「女性だから"少なめ"」は大間違い…伸び悩んでいた日清食品冷凍「汁なし担々麺」を急成長させた意外な改良内容
プレジデントオンライン / 2023年12月4日 11時15分
■冷凍食品の工場出荷額は過去最高
日本風に味付けを変えることなく、本場そのままの味を楽しめる中国料理「ガチ中華」が人気だ。そのガチ中華ファンを唸らせ、日本で暮らす中国人たちまでも満足させる本格的な味がSNSなどで話題の冷凍食品がある。それが、日清食品冷凍の中華ブランド「日清中華」シリーズだ。「担々麺」や「ビャンビャン麺」など、一度食べたらやみつきになる味を自宅で手軽に体験できる。その人気の裏側について、日清食品冷凍の担当者に話を聞いた。
まず、日本の冷凍食品は市場全体が好調となっている。日本冷凍食品協会の発表によると、2022年の冷凍食品生産量は約160万トンで、これは、過去最高を記録した2017年とほぼ同水準だ。金額(工場出荷額)においては、前年比4%増の7639億円で、調査開始以来最高となった。
好調な冷凍食品の中でも、近年、大きく伸びているのが麺類である。日本冷凍めん協会の発表によると、2022年の冷凍麺の生産量は約20億食で、前年比12.2%増だ。このうち、過半数の11億食を「冷凍うどん」が占めており、うどんは冷凍麺の代表格といえる。一方、グングンと急成長しているのが「中華めん」である。中華めんは約3億5200万食で、前年比20.7%増、市販用に限ると前年比30.7%増という急激な伸びを見せている。「本格的な味わいを楽しめる」と支持を集める中華めんは、好調な冷凍食品の中でも、特に活気づいた成長市場になっている。
■中国由来の汁なし麺「ばん麺」
話を聞いたのは、日清食品冷凍マーケティング部次長の三島健悟さんだ。三島さんによると、冷凍麺の市場は、「冷凍うどん」の誕生を皮切りに拡大していった。また、冷凍ラーメンは、太麺のちゃんぽんがメインだったが、近年では、「ラーメンらしいラーメン」の開発が進められているという。カップや袋の即席麺では、お湯を注いで食べる「汁あり麺」が主流なのに対して、冷凍ラーメンでは「汁なし麺」がここ数年で急速に伸びている。
日清食品冷凍では、汁なし麺を2種類に分類して、商品開発を行っている。1つは、日本のラーメン由来の「まぜ麺」である。まぜ麺は、麺のうまさやボリューム、味の強さを特徴としていて、メインターゲットに想定されているのは男性層だ。もう1つは、中国由来の汁なし麺「ばん麺」である。ばん麺は、唐辛子・花椒・山椒・胡麻といったスパイスや調味料の芳醇(ほうじゅん)な香りと旨味が特徴で、メインターゲットは女性層となっている。この後者のばん麺を中心に扱うブランドが、「日清中華」だ。
■リニューアルで内容量を増やし「大盛り」と記載
「一度食べたらやみつきになる、この一皿。本格中華麺がご家庭で簡単に堪能できる。」と銘打つ「日清中華」は、もともと、2011年に発売された「冷凍 日清中華 上海焼そば」から始まった。当時、冷凍食品ではブランドではなく商品単体で展開されることが一般的で、「上海焼そば」も1つの商品として展開されていた。この商品だけで使われていた「日清中華」というフレーズが、数年後にブランド名として抜擢されることになる。
2013年には現在の「冷凍 日清中華 汁なし担々麺 大盛り」の前身にあたる「冷凍 日清の汁なし担々麺」が発売されたが、思うようなヒットにはならなかった。そこで2014年、冷凍生パスタがヒットしていたことを受けて、伸び悩む「冷凍 日清の汁なし担々麺」を、冷凍生パスタと同様のスタイルでリニューアルをした。
もともと丸麺でソースは後がけだったものを、冷凍生パスタにならい、平打ち麺にしたほか、ソースと麺を絡めた状態で急速冷凍し、レンジで温めるだけですぐ食べられるワンタッチ調理に変更した。さらに、コストパフォーマンスに優れていることを強調するため、内容量を増やし、商品名にも「大盛り」と記載した。メインターゲットに選んだのは、食の経験が豊富で、新しい食への好奇心が旺盛な30~50代女性である。
■年間売上20億円規模のヒット商品に
