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6年前から「AIが世界を変える」と予言…私が「メガロマニア系経営者」として孫正義を心底尊敬する理由

プレジデントオンライン / 2023年12月8日 15時15分

4年ぶりに開催された「Softbank World 2023」で基調講演をするソフトバンクグループの孫正義会長兼社長(2023年10月4日、東京都港区のザ・プリンスパークタワー東京) - 写真=時事通信フォト

ソフトバンクグループの創業者・孫正義氏は、どんな経営者なのか。ベンチャーキャピタリスト古我知史さんの『いずれ起業したいな、と思っているきみに 17歳からのスタートアップの授業 アントレプレナー列伝』(BOW BOOKS)より、一部を紹介する――。(第2回/全4回)

■バイトがあきれて辞めるほどの「大ホラ吹き」

孫正義 Son Masayoshi
1957~佐賀県生まれ。ソフトバンクグループ株式会社代表取締役。1976年高校を中退して渡米。’80年カリフォルニア大学バークリー校を卒業。’81年、日本ソフトバンク(現ソフトバンクグループ)設立。Yahoo! BB、ボーダフォン、アーム等々、多額の買収による事業の多角化による経営手法が注目されている。

アントレプレナーの「原始的人格」のうち、パラノイア系(偏執症)の代表例として、掃除機で有名なダイソンをつくったジェームズ・ダイソンをご紹介した。次に、もう一つの大きな傾向であるメガロマニア系(誇大妄想癖)の代表例として、ソフトバンクグループの孫正義を紹介しよう。

いまや1兆円を超す営業利益をたたき出す実績をつくった大企業のソフトバンクグループだが、そのソフトバンク(文字どおりビデオカセット方式だったパソコンソフトの輸入販売業から始まった)がまだ売上数百万円で、社員と言えば数人のアルバイトスタッフしかいなかったときに、孫さんがリンゴか何かの木箱の上に乗って、「将来は、一丁二丁と、豆腐を数えるように売上を数える会社になるんだ」と演説し、聞いていたスタッフが、この人、頭がおかしいのかとあきれて全員辞めてしまったという逸話は有名だ。

まさか、その数十年後、本当に、売上どころか、利益を一兆、二兆と数える会社になるとは。そのときのスタッフは、いま、どう感じているだろうか?

■広島の小さな洋装店もGAPを超えた

まさに、メガロマニア、誇大妄想癖の極地とも言えるが、実は、これ、孫さんに限らない。ファーストリテイリング、つまりユニクロの柳井正さんも、第二創業者ながら、広島の商店街のどこにでもあるような小さな洋装店を引き継いでまもなく、GAPを超えると言っていたし、日本電産(2023年にニデックと改名)という超有名なモーターの会社を創業した(1973年)永守重信さんも、全く売上が立ってないときに1000億超えると言い、1000億を超えようとするときに1兆円の企業になると言い、すべて実現してきた。

ちなみに、ユニクロのファーストリテイリングは、現在、世界のアパレル製造小売り業売上ランキングで第3位、GAPは、第4位。時価総額では、ZARAのInditexに次ぐ世界第2位11兆円強で、1兆円にも満たないGAPを大きく引き離している(2023年9月末現在)。

ただの誇大妄想癖、大ボラ吹きではない。実際にそれを実現してしまうのが、ビッグなアントレプレナーだ。

■2017年の講演で「AI革命」を予言

孫さんは、もはやソフトバンクを創業したアントレプレナーというよりも、ビジョナリー・インベスターとでも表現できる、攻撃的で、先見性のある、楽天的投資家としてわたしも尊敬をしている。

かれは、毎年、SoftBank Worldというすべてのビジネスパーソンに向けてのフェスでスピーチを行う。YouTubeで見られるので、興味のある方は検索して見ていただきたいのだが、そのうち、わたしが最も注目しているのは、2017年のものだ。

【SoftBank World 2017】Day1 基調講演 孫 正義

注目に値する記憶に残る講演をしている。かれは、2017年の時点ですでに、情報革命が導く新たな世界として、AIがこれまでの生活概念をすべて覆すだろう、と予言している。そして、実際、かれはいま、AIの分野で成長する可能性のあるベンチャーに、かれが設立したビジョン・ファンドを通して、投資しまくっている。

■人間の頭脳が延長、拡大する時代に

その2時間半にも及ぶ基調講演は、18世紀の産業革命の話から始まる。そこから、人々の生活が革命的に変わったと。そして、いまの情報革命、デジタル革命も、18世紀の産業革命も、人々が想像できない世界に、人々を導いていく、という点で同じである、いままさに、それが起きているのだと、かれは力説する。そして、そういう時代に生まれて、生きていられて、たいへん幸せだと。

