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「若い頃と同じように飲んでいる酒好きはとくに要注意」最悪の場合は死に至る"アルコール依存症"の恐怖

プレジデントオンライン / 2023年12月6日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

12月は忘年会などでお酒を飲む機会が多い。産業医の池井佑丞さんは「気温の低下と日照時間の減少で、アルコール消費量が増えるという調査結果がある。お酒が好きで比較的強い人、若い頃と同じように飲んでいる人は、アルコール依存症に気をつけたほうがいい」という――。

■気温の低下・日照時間の減少でアルコール消費量は増加する

12月に入り、クリスマスや忘年会、帰省など、楽しみなイベントを予定されている方も多いのではないでしょうか。そこで気を付けていただきたいのが、お酒の飲み方です。

東京消防庁のデータによると、毎年1万人以上が急性アルコール中毒で救急搬送されています。そして、月別で見ると12月の搬送人数は一年で最も多くなります。(東京消防庁「他人事ではない『急性アルコール中毒』」)これは12月にはお酒を飲む機会が増えることが原因と推察されますが、そもそも冬は飲酒量が増加しやすい季節であることはご存じでしょうか。

米国肝疾患研究協会の調査では、“平均気温の低下・平均年間日照時間の減少”が起こると、“一人当たりの年間アルコール消費量は増加する”ことが明らかになりました。また、寒冷気候と大量飲酒や暴飲暴食者の有病率との相関も示されました。(Meritxell Ventura-Cots, et al.v:Colder Weather and Fewer Sunlight Hours Increase Alcohol Consumption and Alcoholic Cirrhosis Worldwide, Hepatology. 2019 May;69(5):1916-1930.)

■一時的な体内温度の上昇を求めて飲酒量が増えがち

私たちが食べたり飲んだりしたものは、胃や腸で消化・吸収され、栄養分が代謝されるとき、その化学反応に伴い熱が生じます。飲酒時も同様で、お酒に含まれるエタノールは胃や腸から吸収された後、肝臓で代謝され、分解される際に熱が生じます。とはいえ、私たちの体には体温を一定に保つ仕組みが備わっていますから、飲食によって大幅に体温が上昇することはありません。

お酒を飲んで体が温まったと感じるのは、体内で生じた熱に対し、脳の視床下部にある体温調節中枢が「熱い」と判断するためです。お酒を飲んで暑く感じたり顔や手足が赤みを帯びたりするのは、熱を逃がそうとする体の一時的な反応です。

つまり、お酒を飲んでも体温は上がらないものの、寒い季節になると一時的な体内温度の上昇を求め、飲酒量が増加傾向にあるということが言えます。

厚生労働省では、生活習慣病のリスクを高める飲酒量を、1日あたりの純アルコール換算で女性では20g以上、男性では40g以上としています。20gの場合ですと、ビールでは500ml、25度焼酎では110ml、ワイン2杯、日本酒1合弱程度が相当します。

がんや高血圧、脳出血、脂質異常症などのリスクは、飲酒量に比例して上昇することがわかっています。また、死亡(すべての死因を含む)、脳梗塞、虚血性心疾患のリスクについては、女性では1日のアルコール摂取量が22gを超えると優位に高まることもわかっています。(厚生労働省「習慣を変える、未来に備える あなたが決める、お酒のたしなみ方」2023年3月版)

■適度な飲酒量なら頭痛や二日酔いは起きない

なぜアルコールは人体に悪影響を及ぼすのでしょうか。

体に入ったアルコールはまず肝臓で分解され、「アセトアルデヒド」という毒性物質に変換されます。その後、酢酸という無害な物質にさらに分解されて血中に入り、全身を巡りながら汗や尿として体外に排出されます。適度な飲酒量の場合はこの過程がスムーズなので、頭痛や二日酔いは起きません。

しかし過剰に摂取すると、大量のアセトアルデヒドが体内に発生し、肝臓で酢酸に分解する処理が追いつかなくなり、そのまま血液中に流れ出てしまいます。血液に乗って全身を巡るアセトアルデヒドの毒性により、頭痛や吐き気、動機、つらい二日酔いが起こります。また、広がった血管からは水分が漏れ出し、血管を取り巻く組織や脳にむくみが生じて神経を圧迫するため、アルコール頭痛を発生させるのです。

ソファにもたれて頭に手を当てている男性
写真=iStock.com/Thai Liang Lim
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Thai Liang Lim

