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部下の呼び方は「さん」づけが8割…多くの上司が「自分の頃と同じように育てられない」と悩んでいるワケ

プレジデントオンライン / 2023年11月28日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi

ここ数年で職場環境は大きく変化している。リクルートワークス研究所の古屋星斗さんは「われわれの調査結果によると、かつて日本の上司は『叱責型』が多かったが、現在は多くが『褒める型』に移行している。しかし、この大きな変化に対して、『自分の頃と同じように育てられない』と悩むマネジャーも少なくない」という――。

※本稿は、古屋星斗『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』(日本経済新聞出版)の第5章「若手を育成できる管理職、できない管理職」の一部を再編集したものです。

■職場環境が激変し、若手育成が困難に

多様化・多極化する若手と急速に変わる職場環境。ここ数年で顕在化した「ゆるい職場でどう育てるのか」という新しい課題。2010年代後半以降、急速に変化した日本の職場において、若手をどう育成していくべきか。その方向性を探るべく、筆者は様々な調査を実施したり参画したりしてきた。

第5章では、職場環境変化の影響をいち早く受けた大手企業で20代社員のマネジメントを直接行っている課長級管理職を対象とする調査を中心に、現代の若手育成とマネジャーの介在についてわかってきたことを紹介する。現代日本に現れた新しい「若手と職場の関係性」について、若手を育てる者たちの目線から検証する。

後に詳しく触れるが、いま若手育成は構造的に困難な状況にある。それは若者の多様化・多極化と職場環境の激変に端を発して、具体的に言えば育てる側のマネジャーたちが「自分たちが育ったやり方と全く違う方法論で若手を育てなくてはならない」という難しさである。筆者は、若手育成における、もう一方の忘れてはならない“当事者”としてマネジャーに注目している。

■若手を育てる当事者「マネジャー」への調査

調査については、管理職の若手育成に関する定量調査として、1000人以上の従業員規模の課長級管理職(正規の社員・従業員である者)、29歳以下・正規社員の部下を1名以上持つ者を対象として実施した。実施時期は2023年3月17日〜20日、無効な回答を除外しサンプルサイズは1083であった。

調査対象の属性を整理する(図表1)。回答者は年齢では50代が最も多く54.6%、次いで40代が35.8%であった。性別では男性がほとんどで95.3%である。

【図表1】調査対象者(大手企業で29歳以下の社員を部下に持つ課長級管理職)の属性
『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』より

筆者もさすがに男性が多すぎると感じたが、近年の類似調査でも大企業の女性管理職割合は同様の値としている調査が多くあり(例えば、2022年の帝国データバンクの調査では大企業の女性管理職割合は6.8%であった)、現在の大手日本企業の回答割合として妥当な数字と判断できる。業種、従業員規模については図表1を参照いただきたい。

また、部下のマネジメントをする「課長」の経験年数についても掲載しておく(図表2)。最も多いのは10年〜15年未満で20.3%、続いて7年〜10年未満が17.0%、3年〜5年未満が16.8%であった。ベテラン管理職から比較的年数が浅い管理職まで回答を得ている。

【図表2】部下の人事評価を行う「課長」を務めている年数(のべ年数)
『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』より

■3人に2人のマネジャーが週1回以上部下を褒める

さて、調査対象者の若手マネジメントの状況を描写するために、いくつか結果を紹介する。

「現在何名の若手をマネジメントしているか」という質問に対しては、「2〜3名程度」が34.9%と最も多く、次いで「1名程度」が24.5%であった(図表3)。マネジメント対象となる若手は3名以下、という管理職が合わせて6割近くであった。

【図表3】「現在、何名くらいの若手(29歳以下)の人事評価を行っていますか」質問への回答
『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』より

また、「マネジメント対象の部下の何%くらいが若手か」という質問に対する結果は図表4に示している。「25%未満」が36.2%と最も多く、次いで「25%」が29.3%であった。

【図表4】「現在、あなたが人事評価を行っている部下のうち何%くらいが若手(29歳以下)ですか」質問への回答
『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』より

これらの結果から調査対象の管理職の平均像としては、「数名程度の20代の若手がいる、10名前後のチームを率いる立場」にあると考えられる。

それでは、若手とのコミュニケーションスタイルなどを見ていこう。調査では様々な項目に回答を得ているが、図表5にその一部を整理した。

【図表5】若手とのコミュニケーションスタイルとその頻度
『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』より

「職場の部下を褒めたり、たたえたりする機会」については、11.7%が「毎日のように」、29.9%が「週に数日程度」、25.0%が「週に1日程度」あったと回答している。およそ9人に1人のマネジャーが毎日のように20代の部下を“褒めたり、たたえたり”しているし、合わせて66.6%、3人に2人のマネジャーは週に1回以上は“褒めたり、たたえたり”しているということだ。

