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楽天部長は98億円、ソフトバンク部長は12億円…なぜ「大企業の部長クラス」は巨額詐欺に手を染めやすいのか

プレジデントオンライン / 2023年11月30日 11時15分

写真左=「Rakuten Optimism2023」に掲げられた楽天モバイルのロゴ(2023年8月2日、神奈川県横浜市のパシフィコ横浜) 写真右=東京の銀座にあるソフトバンクショップ本店 - 写真左=時事通信フォト 写真右=iStock.com/winhorse

知名度の高い大手企業の部長クラスによる巨額詐欺事件が相次いで報じられた。パーソル総合研究所上席主任研究員の小林祐児さんは「業績が好調な企業ほど不祥事が起こりやすい。特に部長クラスには不正の関与率が高い傾向がある」という――。

■不正が起こる企業には共通点がある

昨今、企業における不祥事・不正のニュースが常にといっていいほど世間の大きな話題を集めている。企業内の不祥事の中には、組織ぐるみの計画的で大規模なものもあれば、特定の個人が単独で行う悪質な犯罪行為もある。

最近では、楽天モバイルの40代の元部長らが同社から約98億円を騙し取ったとして起訴された詐欺事件や、ソフトバンクの元統括部長が架空事業への投資名目で12億円を騙し取ったとされる詐欺事件が記憶に新しい。こうした大手企業のケースは大きく報道され、企業業績やブランドに甚大な損害をもたらす。

こうした「暴走する個人」による不正行動は、単独の悪意に基づくものが多いために、会社としても防ぎにくいように見える。しかし、筆者らの研究では、個人の不正リスクを上げる要素は、やはり組織・環境といった要因を持っていることがわかっている。そこで本稿では、定量データによって明らかになった個人の不正リスクを上げる要因と、それを防止する処方箋について議論したい。

■業績好調の企業は不祥事が起こりやすい

まず、業績が「好調」な会社と「不調」な会社では、どちらで不正が多く発生しているのだろうか。

直感的には、「不調」組織のほうが、組織の末端に無理が生じて、不正を誘発しやすくなりそうな仮説もたてられよう。実際、不正事件の第三者委員会報告などでもそうした苦しい状況を不正の背景として論じるものも多い。しかし、発覚した不正を事後的に調査しているだけでは、不正発生の原因をつかむのは容易ではない。

パーソル総合研究所の調査による大規模な定量データに基づき、不正発生率を企業業績別に比較すると、業績が悪い組織も好調な組織も不正発生率が高い、「U字」になる傾向が見られた。業績が悪いだけではなく、「良い」ときにもまた不正は組織の中で発生しているということだ。

【図表】企業業績別 不正発生比率
出所=パーソル総合研究所「企業の不正・不祥事に関する定量調査」

■イケイケ・ドンドンの組織は不正を軽く見る

また、この調査データを用いて、自社は不正が起こっても対処しないだろうとする「組織の不正黙認度」と、個人が不正を許容する「個人の不正許容度」を区別し、不正のリスクを複合的に分析し、それぞれを高めていた組織や個人の特性をまとめたのが図表2である。

【図表】個人と組織の「不正」促進要因
出所=パーソル総合研究所「企業の不正・不祥事に関する定量調査」

複雑な分析のため、さまざまな要因が並んでいるが、本稿で見たいのは「左側」の個人の不正許容度を高める要素だ。先程みた企業自体の好業績の他にも、自由闊達(かったつ)で開放的な組織風土や、スピード感や迅速さを重視するような組織であることなどが並んでいる。

ここからわかるのは、ビジネスの速度感が早く、「イケイケ・ドンドン」のような調子の良い組織では、不正が軽視され、個人の暴走を導きやすいということがわかる。

■不正の関与率は「部長クラス」がもっとも高い

また、個人の不正リスク要因として注目したいのは、「昇進・昇格の見通し」である。つまり、個人的に優秀で出世競争でリードしているような個人は、不正に対して甘い認識を持ちがちだということだ。

そこで、役職と不正の関与率(目撃含む)を見てみても、一般社員より係長、課長が高く、部長相当でピークになっている。これらは、冒頭に挙げた2社における役職者による不正ケースとも符合する傾向である。

【図表】職位別 不正への関与・目撃率
出所=パーソル総合研究所「企業の不正・不祥事に関する定量調査」

■調子に乗りすぎる「エース人材」の落とし穴

個人の不正リスクをさらに深く理解するために、不正に対する意識面からも分析してみた。個人の不正許容度と相関の高い意識は、自分で不正を制御できると感じる「コントロール幻想」や、誰かのために不正をすることを許容する「利他的不正」までいくつかの要素が明らかになっている。

