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なぜサントリーの「社長のおごり自販機」はヒットしたのか…社内の雑談が自然と増える「10秒の仕掛け」とは

プレジデントオンライン / 2023年12月8日 11時15分

日本自動販売システム機械工業会より

サントリー食品インターナショナルの法人向け新サービス「社長のおごり自販機」の設置が増えている。社員が2人そろって社員証などをかざすと、「社長のおごり」で飲み物が出てくるユニークな自販機だ。なぜ人気を集めているのか。経済ジャーナリストの高井尚之さんがリポートする――。

■『社長のおごり自販機』とはどんな自販機なのか

自動販売機の中でも設置台数が多い「清涼飲料の自動販売機」は全国に200万台以上あり、国内なら大都市でも地方の市町村でも見かける。オフィスに設置する会社も多いが、全体の設置台数は少しずつ減っている。

とはいえ巨大市場なので、メーカー各社は新たな付加価値をつけて訴求する。

そのひとつが、サントリー食品インターナショナル(以下、サントリー)が手がける「社長のおごり自販機」だ。2021年10月から首都圏限定で事業展開を行い、翌年5月から全国展開をスタート。スタート2年で360社が導入した(2023年10月末時点)。

ユニークなネーミングだが、どんな内容なのか。同社に話を聞いた。

■支払うのは「社長」ではない

「『社長のおごり自販機』とは、専用部分に2人でICカード式の社員証などをタッチして10秒以内に欲しい飲料をそれぞれ選ぶと、無料になる特別な自販機です。開発段階で、利用者が『社長、ゴチになります』と口にしたことがきかっけで、このネーミングとなりました」

サントリーの松本俊さん(VM事業本部 マーケティング部)はこう説明する。

一般の飲料自販機と違うのは、導入先が支払うのは「社長のおごり自販機」で利用された飲料代のみ。このほかに、設置スペースの提供、電気代などの稼働費用を負担するだけですむ。

飲料代を支払うのは、正確に言えば「社長」ではなく、企業の福利厚生であることが多い。名称も相手先の希望で変えることができ、医療機関が「理事長のおごり自販機」、空港運営会社が「ツナガル自販機」とした例がある。

ANAエアポートサービスでの使用例。「社長」ではなく「ツナガル自販機」になっている
画像=サントリー提供
ANAエアポートサービスでの使用例。「社長」ではなく「ツナガル自販機」になっている - 画像=サントリー提供

■利用すると雑談が生まれる

利用する個人のメリットは、飲料がタダになることだが、導入先に向けては「雑談のきっかけが生まれる」ことも提案する。

「自販機は、1人では黙って使いますが、誰かと一緒に使う場合は会話が生まれやすいのです。そこで『挨拶以上、食事未満』というキーワードを掲げました。ふだん挨拶する程度の同僚をランチに誘うのは気が重くても、自販機に誘うのならお互い気持ちもラクでしょう。導入先からは『おごり行きますか?』と声がけして行く場合も多い、と聞いています」(松本さん)

コロナ禍では出社回数が減っただけでなく、出勤してもマスク姿で執務。昼食時も黙食が奨励されるなど、会話や雑談をする機会が激減していた。その渇望感にも合ったのだろう。

ちなみにこの自販機が使えるのは2人まで。3人以上は構造上の理由で“おごり”とならない。また、ICカード式の社員証が未導入の場合は専用カードの提供で利用できるという。

「社長のおごり自販機」の導入実績
出典:サントリープレスリリース〈「社長のおごり自販機」が調査“雑談が生まれやすくなる”条件〉

■どの飲み物がいちばん「おごられる」のか

自販機の中の飲料は、もちろんサントリーの商品だが、同社はコーヒー・炭酸系・茶系など、さまざまな飲料を持つ。何が人気なのだろう。

「一番人気は『伊右衛門 特茶』です。体脂肪を減らすのを助ける特定保健用食品で希望小売価格は1本170円。自分で買うには高いが飲んでみたいという理由で選ばれるようです」(松本さん)

他にコーヒーなども人気だが、空調の効いたオフィスのせいか、冬の季節でもホットではなくコールド商品が出るという。

「どんな飲料がどれぐらい提供されたのか、どの時間帯に使われるケースが多いか、といった利用実績をお客さま(導入先)にフィードバックするのも、この自販機の特徴です」

導入先からの反響はどうなのか。

「ありがたいことに『職場のコミュニケーションが活性化した』という声は、よく聞きます。なかには、『一緒に自販機を使った相手と登山部を結成した』『飼っているペットの話で盛り上がった』という声もありました。改善を求める内容には『10秒以内に商品を選ぶのは短すぎる。もう少し延ばしてほしい』というご意見があります」

