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これを読めば必ず納得する…サウナ愛好家が「神戸サウナ&スパ」を"日本一のサウナ"と褒めちぎるわけ

プレジデントオンライン / 2023年11月29日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/qwerty01

サウナ愛好家の間で「日本一のサウナ」と呼ばれる店が神戸市にある。1954年創業の「神戸サウナ&スパ」では、熱風をタオルで送るロウリュサービスが人気で、週末はいつも満室になるという。他のサウナ店とどこが違うのか、ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが書く――。

※本稿は、野地秩嘉『サービスの達人に会いにいく プロフェッショナルサービスパーソン』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「お前はどうする?」

横に座っていた編集者Kは全裸だ。汗みどろのKは目の前に立った男に向かって、恥ずかしそうに指を2本、示し、うつむく。恥じ入っているようにも見えた。

Kはがっしりしていて戦車のような身体つきをしている。たくましい。ほれぼれする身体だ。日焼けしていて、目つきは鋭い。仕事もできる男なのだろう、おそらくは……。

いや、自分でそう吹聴していると聞いたことがある。厚かましい男だ。それなのに、たったの2回だ。恥じ入っている様子をしたのはそのせいだろう。それにしても、2回だ。

それではおかわりの意味をなさない。いったい、何を考えているのか。ちゃんと取材をしようという闘魂はないのか……。

「軟弱ものめ!」

わたしはせせら笑い、熱風の攻撃に苦悶し、嗚咽する彼を見やった。一方、Kを撃破した男は無表情のまま移動し、わたしの前に立った。

「お前はどうする?」

言葉にはせず、首をかしげた男の口元には微笑みさえ浮かんでいた。

■自暴自棄になり、「10回!」

ええい、ままよと自暴自棄になったわたしはとっさに両手の指を広げて突き出した。

「10回! おかわりお願いします」

周囲からは「おお」「あっぱれ」「にっぽんいち」というつぶやきが聞こえてきた。

前に立った男、熱波師の前田は「ふむ」と言い、上等じゃないか、それなら、こちらもやり抜いてみせると表情をひきしめた。

彼はバスタオルを握りしめると、大きく振りかぶり、全身の力をバスタオルに託した。

エビぞりになった体を前に倒す。と同時に強烈な熱風がわたしを襲った。一度ではない。

2回、3回、4回……、回を追うごとに前田のエビぞり角度は増していく。顔は真っ赤だ。

熱風のハリケーンはわたしの体感温度を上昇させていく……。

いったい、わたしはどこまで耐えられるのだろうか?

■11.7度の水風呂とオロポで「ととのう」

結論から言えば、10回のおかわり熱波で血行は良くなった。その後の11.7度の水風呂と外気浴で、身体は「ととのった」のである。一部ファンの間で「日本一のサウナ」と呼ばれている神戸サウナ&スパの熱波師、前田はさすがの技を持っていた。熱波師とはサウナ室内で熱風をタオルやうちわで送るパフォーマンスをする人をいう。検定試験もある。

1泊2日の取材に来ていたKとわたしは休憩室でオロポ(オロナミンCとポカリスエット、サウナ定番飲料)を飲みながら、非常に満足していた。

現在、サウナはブームになっている。特に熱波師のいるサウナはいつ行っても盛況だ。

発端はサウナを取り上げた『マンガ サ道』(タナカカツキ作、講談社、2011年刊行)が新しいファン層を開拓したことだ。さらに、実写化したテレビドラマ「サ道」(テレビ東京、2019年から)が好評で、熱波師とサウナのブームに火がついた。

そのため、おじさんたちの聖域だった場所にサウナハットをかぶった若者たちが大挙して押しかけるようになったのである。

Kとわたしが出かけていった神戸サウナ&スパもまた例外ではなく、ロウリュ(サウナストーンに水をかけて蒸気を発生させること)の時間になると、サウナ室前に10人前後の列ができる。

■メインサウナは30分おきに「ロウリュ」ができる

神戸サウナ&スパの開業は戦争が終わって9年目の1954年だ。1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災で被災したため、ビルを建て直し、1997年には「神戸サウナ&スパ」「神戸レディススパ」と新名称でグランドオープンした。同店には男性214室、女性30室のカプセルホテルが付属している。

そして、ホテルを兼営しているため、営業時間は年中無休の24時間営業だ。お正月でもお盆でも早朝でも深夜でも、いつ行っても、身体をととのえることができる。

肝心の温浴施設について。男性用のそれは8つもある。

1 ハンガリアンバス(大浴場)
円形の大浴場。地下1004メートルから湧出する天然温泉「神乃湯温泉」を使用している。阪神・淡路大震災後にボーリングした天然温泉である。

2 水風呂
サウナを出た後に入る。露天の水風呂は1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の記憶を忘れないために、11.7度に設定されている。「1.17度にしろ」と言う人はいない。屋内の水風呂はビギナー向けにぬるめの23度と優しい設定温度だ。

