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「ブタは太っている」はウソである…100mを9秒で走る俊足の動物を「ブタ野郎」と罵るのは間違っている

プレジデントオンライン / 2023年11月29日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DamianKuzdak

「ブタ野郎」という悪口がある。静岡大学農学部の稲垣栄洋教授は「ブタは体脂肪率15%で、細身の女性モデルより体脂肪率は低い。さらに100mを9秒で走る俊足をもち、知能はイヌやイルカより高い。ブタを悪口に使うのは間違っている」という――。

※本稿は、稲垣栄洋『ナマケモノは、なぜ怠けるのか? 生き物の個性と進化のふしぎ』(ちくまプリマー新書)の第1章(「みっともない」生き物)を再編集したものです。

■ヘビはどうやって前進しているのか

①ヘビ

ヘビは嫌われ者である。ヘビを怖がる人は多い。人間は本能的にヘビを怖がるという性質が身についているとも考えられている。本当だろうか。

いずれにしても、手も足もないのに、にょろにょろと近づいてくるヘビは、人間にとってはじつに奇妙であるし、恐怖でもある。やっぱりヘビは嫌われ者なのだ。

神さまはどうして、こんな嫌われ者の生き物をお創りになったのだろう。

ヘビの祖先も、後述するがカメの祖先と同じように、恐竜時代の終わり頃の地層から発見されている。つまり、ヘビもまた、カメと同じように恐竜が絶滅したような地球環境の変化を乗り越えたのだ。

もっとも恐竜時代のヘビの祖先の化石には、後ろ足があったらしい。やがて後ろ足も退化し、現在のような手も足もない姿になったのだ。

「手も足も出ない」という言葉があるが、ヘビには本当に手も足もない。そもそも、手も足もないのに、ヘビはどうやって前へ進むのだろう。

ヘビは体をくねらせながら、前へ進んでいく。これが「蛇行」である。ヘビのお腹には突起のようなものがあり、スキー板のエッジのように地面をとらえて滑らないようにする。そして、体を前に押し出していくのである。これを繰り返すのが、くねくねとしながら進む蛇行である。

■手足の代わりに得たもの

しかし、相当巧みに体を動かさなければならない。ヘビは見つかると、意外と速いスピードで草陰に逃げ込んでいくが、こんな複雑な仕組みをスピーディーに行なっているのである。こんな複雑な動きを身につけるくらいなら、トカゲのように四本足で移動した方が簡単そうである。

どうしてヘビには手足がないのだろう。ヘビに手足がない理由については、必ずしも十分には明らかにされていない。ただし、ヘビはかつて土の中で生活をしており、穴の中で移動しやすいように手や足が退化したと考えられている。

いずれにしても、ヘビは手足がないのではない。手足が邪魔だから捨て去ったのだ。ヘビは独自のスタイルで最先端の進化を遂げた生き物なのである。

人間は道に落ちているロープをヘビと見間違えて、恐れおののくことがある。細長いものはヘビ、と思われるほど、シンボライズされた存在なのだ。まさに余分なものを削(そ)ぎ落したシンプルで洗練されたデザインなのである。

人間は本能的にヘビを恐れる。ヘビを知らない赤ちゃんもヘビに恐怖を抱くと言われている。ヘビは手足がなくても、木に登ることができる。人間が昔サルだった頃、木の上にやってくる天敵はヘビだけであった。一説によるとそれが人間がヘビを怖がる理由であるとも言われている。手足をなくした代わりに、すごい存在感を手に入れたのだ。

だからね、手足のないヘビも、そのままでいいんだよ。

■本名はアホウ、別名にはバカ…

②アホウドリ

その鳥は「アホウ」と言われている。

アホウとは、「愚か」であることを意味する言葉である。

関西では、「アホやな」というように、アホを軽い意味でも使う。「アホみたいにすごい」というような使い方をすることさえある。「バカ」という言葉は、あまり使わない。「バカ」という言葉を使うときは本当に侮辱するときである。