こう話す松本さんだが、10秒にした効果も挙げる。

「最初の1人が選ぶのに時間がかかると、2人目の選択時間が短くなります。そこで事前に『今日はこれにしよう』と宣言する人もいます。また、同時にうまくタッチできない時もあるでしょうが、社員証をかざすタイミングを合わせる呼吸も、会話の糸口になるようです」

実際に『社長のおごり自販機』を使用している様子
プレジデントオンライン編集部撮影
実際に『社長のおごり自販機』を使用している様子 - プレジデントオンライン編集部撮影

■「タバコ部屋」とは何が違うのか

ところで「社長のおごり自販機」の開発・展開当初は、同社からこんな話も聞いた。

「かつては『タバコ部屋』(喫煙ルーム)が職場の情報交換の場だったように、ちょっとしたおしゃべりの場になれないか、とも思いました。実際に、この自販機の導入先からは『近未来のタバコ部屋だね』という、うれしい言葉もいただきました」

喫煙率の低下や受動喫煙防止法、改正健康増進法の施行などで姿を消したが、以前は多くの職場に「タバコ部屋」があった。中には、一度行くとなかなか帰ってこない人、部屋の主(ぬし)みたいな人もいた。タバコ部屋とおごり自販機のコミュニケーションは何が違うのか?

「最も大きいのは、終わりの時間が読めることで、タバコ部屋=喫煙者のように利用者を限定しません。誘う側・誘われる側双方に負担が少ないという効果もあります」(松本さん)

今回サントリーは、おごり自販機を通じた「雑談が生まれやすくなる条件」も調査している。会話やコミュニケーションを題材にした著書も多い、言語学者で上智大の清水崇文教授に監修してもらった。

それによれば、

①終わり時間がよめる
②ながら・ついで
③共同作業
④目の前にある共通の話題
⑤距離感

の5条件だったという。

補足すると、①心地良いのは「約3分」で負担に感じるのは「10分以上」。②は雑談を目的としない、飲み物を取りに行くついで。③は一緒に同じ行動をすることで心理的距離も縮まる。④は飲み物という共通の話題。⑤は横並びで生まれるリラックス効果、がわかった。

■挨拶以上、食事未満

今から20年以上前、ビジネス現場では「まじめな雑談」という言葉がはやった。ベストセラー『なぜ会社は変われないのか』(日経BP)の著者である柴田昌治さん(スコラ・コンサルト創業者)が提唱した言葉で、「真意を伝える」「新しく知恵を生み出す」という意味もあった。

筆者が勤務していた花王でも、当時の社長が「権限は委譲します。そのかわり責任も伴います」「でも、みなさんには自由闊達(かったつ)にやってもらいたい」という言葉とともに「まじめな雑談も大切です」と、よく口にしていた。

現在、筆者は拡大解釈して、職場でPC作業をしながらの同僚との会話、社内外のキーパーソンとの会食も「まじめな雑談」だと考える。やりとりが時に仕事の発想のヒントになると思うからだ。

「仕事仲間とつながりを感じたい」「仕事をスムーズに進めたい」は、いつの時代も変わらないが、特に会食は時間が長くなってしまう。

「昼食なら1時間、会合を伴う夕食は2~3時間かかります。現代は価値観が多様化していますから捉え方もさまざまで、同席する相手によっては苦痛に感じる方も多いと思います」(松本さん)

職場の自販機に行くのなら「終わりが読める」。“近・短”ですむ。だから、挨拶以上、食事未満のキーワードが効果的なのだろう。

■時代にあった自販機

「社長のおごり自販機」では、一定の利用制限を設ける会社もある。たとえば「1日1本まで」や「同じ相手との利用は週に1回まで」などだ(そうした機能設定もできるという)。

利用制限の目的は、過度にのめり込まない、さまざまな人との交流を促す、ことだ。

「『社長のおごり自販機』に誘われた人の半数以上が、別の人を誘い返すというデータもありました。一度誘われたことで心理的なハードルが下がり、新しい人に声がけしやすくなるようです」(松本さん)

「社長のおごり自販機」とサントリーの松本俊さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
「社長のおごり自販機」とサントリーの松本俊さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

「おごり行きませんか」と声がけできる関係になれば、その後に、仕事の相談をするハードルが下がる効果もあるだろう。

近年、社内外のコミュニケーションも変わってきた。コンプライアンス意識の高まりもあり、親しい相手以外には1:1での食事も声がけしにくい。また、コロナ以前は需要があった「忘年会」が今年はどうなるかも注目しているが、忘年会をやらない動きもある。根底に流れるのは“脱・重たい付き合い”ではないか。

そうした潮流を踏まえると、「同じ釜の飯を食った仲」ならぬ、「同じ自販機をタッチした仲」というライトな人間関係から生まれる効果は興味深い。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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