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「1日40本の喫煙」はOKだが、「往復10分の喫煙所に1日5回」はNG…合法的な「タバコ休憩」のボーダーラインとは

プレジデントオンライン / 2023年12月5日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

勤務時間中のタバコ休憩に法的な問題はないのか。社会保険労務士の桐生由紀さんは「法律に明記されているわけではないが、すぐ仕事に対応できる状態でのタバコ休憩であれば、労働時間として認められている。ただし、非喫煙者が不公平感を抱かないようなルールは作ったほうがいい」という――。

■社員同士のいざこざの火種になりやすい「タバコ休憩」

「それって休憩じゃないの?」

仕事中に頻繁にタバコ休憩をとる社員を見て不公平だと感じたことはありませんか?

実際、タバコ休憩を頻繁にとっている人がいると、非喫煙者からすれば「自分達はお昼休憩しかないのにずるい」「1日に何回も行っているのに給料が払われているのは納得がいかない」と不満の対象になるのも無理はありません。

一方で喫煙者からすると「タバコ休憩はトイレ休憩と一緒だ」「喫煙所でのコミュニケーションが仕事に役立っている」という考えもあるでしょう。

このように、タバコ休憩に関する社員同士の対立や不満は経営者にとっても「あるある」です。

今回は、雇用の専門家である社労士の立場から、タバコ休憩ついて法的な論点から考えたいと思います。

■タバコ休憩は法律ではなく慣習として許容されている

タバコ休憩が給与ドロボーだと不平不満のネタになるのは、業務時間中に抜け出してタバコを吸うからであり、その間仕事をしていないにもかかわらず賃金が支払われている状況だからです。

「なぜタバコ休憩だけが許されているのか」疑問に思ったことはありませんか?

タバコ休憩は法律ではどのように定められているのでしょうか。

実は、労働基準法においてタバコ休憩については明確な定義はありません。そのため、明確なルールが存在している会社は多くありません。タバコ休憩は法律で認められている休憩ではなく、慣習として許容されているケースが多いのが実情なのです。

このタバコ休憩の問題を考える時、以下の3つの論点を理解する必要があります。

① 休憩時間と労働時間の違い
② 職務専念義務
③ ノーワークノーペイの原則

■自由に過ごすことができない時間は労働時間

①休憩時間と労働時間の違い

1つ目は、タバコ休憩は休憩時間なのか、それとも労働時間なのか、という論点です。

労働基準法で定められている「休憩」は、労働者が働く時間の合間に自由に過ごすことができる時間のことです。休憩と言っても「自由に過ごすことができない時間」は、休憩ではなく労働時間になります。

休憩時間と労働時間の違いは、労働者が「労働する義務から解放されることが保障されている時間か否か」が重要なポイントになります。

例えば、昼休憩中に交代で電話当番をする場合や、接客業でお客が来るまでお店で待機しているなど、指示があればいつでも仕事をしなければならない時間は休憩時間ではなく労働時間になります。

タバコ休憩が休憩時間になるか労働時間になるかを考える際には、タバコ休憩の時間が「労働する義務から解放されることが保障されている時間か否か」が重要なポイントになります。

■公務員も民間企業の会社員も職務専念義務がある

②職務専念義務

2つ目は、タバコ休憩を業務中の私的行為として禁止できるのかという論点です。

会社で働く人には、業務時間中は会社の仕事に集中しなければならないという「職務専念義務」があります。

公務員の場合、国家公務員法などによって職務専念義務が定められていますが、民間企業は職務専念義務が明文化された法律はありません。

ただし、職務専念義務は労働契約を締結することで当然発生するものと考えられており、法律に明文化されていなくても、労働契約を締結すると職務専念義務も発生することになります。

この考えでいうと業務時間中の私的行為を禁止することができると考えられるのです。

しかし、実際は業務時間中の全ての私的行為を禁止としてしまうと、かえって働きづらい職場になってしまいます。業務に支障がない範囲でお茶を飲んだり、雑談したりといった仕事以外の行動は多くの職場である程度許容されています。

タバコ休憩についても喫煙の頻度があまりにも多い、一回あたりの時間が極端に長いなど、明らかにモラルに欠けている人に対しては、会社として「職務専念義務」の観点から指導したり、タバコ休憩の回数や時間のルールを設けるなど対応ができると考えられます。