一方、関東では「バカ」という言葉をよく使う。軽い気持ちで「バカみたい」と言うし、「バカすごい」と褒め言葉に使うことさえある。これに対して、関東では「アホ」は、あまり使われないため、本当に侮辱するときに使う言葉になっている。

アホウドリは、どうだろう。もっとも、アホウドリは別名を「バカドリ」という。どちらにしても、バカにされているのだ。なぜそんな名前がつくことになってしまったのだろう。

神さまはどうして、こんなバカにされる生き物をお創りになったのだろう。

アホウドリ
写真=iStock.com/raclro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/raclro

■プロゴルファーでも滅多に経験できない“好プレー”

ゴルフは、ボールを打って、カップと呼ばれる穴に、いかに少ない打数で入れられるかを競い合うゲームである。それぞれのコースには、ボールをカップに入れる基準となる打数が決められている。

たとえば、四打でカップに入れるコースは、「パー4」と言う。そして、基準の四打でカップインした場合を「パー」と呼ぶ。さらに基準の四打よりも、一打少なくカップインすることができた場合は、「バーディ」と呼ばれる。

バーディは「小鳥」という意味である。稀(まれ)に、基準よりも二打少なくカップインすることもある。これは「イーグル」と呼ばれている。イーグルは、ワシのことである。小鳥よりもずっと飛ぶ力があることから、ワシと呼ばれているのだ。

ところが、ごくごく稀に基準よりも三打少なくカップインすることがある。パー4のコースは、二打でカップのあるグリーンと呼ばれる場所まで届くことを想定していることから、パー4のコースを一打で入れることは不可能である。

ただし、ロングコースと呼ばれるパー5のコースがある。パー5のコースは三打でグリーンに届くように想定されている。このロングコースは、ボールをものすごく飛ばすことができれば二打でグリーンに届くことがある。そして、この二打目が直接カップに入れば、三打少なくカップインすることができるのだ。

これはとても難しいことである。プロのゴルファーでも、滅多に経験できないほどだ。

■1万キロ以上を休まず飛べる飛翔能力

パー3のコースを一打で入れることは、ホールインワンと呼ばれる。しかし、ホールインワンは基準より二打、少ないだけである。三打少なくカップインすることは、ホールインワンよりも、はるかに難しいことなのだ。

何より、三打少なくするためには、相当、遠くまでボールを飛ばすことが条件となる。

この奇跡のような出来事には、どのような鳥の名前がつけられているだろうか。二打少ない場合は、小鳥よりもはるかに優れたワシの名がつけられていた。ということは、さらに難しい三打少ない場合は、もっともっと優れた鳥の名前がつけられているはずである。

皆さんなら、どんな鳥の名前をつけるだろうか。

じつは、三打少ない場合は、「アルバトロス」と言う。

驚くことにアルバトロスは、「アホウドリ」という意味である。もっとも難易度の高い優れた成績にアホウドリの名がつけられているのだ。

どうしてワシよりもはるかに優れた鳥としてアホウドリが選ばれたのだろうか。じつは、アホウドリは、飛翔(ひしょう)能力に優れている。アホウドリは、風を読み、風を利用する能力に長(た)けており、大きな翼を広げて、グライダーのように巧みに風に乗る。そして、風の力を利用して遠くまで飛ぶことができるのだ。

この遠くまで飛ぶ能力から、イーグルよりもはるかに難しい成績にアルバトロスの名がつけられているのだ。アホウドリは、一万キロ以上も休まず飛ぶことができるというから、すごい。

アホウドリ
写真=iStock.com/webguzs
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/webguzs

■飛ぶことは得意なのだけれど…

しかし、不思議なことがある。

アホウドリはこんなにすごい鳥なのに、どうして「アホウ」と呼ばれているのだろう。

じつは、アホウドリには欠点がある。アホウドリは、高い飛行能力を持っている。そのため、その体も飛行性能を高めるように、洗練されたデザインに進化しているのだ。

ところが、そのせいでアホウドリは飛ぶこと以外は苦手である。何しろ、飛ぶのはいいが、上手に着陸することさえできない。着陸というよりは、地面に墜落するように降りてくる。さらには、地面の上を上手に歩くことができない。