手軽さとコストパフォーマンスを際立たせたリニューアルが功を奏し、「冷凍 日清中華 汁なし担々麺 大盛り」は売上を伸ばしていった。「大盛り」を強調することは、一般的に男性層に対して有効なメッセージとなるが、「冷凍 日清中華 汁なし担々麺 大盛り」が打ち出した「大盛り」は女性層にも有効なメッセージとして受け入れられた。女性層に向けた商品には内容量をあえて少なめにするものも少なくないが、逆に「大盛り」とハッキリ打ち出すことで、目に見える形でお得感が伝わり、支持を集めることができたと考えられる。
2015年には、冷凍食品では珍しかった別添パックで「花椒入り唐辛子」を添付し、食べる直前にかける形にさらなるリニューアルを行った。辛さやしびれは、人それぞれ好みやちょうど良さが異なるため、自分で後がけする量を調整できるようにして、自分の「ちょうどいい」を作れる商品に改良したのである。これによって、辛さやしびれに関して、あまり得意ではない消費者から、大好きなガチ中華ファンまで、幅広い人々の舌を満足させられる商品となった。
この商品を核として、2018年からブランドでの展開が始まったのが「日清中華」である。「汁なし担々麺 大盛り」と「上海焼そば 大盛り」の2商品を軸に、中国本場の「ばん麺」の本質を追求して磨き込むブランドとして、徐々にバリエーションが拡充されていっている。現在は6つの商品が展開されているが、ブランドの核は変わらずに「汁なし担々麺 大盛り」で、年間売上20億円規模のヒット商品に成長し、2023年上期も前年比2桁成長を続けている。発売10周年にあたる2023年は、「花椒入り唐辛子」に爽やかな香りの「青花椒」をプラスした「Wスパイスパック」付きの数量限定品を販売するなど、キャンペーンを積極的に展開した。
■「大盛り=若者・男性がターゲット」を疑う必要がある
「冷凍 日清中華 汁なし担々麺 大盛り」のヒットにおいて、特にユニークなのは、「大盛り」が女性層から支持されている点だ。「大盛り」といえば、当然、若者・男性がターゲット。「少なめ」「小分け」なら、女性・シニアがターゲット。これらは、食品業界では常識ともいえる認識だろう。しかし、一度、疑ってみる必要がある。
同じような事例に、森永製菓のモナカアイス「バニラモナカジャンボ」がある。「ジャンボ」と名前に付けたアイスだから、当然、子供や若者から支持されていると思うだろう。しかし、じつはこの商品の購入者の4割以上は60代と70代で、シニア層からも支持を集める商品になっているのだ(2020年の販売データに基づく)。
その背景を探ってみると、棒やカップの他のアイスと比べて、「アイスが少し溶けても、周りのモナカが支えてくれるから、ゆっくり食べられる」「何か別のことをしながら片手で持って食べる『ながら食べ』にちょうどいい」「食べきれない分はモナカごと折っておいて保存しやすく、無理に食べきらなくてもいい」といったシニア層の本音が見えてきたという。しかし、こうした本音は、事前のリサーチではなかなか表に出てこないものだ。
■女性層の「本音のニーズ」に応えてヒット
インタビューやアンケートでは、本音は建て前に姿を変えやすい。だから、「アイスが沢山食べたい」「コストパフォーマンスに優れたアイスを選びたい」「『ながら食べ』をしやすい方が良い」といった本音は表に出てきにくい。その代わり、「健康のためにアイスは控えている」「高価格帯のアイスを選びやすい」「食べきれる小サイズの方が良い」「行儀の悪い『ながら食べ』はしない」といった建て前が回答されやすくなる。
日清食品冷凍の「冷凍 日清中華 汁なし担々麺 大盛り」も、女性層の心の奥底に普段は隠されている「本音のニーズ」に応えたことが、ヒットに結びついたと考えられる。リサーチをしても本音は教えてくれないかもしれないが、じつは、人目を気にせず、自宅で食べられる冷凍食品だからこそ満たせる本音のニーズがあるはずだ。それは、例えば、食べすぎの背徳感を感じながらも、ある種のご褒美感覚で「おなか一杯、沢山食べたい」という本音のニーズがあるだろう。また、一度で食べきれなくても残った分を後でまた食べればいいと考えることによる、「1.5食~2食分になる」といった節約意識に関する本音のニーズもあるだろう。