3 露天風呂
ビルのオープンスペースに作った露天風呂だ。

4 ジャグジー
気泡風呂。

5 メインサウナ
熱波師たちの道場である。前田たちが「ロウリュサービス」を30分ごとに行っている。コロナ禍になる前までは24時間、ロウリュサービスをやっていた。夜中でも早朝でも発汗しまくる人たちがいたのである。

■料金は一般よりもやや高い2900円

6 フィンランドサウナ
フィンランドから取り寄せた木材の宝石「ケロ材」(フィンランド産の立ち枯れ材で欧州アカマツが多い)を使った本格サウナ。セルフロウリュ、ヴィヒタ(白樺の葉)で全身を叩くこともできる。

わたしも入ったけれど、同室者に断ってから、熱したサウナストーンに水をかけるセルフロウリュの人がいた。同店には熟練のサウナマニアたちが来ている。

7 ハマーム(岩盤浴)
ハマームはトルコ式の岩盤浴でスチームサウナ。浴室内はすべて大理石でできている。ドライサウナが苦手な人にはありがたい施設だ。素っ裸でわたしが入った時は円形の大理石舞台の上で、おじさんふたりが豊洲市場のマグロ状態で寝ていた。

8 塩サウナ
床一面の山盛りの塩に圧倒される。まるで雪景色のようだ。「塩を体にすり込むことで、新陳代謝の促進やデトックス効果のほか、お肌の引き締めとすべすべ効果が期待できます」(同館のホームページより)。塩サウナに入っていると、たいていの人はお腹に大量の塩をすり込んでいる。みるみるお腹が真っ赤になっていく。

8つもの温浴施設があるので、メインサウナが混雑していても、どこかを利用することができる。入浴料金はフリータイムで2900円。一般のそれよりもやや高い。

■業界で唯一「24時間ロウリュ」をやっていた

だが、水道水でなく汲み上げた源泉であること、8つの温浴施設を有していること、細部にわたる豊富なアメニティを取り揃えており手ぶらでも満足して利用できること、清潔さなどを考え合わせると、決して高くはない。いくら安くても、床が濡れていたり、設備が老朽化していたりすると、退館したくなるのが人情というもの。

サウナを選ぶ際に重要なのは、何はなくとも「清潔」だ。

同店が日本一と称されるのは設備、清潔さもさることながら、働く人たちの情熱が熱波のように伝わってくることだろう。その代表が前田を始めとする熱波師たちである。

前田は「24時間、深夜でも早朝でもロウリュをやっていたのは業界では私たちだけです。あれで鍛えられました」と胸を張る。

前田は入店して4年目。今はマネージャーだ。

元々は音響効果の仕事をしていたのだが、徹夜の多い仕事で疲弊していた。疲れた身体を休めるために温浴施設やスーパー銭湯に通っているうちにサウナに目覚め、熱波師を目指すようになった。自身で熱波師検定の資格を取得し、神戸サウナ&スパに入社。現在はマネージャー業務にあたりながら新人熱波師の研修を行っている。

熱波師の前田大志さん。音響の仕事から転身し、今では同店のマネージャーを務める
筆者提供
熱波師の前田大志さん。音響の仕事から転身し、今では同店のマネージャーを務める - 筆者提供

■ロウリュは「やるか、やられるか」

「ロウリュはトータルでだいたい5分以上、10分未満で終えるようにしています。当店ではお客様一人ひとりに風を送るサービスを行っています。おかわりのロウリュをやるから、他店よりも長いパフォーマンスになります。

うちでは華麗なタオルさばきよりも、全力でお客様に向き合うことが第一。熱風を的確にコントロールして、身体のすべての部位にまんべんなく送る。それでご満足いただく。お客様の好みに合うロウリュです。

コロナ前は20分に1回(※)やっていて、一日に67回。3~4人が交代でやっていたのですが、真夏には倒れたスタッフもいます。熱いなかでスポーツをやるようなものですからね。

※編注:現在、ロウリュサービスは30分毎に1回。

失敗はちゃんと風を送れないこと。プロ野球のピッチャーが暴投するみたいな感じで、頭へ送ったつもりが、上の方へ抜けたりする。お客様から『ぜんぜん風来ないよ』って言われたらミスです。ダメです。

体力的にしんどい仕事ではあります。でも、ロウリュを終えると仕事をやり切った爽快さ、全力疾走した達成感みたいなのを感じます。それでも疲れます。ロウリュの後、熱波師全員でバルコニーで涼むんですけど、終わった途端、みんな『はぁ』です。無口になって脱力する。ひとりで10回くらいおかわりする人がいるんですよ。

10回おかわりと聞くと、覚悟を決めて、よし、やってやろうという戦いの気持ちになります。やるか、やられるか、です。10回が30人も続くことがあります。そうなると、手分けするのですが、それでも倒れるのは覚悟です」

■サウナ室でもネクタイを外さない総支配人

前述のように神戸サウナ&スパはいつ行っても混んでいる。混んでいるからロウリュが始まる前はサウナ室前で並ばなくてはならない。困った点があるとすればそれくらいだろうか。

サウナ室のなかでもジャケットを着て、ネクタイを締めている総支配人の津村浩彦は「申し訳ありません。ロウリュはお待たせすることが多いです」と素直に頭を下げる。津村は神戸のホテルオークラに勤めていた頃の縁で神戸サウナ&スパへ入社、ホテル仕込みの接客サービスで利用者をもてなしている。