■大量摂取には「ウェルニッケ脳症」のリスクもある

飲酒をすると記憶がなくなる、いわゆるブラックアウトを起こす方も要注意です。

アルコールを大量摂取すると、脳が萎縮する「ウェルニッケ脳症」を発症するリスクが高まります。ウェルニッケ脳症になると脳幹部に微小な出血を起こし、細かい眼の震えが出る眼球運動障害や、意識障害、ふらつき(失調性歩行)といった、様々な症状が急激に出現します。発症直後にチアミンを大量に点滴すれば回復することができますが見逃されることが多く、死亡率は10~17%と推計されています。

死亡に至らずとも、その後遺症で認知症のような症状を特徴とするコルサコフ症候群へ移行する率は56~84%と高いです。コルサコフ症候群は一度発症すると改善・回復の可能性はほぼないので、ウェルニッケ脳症にならないことが最も重要です。(厚生労働省 e-ヘルスネット「ウェルニッケ・コルサコフ症候群」)

アルコールが体から抜ける時間は、個人によって異なります。

医学的には「体重1kgあたり1時間で約0.1gのアルコールを分解する」と考えられており、同じ量のお酒を体重60kgと80kgの人が飲んだ場合、80kgの人の方が早くアルコールを分解できると考えられています。

しかし、体重はあくまでも目安で、肝臓にアルコール分解酵素をどれだけ持っているかによって変わります。特に日本人は分解酵素の活性が弱く、お酒に弱い人が多い人種といわれています。

■「お酒が好き」「比較的強い」人ほど要注意

肝臓機能は年齢とともに低下し、アルコールの分解スピードも遅くなります。アルコールの分解速度のピークは30代といわれ、その後徐々に処理能力は衰えます。にもかかわらず、若い頃と同じ飲み方をしている方は要注意です。お酒が好きで比較的お酒に強い方には特に気をつけてほしいと思います。

短時間に大量のアルコールを摂取することで意識を失い、危険な酩酊(めいてい)状態を呈する「急性アルコール中毒」に対し、「アルコール依存症」は、長年にわたる大量の飲酒により生じる様々な問題を総称した状態を指します。

2016年の厚生労働省の調査によると、アルコール依存症による外来患者数は約12万人で、潜在的なアルコール依存症者数は約57万人にも及ぶと発表しています。アルコール依存症は想像以上に多く、ご自身で気づいていないケースも多くみられます。(厚生労働省「特集 依存症は“回復 病気”です」)

アルコールはれっきとした依存性薬物で、覚せい剤同様、脳に影響を与えます。症状が進行すると、飲む量やタイミングもコントロールできなくなり、日常生活でさまざまな支障をきたします。重症化すると、酒が抜けてくるとイライラや震え、頭痛といった「離脱症状」が出現するようになり、体に悪いと分かっていても飲酒をやめられなくなるのです。

倒れた酒の入ったグラス
写真=iStock.com/flubydust
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/flubydust

■アルコール依存症は「本人の意思の問題」ではない

健康面では肝硬変や認知症、がんなどのリスクが高まり、やがて心のバランスも崩れ、うつ病などの精神疾患を引き起こす場合もあります。また、暴力や事故、失業といった重大な社会問題にも発展する場合もあります。1日3合以上飲酒する人は月に1~3回飲む人と比較し、自殺のリスクが2.3倍も高まるというデータもあります。(国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト「飲酒と自殺について」)家庭への影響も強く、アルコール依存症の人は離婚率が高い傾向にあり、虐待で親権を喪失する可能性もあります。

アルコール依存症の治療はなかなか難しいのですが、早期に発見して治療を受ければ回復することはできます。末期になると治療は難しく、死に至る危険性も高まります。国税庁の調査によると、アルコール依存症による長期予後の死亡率は20~40%と発表しています。(国税庁「飲酒習慣者の推移」)

治療としては「断酒」が理想です。そのための中間目標として、飲酒量を減らす「節酒」を目指して治療を開始することもあります。また、本人の意思だけでは治療が難しいため、多くの場合は入院治療が選択されます。依存症は本人の意思の問題ではなく、“自分ではコントロールできない”状態になる病気なので、治療には専門の医療機関への受診が必須です。また、家族など周囲の人の理解と協力も必要不可欠です。

楽しいお酒も、量を間違えると取り返しのつかない事態を招きかねません。これからお酒の席も増える季節です。適量を心がけ、楽しく飲みましょうね。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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