かつての産業革命では、人間より速いスピードで走る(これは自動車のことだ)、人間より重いものを持ち上げる(これはロボットや建設機械のことだ)というふうに、人間が持つ筋肉の延長がテーマだった。そこから生まれたのが、自動車であり、その前の蒸気機関車であり、その後の航空機だった。

この「筋肉の延長」に対し、孫さんが進めたいと考えている情報革命、デジタル革命というのは、「頭脳の延長、拡大」を意味する。つまり、人間の持っている頭脳を延長拡大することで、人間の新しい可能性を広げる。いま起こっていることは、18世紀からの産業革命とは、全く質の違った産業革命なんです、ということを話しておられる。

■孫正義が見たAIと人間の「新しい世界」

では、孫さんは、具体的にはどういう未来を想定しているかというと、「インターネットや電話が普及したとはいえ、場所によってはまだつながっていないところがあるが、これから先はつながらないところがない時代がやってくる。地球が衛星ですべて覆われてしまう。そして、人だけでなく、モノもつながれていく。人とモノが通信することで、巨大なビッグデータが無限に構築され、今度はそれをスーパーな人工知能(AI)が解析する。AIと人間がお互いに賢く鍛え合っていく時代を我々は構想している」と、想像を絶するような新しいデジタル革命が産業構造を変えていくことを力説しているのだ。

いまから6年前のものだが、ちっとも古くない。というか、いままさに誰もが実感できるレベルになってきていることを、6年前に話していたわけだ。

■Googleが投資した「人を超えるロボット」

この予見に基づき、孫さんは当時、複数の大きな買収を行った。そして、その講演の会場に、買収した会社のCEOを呼んでいた。

最初に登場したのは、ボストン・ダイナミクスというロボットの会社だ。実はわたしもそれ以前から注目していたのだが、なぜ注目していたかと言うと、Googleが投資して、育てていた会社だからだ。

かれらが開発していたロボットとは、CEOのマーク・レイバートという人がそのとき話した言葉を借りれば、「人と同じくらいの視覚とインテリジェンスを持つ、人を超える存在のロボット」だ。

軍事用に使われているものは、結構YouTubeにも上がっているが、とにかく驚くようなロボットで、ちょっと言葉では説明できない。簡単に階段を登っていったりとか、でこぼこ道を二本足で行進していったり、人が倒そうとすると、それを避けたり、それに耐えたり、転がったら起き上がったりと、まさにSFの世界に出てくるロボットだ。ぜひ、一度、検索してYouTubeで見てみてほしい。

残念ながらソフトバンクはWeWorkへの投資が頓挫した余波で、このボストン・ダイナミクスを手放すことになる。買収したのは韓国の自動車メーカーのヒュンダイ(現代)自動車だ。

■惚れ込んだ英アームの買収を電撃発表

二番目に登場したのは、ナウトという自動車の自動運転のサービスの開発をしている会社の社長だ。この会社は、2022年ぐらいから、何かと取り上げられるようになってきたが、要はAIを搭載して、接触事故や交通渋滞を減らすようコントロールする会社だ。MaaSの周辺プロダクトのはしりである。

MaaSというのは、Mobility as a serviceの略称でマースと読む。サービスとしての移動の意だ。孫さんは、スマホやロボットは将来、車とも融合し得るものだと、イメージしているのではないだろうか。

そして、最後に登場したのが、2017年当時、ソフトバンクの巨大な買収として世間を騒がしたアームという会社の当時の社長のサイモン・シガースという人。ソフトバンクがアームを買収したときに話題になったのは、その買収金額もさることながら、それがあまりに突然の発表だったこともある。買収に応じるとは思えないオーナー会社だったこともある。

しかしそこを孫さんは、とにかくオーナーを追いかけて追いかけて、トップ会談をもちかけ、熱く説得して粘り勝ちで決めた。そして、帰ってくるなり発表した。そういう離れ業ができるのが孫さんだ。

■2023年、9兆円の大型上場に成功

で、その買収金額だが、ソフトバンクの営業利益をはるかに上回る320億ドル相当(当時のドル円レートで3兆7000億円)。どうして、そんな金額を投じてまでアームを買収したかったかというと、2016年当時、世界のスマホのチップの99%はアームのものだったからだ。

スマートフォンのイメージ
写真=iStock.com/Olemedia
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Olemedia