隠れた本音のニーズを掘り起こすことで「冷凍 日清中華 汁なし担々麺 大盛り」はヒット商品に成長した。さらにそのヒットによって、ブランド内の他の商品も試してみてハマる消費者が増えていく好循環ができ、「日清中華」はブランド全体として右肩上がりの成長を進めることに成功している。
■メインの販路が食品スーパーに偏りやすい
ただし、「冷凍ラーメン」という商品ジャンルそのものについて、一度も食べたことがない人や、食べたことはあってもまだ食習慣として定着まではしていない人がまだまだ多いことは確かである。そのため、冷凍ラーメン全般にも、「日清中華」ブランドにも共通する大きな課題となるのが、「もっと知ってもらう」と「試しに食べてもらう」だ。
冷凍食品は、メインの販路が食品スーパーに偏りやすい。冷凍食品売り場スペースも、近年広がってきているとはいえ、まだまだ狭く制限されている。「日清中華」は、2021年にテレビCMを展開するなど、認知の拡大に努めているが、商品・ブランドが消費者と出会うコンタクトポイントは即席麺などと比べると多いとはいえない。
「こんなに簡単」「こんなに美味しい」を伝えて、手に取って体験してもらえなければ、どれだけ商品力が高くても、その効果は発揮されない。特に「日清中華」は、「ビャンビャン麺」など、日本では馴染みの薄い中華メニューを商品化することが珍しくない。そのため、店頭での出会いが制限されている以上、SNSを中心としたオンラインでの接点を増やしていく取り組みの重要性が高くなる。ターゲットに合わせたSNSマーケティングやインフルエンサーの活用などを、より積極展開していけるかが課題になるだろう。
■冷凍食品には先入観や思い込みがまだまだ残る
コロナ禍によって、自宅での食事機会の増加に伴い、冷凍食品へのニーズが拡大し、これまで冷凍商品を食べてこなかった人が手軽さと美味しさに気づくことが増えた。日本冷凍食品協会の調査では、「コロナ禍をきっかけに冷凍食品の利用を始めた」という人が、男女ともに回答者の約10%にのぼり、特に若い年代ほど、その割合は高くなっている。また、冷凍食品を利用することが増えた理由として、最多の回答は「手軽さ」だが、大きく伸びている回答は「美味しさ」になっている。
冷凍食品というジャンル全体が伸びていて、なおかつガチ中華ファンが増えている現在は、「日清中華」にとって、さらなる成長を狙う大きなチャンスといえる。そのチャンスを活かすには、「冷凍なのに、意外と美味しい」ではなく、「冷凍だから、こんなに美味しい」「冷凍だから、この味を実現できた」という商品の開発と、商品情報の発信に注力することが効果的となる。未経験や、先入観・思い込みがまだ色濃く残る冷凍食品だからこそ、商品力とプロモーション力で消費者を説得し、納得させることができれば、大きな驚きと感動を体験させて、ファンに変えることが狙えるだろう。
【参考文献】
・日本冷凍食品協会「令和4年(1~12月)の冷凍食品国内生産」
・&table by 大阪王将「冷凍めんは美味しい! 年間20億食!!もはや「国民食」というはなし」2023年4月20日
・一般社団法人 日本冷凍食品協会「全国の25歳以上の男女1250人に聞く“冷凍食品の利用状況”実態調査結果について」2022年4月
・日清食品グループ「日清中華」
・日経XTREND「森永のバニラモナカジャンボがシニアに人気 チョコ“耳”の大改革」2021年5月26日
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高千穂大学商学部准教授
1986年生まれ。専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)、『嫉妬を今すぐ行動力に変える科学的トレーニング』(秀和システム)、『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』(イースト・プレス)などがある。
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(高千穂大学商学部准教授 永井 竜之介)
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