そのため、逃げることもできず、人間たちに簡単につかまってしまう。「アホウ」と呼ばれることになった理由である。アホウドリの見事な滑空を見れば、そんな名前はつけられることはなかっただろう。

人間というものは、その生物の本当のすごさを知ることもなく、ほんの一面だけ見て名前をつけてしまうものなのである。

「アホウ」と名付けた人は、アホウドリのことはまるでわかっていなかったに違いない。

だからね、何と呼ばれようとアホウドリも、そのままでいいんだよ。

■ブタを悪口に使うのは間違っている

③ブタ

「ブタ」と言われて、うれしい人はいないだろう。「ブタ」は専ら悪口に使われる。

ブタは汚い! ブタは太っている! 「このブタ野郎」などと言われれば、これ以上ない屈辱だ。それどころか、「ブタ!」というだけで、これは立派な悪口である。

ブタは本当にブタ野郎だ。神さまはどうして、こんな見下される生き物をお創りになったのだろう。

ブタは太っている? そんなのはウソである。ブタの体脂肪率は一五パーセントである。これはやせた男性くらいの体脂肪率だ。人間の場合は、男性よりも女性の方が体脂肪率は高い。ブタの体脂肪率は、細身の女性モデルよりは、ずっと低い体脂肪率である。この数字は、イヌやネコと比べても低い。

ブタの体は、思っているよりもずっと筋肉質である。ブタは時速四〇キロメートルで走ることができると言われている。これは一〇〇メートルを九秒で走る速さである。人間の一〇〇メートルの世界記録を上回る速さだ。

ブタが太っているというのは、とんでもない話だったのである。「ブタ野郎」という言葉は、本当は「ブタみたいに痩せている」という意味が正しいのだろう。

ブタ
ブタ(写真=Pkuczynski/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)

■「ブタ野郎」は褒め言葉でしかない

また、ブタはきれい好きな動物として知られている。

特に、用を足す場所と、エサ場と、寝床をいっしょにすることがない。そして、トイレの場所を決めるとトイレ以外で用を足すことはない。エサ場や寝床を汚さないためである。もし、養豚場が汚れて汚い場所になっていたとしたら、それはブタのせいではなく、人間のせいなのだ。

稲垣栄洋『ナマケモノは、なぜ怠けるのか? 生き物の個性と進化のふしぎ』(ちくまプリマー新書)
稲垣栄洋『ナマケモノは、なぜ怠けるのか? 生き物の個性と進化のふしぎ』(ちくまプリマー新書)

それだけではない。ブタはとても、頭が良い動物であると言われている。研究者によれば、ブタは脳が発達しており、人間の三歳児レベルの知能があることが明らかにされている。その知能は、イヌやイルカよりも高く、チンパンジーと同程度であるというからすごい。

何とすばらしい生き物だろう。太っているように見えるブタは富のシンボルとされていて、実は世界中で幸運を運ぶ動物とされている。

思い出してほしい。そういえばブタは貯金箱のデザインに用いられ、富をたくわえているのだ。

もう「ブタ野郎」は褒め言葉でしかない。

だからね、悪口を言われるブタも、そのままでいいんだよ。

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稲垣 栄洋(いながき・ひでひろ)
静岡大学大学院教授
1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院農学研究科修了。農学博士。専攻は雑草生態学。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、静岡大学大学院教授。農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する著述や講演を行っている。著書に、『植物はなぜ動かないのか』『雑草はなぜそこに生えているのか『イネという不思議な植物』『はずれ者が進化をつくる』(ちくまプリマー新書)、『身近な雑草の愉快な生きかた』『身近な野菜のなるほど観察録』『身近な虫たちの華麗な生きかた』『身近な野の草 日本のこころ』『身近な生きものの子育て奮闘記』(ちくま文庫)、『たたかう植物 仁義なき生存戦略』(ちくま新書)など。

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(静岡大学大学院教授 稲垣 栄洋)

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