今後、世界中でますます増えていくであろうIoT(Internet of Things)のあらゆるモノの中にアーム製のチップが入ることで、圧倒的なシェアを獲得できる、そう読んで、買収したということだった。

その後、グラフィック系に強いベンチャーNVIDIAが伸びてきて、アームの地位がちょっと揺らぎつつあったところに、コロナ禍における業績低迷で一時期は売却が検討され、マスコミはここぞとばかりに、ソフトバンク2兆円の損失、孫さんは実は投資下手だったなどと騒ぎたてた。が、紆余(うよ)曲折を経て、ソフトバンクグループ傘下のまま、2023年9月に、米国ナスダック市場に上場。時価総額9兆円の大型上場に成功したのである。

かくして、孫さんは、アリババを泣く泣く手放したものの、アームの投資は見事にうまくいきつつあり、アームを起点としてAI関連投資への意欲をさらに強めている。

■ボストンの医者が「リモート執刀」も可能に

それはともかく、わたしがここで紹介したいのは、孫さんが、アーム社を買収することによって、世の中に何をもたらしたいと思っているか、という点だ。

『いずれ起業したいな、と思っているきみに 17歳からのスタートアップの授業 アントレプレナー列伝 エンジェル投資家は、起業家のどこを見ているのか?』
古我知史『いずれ起業したいな、と思っているきみに 17歳からのスタートアップの授業 アントレプレナー列伝』(BOW BOOKS)

かれはそれを説明するために、医療現場への活用を例に挙げた。

いま、ダビンチという手術ロボットがあるのは知っているだろうか?

たとえば、京大病院に、すごく繊細な脳外科の手術が必要な患者がいたとする。残念ながら、京大病院にはそれができる医師がいない。というより、その手術ができる医師は、世界に一人しかいない。そのくらい難しい手術だ。しかし、その医師がいるのは地球の裏側、ボストンだ、としたら?

そこに登場するのが最先端の手術支援ロボット、ダビンチだ。これを使えば、その地球の裏側にいる天才脳外科医がリモートで執刀できる。

SFではない。実際にすでに技術的には可能になっている。そして、それを可能にしているのが、5Gという高速大容量の通信インフラであり、その通信インフラを使って現場で執刀するのがダビンチであり、そこに用いられているのが、アーム社のチップだ、というわけだ。

■大風呂敷を広げるだけで終わってはいけない

メスを入れる場所が少しでもずれてしまったらどうするんだ、と心配するかもしれないが、実は、人間の指だって揺れる。むしろ、ロボットアームがAIで人間の指の揺れをコントロールする。京大病院では7~8mmの孔に内視鏡カメラとロボットアームを挿入して、微細で緻密な内視鏡手術手技が適応できる症例がどんどん増えている。

さすがに、脳外科手術まではいっていないが、前立腺がんや食道がんや直腸がんなどの手術などには用いられ始めていて、人間が行うよりはるかに少ない出血量で外科手術ができる。成功率も高いと実証されている。

孫さんの話はこの辺でやめておこう。メガロマニア系の代表として紹介させていただいた。

復習すると、メガロマニアというのは、要は、あいつ、いつもでかいこと言っているねって言われるようなやつのことだ。人から敬遠されがちではあるけれど、もし、そういう傾向が自分にもあるとしたら、それは誇らしいことだと思っていい。

もちろん、常に大風呂敷を広げるだけで、何も行動しないというのは論外だ。お話にならない。大風呂敷を広げたら、それに向けて、目の前のことから始める、一生懸命続ける。行動が伴うのであれば、いつか事をなし得る。必ず成功する、というわけにはいかないが、やり続けるのみだ。

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古我 知史(こが・さとし)
ウィル キャピタル マネジメント代表
早稲田大学政経学部政治学科卒業後、モンサント、シティバンク、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどを経てウィルキャピタルマネジメント株式会社を設立、80社の起業、事業開発や投資育成の現場に、投資も含め、直接参画してきた。九州大学大学院客員教授、FBN(ファミリービジネスネットワーク)ジャパン理事長、一般社団法人衛星放送協会外部理事などを歴任。橋下徹が大阪市長時代に進めていた大阪都構想に参加。大阪府市統合本部特別参与として、経済部門を担当した。現在、県立広島大学大学院客員教授、京都大学産学官連携本部フェロー、IPOを果たしたベンチャー企業の取締役などを兼任。主な著書に『戦略の断想』(英治出版)、『もう終わっている会社』(2012年ディスカヴァー)、『リーダーシップ螺旋』(晃洋書房)などがある。

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(ウィル キャピタル マネジメント代表 古我 知史)

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