1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

3000万円聖本4冊分の献金させられた…旧統一教会から返済されない弱者に「裁判を丸投げする」自民党の無責任

プレジデントオンライン / 2023年11月24日 11時15分

司法記者クラブで会見する全国霊感商法対策弁護士連絡会の弁護士=2023年11月17日、東京都千代田区 - 撮影=多田文明

政府が東京地裁に解散命令を請求した旧統一教会。今後、多額の献金をさせられた被害者の救済は前進するのか。元信者でジャーナリスト多田文明さんは「与党プロジェクトチームによる財産保全のための取り組みは不十分で、結局は、『被害者の自助努力で裁判をやってください』と言っているのと同じで適切な対応ではない」という――。

■自民党は「被害者の自助で教団と裁判やって」というのか

11月17日に、司法記者クラブで全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の会見が行われました。重要ポイントは2つありました。

(1)与党プロジェクトチーム(PT)による「旧統一教会による被害者救済のための提言と法案」への見解

(2)取り交わした合意書があるとして、旧統一教会被害者への約1億8000万円の返金の訴えを退けた1審の判決を取り消して、地裁に差し戻した11月15日の東京高等裁判所の判決に関して

これらにより、旧統一教会の被害者救済の道にひとすじの光が差したとともに、大きな課題も浮上しました。

まず、(1)について。

全国弁連所属(以下同)の木村壮弁護士は、全国弁連の声明を読み上げ、与党PTが出した提言および法案に対して一定の評価を示しました。法テラスによる民事法律扶助業務の拡充など、被害者救済の検討がされたからです。

ただし、その一方で「統一教会による被害の実態に即した実効性のある被害救済とは評価できず、特に財産散逸を防ぐためには不十分であり、包括的な財産保全を可能にする特別措置法の立法が必要」との見方を示しました。

そして「旧統一教会の解散命令請求が行われた以上、被害者救済のための財産保全も個々の被害者の自助努力に委ねられるべきではなく、国として正面から法整備をして対応すべきもの」として、与野党が党派を超えて速やかに協議を行うことを求めています。

阿部克臣弁護士も「現在危惧されているのは、統一教会による財産隠しですが、与党PTが提言するものは、財産保全のための取り組みとしては不十分」として「結局は、被害者の自助努力で(裁判を)やってくださいということになり、政府が解散命令請求を行った状況下で、被害者に負担が大きい司法手続きをしてくださいというのは、適切な対応ではない」と指摘しました。

つづいて、(2)について。

旧統一教会を相手にした裁判(返金裁判など)の大変さは、(2)の結果を見てもよくわかります。

■高裁の判決は、「合意書は公序良俗に反して無効」

同日に開かれた立憲民主党を中心とする国対ヒアリングにて、被害を受けた80代A子さんは、入信のきっかけや裁判における思いを語っています。

A子さんが統一教会に入信したのは40年ほど前のこと。旧統一教会の女性が「手相の勉強をしている」と家を訪ねてきたことがきっかけでした。

手相占いをしている女性
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

「当時の私は、子供たちと夫を何よりも大切にして生きました。ただ気になっていたことがありました。それは私の父や、夫の両親が早くに亡くなっていること。その後、(その女性に)紹介された“先生”からは『あなたの家には色情因縁があり、悪い大変な家系だ』『夫の父や母が早くに亡くなったのは、家に色情因縁があるからだ』『それを止めないと子供や子孫に悪いことが起こる』とも言われました。私は子供たちを守るためにはこの色情因縁を絶たなければならないと思った」といいます。

その後、自らも信者になって旧統一教会に所属するようになってからは「礼拝の時には絶対信仰、絶対愛、絶対服従を誓うと唱えさせられました。先祖の因縁からくる不幸があるので、(良い)因縁を積むために、統一教会の言う通りにしなければと思い込んでいました。それでたくさんの献金をしてきました」

A子さんの夫は53歳で亡くなります。

「それを教会の人に伝えると『(あなたに)信仰がないから亡くなった』と言われました。先祖への(良い)因縁を積むことができなかったために、夫は亡くなった、と。もっと(良い)因縁を積まなければ、また家族の誰かが早く亡くなったり、悪いことが起きたりするかもしれないと思い、改めて怖くなった」と話します。

A子さんの身の回りに起こった不幸に乗じるように、教団は献金を強いてきたそうです。

「ますます統一教会の指示に従って、献金を求められればしないといけないと思い、献金をし続けて、財産は何もなくなりました。信者だった息子が教会に自宅を担保にしてのお金を借してあげたいというので協力しました(※)。そして教会から返金してもらう際、私も(献金などの返還請求・損害賠償請求など裁判上・裁判外を問わずいかなる請求も行わないとする)合意書の書類にサインをさせられました。

そして何年か経って、献金の返金請求をしようと考えるようになり、弁護士さんに相談して(教団に)手紙を送ってもらいました。しかし『合意書に献金の返金要求など、いかなる請求を行わないと書いてあるから』という理由で、教団側に拒絶されました。1審では、その合意書が有効だということで私の請求は却下されてしまいましたが、一昨日、高等裁判所がそれを無効とする判決をしてくれました」

