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なぜ「国民を苦しめる増税」しか頭にないのか…「76年前の法律」を守ろうとする財務省の"悪癖"

プレジデントオンライン / 2023年12月1日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

財務省はなぜ増税にこだわるのか。産経新聞特別記者の田村秀男さんは「均衡財政を定めた財政法第四条を金科玉条のように守ろうとしているからだ。政治家にもプライマリー・バランス重視の政策をやらなければいけないと説得し、緊縮財政策をとらせてきた」という。ジャーナリスト石橋文登さんとの共著『安倍晋三vs 財務省』(育鵬社)より、一部を紹介する――。

■均衡財政を基本とする「財政法第四条」

【石橋】増税は財務省の「省是」だ、と言われてきました。そもそも、なぜ省是になったのか、そこを田村さん、解説していただけますか。

【田村】いちばん大きいのは、「財政法第四条」の存在です。1947年3月に施行された財政法は、予算の種類、作成と執行などについて規定した、国の財政に関する基本法です。

1947年というのは、まだGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の統治下にあり、日本国憲法が施行された年でもあります。

財政法はこの年の4月1日に施行されていますが、日本国憲法は5月3日です。

戦争放棄を定めたのが、日本国憲法の第九条です。そして財政法の第四条は、均衡財政(*1)を基本として国債を発行しないと決めた法律です。

*1 均衡財政 中央政府や地方政府の予算において、経常収入が経常支出と等しくなる状態。収入が支出を上まわれば黒字財政、下まわれば赤字財政となる。

■借金をしないために、増税して歳入を増やす

大東亜戦争を起こした反省から、憲法第九条で戦争放棄した日本が、その戦費を国債で賄った反省から、国債は発行しないと誓ったわけです。この原案を書いた財務省の、当時は大蔵省ですが、課長がそのように語っています。

国債を発行しないということは、その年の歳入だけで、その年の国の歳出を賄うことになります。

歳入と歳出が均衡する、均衡財政です。

第四条には、〈国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。〉と書かれています。

これを財務省は金科玉条のように守ろうとしているので、借金を嫌うわけです。

しかし歳出は増えるばかりだから、それを賄うには増税して歳入を増やすしかないと考えている。均衡財政を守るために増税して歳入を増やす、という発想です。

【石橋】政治家は、勉強不足な人が多い。だから、財政法についても、ほとんどの政治家が理解していなかったと思います。

それでも、防衛力増強が大きな政治課題となるなかで、自民党の部会でもようやく財政法に焦点があたるようになりました。

これは大きな前進だと思います。これまでは話題にも上がりませんでしたから。

■過去最大の防衛費増額は英断だった

【田村】財政法四条で縛っているのは赤字国債発行で、二度と戦争をさせないようにするため、国債発行を禁じて軍事費調達をさせないようにしたのです。憲法第九条とセットなのです。

したがっていま、防衛費を増額しようと思えば、無視できない存在です。

【石橋】2022年12月に、岸田文雄政権は2023年度から5年間で防衛費総額を43兆円程度にすることを閣議決定しました。

年間では最終年度の2027年度に8兆9000億円程度になると想定しており、2022年度当初予算5兆4000億円から1.6倍に積み増す、過去最大の増額です。

バイデン米大統領は、「私が説得した」と得意げに吹聴しましたが、これは大ぼらです。

防衛費増は岸田さんの英断だと思います。安倍さんが7月に凶弾に倒れたこともあり、多少は首相の自覚が出てきたのかな、と思っています。

■防衛国債の発行は安倍元首相のアイデア

ともかく、2022年12月に、国の安全保障政策に関する「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の三文書(防衛三文書、※2)が改訂され、防衛費の大幅な増額や反撃能力の保有を盛り込んだ新しい三文書になるわけです。

