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「大谷翔平の犬」が悪徳業者のターゲットに…どれだけ可愛くても「ミックス犬」を買うべきではない理由

プレジデントオンライン / 2023年12月5日 9時15分

大谷選手の愛犬と同じオランダ原産の狩猟犬種、コーイケルホンディエ(写真=Томасина/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

大谷翔平選手のMVP受賞シーンに登場した愛犬が注目を集めている。写真家で愛犬団体の理事の犬丸美絵さんは「コーイケルホンディエという犬種で、これからペット市場で人気になる可能性が高い。しかし、安易な犬種ブームがもたらしてきた負の側面も知ってほしい」という――。

■「かわいいから欲しい!」が招く不幸せ

米大リーグの大谷翔平選手が2度目のMVPを受賞というおめでたいニュースと共に、1頭の犬が話題になっています。おとなしく大谷選手の隣に座り、発表の後に2人でハイタッチ! 一躍「時の犬」となっている犬種は、オランダ原産のコーイケルホンディエ。ふさふさのしっぽを揺らしてカモの気を引くのが仕事だった狩猟犬です。

オランダが第2次世界大戦の戦渦に巻き込まれたことで、一時は絶滅寸前まで数が減りました。現在も世界的に希少な犬種ですが、愛好家たちの努力により少しずつ増え、日本では1年で100頭前後増えています。純粋犬種の犬籍登録や血統証明書の発行を行っている愛犬団体ジャパンケネルクラブ(JKC)によると、同団体での2022年の新規登録頭数は、全犬種合計31万1054頭中の155頭でした。

「かわいいから欲しい!」「大谷選手と同じ犬が欲しい‼」「はやりの犬が欲しい!!!」――。そう考える人も少なくないでしょう。しかしこれまで日本には、話題の犬に熱しやすく、気持ちは冷めやすい人々が、安易に話題の犬種を買って安易に手放してきた、悪しき犬種ブームの歴史が多々あります。

子供の時からずっと犬と暮らし、犬写真家になった私は、現在は写真撮影とともに、犬たちの幸せを願い、犬のすばらしさや心の豊かさ、命の大切さを伝える活動を行っています。今回の大谷選手と愛犬のことが、大切なことを伝えるいいきっかけになるのではと思い、私はインスタグラムで犬たちの気持ちをイラスト付きで発信しました。その内容を、ここでもう少し詳しくお話しします。

■「狩猟犬」が幸せに生きられる環境を用意できるか

大谷選手の横にいるので小さく見えますが、コーイケルホンディエの体重は8〜13kgほど。手足が長く細身の体と長い被毛で体重よりサイズ感は大きめ。日本人の感覚だと確実に中型犬です。

中型犬との暮らしは小型犬より制限があります。日本の賃貸住宅や宿泊施設では小型犬のみ可というところがまだ多く、鉄道などの公共交通機関もケース込みで10kg以下など会社によりさまざまな条件があり、乗車できないことも少なくありません。移動には車を用意することがベストです。移動用のしっかりとしたキャリーやバッグなどはそれ自身が重いため、10kg以下の小さめのコーイケルでも総重量は15kg近くなり、運ぶのはかなりの重労働です。

そして、この犬種と暮らすのに何より大切なことは運動です。思いっきり走らせてあげることが大切です。狩猟犬としての本能を満たす頭脳や鼻を使う楽しみがあるとさらに喜びます。

自然の中を駆け回る、狩猟犬系の保護犬だった筆者の愛犬
写真=©inu*maru
自然の中を駆け回る、狩猟犬系の保護犬だった筆者の愛犬 - 写真=©inu*maru

山や森が大好きです。アクティブな飼い主さんには最高の相棒となるでしょう。中型犬は体が小さい分大型犬よりもスタミナ・持久力共に勝っている上、全身筋肉のような体で瞬発力も高く、満足させるのは大型犬よりも大変です。当然、飼い主にもスタミナと持久力が必要、そして急な動きに備えて強い体幹も必須。そんな犬たちと付き合う時間と心の余裕も必要です。

