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3年会わなければ、かつての親友もただの知人になる…進化心理学者ダンバーが教える「親近感」の残酷な法則

プレジデントオンライン / 2023年11月30日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

友人と良好な関係を保つにはどうすればいいのか。オックスフォード大学名誉教授のロビン・ダンバー氏は「3年会わなければ、かつての親友もただの知人になる。学生を対象にした実験では、継続的に会う努力をしないと『親近感』はわずか数カ月で減りはじめ、1年後には平均で約15%も減少していた」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、ロビン・ダンバー『宗教の起源――私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか』(白揚社)の一部を再編集したものです。

■なぜサルは「毛づくろい」を大切にするのか

サルと類人猿――ヒトも類人猿と同じ科に属する――は集団生活をするが、それはほかの哺乳類や鳥類のやりかたとは大きく異なっている。事実それは「暗黙の社会契約」と呼べるもので、集団は捕食者や近隣集団といった外的脅威から構成員を守るために存在する。集団防衛といってもほとんどの場合消極的で、積極的に戦う必要はない。捕食する側(ヒトを含む)も、大集団にわざわざ攻撃をしかけないからだ。

いっぽう鳥類と哺乳類のほとんどは、捕食者の脅威があると一時的に寄りあつまるが、脅威が去ったら解散する。次の危機まで自由行動だ。集団を形成する「誰か」がいればいいわけであって、おたがい誰かは知らないし、たいていは気にしない。

対照的に、霊長類の集団はたがいにつながりを持ち、ほかの構成員が誰であるかが重要だ。そのため、おたがいを見失わないよう多大な努力を払う。知らない者が集団に入ってくると疑ってかかるし、外的脅威には力を合わせて立ちむかう。この団結力は、おたがいに毛づくろい(社会的グルーミング)を繰りかえし、絆を結んで維持することに多大な時間をかけた結果だ。

この結束の過程は、宗教の進化を説明するうえで不可欠な部分なのだが、これは次章で取りあげる。いずれにしても、こうした団結した集団はほかの哺乳類や鳥類がつくるその場かぎりの集団とは性格が大きく異なる。霊長類並みに社会性が強い集団をつくるのは、一雄一雌でつがいになる多くの鳥類や小型哺乳類だけである。ただしサルや類人猿の場合、50頭かそれ以上の集団でも緊密な関係をつくり、維持することができるといったちがいがある。

■社会集団の大きさは脳の大きさが決める

ただし集団の接着剤となるのは、社会的グルーミングだけではない。集団が保護連合として機能するのは、各自が集団の全員を知っていて、よく理解しているからだ。動物界のなかで霊長類の社交性が際立っているのは、この認知に関わる部分のおかげだ。そこに着目したのが社会脳仮説である(*4)

脊椎動物の脳は、ときに不利な状況でも生存の可能性と生殖の成功率を最大化するために、環境に効果的に関われるように進化してきた。とはいえ霊長類では、ゾウやクジラといったほかの動物にくらべると、身体の大きさに対して脳が極端に大きい。それは、動的で複雑な結束社会集団で生きていくのに必要な計算力を身につけたためだろう。

霊長類の社会集団に高度な計算力が求められる理由のひとつは、ほかの構成員とのやりとりが、無名の個体が集まった群れとはちがい、単純な一対一の関係ではないからだ。じゃまだからあっちへ行けと脅そうものなら、当事者間の問題ではすまない。結束集団では友人も家族もいて、ひとたび攻撃されれば脅された側の全員に波紋が広がる。

彼らは助っ人に駆けつけて、将来に備えて自分たちの地位を守ろうとするだろう。同時にそれは、争いの収集がつかなくなり、構成員が集団を出ていくという事態を防ぐための取り締まりの役目も果たしている。この状況は、集団が大きくなるほど指数関数的に複雑の度を増すので、種の典型的な集団規模に比例して脳も大きくなる。こうして社会脳仮説が誕生した。

■人間「本来」の集団の大きさは約150人

社会脳仮説の核心は、種ごとの典型的な社会集団の大きさと、脳の大きさ――厳密には新皮質の大きさ――が単純な相関関係にあることだ。私たちが知恵をめぐらせるときに活躍するのが新皮質という脳の部位で、霊長類では、新皮質は脳のほかの部位にくらべて桁外れな進化を遂げてきた。

