「夜食は体に悪いから」とガマンは逆効果…空腹で眠れない人に「寝る1時間前」に食べてほしい食品の名前
プレジデントオンライン / 2023年12月6日 10時15分
※本稿は、奥村歩『スマホ脳・脳過労からあなたを救う 脳のゴミを洗い流す「熟睡習慣」』(すばる舎)の一部を再編集したものです。
■熟睡できるかどうかは「オレキシン」で決まる
熟睡習慣は、オレキシンがカギを握っています。
オレキシンは、ノルアドレナリンやアセチルコリンなどに指令をして、覚醒状態をコントロールしている神経伝達物質です。
睡眠を促すGABAなどの神経伝達物質ともバランスをとっています。
図表1は、オレキシンによって、生体活動がどのように変化するかを表したものです。
オレキシンは、さまざまな脳内物質と相互作用をしており、そのバランスによって、身体を休めるか、目覚めさせるかをコントロールしているのです。
■「ホラー映画」で寝つけなくなるワケ
大脳辺縁系は、情動(感情の動き)を司る脳の領域ですが、感情が高ぶるとオレキシンの分泌が増え、注意力も高まって、「覚醒モード」になります。
これは人類の歴史において培われた、生命を護る機能と言えます。
蛇やライオンに遭遇した際、「恐ろしい!」と感じてオレキシンが活性化、「覚醒モード」に入り、「逃げるべきか? 戦うべきか!」という判断を瞬時に行い、機敏に行動できるのです。
この仕組みがあるため、寝る前にホラー映画などを観てしまうと、脳が興奮して寝つきが悪くなってしまいます。
逆に、感情が動かなければ、オレキシンは活性化されません。
つまらない授業で眠くなるのは、このためです。
■「血糖値」が上がると眠くなる
オレキシンは、グルコース(ブドウ糖)やレプチン、グレリンといったホルモンにも制御されています。
グルコースは血中から全身の細胞に取り込まれ、エネルギー源となります。
血液中のグルコース濃度が「血糖値」です。高血糖になるとオレキシンは抑制されます。食後に眠くなるのはこのせいです。
逆に血糖値が低いときは、オレキシンは活性化されます。
人類の歴史において、最も恐ろしいのは飢餓でした。お腹がすいていると、「寝ている場合じゃないだろ! 早く獲物を探せ!」というオレキシンの指令によって、脳が覚醒してしまうのです。
■なぜ「空腹で寝てはいけない」のか
レプチンは、別名「満腹ホルモン」。食後に脂肪組織から分泌されます。
脳の視床下部に満腹を知らせるサインを送り、食欲を抑制し、エネルギー消費を亢進(こうしん)して、結果的に血糖値を下げます。
食事によって血糖値が上がると、レプチンの働きで、オレキシンが抑制されます。
逆に、血糖値やレプチン値が下がると、オレキシンが活性化されます。
一方、食欲を亢進する「グレリン」というホルモンもあります。別名「空腹ホルモン」とも呼ばれ、空腹時の胃から分泌されると、血液に乗って脳に作用し、食欲を刺激して、空腹感をもたらします。
このとき、オレキシンを活性化してしまうので、空腹で寝ようとしてもなかなか眠れないのです。
熟睡のためには、レプチンとグレリンのバランスを保つために、適度に食べたほうがいいのです。
■「寝る1時間前」に低GI値の食品を食べる
オレキシンは摂食行動をコントロールしています。
空腹時には、オレキシンの働きで「覚醒せよ!」という指令が出てしまい、寝つきが悪くなります。
どうしても眠れない場合、寝る1時間くらい前に、血糖値をゆるやかに上げる食べ物をとると、寝つきがよくなります。
「血糖値をゆるやかに上げる」と申し上げたのには訳があります。
甘いものを食べて、「血糖値スパイク(食後の血糖値が急上昇、急降下を起こすこと)」の状態で寝ると、2〜3時間後に血糖値が急激に下がります。そうなるとオレキシンが活性化して目が覚めてしまうのです。
低GI値(※1)の食品を食べて、ゆるやかに血糖値を上げることが重要です。
※1 炭水化物を含む食品を食べたときに血糖値の上がりやすさを表した指標である、GI(グリセミック・インデックス)が55以下の食品。
■夜食には「ヨーグルトにオリーブ油とフルーツを入れる」
夜食におすすめの低GI値食品は、牛乳、ヨーグルト、チーズ、キウイフルーツ、いちご、りんご、ブルーベリー、ナッツ類など。
ヨーグルトやチーズは、消化がよく腹持ちもいいので、胃がもたれることもありません。
ヨーグルトにはオリーブ油とフルーツを入れるのがおすすめです。ただ、フルーツを入れすぎると血糖値が上がりやすいので控えめにしてください。
空腹が満たされ、レプチン値が上がると、血糖値を下げる効果も期待できます。