防衛三文書は自民党政務調査会でも大いに議論されるわけですが、防衛費の財源として国債を発行すべきだという声も上がり、財政法改正も議題となりました。

安倍さんは死の直前に「建設国債と同様に防衛国債を発行すべきだ」と言っていました。

つまりこの流れをつくったのは安倍さんだと言えます。

防衛費増額分の財源については、歳出改革や決算剰余金(*3)、そして国有財産売却益を充て、足らない部分を増税で賄うことになりました。

残念ながら、防衛国債を発行できるよう財政法を改正する、という流れにはなりませんでした。

*2 防衛三文書 「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の三文書。2022年12月、政府は防衛費の大幅な増額や反撃能力の保有などを盛り込んだ、これら新たな防衛三文書を決定。防衛費を国内総生産(GDP)比で2パーセントに増やした。
*3 決算剰余金 予算措置はしたものの使い切れず、残ったおカネ。

■建設国債で賄うという決断があってしかるべき

【田村】第四条では、例外的に公共施設を造るための建設国債の発行は認めています。

そして佐藤榮作内閣だった1965年に、歳入不足を補うための赤字国債が初めて発行されました。「特例国債」という扱いで、発行を一年限りとするものでした。

しかし、赤字国債の発行は恒常的に繰り返されることになり、現在に至ります。

ともかく財政法第四条の原則は守り通していて、防衛費のための国債発行には財務省が頑強に反対します。

しかも、財政法改正が必要なのですが、野党はもとより与党内部でも、財務省に同調する議員が多いので、現実には不可能なのです。

そうであれば、現行法のもとで工夫するしかない。

安倍さんの経済指南役だった本田悦朗元内閣官房参与によれば、防衛目的の国債を建設国債の範疇に加えるアイデアについても、安倍さんは本田さんと話し合ったようです。

建設国債なら、法改正の必要はありません。財務官僚OBの本田さんならではの名案です。

たしかに、専守防衛の日本の場合、防衛費は自国の安全確保のためであり、国土の保全や国民の安全を確保するためのインフラ整備と目的は同じはずです。

したがって憲法第九条のもとでの防衛費の財源は建設国債で賄うという政治的決断があってもしかるべきです。

■日本のカネが中国の軍事費に化けている

国家と国民の安全と安心を図るために、国内の預貯金を国債発行で吸い上げる考え方は理に適っています。

むしろ、中国、ロシア、さらに北朝鮮といった軍事で威喝する権威主義国家を目の前にして、国内の余剰資金を使わないというのは不合理であり、馬鹿げています。

日本は世界最大の債権国であり、あまったカネを輸出しています。そして日本のカネはニューヨーク、ロンドン、香港など国際金融市場に流れ込みます。そのおかげで国際金融市場での調達コストは安くなります。

その最大の恩恵国が中国です。

米国などの国際金融資本や投資ファンドは対中投資をするし、中国の国有企業や金融機関は低コストのドル資金を調達できます。そして国内投資をさかんにし、高い経済成長を実現してきたのです。

その経済力をテコに軍拡を行い、沖縄県尖閣諸島周辺など東シナ海、さらに南シナ海で日本など周辺国を威圧する。台湾侵攻の準備を行う。日本列島すべてを標的にした核ミサイルの基地を配置する。

なのに、防衛目的の国債発行を禁じるのは、日本の自殺行為です。

■財務省がつくった「プライマリー・バランス信仰」

【石橋】財務省は、第四条を守って赤字国債の発行も止めたい。均衡財政に戻すために、赤字国債発行による借金も早く返したくて躍起になっているわけです。

【田村】曲者なのが、本書の第一章でも触れた、プライマリー・バランスです。

社会保障や公共事業をはじめとする行政サービスを提供するための経費(政策的経費)が、税収などで賄えているかどうかを示す指標がプライマリー・バランスです。

プライマリー・バランスが赤字だと均衡財政になっていないので黒字にしなければならない、というのが財務省の理屈です。赤字国債の発行を前提にしてはいけない、というわけです。

1996年に成立した橋本龍太郎内閣のとき、財務(大蔵)省が必死に裏工作をします。

御用学者に海外視察をさせて、大事なのはプライマリー・バランスだという報告書を書かせる。

それでもって、日本でもプライマリー・バランス重視の政策をやらなければいけないと、橋本さんを必死で説得するわけです。

プライマリー・バランスを黒字にするためには、歳入を増やさなければいけません。

手っ取り早いのは消費税の増税だというので、1997年4月に消費税率を3パーセントから5パーセントに引き上げさせます。

黒板に描かれた右肩上がりの棒グラフ
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■橋本元首相は緊縮財政策を後悔していた