こうした個人の不正に対する意識と組織特徴との関連を、矢印で影響関係を示したのが図表4である。

個人の不正に対する意識と組織の特徴の関連図
出所=パーソル総合研究所「企業の不正・不祥事に関する定量調査」

本稿の関心から注目すべきは、右側の要素だ。優れた自社サービスがあったり、昇進見通しがあるといった、組織や個人がポジティブな状況は、「不正へのスリル・快感」へのプラスの影響が見られる。こうした「調子のよい」状況で自己効力感が高まり、不正への罪悪感が薄れてしまうことが示唆される結果だ。

さて、組織や個人がポジティブな状況において、不正リスクが上がってしまうという傾向が見えてきた。業績が良く、スピード感をもってサービスを展開しているようなとき、その裏では「優秀なエース人材」による不正が生まれやすい風土が醸成されている可能性が示されたのだ。企業としては、どうやってこのような個人の暴走を防げるのだろうか。

■「ルール」では不正は防げない

近年、コンプライアンス(法令遵守)重視の流れで、業務プロセスの細やかなルール化や承認制、eラーニングなどのコンプライアンス研修などを増やす企業が多い。しかし、多すぎるだけで現場感の希薄なルールやマニュアル、自分ごと化されない研修トレーニングは、形式的にこなされるがために効果がほとんどない。「ルール」や「管理」の発想で人の行動を縛ろうとする昨今のコンプライアンスの流れは、組織の力学を十分に考慮できていない。

一方で、不祥事研究で昨今注目され始めてきたのは、人間関係の「ネットワーク」の在り方である。社内、社外における人と人との情報共有やコミュニケーションの量などのつながりの濃さ・薄さと不正との関わりが研究されてきている。

例えば、社内と社外とのネットワークのあり方に注目して企業の不正事案を分析した稲葉陽二は、社内に閉じすぎた閉鎖的なネットワークも、バラバラすぎるネットワークの欠如も、ともに不正へのリスクを高めるといった示唆を導き出している(稲葉陽二、2017、『企業不祥事は なぜ起きるのか ソーシャル・キャピタルから読み解く組織風土』、中央公論新社)。

■相談できる人が多い組織ほど不正は起こりにくい

こうした組織ネットワークの観点を取り入れ、筆者が企業に提言しているのは、個人の仕事の「ブラックボックス」を「人のネットワーク」で埋めていくことで不正を防ぐ施策だ。

我々の調査でも、同じ部署内のネットワーク(相談可能な人数)が多いほど、個人の不正許容度が低くなっていた。また、人のネットワークが厚いほど、関係者に不正をやめるように促すといった行動や、上司や同僚への相談・報告などの社内での報告行動が高まっている様子も見られた。社内ネットワークの厚みは、不正予防効果と同時に不正が放置されることを防ぐ効果がありそうだ。これは、これまでの不正防止施策の観点からは顧みられることのない論点である。

【図表】社内ネットワークが厚いほど不正を放置しない
出所=パーソル総合研究所「企業の不正・不祥事に関する定量調査」
小林 祐児『リスキリングは経営課題-日本企業の「学びとキャリア」考-』(光文社新書)
小林 祐児『リスキリングは経営課題-日本企業の「学びとキャリア」考-』(光文社新書)

従業員のつながりの創出やネットワークの強化には、多様な方法がある。役職者向けであればマネジメント・ピッチのような定例の議論の機会ももちろんのこと、社内外の研修訓練といった学びやリスキリングの機会も、フォーマルな形で人のネットワークを広げる手段の一つである。

また、社内に閉じがちなベテラン社員向けに越境学習のプログラムを提供することも、組織の外へとネットワークを開くことにつながる。他企業との共同研修などの機会も、仕事の進め方の違いや不正に対する意識について、「内輪の基準」にとどまらせないためのいい機会だろう。

コンプライアンス重視の流れで、「ルールで縛る」型の不正防止は、特に個人の不正防止という観点からは心もとない。モグラたたきのように対策と発生を繰り返すよりも、このような組織的な視点を持ったコンプライアンス対策への発想転換が必要な時期に来ているように思う。

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小林 祐児(こばやし・ゆうじ)
パーソル総合研究所上席主任研究員
上智大学大学院総合人間科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。NHK放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年パーソル総合研究所入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマの調査・研究を行う。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。『働くみんなの必修講義 転職学 人生が豊かになる科学的なキャリア行動とは』(KADOKAWA)、『残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』(光文社)、『会社人生を後悔しない40代からの仕事術』(ダイヤモンド社)など共著書多数。新著に『リスキリングは経営課題~日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社新書)がある。

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(パーソル総合研究所上席主任研究員 小林 祐児)

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