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講演会の打診が年1000件、報酬1回100万円超の例も…箱根駅伝で潤う「プロ監督vs 教員監督」という大分断

プレジデントオンライン / 2023年11月28日 11時16分

都内電車内に掲出された99回大会の中吊り広告 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

箱根駅伝の隆盛とともに各大学には指導を専任とするプロ監督が増えている。スポーツライターの酒井政人さんは「関東地区の指導者は箱根駅伝によって生活が潤っている、との指摘や、選手スカウトを巡って一部でモラルが完全に崩壊しているとの指摘もある」という――。(後編/全2回)

※本稿は、酒井政人『箱根駅伝は誰のものか「国民的行事」の現在地』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。

■箱根駅伝は監督のためにあるのか

箱根駅伝は学生ランナーの“夢”でありながら、選手たちの人生を翻弄(ほんろう)している。

では、箱根駅伝は誰のためにあるのか。筆者の問いに、ある大学の監督(プロ監督ではなく、教員監督)はこう言い切った。

「学生のためではないでしょうね。私は関東学連とも思いません。箱根駅伝を共催している読売新聞や特別後援している日本テレビ。あとは自分の地位を守りたい、大学の監督のための駅伝だと感じています。読売新聞と日本テレビは広告収入を考えても収益があります。関東地区の指導者(監督、コーチ)は箱根駅伝によって生活が潤っていますから。そのせいか、指導者も選手と同じでカン違いしている者がいます」

現在、箱根駅伝を目指して本格強化している大学は40校以上あるだろう。25年ほど前はわずかな手当てでやっていたOB監督や教員監督が中心だったが、近年は陸上部の指導を専任とする“プロ監督”が増えている。箱根駅伝の注目度がここまで高くならなければ、現在のような状況にはならなかったはずだ。

監督の影響力という意味では、第96回大会(20年)で青山学院大学が2年ぶり5度目の総合優勝を飾った直後の記者会見で原晋監督が最初に発した言葉を思い出した。

「4連勝をさせていただいた頃は当たり前のことを当たり前のようにやった結果として優勝できました。特に感激が湧き上がることはなかったですけど、昨年敗れまして、原の活動を否定する者もなかにはいらっしゃったように聞いております。私は陸上界の発展のために、スポーツ団体に負けない組織作り、魅力作りのアイディアを各媒体などで発信しております。そのことを追求していくためにも、やはり勝たなければいけないという思いが私の心のなかにありました。それで1年間、ある意味、私のわがままを聞いてくれた学生たち、特に4年生に感謝したいと思います。本当にありがとう、そんな気持ちで一杯です」

筆者には原監督が自身の“ブランド力”をキープするために、「勝ちたかった」と聞こえてしまったのだ。「箱根駅伝は監督のためにある」と思われても仕方ないだろう。

原晋監督はテレビのバラエティ番組で自身の年収を「プロ野球監督ぐらい」とコメントしており、2~3億円もの年収があるようだ。その内訳はというと、問い合わせだけで年間1000件は超えるという講演会(1回の報酬は100万円以上)が大きい。なお原監督は2019年度から大学教員になったため、青山学院大学からの給料は下がったようだ。

原監督ほどではないが、学生長距離界の指導者は“報酬”が良い場合が多い。筆者がこれまで取材で聞いた話では、プロ監督は年収1000万円前後が多く、なかには2000万円ほどの報酬が出ている指導者もいるようだ。プラスして成功報酬を受け取っている監督もいるという。一方、職員(教員)監督は、各大学に準じた給料となる(監督としての報酬は基本発生しない)。

プロ監督の方が報酬は高くなるが、結果がすべて。強豪大学のある監督は、「箱根は陸上界にとって悪ですよ」と本音を漏らしたことがある。それは「世界」につながらないという意味だ。大学としては、オリンピック選手を輩出するより、箱根駅伝に出場する方がPRになる。当然、指導者も箱根駅伝で活躍できるチーム作りを期待される。それが現在の箱根駅伝の構図。人気が高すぎるゆえの弊害だ。

■大学陸上部の金銭関係はクリーンか

スポーツ界を取り巻く環境は変化している。NCAA(全米大学体育協会)は、選手たちが自身のパブリシティー権を使って収入を得ることを認めた。協会や大学が巨額の収益を得るのに選手に還元されないのはおかしい、という声が上がったからだ。箱根駅伝も変わっていく可能性がある。

駅伝出場校
撮影=プレジデントオンライン編集部
都内電車内で掲出された99回大会の中吊り広告 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

現在、箱根駅伝に出場するチームの収入面でいうと、ユニフォームのサプライヤー契約が最も大きい。大手外資系企業の場合、年間で3000~5000万円のサポートがあるという。一方で、国内メーカーとのサプライヤー契約はウェアだけの提供が中心であるケースが多い印象だ。

酒井政人『箱根駅伝は誰のものか「国民的行事」の現在地』(平凡社新書)
酒井政人『箱根駅伝は誰のものか「国民的行事」の現在地』(平凡社新書)

2021年からはユニフォームにスポンサーの広告ロゴを表示できるようになった。数百万円から1000万円ほどが相場だが、他にも人気チームには各メーカーから広告絡みのオファーが舞い込んでくる。そういったお金は大学ではなく、陸上部との契約になるため納税義務はない。ただし、個人に支払われているギャラがあるとすれば、それは別問題だ(有名監督になれば個人会社を設立して税金対策をしている)。

昔のプロ野球選手ほどの規模ではないが、有力選手獲得のためには、高校の指導者に裏金が渡されるケースもあるようだ。その場合、他の大学は完全にブロックされるため、高校を通さず、直接、家族のもとに向かい、なおかつ金銭を渡しているスカウトもいると聞く。一部ではモラルが完全に崩壊しているようだ。

箱根駅伝で巨額なお金が動くことが明らかになっている以上、主催者である関東学連は財務内容を明らかにする必要があるのではないだろうか。それから各陸上部、指導者の税金問題は大丈夫なのか。箱根駅伝が美しいままでいるためには、お金の問題をスッキリさせなければいけない気がしてならない。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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