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財務官僚は記者を「ポチ」と呼んで手懐ける…「増税やむなし」の世論をつくるマスコミと財務省の共犯関係

プレジデントオンライン / 2023年12月5日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

消費税がさらに引き上げられる可能性はあるのか。産経新聞特別記者の田村秀男さん「財務省は15パーセント以上に引き上げようとしており、防衛費増額はその踏み台だ。メディアは財務省の思惑に乗せられ、消費税増税に向けた世論を醸成しようとしている」という。ジャーナリスト石橋文登さんとの共著『安倍晋三vs 財務省』(育鵬社)より、一部を紹介する――。

■財務省に頭が上がらない新聞社

【石橋】本書の第三章で、財務省のなかでも理財局は軽視されてきたと話しました。

理財局を軽視してきたのは新聞社をはじめとするマスコミも同じで、だから国民には理財局の重要性、理財局の管理する莫大な国有財産の存在が理解されてこなかったのだと思います。

新聞社でいえば、経済部の責任は大きいと思います。

【田村】きちんと理解して伝えられる人材を育てて配置していないという問題が大きい、と思います。

【石橋】財務省の記者クラブは「財政研究会(財研)」という名称です。記者クラブなのに「研究会」は、おかしい。財務省に財政を教えてもらって勉強しています、みたいな意味になりますからね。

まるで財務省の生徒みたいじゃないですか。

■官僚に“ポチ”呼ばわりされる記者が出世する

【田村】財務官僚は情報を欲しがる財研記者を“ポチ”と呼んで手懐けます。内心でバカにしている。そんな記者が新聞社のなかでは評価されるのです。

【石橋】財研でキャップを務めて、財務省から覚えめでたい記者が経済部長になります。

そういう人物が経済部を主導するわけですから、財務省の言いなりになるのも無理ありません。

【田村】それから、論説委員も同じです。経済担当の論説委員は、財務省から覚えめでたい人物が就きます。

それで何かあると、「ご説明にあがります」と財務官僚がやってきて簡単に籠絡してしまう。

■メディアにも日本経済停滞の責任がある

【石橋】財務省の審議会である財政制度等審議会(財政審)のメンバーになっているマスコミ関係者も同じです。財務省に見事な資料をもらって記事を書いていた人が、財政審のメンバーに選ばれます。

まとめてもらった資料は、もちろん財務省に都合のいいようにつくってある。それをわかってるのか、わかってないのか、そのまま記事にするから、財務省に都合のよい記事しか載りません。

それで覚えめでたくなって、財政審のメンバー入りとなります。財政審メンバーになれば、財務省の口利きもあって、どこかの大学の教授になっていきます。

新聞社と財務省のあいだには、そうした悪しき慣習みたいなものができあがっています。

【田村】そうしたなかでは、まともな記事がなかなか出てこないのも当然です。

財務省は日本のGDPの半分くらいのカネを管理・配分するのですから、国家の命運を左右するのです。メディアがその言いなりになってしまえば、民主主義は形骸化します。

大手メディアにそういう自覚がないまま、「社会の公器」「言論の自由」を看板に掲げるのは欺瞞(ぎまん)です。日本経済が四半世紀も停滞し、給料が上がらないどころか下がり続けてきたのは、財務省の緊縮財政と消費税増税政策が招いたデフレのせいですが、財務省の言いなりになってきたメディアにも大きな責任があります。

安倍さんは脱デフレを目指し、アベノミクスに踏み切ったのですが、財務省寄りのメディアに包囲されて、大きな制約を受けたのです。

■防衛増税に向けて世論をつくる「有識者会議」

【石橋】岸田文雄首相が、2023年7月の参院選後に内閣官房に設置した「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」は、防衛費増に伴う増税に向け、コンセンサスを得るために、財務省が主導して設置した会議です。

安倍さんは参院選中の7月8日に凶弾に倒れてしまいますが、元々は「防衛国債」発行を主張していた安倍さんを牽制しようと企てて設置したのです。

そもそも「防衛力を総合的に考える」と銘打っていながら、メンバーに防衛問題の専門家はほとんど入っておらず、日本総研(*1)の翁百合さんや金融機関のトップら財務省の息のかかった人ばかり。

議事録を読んでも、財源論に終始しています。日経元社長の喜多恒雄さん、読売グループ本社社長の山口寿一さん、元朝日主筆の船橋洋一さんらが入っているのも笑えます。

防衛増税に向け、主要メディアを使って世論を醸成しようというのが見え見えじゃないですか。

*1 日本総研 株式会社日本総合研究所。総合情報サービス企業で、シンクタンク・コンサルティング・ITソリューションの3機能を有している。

■日経の一面を飾った“大本営発表記事”