津村は言った。

サウナ業界では「ツムツム」の愛称で親しまれている
筆者提供
サウナ業界では「ツムツム」の愛称で親しまれている - 筆者提供

「サウナ業界では『ツムツム』と呼ばれているんです。『マンガ サ道』のタナカ先生が会うなり、『津村さん、あっ、ツムツムだあ』とおっしゃって……。それがファンの方たちに広まりまして、私、ツムツム、なんです。

当館には連日たくさんの方がお越しになります。カプセルホテルは平日は出張などのご利用が多く、週末はつねに満室でサウナ好きの方々がサ旅(サウナ旅)を満喫なさっています。特に年末は一年のなかでもいちばん多くお客様がお見えです」

それこそ「芋の子を洗う」ような混雑だ。

館内を案内してもらいながら、ツムツムが指さすところを見ていった。フロント、廊下、階段など、いたるところに花が飾ってある。造花ではない。生花だ。1週間に一度は取り換えなくてはならない。

■スーツを着たまま熱風を浴びることも

「サウナに対しては偏見を持つ方がいます。ですが、私どもは社訓である『おもてなしの心』を持ってサービスのご提供に努めています。そうですね、なんといっても清潔にするのがいちばんでございます。また館内には本物の木を使い、ご覧いただいているお花もすべて本物です。

私自身はスーツやジャケットを着て、ワイシャツとネクタイです。上着のボタンもちゃんと止めて、そして、浴室にも入っていきます。靴下は脱ぎますが……。それが当社のポリシーで、総支配人はきちんとした正装でお迎えすることになっているのです。

私はサウナのなかがちょっと汚れておったりしたら、スーツ姿でお掃除をしますし、新入りの者がロウリュを行う前には、スーツを着たまま実際に熱風を浴びたりもします。お客様目線で清潔なり、サービスを考えることが大事ですから、もう、汗びっしょりでやっています」

ツムツムは毎日、汗みどろになる。スーツも傷む。それでも正装のままだ。ただし、帰りに店でひと風呂浴びてから帰ることにしている。そうして、自宅に着くとまた風呂に入る。清潔なのである。それほど清潔な男が館内の清潔度チェックをするのだから、不潔になるはずがない。

■酔っ払いから「このハゲ」と呼ばれても…

また、ツムツムがもうひとつ、目を光らせているのは館内の雰囲気を保つこと。大声を上げたり、酔って騒ぐ者には臆することなく、慇懃(いんぎん)に注意をする。それでも騒ぐようであれば退館させる。深酒の状態での入浴は命の危険を伴うからだ。

ツムツムは話す。

「恐れ入ります。その通りでございます。たまにいらっしゃるんです。酔っ払って、廊下で寝てしまい、起こそうとすると、『うるせぇ』『このハゲ』とおっしゃる方がおられます。ええ、私、髪の毛がちょっと薄いものですから『このハゲ』と呼ばれるわけなんです。

当館は共有スペースが多く、皆様に快適にお過ごしいただくため致し方ない場合もございます。こういった時も、真摯(しんし)に臆することなくお客様に、他のお客様へご迷惑がかかるようなことがあれば、次回のご利用を促すようお話しさせていただいております。とにかくここは皆様のための施設なんです。そこだけわかっていただければ、私どもも精一杯、努めます」

■社長に叱られ気づいた「サービスの本質」

わたしは2日間、取材をした。スタッフの話を聞いた。風呂も入った。ハマームにも塩サウナにも3回ずつ入った。カプセルホテルで寝て、隣室のいびきも聞いた。朝ごはんのビュッフェも食べた。全身全霊を込めた取材だった。

野地秩嘉『サービスの達人に会いにいく プロフェッショナルサービスパーソン』(プレジデント社)
野地秩嘉『サービスの達人に会いにいく プロフェッショナルサービスパーソン』(プレジデント社)

熱波師にも、ボディケアトレーナーにもツムツムにも感心した。だが、もっとも、やるなあと思ったのは次のエピソードだったのである。

ツムツムは言った。

「私がこちらに着任してすぐのことでした。夜、台風が来まして。電車が全部止まってしまったのです。行くところがなくて、大勢の方が雨宿りのために詰めかけてきたんです。

リクライニングシートのベッドもいっぱい、カプセルホテルも満室で、何人かのお客様をお断りしたんです。そうしたら翌朝、社長から大目玉を食らいました。

『総支配人、きみは何を考えているのか。こういう時こそ、困っているお客様を助けてお迎えするのが本来のサービスではないか。何もわかっていないんだな』

私は恥じ入りました。

神戸サウナ&スパは台風などの災害時も避難し、休憩できる場所としてお客様をお迎えするのです。我々のモットーである『おもてなしの心』でこれからもサービスしてまいります」

以後、ツムツムは台風が近づいてくると、床を必死に掃除する。毛布を揃える。そうして、誰が来てもいいように、フロントで待機する。それがサウナのいちばんのサービスだ。

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。

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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)

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