哺乳類全体では、脳の容積に占める新皮質の割合は10~40パーセントだが、霊長類では最低でも50パーセント、ヒトでは80パーセントに達する。霊長類の新皮質の大きさと集団規模の関係から、人間「本来」の集団規模を見積もることができる。サルと類人猿で得られる方程式に、ヒトの新皮質の大きさを代入すればいいだけだ。この式から予測されるヒトの集団の大きさはおおむね150となる。

この計算結果は、人間の自然な共同体の大きさ、もしくは個人の社会ネットワークの大きさ(友人と家族の数)を調べた20以上の研究で裏づけが得られている(*5)。共同体の大きさは、狩猟採集社会、小規模農業社会の村落(ドゥームズデイ・ブックという土地台帳に記録が残るノルマン朝イングランドの村、中世アルプスの放牧組合など)、さらには近代軍隊の部隊や学術研究の諸領域、ツイッターでのつながりの規模からはじきだされた。

■フェイスブックの「友だち」が多い人の特徴

個人の社会ネットワークは、クリスマスカードの送り先、SNS(接触を保っておきたい友人や家族が全員入っている)、電話の発信回数(ヨーロッパと中国で調査されている)、結婚式の招待客一覧、電子メールのアドレス一覧、フェイスブックに登録されている友だちの数(ある研究はフェイスブックの利用者6100万人が友だち認定した数をサンプルにした)、科学論文の共著ネットワークから測定された。

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写真=iStock.com/Urupong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Urupong

その平均値はすべて100~200人のあいだに収まり、全体を平均するとほぼ150人だった。調査の対象と期間が多様だったにもかかわらず、数字は驚くほど一致している。ここで大事なのは、これは私たちが種として存在するようになってからの95パーセントを過ごしてきた社会の形態、つまり狩猟採集社会の典型的な大きさということだ。

社会集団の大きさは脳の大きさが決める――この説をさらに裏づけるのが、十数件にのぼるヒトを対象とした脳画像研究だ。友人や家族(被験者が提出した名簿や、フェイスブックで認定した友だちを数えた)が多い人ほど、脳の特定領域の容積が大きいことがわかったのだ(*6)

密接につながったこの脳領域はデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と呼ばれ、前頭前皮質、側頭葉、側頭頭頂接合部(TPJ)、大脳辺縁系にまたがっている。このネットワークは、感覚入力の処理のみを担当する脳領域(脳後部のほとんどを占める視覚系など)を除いた新皮質の大部分を占めている。これらの脳領域は生命を持つものを認識し、他者の信念や精神状態を理解して、さまざまな関係を管理する。

■知人は500人、ただの友人は150人、親友は…

ここまでは一般論なので、もう少し具体的に説明しよう。何気なく観察していると、私たちは社会ネットワーク内の友人や家族を全員同じように評価しているわけではなく、親友、良い友人、ただの友人などと、かなり明確に区別していることがわかる。会ったり電話をかけたりする頻度と、相手との感情的な近さを分析すると、ネットワーク内の150人がかなりはっきりとした同心円を形成している。それぞれの円に入るのは、累計で、親友が5人、かなり親しい友人が15人、良い友人が50人、ただの友人が150人である。

図表1に示したように、同心円はさらに広がって、知人が500人、顔と名前が一致する人が1500人、顔がわかる人が5000人となる(*7)。オンラインのマルチプレイヤーゲームや、フェイスブックのやりとりでもまったく同じ構造になる。外側二つの同心円(1500人と5000人)に入るのは、個人的につきあいがあるというより、メディアを通じて知っている、あるいは町でよく見かける人がほとんどだろう。

図1 個人の社会ネットワークの同心円構造
出所=『宗教の起源――私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか』
図表1 個人の社会ネットワークの同心円構造。各同心円の数字はすぐ内側の円との累積になる(*8)。中心の円の1.5は「親密な相手」の数。多くの場合1人(恋人のことが多い)だが、人によって2人のこともあるため、1.5人になっている - 出所=『宗教の起源――私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか』

