラ解放戦線、スーダン・ダルフール紛争、パレスティナ紛争、ロシア・ウクライナ紛争など。

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(戦場カメラマン 渡部 陽一)

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