■仕事から解放されたタバコ休憩は賃金は本来支払われない

③ノーワークノーペイの原則

3つ目は、タバコ休憩の時間の給与をカットできるのかという論点です。

労働基準法の原則は、使用者は賃金を働いた時間に対して支払います。つまり働いていない時間の賃金を支払う義務はありません。

例えば遅刻や早退があった場合、その時間は働いていないため給与控除しても問題ありません。

タバコ休憩の時間も働いていないのでその時間分の給与を控除することは可能です。

ただし、給与控除するためには、喫煙中の時間が「労働する義務から解放されることが保障されている時間」である必要があります。喫煙中でも指示があればいつでも仕事をしなければいけない状況であれば労働時間になるということです。タバコ休憩を休憩時間として扱うためには、会社の指揮命令から完全に解放された時間であることが必要になります。

紙巻きたばこ
写真=iStock.com/mariusFM77
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mariusFM77

■1日20~40本のタバコを吸っても「労働時間」

タバコ休憩が「休憩時間」であるか否かは、複数の判例があります。

●タバコ休憩が「休憩時間」と認められなかったケース

タバコ休憩が「休憩時間」と認められなかったケースが、大阪の居酒屋チェーン店の男性店長が、長時間労働で心筋梗塞を発症し療養・障害補償を求めた裁判です(大阪高判平21・8・25)。

男性の月の残業時間は100時間に達していましたが、業務時間中に1日20~40本のタバコを吸っていたことから、喫煙による休憩時間が1日1時間程度あったとされ、実際の残業時間は100時間を大きく下回ると判断され、労災認定されませんでした。

裁判では、タバコ休憩の時間を休憩時間と認めるか否かが大きな争点となりました。

最終的にタバコ休憩の時間が労働時間と判断されたために長時間労働が認められ、労災認定されました。

この判例でタバコ休憩の時間=労働時間となった理由は以下の2点です。

・何かあればすぐに対応しなければならない状況で完全に業務から離れているとは言えない
・たばこ休憩は1回5分程度であり、まとめて与えられていたとは言えない

実際に仕事をしていなくても「何かあればすぐに対応しなければならない状況」は、労働する義務から解放されることが保障されていないため、その時間は労働時間になるということです。

ただ、この判例だけを見てタバコ休憩=労働時間と考えるのは早計です。

労働する義務から解放されることが保障されている状態かどうかは、タバコ休憩のために離席している時間や喫煙所との距離的関係も重要になってくるからです。

■往復10分の喫煙所まで行くのは「休憩」

●タバコ休憩が「休憩時間」と認められたケース

逆に、タバコ休憩が「休憩時間」と認められたケースが泉レストラン事件です(東京地判平26・8・26)。

原告の男性は、昼休憩の他に業務時間中に1日4~5回以上、職場を離れて喫煙所に行っていました。喫煙所は職場から離れていて、往復するのに相当の時間がかかる場所にあり、いったん職場を離れると戻るまでに10分前後の時間を要していました。

そのためタバコ休憩の時間中は労働から解放されていたとされ、休憩時間と判断されました。

この判例でタバコ休憩=休憩時間となった理由は以下の2点です。

・職場と喫煙所との距離が離れていて往復に相当の時間がかかった(10分程度)
・何かあった時にすぐに対応できる状況になく喫煙中は労働から解放されていた

ただし上記の条件を満たしていても、携帯電話などを常に持っていて、会社からの指示があればすぐに対応しているような場合は、労働する義務から解放される状態とは言えず、労働時間と判断される可能性もあるので注意が必要です。

込み合う渋谷駅付近の喫煙所
写真=iStock.com/Rich Legg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rich Legg

■1回10分、1日8回のタバコ休憩は1年で有給40日分に相当

判例ではありませんが、タバコ休憩が職務専念義務違反にあたるとして公務員が懲戒処分を受けた事例もあります。

大阪府財務部の職員が、14年半で計4512回(計355時間19分)職場を抜け出して喫煙した事例です。この職員は、6カ月の減給処分に加え、職務専念義務違反にあたるとして144万円分の給与を返還することになりました(2023年3月20日付 毎日新聞)。

給与の返還なんて、大げさ過ぎるのではないかと思う方も多いでしょう。

仮に月給30万円の人が1時間に1回10分間のタバコ休憩を行っていたとしたら、1日80分のタバコ休憩を取っていることになります。この時間を給与に換算すると1日約2500円分、1カ月約5万円分の給与ドロボーをしている計算になります。これが1年積み重なると、有給休暇にすると実に40日分(60万円)に相当します(1日8時間労働、月20日勤務想定)。

これは非喫煙者からすると見過ごせない金額ではないでしょうか。

タバコ休憩の頻度があまりにも多い、1回あたりの時間が相当長いなど、明らかにモラルに欠けている喫煙者には職務専念義務の観点から注意や指導を行うことが可能です。会社として適切な対処やルール作りを検討しましょう。