【石橋】消費税増税は、橋本さんの前の村山富市内閣のときに内定しますが、橋本さんがあっさりと受け入れてしまった理由がよくわかりました。

【田村】さらに、橋本さんは緊縮財政策をとります。

1997年11月に「財政構造改革法」を成立させて、赤字国債発行を毎年度削減するなど財政再建路線をとります。加えて、プライマリー・バランスを均衡させるために、歳出を抑えた緊縮型の予算も組みます。

これによって、日本経済の景気減速に拍車をかけてしまう。

緊縮財政で世の中におカネが回らなくなって、景気が落ち込んでいく。深刻な就職氷河期と、デフレの蔓延を招くことになります。

その影響で、橋本さんの知り合いだった中小企業の経営者が自殺しています。

晩年になって、自分のやった政策を、橋本さんはずいぶん後悔していたようです。

そういう政策を橋本さんにけしかけたのは財務(大蔵)省です。

■「番官僚」が政治家をコントロールしている

【石橋】財務省は、NHKとよく似ていますね。将来伸びそうな政治家がいると、NHKは特定の記者を貼り付けます。いわゆる番記者です。

番記者は新聞や民放も付けますが、担当する政治家は頻繁に変わります。でもNHKは基本的に同じ政治家に同じ記者が付くんです。

安倍さんの番記者だった岩田明子さんを見てわかるように、NHKはずっと同じ記者が担当し、政治家の出世とともに記者も出世する。

財務省も、特定の政治家に特定の官僚を貼り付け、「番官僚」にします。この番官僚はNHKと同様に基本的に変わることはなく、その政治家の出世に合わせて番官僚も出世します。

逆に、その政治家が失脚すると、番官僚も省内での出世の道が閉ざされる。だから、番官僚として担当の政治家を必死で支えます。

田村秀男、石橋文登『安倍晋三vs 財務省』(育鵬社)
田村秀男、石橋文登『安倍晋三vs 財務省』(育鵬社)

財務官僚は「官僚のなかの官僚」などと呼ばれていますから、傲岸(ごうがん)不遜なイメージが強いと思います。

しかしながら、政治家の前では異様なほど腰が低い。もう、ひたすら腰を低くして「御用聞き」みたいです。

【田村】なるほど。普段はふんぞり返っているのに、政治家の前では、まるで違う態度になる。

【石橋】言い方は悪いですが、そうやって政治家を絡め取っていくわけです。

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田村 秀男(たむら・ひでお)
産経新聞特別記者・編集委員兼論説委員
昭和21(1946)年、高知県生まれ。昭和45(1970)年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、日本経済新聞社に入社。ワシントン特派員、経済部次長・編集委員、米アジア財団(サンフランシスコ)上級フェロー、香港支局長、東京本社編集委員、日本経済研究センター欧米研究会座長(兼任)を経て、平成18(2006)年、産経新聞社に移籍、現在に至る。主な著書に『日経新聞の真実』(光文社新書)、『人民元・ドル・円』(岩波新書)、『経済で読む「日・米・中」関係』(扶桑社新書)、『日本再興』(ワニブックス)、『アベノミクスを殺す消費増税』(飛鳥新社)、『日本経済は誰のものなのか?』(共著・扶桑社)、『経済と安全保障』(共著・育鵬社)、『「経済成長」とは何か』『日本経済は再生できるか』(ワニブックスPLUS新書)がある。

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石橋 文登(いしばし・ふみと)
ジャーナリスト、千葉工業大学特別教授
1966年、福岡県生まれ。1990年、京都大学農学部卒業後、産経新聞社に入社。奈良支局、京都総局、大阪社会部を経て、平成14年、政治部に異動。拉致問題、郵政解散をはじめ小泉政権から麻生政権まで政局の最前線で取材。政治部次長を経て、編集局次長兼政治部長などを歴任。2019年、同社を退社、現在に至る。著書に『安倍「一強」の秘密』『安倍晋三秘録』(ともに飛鳥新社)がある。

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(産経新聞特別記者・編集委員兼論説委員 田村 秀男、ジャーナリスト、千葉工業大学特別教授 石橋 文登)

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