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売春女性の急増で1回1万円も稼げないのに…違法と知りながら歌舞伎町で“立ちんぼ”をする少女たちの事情

プレジデントオンライン / 2023年12月5日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kindamorphic

素人女性が体を売るため客待ちをする歌舞伎町の有名スポットでは、2023年、女性の数が急増した。女性たちに直接会って取材をした毎日新聞社会部の春増翔太記者は「体を売る女性は10代も珍しくない。路上売春は、より安く、よりカジュアル化している」という――。

※本稿は、春増翔太『ルポ 歌舞伎町の路上売春』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。記事に登場するカタカナ表記の名前は仮名です。

■「18歳未満だと風俗店で働けないから」17歳で路上に立った

路上売春をする女性には10代も珍しくない。客待ちのノウハウを語ってくれたサユリも、その一人だ。彼女は17歳で立ち始めた。

サユリが初めて「売り」をしたのは16歳のときだった。地元は北関東の地方都市。中学を卒業後、彼女は吉野家、ドン・キホーテ、マクドナルドでアルバイトをし、家にも金を入れた。「でも時給は800円くらいで、せいぜい月に8万円くらいしか稼げない。家に金を入れると、ほとんど残らなかった」。ある日、金をくれるという男性をツイッター(現X)で探してみた。相手はすぐに見つかった。

「言われた通り東京駅まで行って、その男の車に乗せられた。結局、どこかの駐車場に停めた車の中で手でやったよ。45歳くらいの人。私もまだ処女だったし、気持ち悪かった」

それでも受け取った1万円は大きかった。

「『こんなことしてちゃダメだ』って思って、やっぱり売りはやめてアルバイト続けたの。でも1日働いて6000円とかでしょ。もう無理なの。1、2時間で1万円っていうのを知っちゃったから」

家族との関係は悪く、ほどなくマッチングアプリで知り合った男性を頼って上京し、歌舞伎町で売春を始めた。路上に立ったのは、18歳未満だと風俗店で働けないからだ。

「若い子らは平気で1万円以下で(ホテルに)行っちゃうからね。夜のホテル代が出ればいいって子もいるし、ナマでもイチゴー(1万5000円)とか。それで、全体の値段が前より下がってる。前はだいたい2(万円)が平均だったけど、今はもう1とか1.5じゃない?」とサユリは言う。

■「トー横キッズ」も来て路上売春はより安くカジュアル化した

この街に来て4年がたったとはいえ、まだ21歳の彼女が「若い子らは」と言うのは変な気もするが、「相場」は下がり気味だと話す女性は多い。ここ数年、数百メートル離れたトー横広場から、その日の宿代を稼ぎたい「トー横キッズ」の女の子が流れて来るようになって、10代は増えている。路上売春は、より安く、よりカジュアル化している。

彼女たちの多くは、自分たちの行為が違法だと知っている。捕まった経験のある子もいる。だから、そのリスクを常に意識しながら立っている。それが理由で公的支援にアクセスしようとしないケースもあるという。

警察は頻繁にパトロールをしている。パトカーは1時間に何度も大久保公園の周囲を回っているし、制服姿の警察官が2人組で巡回している姿もよく見かけた。買春客と見分けがつかないが、私服刑事らも目を光らせていて、摘発もある。

■2023年、歌舞伎町の路上売春は異常なほど急増している

東京全域を管轄する警視庁にとって、路上売春の取り締まりのメインは新宿だ。池袋にも路上に立つ女性が集まる場所はあるが、規模は小さい。長く捜査に当たる保安課の幹部は、歌舞伎町の変化や現状をよく知っていて、私は検挙実績や捜査の背景を尋ねるため、何度か取材を申し込んだ。

2度目の取材をした2023年2月、その幹部は厳しい表情でこう語った。「ここ数カ月でしょうか、女性が急に増えています。女性だけでなく、人数自体が増えているのですが、ちょっと……どころではないですね。異常です」。

それまで1年以上にわたって足を運んできた私の目にも、明らかに「異常」だった。2022年11月のある週末、午後9時ごろにその一帯に行くと、すでに30人以上の女性が立っていた。それまでは多いときでも、せいぜい十数人だった。その時間に男性客と連れだってホテルに入っていた女性もいたとすれば、この日、路上売春をしていた女性の数はもっと多いだろう。

東京・新宿区歌舞伎町の群衆
写真=iStock.com/gionnixxx
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gionnixxx