■犬の欲求が満たされてはじめて「飼いやすい犬」になる

コーイケルホンディエの性格をネットなどで調べると、「賢い・陽気・活発・穏やか・フレンドリー・繊細」などいい面がたくさん列記されています。文字だけ見ると「飼いやすい犬」と思ってしまうかもしれません。

しかし、これはすべての犬に言えるとても大切なことですが、犬たち個々の欲求が満たされてはじめて「飼いやすくていい犬」になるのです。欲求が満たされない場合、【賢い→神経質→ほえる】【活発→体力が有り余る→破壊行動】など、人間目線でいう「問題行動」が起きやすくなり「飼いにくい犬」になります。

つまり、「飼いやすい犬」など存在せず、すべては飼い主次第なのです。

■動物保護センターで経験したこと

「ちょっとお散歩してカフェでまったりしたい」という夢をもってコーイケルホンディエを飼った場合、犬たちが若いうちは、飼い主さんがまったりする前にグッタリしてしまうことになるでしょう。私自身も20年前、犬種図鑑を調べていてコーイケルホンディエに一目ぼれし、家族に迎えることを真剣に検討したことがあります。しかし当時の自分の環境では、猟犬とともに暮らしていく自信が持てず、断念しました。

犬の写真家として仕事をする中で、ご縁があって2016年から神奈川県動物保護センター(現愛護センター)に通うようになりました。センターに収容されている保護犬、動物保護団体が保護した犬たち、新しい家族に譲渡された犬たちなど、さまざまな生い立ち・境遇の犬たちを数千頭撮影し、飼い主をはじめ犬にかかわる方々と話してきました。その中で、犬という生き物への尊敬の念と愛情は増す一方、同時に犬たちを取り巻く環境に問題点が多々あることも見てきました。

神奈川県動物愛護センターに収容された柴犬
写真=©inu*maru ©神奈川県動物愛護センター
神奈川県動物愛護センターに収容された柴犬。同センターでは犬は2013年度以来、猫は2014年度以来、殺処分ゼロが継続されている。 - 写真=©inu*maru ©神奈川県動物愛護センター

そんな私には、かわいい犬という報道を見て、気軽に狩猟犬コーイケルホンディエを飼いはじめた人、飼われた犬の悲劇が、ありありと思い浮かぶのです。

■ライフスタイルに合った犬を選ぶことが大事

犬とお互いに楽しく幸せに暮らすには、ライフスタイルに合った犬を選ぶことがとても大事です。犬を選ぶ第一歩として、純血種であれば、もともと何の目的で作られた犬種なのか、どういう仕事をしていたのかを調べることをお勧めします。保護犬であれば、そこに生い立ちも加味されます。保護団体さんに自分が望んでいる「犬とのライフスタイル」を伝えて、合う犬を紹介してもらうのがおすすめです。

犬を飼いたいと思ったら、まずご自身が犬に割ける時間、お金、体力、知力、心のキャパシティー、住環境を考えましょう。

犬たちの寿命は年々延び、今では平均15年くらい。同じように飼い主も15歳、年を取ります。「今の自分」だけでなく「15年後の自分」のことも想像することが大事です。健やかなるときも病めるときも、体力的にサポートできるサイズの犬を選ぶこと。

犬も人と同様、年を重ねると病気にもかかりやすくなり、医療費は高額です。ペットフード協会の2022年全国犬猫飼育実態調査によると、犬の生涯の飼育にかかる費用は平均で251万7524円。体のサイズに比例して費用は増え、トリミングが必要な犬種も費用は高くなります。

「飼いたい犬」と「飼える犬」は別なのです。

■動物愛護センターに送られた過去の人気犬たち

冒頭で述べたように、日本では過去何度も、特定の犬種をめぐる悪しき「犬種ブーム」が起きました。

人気が出ると、金もうけだけが目的の自称ブリーダー(「繁殖屋」や「パピーミル」と呼ばれます)が無理な繁殖を行い、生まれた仔犬をセリ(ペットオークション)にかけます。ペットショップ等の店頭に並んだそれらの仔犬を見て「かわいい〜」と安易に買った人が、「飼い切れなくなった」といった理由で気軽に棄て、その犬種が各自治体の動物愛護センターに収容されるケースが増えていくという流れです。