■マネジャーは「叱責型」から「褒める型」へ移行

十数年前の筆者の新入社員時代と比べても、良い時代になったものだ。思えば遠くに来たものだと感慨を感じざるを得ない。しかし、これは現在の肌感覚にも合う結果だという方が多いのではないか。

また、「職場の部下にフィードバックや指導をする機会」では、頻度はそれぞれ、9.6%、20.6%、17.5%であった。合わせて47.7%が週に1回以上フィードバックや指導をしているが、合わせて66.6%だった“褒めたり、たたえたりする”よりもフィードバックや指導の頻度は相対的に低い。差し引きマネジャーの2割近くが“たくさん褒めているがそれほどフィードバックはしていない”という状況にある。

他方で、「職場で部下を叱責(しっせき)する機会」については同様に頻度の高いほうから、2.0%、5.4%、10.8%となっており、週に1回以上あった回答者は合わせても2割未満(18.2%)に過ぎない。

こうした結果はいまの感覚とは合致する方が多いと思うが、ここで立ち止まって考えていただきたい。読者諸氏が若手だった頃と比べてどうだろうか。よく褒める上司が約7割で、よく叱る上司が約2割なのだ。

十数年前までは逆だったのでは? とも感じてしまうが、お伝えしたいのは日本のマネジャー――若手のコミュニケーションスタイルは、“叱責型”から“褒める型”に移行しつつあることが調査結果からも示されていることである。その結果、若手はどんどん育つようになるのだろうか。

■「飲みニケーション」「武勇伝語り」は一掃された

若手への具体的な働きかけについても調査で聞いている(図表6)。

【図表6】若手への具体的な働きかけの頻度
『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』より

筆者が率直に驚いたのは、「終業後などに、若手と飲食店・居酒屋等に行く」という項目に対して、「全く行わなかった」が29.0%に達し、「あまり行わなかった(1年で1〜2回)」27.7%と合わせて、実に56.7%が若手との飲み会を年に1〜2回以下しか実施していなかったことである。

調査実施時期は2023年3月であり、コロナショックが冷めやらぬ時期であったために仕方のないことかもしれないが、新型コロナウイルス感染症の影響の大小にかかわらず、若手との関係性が大きく変わりつつあることを改めて実感する方が多いのではないか。職場によっては、かつて上司・先輩と終業後に週に2〜3回は飲みに行った、という職場もあっただろうが、いまやほぼ一掃されたと言っていい。

また、「自分の成功体験を部下に話す」も頻度が高くないのは、飲み会の頻度が低いことと関係があるだろうか。“武勇伝を若手に話す”というシチュエーションは広く「かっこ悪い上司像」として捉えられており、マネジャー側が自制的になっているのかもしれない。

また、「自分の失敗談を部下に話す」よりも、成功体験を話す頻度がかなり低い点も興味深く、サーバントリーダーシップなどリーダーシップ論も異なる展開を見せてきたこともあり、日本のマネジャー像が変容していることがよくわかる。

■気遣いのあまりイベントや勉強会に部下を誘えない

頻度が高い回答が多かったのは、「部下にわからないこと、不明確なことがあるかどうか確認する」や「部下のやりたいこと・やってみたいことを聞く」などであった。20代の部下に「わからないことはある?」と確認したり、「やりたいことはある?」と聞いてみる。

若手の部下に“心配り”“気遣い”をするような働きかけの頻度が高い状況のようだ。

他方で、「部下に自身の知り合いを紹介する」や「イベントや社内外の勉強会等に、部下を誘う・紹介する」は頻度が最も低く、若手に機会を提供するような働きかけがほとんどされていないこともわかる。心配りや気遣いはしているが、機会は提供していないのだ。

以上のような働きかけの効果の検証結果は後ほど示す。

■部下を「さん」づけするマネジャーは8割

ここで、マネジャーと若手のいまの関係性が一目でよくわかる結果をお見せしたい。若手への“呼び方”だ。

マネジャーが20代の部下をなんと呼んでいるのか、その結果は図表7のとおり。「さん」づけが79.3%に上っており、次いで「ちゃん」「くん」づけが25.2%であった。呼称がハラスメントの土壌にもなりうると認識されていること、また上司にも役職呼びでなく「さん」呼びを呼び掛ける企業もあるなどの背景から、「さん」づけが圧倒的な多数派となっている。

【図表7】部下の若手の呼び方(複数回答)
『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』より

ちなみに、こちらは当事者側(大手企業の若手社員)にも、同様の調査をしており、その調査では「さん」づけが77.4%であった。「ちゃん」「くん」づけなど他項目含め、ほとんど同じ結果となっており、呼称に関する実態がよくわかるだろう(なお蛇足だが、筆者が新入社員時は「くん」づけおよび「ニックネーム」呼びであった。上司に「古屋さん、ちょっと来てくれる?」などと呼ばれたら、何かとんでもないことをやらかしてしまったのでは……と戦々恐々だっただろう)。