■焦った警察は売春を摘発しているが、抑止効果は限定的

12月に入って、警察による大規模な摘発が何日間かにわたり繰り返された。「売春女性と買う側の男性が急に増え、これはまずいという危機感があった」と捜査幹部は明かす。1カ月で10人の女性が逮捕され、路上に立つ女性たちは警戒心から一時的に姿を消した。この頃、私は公園の周りで顔見知りの女の子に会うと、「明日も一斉検挙するってうわさだよ」「私も、しばらく夜は避ける」と言われるようになった。

ただ、年の瀬が近づくと、路上に立つ女の子たちの数は元に戻っていた。先の捜査幹部は、「何十人といても、実際に取り締まれるのはごく一部。抑止的な効果は限定的だった」と話す。

年が明けても、女性たちの数は増え続けた。春先、再び大規模な摘発があり、一時的にその数は減ったものの、それでも40人近い女性の姿を目にすることは珍しくなかった。6月、梅雨入り前の台風が近づいて東海道新幹線が止まり、都心でも激しい風雨に見舞われた日ですら、20人はいた。夏になり、週末ともなると、60人に達することさえあった。この日、わずかでも立った女性を含めれば、100人を超えたかもしれない。

■“立ちんぼ”が並ぶ歌舞伎町の路上はもはや観光地化

1日の中で多い時間帯は、日没から午前0時ごろまでだ。以前なら日付が変わると、その数はぐっと減った。週末であっても、午前1時を過ぎれば、ごった返していた公園の周囲も閑散とするのが常だった。終電が迫れば買う側も減るし、女性たちも、帰る家があれば家路につかなくてはならない。「何時間も立ち続けるのってかなりしんどいから、それくらいが限界でもある」と話す女の子もいた。

それが2023年に入った頃から、午前0時を過ぎても、多くの人が残るようになった。終電がなくなっても、女性たちは当たり前のように路上に立ち続けている。

路上に立つ女性が急増し、大久保公園の周辺はかってない様相を見せ始めた。だが、こうした状況を作り出したのは彼女たちだけではない。むしろ、圧倒的に増えたのは男性の姿だ。

東京・新宿歌舞伎町入り口の赤い看板
写真=iStock.com/Kindamorphic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kindamorphic

■路上に立つ女性を遠巻きに見るという男たちの「社会科見学」

以前であれば、この界隈で目にした男性は、1人でやってきた買春目的か、どこかへ通り抜けていく酔客たちのいずれかだった。今は違う。ただたむろしている男性が多い。大学生のような若者もいれば、サラリーマン風の年配もいる。缶ビールやマッコリの瓶を手にしたグループもいる。そこかしこで繰り広げられる会話は騒々しい。彼らは、路上に立つ女性たちを遠巻きに見続けている。

「うわー、これか。めっちゃいるじゃん」
「みんな、立ちんぼっていう子たちなんでしょ」

そんな声が聞こえてくる。女の子たちの立ち姿にスマホのカメラを堂々と向ける人もいた。まるで見物客だ。この1年ほどで、観光地のようになっている。

こうした男たちを、女性たちは「ギャラリー」「やじ馬」と呼び、嫌っている。彼らの目的はいったい何なのか、何人かに聞いてみた。

大学生だという男性は悪びれずに言う。「ユーチューブの動画やネットで話題になっているのを知って見に来たんですよ。やばくないですか? これほとんど売春やってる子たちっすか?」。

別の日には、30代の会社員に話を聞いた。「いや、自分で買うわけじゃないんですけど、社会科見学みたいな? すごいですねこれ。違法ですよね。買う人もいるんですか?」。言うそばから、スマホのカメラを女性たちに向けていた。

■50代の男性は「しゃべりたいだけ」と言いながら買春経験あり

中には、別の目的がある人たちもいる。女性たちと「しゃべりたい」だけの男性だ。この街に通うようになって半年ほどという50代の男性は、週に3、4日、この一帯を訪れる。知り合いになった女の子たちと話をするためだ。独身で会社勤めのサラリーマンだという。「ただ、楽しく話したいだけ。こんなおじさんでも、仲良くしゃべってくれる子もいるからね。しゃべったり、一緒にお酒を飲んだり。別に危ないことをしようとは思っていない。荻窪の自宅には終電で帰ります」

話を聞いた日、その男性は、顔見知りの女の子に頼まれて、コンビニで買った酒を渡していた。この場所のことは、ユーチューブで知ったという。「今日は有給で休んだけど、普段は会社帰りに来ますね。会社の同僚も知ってますよ。僕が映り込んじゃったユーチューブの動画とかも見せてますから」とあっけらかんと言う。