過去、日本スピッツ、コリー、シェットランド・シープドッグ(シェルティ)、シベリアン・ハスキー、チワワ、トイ・プードルなど、たくさんの流行犬種がたどった道です。私が神奈川県動物保護センターに通っていたころは、柴犬が常に複数頭収容されていました。

■業者が「コーイケルホンディエ」のミックス犬を作る可能性

人気犬種を棄てる理由は「こんなに大きくなるとは思わなかった」「こんなに大変だと思わなかった」「吠えると思わなかった」「引っ越すから」「旅行に行くから」などなど。信じられないくらい身勝手なもの。はやりの去った犬を捨て、新しくまたはやりの犬を迎えるなどという人もいます。気軽に買って気軽に棄てる。犬たちに罪はまったくないのです。

そして棄てられた犬たちを保護する動物保護団体さんたちは、仕事をしつつ、場合によってはご自身の生活のすべてをかけて、個人の財産や募金で集めたお金で動物たちを救い、新しい家族へつなげています。すべては善意の上に成り立っています。次から次へと犬たちが放棄されるために終わりの見えないその活動は、あまりにも大変です。

保護犬たちは新しくとてもいいご家族に巡り合い、明るく楽しく第二の人生を送っていることが多いです。前の飼い主を恨んだりする犬はほぼいません。ただいつも思うのですが、短い犬生、すべての犬たちが最初から温かい家庭で幸せに暮らせたら、どんなによかったでしょう。

そしてもう一つ、いまだからこそ特に気を付けなければならない問題があります。最近のペットショップの店頭では空前のミックス犬ブームが起きており、そうしたトレンドの中でコーイケルホンディエのミックス犬が作られる可能性が大いにあることです。

犬種を大切に護っているシリアスブリーダーたち(詳細は後述します)は、ミックス犬を作ることはありません。それでも、珍しい犬が欲しい、かわいいから欲しいとミックス犬を欲しがる人が増えると、もうけようとする繁殖業者は増えます。需要と供給が成り立ってしまっているのです。

■「ペットショップに並ぶミックス犬」はどこから来ているか

ペットショップに並んでいるミックス犬たちは、ほぼ金もうけが目的の「繁殖屋」から来ています。母犬たちを大切にしているシリアスブリーダーとは違い、「繁殖屋」の母犬たちは過酷すぎる生活を強いられていることが多くあります。狭いケージの中に閉じ込めたまま、質の悪い最低限の食べ物と水だけを与えられ、もちろん散歩もなく、ケージの中は糞尿まみれ。ヒート(発情期)ごとに子供を産まされ取り上げられ、栄養不足で歯や骨はぼろぼろ。6歳位になり繁殖機能が衰えるまで、ずっとその日々が続くのです。

「繁殖屋」から保護された親犬にも多々会いましたが、長く歩いた経験がないので歩けない、あるいは細長い場所で暮らしていたため前後にしか歩けない犬もいました。

ミックス犬は雑種だから強いという売り文句もあります。もちろん健康な犬たちもたくさんいますが、純血種の掛け合わせは両方の遺伝子疾患がダブルで出る可能性があるということを忘れてはいけません。性格も犬種特有の性格がミックスされるので読めない部分があり、ドッグトレーナーさんに駆け込む飼い主さんも多いようです。

ペットショップでの犬の売れ時は、生後2カ月半から3カ月半位。犬の15年くらいの生涯の中で、たった1カ月です。いろんな種類のたくさんの仔犬たちが、常に店頭に並んでは消えていく。このこと自体がおかしいと気づいてほしいのです。

■人間のエゴを満たすために消えていく命がある

日本では、ペット産業の流通過程での死亡数が年々増える傾向にあります(「犬猫、流通中に年2.6万匹死ぬ ペットショップ・業者」朝日新聞デジタル 2020年4月1日)。保護センター等での殺処分数が年々減り続けているのとは対象的です(2015年以降は、流通過程での死亡数を殺処分数が下回っています)。産まされる親犬も、売れ残った仔犬たちも、産み終えた犬たちも、劣悪な環境で生きていることが多いです。