■「自分が若手のころより職場がゆるい」と思うマネジャーが多数

職場観についてはどうだろうか。「現在の職場をゆるいと感じる」かどうかについては、「あてはまる」8.3%、「どちらかと言えばあてはまる」31.9%で合計40.2%が“ゆるい”と感じると回答している。これは当事者側への調査における36.4%と比較してほぼ同水準かやや高い割合であった(図表8)。

【図表8】マネジャーの職場観
『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』より

「ゆるい職場」には複層的な意味があると考えられるが、マネジャーへの調査ではより掘り下げた質問をした。例えば、「現在の職場は自分が若手の頃と比べると、ゆるくなったと感じる」か、管理職自身の過去を想起させたうえで聞くと、「あてはまる」は21.9%、「どちらかと言えばあてはまる」は41.0%で合計62.9%に及ぶ。

逆に「あてはまらない」は3.7%、「どちらかと言えばあてはまらない」は7.2%で合わせても10.9%と1割程度に過ぎない。

大多数のマネジャーが自分の若手の頃と比べると職場が「ゆるく」なっていると答えていた。現在の管理職が若手だった頃と比べれば、若手を取り巻く職場の状況には大きな変化があると多くの人が感じているのは偽らざる実感と言えよう。

「現在の職場は自分が若手の頃と比べると、若手がプレッシャーやストレスを感じるようなシチュエーションが少なくなったと感じる」では、「あてはまる」「どちらかと言うとあてはまる」を合わせて50.6%であった。

■「自分の頃と同じように若手を育てられない」

管理職としての若手育成・マネジメントに関する悩みや課題感について、いくつか取り上げる。図表9に、管理職に、これまで直面した若手の離職やその人数を尋ねた結果を示した。

【図表9】「これまで自身の部下である若手の離職に直面したことがありますか」質問への回答
『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』より

「少数だがある(2〜4名)」が36.4%と最も多く、「ない」32.8%がこれに続く。なかには、「多数ある(10名以上)」という回答者も7.2%存在していた。集計すると、実に全体の3人に2人以上、67.3%の管理職が20代部下の離職に直面した経験があった。

また、若手のマネジメントに関する日々の課題感について複数回答で聞いた(図表10)。最も多かったのは「自分の頃と同じように育てられない」(34.4%)、次いで「若手育成と労働環境改善の両立が難しい」(31.4%)、「若手の成長にとって十分な業務経験や機会が提供されていない」(29.1%)であった。

【図表10】若手社員の育成・マネジメントについて感じている点(複数回答)
『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』より

若手を取り巻く職場環境が変わるなか、自分の頃の成功体験が通用せず、かつ労働環境改善が大前提となったなかで、自身は果たして十分な成長機会を提供できるのか、という日々の課題感が浮かび上がる。

■「若手が育たない」と感じるマネジャーは75%

この章の冒頭で、現在の若手育成を難しくしている背景として、若手の多様化・多極化と職場環境変化により「自分が育ったように、若手を育てることができない」という点を指摘した。

古屋星斗『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』(日経BP)
古屋星斗『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』(日本経済新聞出版)

どんな動物であっても、自分が育てられたやり方で子どもや若い世代を育てる。それは過去のどんな人間でもそうだったのではないか。自分の若い頃の経験で「良かった」と感じた経験をもとに子どもたちや若者を育ててきたのだ。その当たり前ができなくなっているのだ。

その当たり前の代表はOJTで得られた経験だろうし、尊敬できる上司・先輩をロールモデルとして育てる方法や、はたまた同じ釜の飯を食って育てるとか、石の上にも三年いれば暖まる式の育成ということかもしれない。

こうした日々の課題感は若手育成上の直接的な悩みとなって浮上している(図表11)。

【図表11】若手育成上の悩み
『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』より

「若手が十分に育っていないと感じる」管理職は、「いつも感じた(毎日のように)」12.7%、「しばしば感じた(週に1〜2回程度)」24.9%、「たまに感じた(月に1〜2回程度)」38.3%であり、感じた合計では75.9%に達した。

さらに切迫した悩みとして「このままでは職場の若手が離職してしまうと感じる」についても、感じた合計では65.0%とほぼ3人に2人が悩んでいる状況にあることがわかる。

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古屋 星斗(ふるや・しょうと)
リクルートワークス研究所主任研究員
1986年岐阜県生まれ。リクルートワークス研究所主任研究員、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。2011年一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、「未来投資戦略」策定に携わる。2017年4月より現職。労働市場について分析するとともに、学生・若手社会人の就業や価値観の変化を検証し、次世代社会のキャリア形成を研究する。

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(リクルートワークス研究所主任研究員 古屋 星斗)

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