■「ただの友人」に使う時間は1日30秒足らず

注目してほしいのは、同心円内の人数が外側に向かうにつれてほぼ3倍で増えていくことだ。なぜこんなにも一定の割合で増えるのかはわからないが、この傾向はあらゆるデータセットに見られるし、さらには人間以外でも、チンパンジーやヒヒ、イルカ、ゾウなど複雑な社会で生活する動物の社会の階層構造にも当てはまる(*9)

この同心円構造の重要な特徴は、接触頻度と親近感、助力意欲に対応していることだ。お返しを期待することなく助けたい気持ちは、外側の円よりも、150人までの円の内側にいる人たちに対してのほうがはるかに強い。さらに150人のなかでも、どの層にいるかで利他行動の度合いは変化する(*10)。逆にいえば、私たちは中央の円にいる人たちに対して、必要なときに助けてもらえることを期待しているし、外側の円にいる人たちにはそんなことは期待しない。

それを確実にするために、私たちは社会的な努力の多くを中央の円にいる人たちに集中させる。1日のうち社会的交流に使う時間は平均3時間半だが、その約40パーセントは同心円の中心の5人に、60パーセントは次の同心円の15人に費やすのだ(*11)。あとのわずかな時間は、残り135人に薄く広く分配しなければならないので、1日あたり平均30秒足らずになる(*12)

■3年会わなければ、かつての親友もただの知人

ここから二つの重要な事実が浮かびあがる。ひとつは、時間と努力を惜しめば友情はすぐに薄れるということ。大学に入学する18歳を対象に行なった縦断研究で、それまでの学校時代の友人に対する親近感を測定した。すると継続的に会う努力をまったくしないとわずか数カ月で減りはじめ、12カ月後には平均で約15パーセント減少していた(*13)

ロビン・ダンバー『宗教の起源――私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか』(白揚社)
ロビン・ダンバー『宗教の起源――私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか』(白揚社)

つまり3年会わなければ、かつての親友もただの知人――以前はよく知っていたが、いまではあえて連絡は取らない相手――に格下げということだ。5年後には社会ネットワークの円からこぼれ落ちているだろう。友情は薄れやすく、たえず強化する必要があるのだ。

そしてもうひとつは、相手を助けてあげたい、精神的に、あるいはそれ以外の形で支えてあげたいという意欲は、相手が自分にかける時間で変わってくるということ。それは各同心円にいる人たちの役割も反映している。

中心に最も近い親友は、こちらが人生の危機に直面したら精神的にもそれ以外の面でもすぐに助けてくれるし、見返りも求めない――「泣く肩を貸してくれる」友ということだ。反対にいちばん外側の円の人たちは、多少の情けはかけても、こちらがどん底を脱するまで何カ月も献身的に支えてくれるわけではない。

(*4)Dunbar(1998); Dunbar & Shultz(2017)
(*5)Dunbar(2020)
(*6)Dunbar(2018)
(*7)Dunbar(2018、2020)
(*8)​Dunbar(2020)から許諾を得て再掲。
(*9)Russell Hill, Alex Bentley & Robin Dunbar(2008)
(*10)Oliver Curry, Sam Roberts & Robin Dunbar(2013)
(*11)Alistair Sutcliffe et al.(2012)
(*12)自著『なぜ私たちは友だちをつくるのか――進化心理学から考える人類にとって一番重要な関係』(Dunbar 2021)にくわしい。
(*13)Sam Roberts & Robin Dunbar(2015)

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ロビン・ダンバー(ろびん・だんばー)
オックスフォード大学 名誉教授
人類学者、進化心理学者。霊長類行動の世界的権威。イギリス霊長類学会会長、オックスフォード大学認知・進化人類学研究所所長を歴任後、現在、英国学士院、王立人類学協会特別会員。世界最高峰の科学者だけが選ばれるフィンランド科学・文学アカデミー外国人会員でもある。1994年にオスマン・ヒル勲章を受賞、2015年には人類学における最高の栄誉で「人類学のノーベル賞」と称されるトマス・ハクスリー記念賞を受賞。人間にとって安定的な集団サイズの上限である「ダンバー数」を導き出したことで世界的に評価される。著書に『ことばの起源』『なぜ私たちは友だちをつくるのか』(以上、青土社)、『友達の数は何人?』『人類進化の謎を解き明かす』(以上、インターシフト)などがある。

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(オックスフォード大学 名誉教授 ロビン・ダンバー)

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