女性を買うことはないのかと聞くと、少し口ごもった。隣にいた女の子が「あたし、このおじさんに買われたことあるよ」と口を挟むと、「そういったことも1、2度ありますが、それはまあお金がない子への支援みたいなものです」と言って、そそくさと空き缶を片付け始めた。

この手の男性のほか、路上の女性たちに客のような態度で近づき、「何してんの」「調子どう?」などと話しかける男性もいる。彼女たちには冷やかしだと思われ、疎まれている。

■ユーチューバーは女の子たちを無断で撮影しネットに投稿

こうした中で、女性たちが特に敬遠しているのはユーチューバーだ。

ユーチューブに限らずネット上には、道端に立つ女の子たちを、路上を歩きながら映して回った動画が無数にアップされている。公園の周辺に1時間もいれば、撮影をして歩く男性を見つけるのは難しくない。アップされた動画の大半が、映し出された人物の顔にモザイクをかけておらず、見る人が見ればそれが誰だか特定できる状態のままだ。こうした動画は2022年の冬ごろから増え始めた。

翌23年5月、右手にビデオカメラを構え、あまりにも堂々と女性たちを映して歩くスーツ姿の男性を見かけた。女の子たちはびっくりして固まったり、顔を背けたりしている。しばらく私は、その男性の後をついて歩き、タイミングを見計らって記者だと名乗って話しかけた。彼は口元を少しゆがめただけで、何も言わずに立ち去った。

別の日、スマホを盗撮気味にかざしながら歩いている中年の男性がいた。話しかけた私が記者だと言うと、「あんたたちとどう違うの。別に違法行為はしていないし、勝手でしよう」とまくし立てて背を向けた。ビデオカメラの男性にしても、この男性にしても、やましさはあるのかもしれない。

■自分の動画がネットで公開され、憤る女性たち

勝手に素顔を撮られた動画がネット上にアップされていると知り、憤っている女の子とは何人も会った。ある子は友達から「あんた映ってるよ」と言われて気づき、(「NPO法人 レスキュー・ハブ」を運営する)坂本新さんが開いている相談室に駆け込んだ。日中は事務職のアルバイトをしているから、「職場にばれたらどうするの」と怒っていた。その動画を見せてもらうと、モザイク処理もなく、彼女を知る人が見ればすぐに分かると思える映像だった。彼女は、「警察は女の子じゃなくて、ああいうやつを捕まえなよ」と何度も言った。

警察もこうした状況を把握しているが、明確な違法性がなければ、公道上の撮影を取り締まるのは難しい。誰にも肖像権はあるが、その侵害に刑事罰を科す法律はない。憤った女の子たちから、「なんで警察はなんにもしてくれないわけ?」とよく聞かれるが、取り締まる法律がなければ警察は動けない。

■撮影され投稿されるという「肖像権」問題では警察は動けない

春増翔太『ルポ 歌舞伎町の路上売春』(ちくま新書)
春増翔太『ルポ 歌舞伎町の路上売春』(ちくま新書)

「勝手に撮られたんだけど」と、撮影者を捕まえた女性が、近くを通りかかった警察官を呼び止めたり、近くの交番に訴え出たりすることもしばしばだ。「トラブルになるから」と、撮影者に注意する警察官もいたが、そのやり取りまで撮影されてしまいかねない。暴行罪や脅迫罪に当たるような言動があれば別だが、撮影をめぐるトラブルだけでは、「気をつけて下さい」と声をかけるのが関の山だ。

路上で女性と話し込んでいた私を不審に思って話しかけてきたパトロール中の制服警官に記者だと名乗り、その流れで雑談をしたことが何度かある。ある日、男たちによる無断撮影の話を持ち出すと、「(勝手に撮影する)連中をどうにかしたいという気持ちは個人的にはあるけど、肖像権は民事の問題。我々は民事不介入だからね」と言っていた。

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春増 翔太(はるまし・しょうた)
毎日新聞社会部記者
1984年神奈川県生まれ。植物学を専攻していた大学院を中退し、2009年に毎日新聞入社。甲府支局、盛岡支局、社会部、神戸支局を経て、21年から再び社会部に所属。各地で警察を担当し、事件・事故取材に携わった。岩手や神戸では東日本大震災と阪神大震災後の被災地を、社会部では東京パラリンピックのほか、コロナ禍で陰謀論に陥った人やその家族、闇バイトに手を染めて捕まった若者を追った。

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(毎日新聞社会部記者 春増 翔太)

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