■「タバコ休憩」には明確なルール作りが必要

前述したように、タバコ休憩を休憩時間とみなすかどうかは、状況により判断が分かれ明確な線引きはできません。

ただ、法律で明確な線引きや罰則がないからといって、タバコ休憩の扱いをあいまいな状態のままにしておくことは危険です。

タバコ休憩への根本的な不満は「タバコを吸うこと」ではなく「社員間の労働時間に関する不公平」にありますので、以下のように明確かつ平等なルールを作成し、その回数や取り方などを明確にしておくことが大切です。

(1)非喫煙者にもタバコ休憩のような「休憩」を与える

非喫煙者にも喫煙者と同様の休憩を与えるという方法です。

社員の集中力を保ち効率を維持する目的で、例えば、午前と午後に10分ずつ「リフレッシュ休憩」を設けます。喫煙者も喫煙は「リフレッシュ休憩」中にしてもらい、それ以外の時間の喫煙は禁止してしまう、といった方法です。業務時間中に適度な休憩時間があったほうが、仕事がはかどり業務効率が上がることも期待できます。

(2)喫煙者には休憩を分割して取得してもらう

1時間以上の休憩を与えることは難しいという場合は、休憩を分割して取得してもらう方法があります。1時間のお昼休憩を午前中に10分、お昼時間に40分、午後に10分と分割取得してもらいます。そして喫煙は分割した休憩時間にしてもらいます。

ただし、あまりに細かく休憩を分割すると、心身の疲労の回復を目的とした休憩時間の趣旨に反しますので、十分に休息できる範囲での分割とし最低限の配慮を行うようにしましょう。

(3)タバコ休憩を「休憩時間」とみなし給与控除する

この方法は、前述したとおりタバコ休憩が「労働時間」にあたらない場合に可能な方法です。

喫煙所が離れた場所にあり、喫煙して戻ってくるまでに10分程度の時間を要するような場合に検討できます。その間、労働から完全に解放されることを保証し会社から指示を行わないようにしましょう。

タバコ休憩を「休憩時間」として給与控除するケースでも、その回数や頻度についてルールを定めルール違反が起こらないように周知しておくのが重要です。

■「喫煙者」という理由で解雇や処分はできない

(4)喫煙者は採用しない

企業には「採用の自由」があるため、採用条件は一定の制限(不合理な差別)を除いて企業が自由に設定できるのが原則です。「非喫煙」を条件にすることは、不合理な差別にあたらないとされているため法的には可能です。

喫煙者を採用しない場合は、トラブルにならないためにも採用面接時に喫煙を禁止する合理的な説明を行い、社内ルールを説明するなど応募者に会社の意図をきちんと理解してもらう必要があります。また、採用後に喫煙者であることが発覚したとしても、それをもって解雇することや、喫煙に対して処分することは違法になります。

作ったルールは、就業規則に定め従業員に周知徹底するのが大事なポイントです。

あわせて、ルールを守らない従業員には注意指導を行いそのルールを徹底運用する責任が会社にはあります。ルールを作っただけで運用が徹底されていないと、裁判で無効だと判断されるリスクがあるため、ルールを作る際は専門家に相談してください。

■タバコ問題は会社全体の士気にも影響する

喫煙者と非喫煙者の間でたびたび論争となる、職場での「タバコ」に関する問題は、放置しておくと不平不満が大きくなり会社全体の士気にも影響します。

また、1回数分のタバコ休憩でも回数が積み重なればかなりの時間になり、結果として年間数万円分の賃金、何日分もの有給休暇に匹敵する休暇になってしまいます。

非喫煙者との間の不公平感を解消するためには、会社側がしっかりと対策してルールを整備することが大切です。現在、何の対策も行っていない企業は一度タバコ休憩の在り方を見直してみてはいかがでしょうか。

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桐生 由紀(きりゅう・ゆき)
社会保険労務士
成蹊大学文学部英米文学科卒。Authense社会保険労務士法人 代表社会保険労務士。第一子出産後、7年の専業主婦期間を経てAuthense法律事務所に参画。創業間もないベンチャー企業だった法律事務所と弁護士ドットコムの管理部門の構築を牽引。その後、Authense社会保険労務士法人を設立し代表に就任。企業人事としての長年の経験と社会保険労務士としての知見両方を合わせ持つ事が強み。創業まもないベンチャー企業から上場企業まで、企業の成長フェーズに合わせた支援を行っている。プライベートでは男子3人の母。

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(社会保険労務士 桐生 由紀)

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