【田村】岸田文雄首相は2022年5月に来日したバイデン米大統領に「防衛費の相当な増額」を約束しました。自民党はそのタイミングで国内総生産(GDP)比2パーセントを掲げました。

そこで、防衛費増額論議が始まりましたが、先導するのは例によって財務省です。

岸田首相は「防衛費増額に関する有識者会議」を開いたのですが、「有識者」の人選はほぼ財務省の振り付けによります。

11月17日の『日経』朝刊一面トップはその提言の「原案」を掲載しました。明らかに財務省筋のリークに基づく“大本営発表記事”です。

見出しは〈防衛費増、法人税など財源〉で、〈幅広い税目による国民負担が必要だ。〉〈負担を将来世代に先送りするのは適当でない。国債依存があってはならない。〉と強調しています。

安倍晋三首相が言及した防衛国債論を一蹴したのです。

自民党の増税反対派グループは安倍さんというリーダーがいないと結束力がどうしても弱くなる。財務官僚はそこをついて、「財源はどうするのですか」と迫る。

「有識者会議」が一段落した11月18日には自民党と公明党の税制調査会総会が開かれました。いずれも「防衛財源は法人税を軸にする」と結論を出します。

もとより、財務省の防衛国債否定の論拠は、「安定財源にならない」という屁理屈です。「法人税こそ、景況に左右される不安定財源の代表である」は財務官僚の口癖だったのに、臆面もなく言い切るのは、それだけ反対派を舐めてかかっている証拠です。

しかも経済界の猛反発を食らいかねません。財務官僚はそんな逆風は計算済みだからこそ、「幅広い税目」の増税の必要性を有識者に言わせたのです。

■真の意図は「消費税15%以上への引き上げ」

【田村】家計消費は景気如何にかかわらず一定に保たれるので、消費税こそは安定財源の代表税目です。財務省が隠す真の意図は消費税率の15パーセント以上への引き上げで、防衛費増額はさらなる消費税増税へのまたとない踏み台なのです。

消費税増税と緊縮財政が四半世紀もの恐るべきゼロ経済成長をもたらし、国力を衰退させてきました。それを繰り返そうとする財務省に、メディアはやすやすと誘導されるのです。

岸田政権は結局、2027年度までの5年間で必要な防衛力整備費約43兆円の一部を、防衛関連以外の歳出削減や法人税などの増税で賄うことにしました。

2027年度以降は毎年度、約4兆円の財源を必要とし、そのうち歳出削減と増税で1兆円以上ずつ確保する財務省シナリオに従うことを決めたのです。

国内経済のほうは、新型コロナの収束を機に、景気のV字回復、脱デフレの道筋になってきたというのに、この先は増税が待っていると、消費者や中小企業を身構えさせます。その財務省に加担するメディアの罪は大きいです。

■「軽減税率を適用して」と陳情した新聞協会

【石橋】消費税率を10パーセントにするときも、新聞の定期購読料に軽減税率(*2)を適用するという、おかしなことがありました。

「週2回以上発行される新聞で定期購読契約に基づくもの」は、食料品などと同じ軽減税率適用で、8パーセントに据え置かれました。

積み重ねて置かれた新聞
写真=iStock.com/Wirestock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wirestock

あれは、新聞協会が各社で署名を集めて陳情したからです。財務省に頭を下げて、無理を聞いてもらった。そんな業界が防衛増税を議論するなんておかしな話です。

*2 軽減税率 消費税率は10パーセントになったが、一部の商品は8パーセントに据え置く制度。対象は、酒類・外食を除く飲食料品、定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞。

■マスコミは日銀にも頭が上がらない

【田村】陳情する側が、陳情される側に頭が上がるはずがありません。

日銀と記者クラブの関係も同じようなものです。

記者は「教えてもらう立場」で頭が上がりません。日銀総裁会見を見ても、総裁が一方的にしゃべって、記者が疑問を発することがほとんどなく、そのまま送稿するというスタイルです。ネットの時代でマーケット向けの速報が重視されるからです。

それでも、総裁が“法皇”と称され、会見場に入る総裁を記者たちが直立不動の礼で迎えた昔よりはましですが……。

前にも述べましたが、財務省の場合は、官僚たちがネタを欲しがる財研記者を“ポチ”と呼んで、財務省に都合のよい材料をリークするのを“餌をやる”と称していたと、かの髙橋洋一さんがばらしていました。そんな記者は与えられた情報を鵜吞みにするのです。