また、オリーブ油が腸まで届くと、副交感神経を刺激してリラックス効果も得られます。
■「寝る前のキウイ」で不眠症が改善
台湾の研究で、不眠症の人が寝る前にキウイフルーツを食べたところ、不眠症が改善した、という論文もあります(※2)。
※2 Hsiao-Han Lin et al.,(2011)Effect of Kiwifruit consumption on sleep quality in adults with sleep problems,Asia Pac J Clin Nutr. 20(2):169-74
キウイフルーツには、抗酸化物質とセロトニンが豊富に含まれており、睡眠障害の解消に役立つようです。
さらにマグネシウムを含む食べ物を摂ると、セロトニンが生成されやすくなります。くるみ、アーモンド、落花生などのナッツ類のほか、緑黄色野菜、豆類、ごま、海藻類、魚介類などに含まれています。
旬のフルーツには体温を下げてくれる作用があるので、熱帯夜に寝つきが良くなる効果も期待できます。
■「乳酸菌飲料」が睡眠の質を上げる
コロナ禍で、ストレスを緩和し、睡眠の質を上げる乳酸菌飲料が売上を伸ばしたそうです。
整腸効果で目覚めがよくなるのも人気なのだそうです。熟睡習慣のために、これらを取り入れてみるのもいいかもしれません。
自律神経の働きは、加齢とともに衰えます。個人差もありますが、女性は40代、男性は30代から自律神経の働きが落ち始めます。
自律神経は、身体の各器官の生命活動を維持するため、意思とは無関係に働き続けています。
自律神経は、交感神経と副交感神経に二分されます。
交感神経は、心身の活動性を高めるために働きます。逆に副交感神経は、休養のために働きます。
■「腸活」で自律神経を整える
健康には、交感神経と副交感神経のバランスが重要です。
ところが、年を取ると副交感神経の働きが下がり、そのバランスが崩れがちになるのです。
自律神経をととのえるには腸活がおすすめです。腸の蠕動(ぜんどう)運動が活発になると、副交感神経が優位になるからです。
発酵食品や、食物繊維・オリーブ油を毎日の食事に取り入れるとよいでしょう。
おすすめは、納豆、キムチ、ヨーグルト、キウイフルーツ、りんご、きのこ類、豆乳などです。
■エビ・イカ・カニを食べるとぐっすり寝られる
人体には、深部体温を下げることで、脳と身体をしっかりと休息させる仕組みがあります。ぐっすり寝のためにも、身体の深部体温の低下がスムーズに行われることが大切です。
グリシンが含まれる食べ物には、身体の深部体温を下げる効果があります。グリシンは、エビ、イカ、カニなどに含まれます。
また、旬の夏野菜にも身体を冷やす作用があります。キュウリ、トマト、ゴーヤー、ナス、オクラ、レタスなどです。
■「緑茶」が睡眠に良いワケ
GABAを増やすとオレキシンを抑制し、睡眠の質を高めたり、血圧を下げる効果が期待できます。
GABAは、野菜(トマトやケール、パプリカ、ブロッコリースプラウト)や果物(メロンやブドウ、バナナなど)、乳酸菌発酵食品(漬け物やヨーグルト)、米、雑穀類、カカオなどから摂取できます。
また、緑茶のうま味成分に含まれるテアニンにも、睡眠の質を高める作用があります。
血流を通して脳に運ばれたテアニンは、GABAやグリシンの増加を促し、ノルアドレナリンを抑え、ドーパミンの分泌を促します。
副交感神経を優位にすることで睡眠の質を向上させる効果も期待できます。
緑茶なのでカフェインによる覚醒作用が気になるところですが、テアニンにはカフェインの興奮抑制作用もあるため、睡眠の質の向上には有効と考えられています。
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医学博士
1961年生まれ。おくむらメモリークリニック院長。岐阜大学医学部卒業、同大学大学院博士課程修了。2008年に「おくむらクリニック」を開院し、設置した「もの忘れ外来」ではこれまでに10万人以上の脳を診断した。著書に『スマホ脳・脳過労からあなたを救う 脳のゴミを洗い流す「熟睡習慣」』(すばる舎)、『ボケない技術』(世界文化社)、『スマホ脳の処方箋』(あさ出版)、『脳の老化を99%遅らせる方法』(幻冬舎)、『あなたの脳は一生あきらめない!』(永岡書店)など。
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(医学博士 奥村 歩)
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