「欲しい時に気軽に買いたい」「流行の犬種が欲しい」「珍しい犬が欲しい」「ちっちゃい仔犬が欲しい」「同じ犬種の中でもサイズの小さい犬が欲しい」――。そんな人間のエゴを満たすために、見えないところでつらすぎる目に遭う犬たちがおり、消えていく命がたくさんあるのです。

安易な「犬種ブーム」がもたらしてきた悲しい道をもう二度と繰り返してはいけません。需要と供給が成り立つからビジネスになっているのです。もうからなくなれば自然と消えていくのです。

愛犬家のみなさんや、これから犬を飼いたいと思う人たちが、この現実を知ることからすべては始まります。

■どうしても飼いたいなら、いいブリーダーを探すべし

それでも、コーイケルホンディエと暮らしたい! と熱烈なファンになり、飼うための環境が整っているのであれば、出会いを待って家族に迎え、最期まで共に暮らすことはとてもいいことです。美しい容姿、豊かな表情、賢さ、明るい性格と優れた身体能力。相性が良い飼い主と本能を満たせる生活をした場合、最高の相棒になるいい犬です。

私自身、保護団体さんから迎えた、おそらく猟犬ブリタニー・スパニエルの血を引く雑種犬と、自然豊かな場所で暮らしています。賢さと明るさと体力と持久力と神経質を兼ね備えた、コーイケルホンディエと似たタイプのパワフルな犬で、その猟犬らしい奔放さと甘えん坊ぶりにとりこになっています。私の仕事の相棒もしっかりと務めてくれる最高の犬です。

コーイケルホンディエなどの純血種を迎える場合、必ずいいブリーダーを探してください。犬種特有の遺伝疾患が出ないように繁殖管理をし、親犬たちの生活環境を大切にして母体に無理をさせず、犬種スタンダードを大切に守り、犬種の保存と犬質の向上に努めるブリーダーをシリアスブリーダーと呼びます。全国に約2万犬舎あるブリーダーのなかで5%未満しか存在しないと言われているようです。純血種の子犬を迎えたいときは、ブリーダーに実際に会って話をし、犬種愛を確かめ、なにより母犬に会わせてもらうことをお勧めします。

■最期まで大切にしながら共に生きる決意を

コーイケルは一度絶滅寸前まで数が減っているため、近親交配に起因する遺伝子疾患には細心の注意が必要です。純血種の中でも、特にブリーディングの際には十分な知識と配慮が必要な犬種です。コーイケルのシリアスブリーダーは数が少なく、また母体を大切にしながら計画的に繁殖しているので、欲しい時にすぐ仔犬がいるということはほぼありません。「しっかりと調べて楽しみに待つ」ことが基本です。これはどの犬種でも同じことです。

人間と犬の写真
写真=©inu*maru
※写真はイメージです - 写真=©inu*maru

シリアスブリーダーさんから大好きな犬種を迎える。保護施設や保護団体から犬を迎える。どちらも犬を大切にするとってもよいことです。どちらかの方法で、自分のライフスタイルに合う犬を迎え、最期まで大切にしながら共に生きる。そうすればつらい犬たちはいなくなります。とてもシンプルなことなのです。

犬と人が肩の力を抜いて、楽しく笑って泣いて生きていけますように。日本の犬たちの明るい未来を、犬を愛するみんなで作っていきましょう!

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犬丸 美絵(いぬまる・みえ)
写真家、一般社団法人One for Wan理事
1971年福岡県生まれ。九州工業大学情報工学部卒。年を重ねた愛犬の表情を残したいと思い、25年程前から独学で写真を学ぶ。雑誌『いぬのきもち』『BUHI』、書籍『動物愛護ってなに?』(PHP研究所)をはじめ、犬関係の雑誌や書籍に写真を提供。2011年ころから写真を通して動物啓発活動をスタート。2016年より神奈川県動物保護センターでの撮影を開始。写真をまとめた写真集「REMEMBER YOU」が、2022年、アスカブックアルバムデザインアワードドキュメンタリー部門で最優秀賞受賞。

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(写真家、一般社団法人One for Wan理事 犬丸 美絵)

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