【石橋】だから、財務省は記者を軽く見ている。簡単にコントロールできるし、利用する存在くらいにしか考えていない気もします。

【田村】こんなことがありました。1982年3月に、私は日経の日銀クラブのキャップになります。それまでは、産業界、通産省、外務省担当で、日銀の中に足を踏み入れたことは一度もなかったのです。

経済紙の日銀キャップですから、部下の記者の数は5人前後いる大所帯です。金融の知識習得に努めるのに手一杯ですが、上から言われるのは、日銀総裁人事はキャップの専管事項だということです。

■大蔵官僚の“餌”を信じた日経の誤報

【田村】すると、日経の財務(大蔵)省担当から私に、当時の前川春雄総裁について、さかんに情報を流してくるのです。

「前川は本来、総裁になれる人物ではなかった」「前川は71歳の高齢だから長くは続けられない」「前川は5年間の総裁任期いっぱいはやらず、途中で退任し、副総裁の澄田智に禅譲するはずだ」と言ってくる。

前川さんが総裁になった1979年12月の人事で、『日経』は大誤報をやっていました。他紙は「前川新総裁」と報じているのに、『日経』だけが「新総裁は澄田智」と報じてしまった。

だから、「今度こそは、他紙を出し抜け、中途退任に備えよ」というわけです。

大蔵官僚としては、もちろん大物次官だった澄田さんを総裁にしようと画策し、1979年12月の交代劇のときも日経に吹き込み、真に受けさせました。日経経済部幹部は大蔵官僚と親しく、その情報を信じて疑わなかったのです。

■記者をけしかけて総裁にプレッシャーをかけた

もちろん、狡くて怜悧、つまり“ワル”が多い官僚集団のことです。日経をミスリードしたと負い目を感じ、今度はスクープ情報を提供してあげようというわけではまったくありません。

田村秀男、石橋文登『安倍晋三vs 財務省』(育鵬社)
田村秀男、石橋文登『安倍晋三vs 財務省』(育鵬社)

むしろ、「前川は早めに代わるかもしれんぞ」という無責任な観測をわざわざ流し、あせる日経記者をけしかけて日銀取材に走らせ、前川さんにプレッシャーをかけたというのが真相でしょう。

実際にその当時、たまたま酒席で知り合った大蔵官僚の中堅は、私に情報をさかんに流してくる財研記者のひとりについて話が及ぶと、「あの肥ったポチのことですか、いいですね」と言ってのけた。そこまでバカにしているのです。

【石橋】財務(大蔵)省としては、大蔵省出身で“真の事務次官”でもあった澄田智さんを総裁にしたいわけです。そのために、日経を動かして外堀を固めようとしていたのかもしれません。

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田村 秀男(たむら・ひでお)
産経新聞特別記者・編集委員兼論説委員
昭和21(1946)年、高知県生まれ。昭和45(1970)年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、日本経済新聞社に入社。ワシントン特派員、経済部次長・編集委員、米アジア財団(サンフランシスコ)上級フェロー、香港支局長、東京本社編集委員、日本経済研究センター欧米研究会座長(兼任)を経て、平成18(2006)年、産経新聞社に移籍、現在に至る。主な著書に『日経新聞の真実』(光文社新書)、『人民元・ドル・円』(岩波新書)、『経済で読む「日・米・中」関係』(扶桑社新書)、『日本再興』(ワニブックス)、『アベノミクスを殺す消費増税』(飛鳥新社)、『日本経済は誰のものなのか?』(共著・扶桑社)、『経済と安全保障』(共著・育鵬社)、『「経済成長」とは何か』『日本経済は再生できるか』(ワニブックスPLUS新書)がある。

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石橋 文登(いしばし・ふみと)
ジャーナリスト、千葉工業大学特別教授
1966年、福岡県生まれ。1990年、京都大学農学部卒業後、産経新聞社に入社。奈良支局、京都総局、大阪社会部を経て、平成14年、政治部に異動。拉致問題、郵政解散をはじめ小泉政権から麻生政権まで政局の最前線で取材。政治部次長を経て、編集局次長兼政治部長などを歴任。2019年、同社を退社、現在に至る。著書に『安倍「一強」の秘密』『安倍晋三秘録』(ともに飛鳥新社)がある。

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(産経新聞特別記者・編集委員兼論説委員 田村 秀男、ジャーナリスト、千葉工業大学特別教授 石橋 文登)

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