※筆者註:多くの場合、借り入れの形で教団にお金を渡すと、献金扱いになる

A子さんは「私の当時の状態をわかってもらえたと思い、ほっとした」と話します。今回の判決について、佐々木大介弁護士は司法記者クラブの会見で次のように解説しました。

「(高等裁判所では)基礎合意を有効として訴えを却下した判決を取り消して、東京地裁に差し戻すという判決が出ました。基礎合意は『公序良俗に反して無効』だという理由です」

今回の判決には、2020(令和2)年2月に東京地裁が出した先例の判決があるといいます。

「この事件では、同じく『公序良俗に違反し合意は無効』という判決なんですが、今回の判決では、合意書を書かされた信者の状況について、より踏み込んだ判断をしています」

■「家に3000万円の聖本が4冊もある」

「踏み込んだ判断」には、二つあるといいます。

「一つは(教団と被害者との)争いが顕在化していない段階で、この合意書が書かれたものであることです。争いが顕在化していないなかでは、信者は具体的に何の権利を失ったのか、何について訴訟を起こせなくなるのかという認識ができない。そういう状態で合意書を書かされている。もう一つは、被害者が、統一教会の心理的影響下にあるなかで、統一教会の言いなりの心理状態であることに乗じて、合意書が作成されたのであって、やり方が非常に不当であるとしています。旧統一教会の悪質性、反社会性を、裁判官がようやく理解してくれたことを意味するものです」(佐々木弁護士)

梅津竜太弁護士も次のように補足しました。

「判決にもありますが、(信者は)旧統一教会と一定距離を置くようになった時期なんです。外から見ると、統一教会をやめたと思われても仕方ないような状況でも、統一教会からの心理的な影響がまだあることが認定され、その段階で締結された文書について無効という判断がされております。しかも、この合意書が取り交わされた時には、統一教会の顧問弁護士が立ち会っているんです。たとえ、その弁護士が説明していても『無効』という判断がされている。その点も大きい」

前出・阿部弁護士は、本判決を踏まえ、今後の展開をこう予想しました。

「統一教会の合意書や念書を無効にした高裁での判決というのは3例目になると思います。統一教会が合意書や念書を交わさせて、返金請求を阻止するというやり方は、コンプライアンス宣言をした2009年以降、組織的に行っていたものと考えられます。全国で念書や合意書をかわされている被害者はかなり多くいらっしゃるということです。今後、声を多く上げてくる可能性があります。そうすると、やはりその方々の被害救済が問題となり、きちんと教団の財産を保全しておくことが必要になってきます」

前出A子さんは、自らの被害体験を話すなかで、旧統一教会の卑劣な手口を語り、被害者の連帯を呼びかけた。

「信者は、教会に絶対に服従なんです。教会の人から『書類にサインをしろ』と言われればサインします。そのような合意を盾に、献金の返金請求ができないとすれば、被害の回復などできません。あんなにたくさんの献金をして、家に3000万円の聖本が4冊もあるのに、教会からは『(私からの)献金のリストがない』と言われています。本当に、大変な裁判です。それでも、諦めないで頑張りたいと思っています。同じような書類にサインをしろと言われて、サインしてしまった人にも頑張ってほしいと思います」

思考停止して、正常な判断ができなくなっている人々のイメージ
写真=iStock.com/ajijchan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ajijchan

旧統一教会の被害者の多くは80代のA子さんと同様に高齢者です。そのことを考えれば、手練手管である統一教会を相手に、個人が戦うのは本当に過酷で、大きな負担になるのは火を見るよりも明らかです。

いわゆる振り込め詐欺では主に高齢者が狙われて、財産が根こそぎ奪わることもあります。しかも、詐欺集団の指揮をとるトップの正体がわからず、お金の流れもつかめないために、お金を取り戻すのが難しくなります。

旧統一教会はれっきとした宗教法人です。お金を取り戻すチャンスはあるはずですが、現状ネックとなっているのが、被害者らが弁護団を通じて返金請求をしても、「献金記録がない」などとうそぶいて、お金の流れをはっきりとさせない教団の姿勢です。

元信者の目線からいえば、旧統一教会の教えにおいて、公金横領は非常に重い罪になります。従って、そうしたことがないようにするため、一円単位に至るまで献金記録はしっかりと残してあるはずであり、それを開示しないのは極めて不誠実といえます。

ただでさえ高齢の被害者は、裁判などの経過とともにさらに年齢を重ねていきます。国は、人道的な立場からも被害者の心身がしっかりしているうちに、お金を取り戻せるような道をもっと積極的に示すべきではないでしょうか。いつまで高齢者に優しくない社会のまま放置しておくつもりでしょうか。もはや、被害者個人の自助努力に任せた対応はとっくの昔に限界にきているのが、旧統一教会における問題なのです。

----------

多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
悪質業者への潜入取材経験からジャーナリスト、ヤフーニュースオーサーとして活動。近著に詐欺商法の事例満載の『信じる者は、ダマされる。元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)がある。

----------

(ルポライター 多田 文明)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください