1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「親に頼れない共働き夫婦」は確実に詰んでしまう…お金があってもどうにもならない「小1の壁」という大問題

プレジデントオンライン / 2023年12月11日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nikoniko_happy

日本の共働き世帯は、子の小学校進学で子育てと仕事の両立が困難になる「小1の壁」にぶつかりやすい。ファイナンシャルプランナーの加藤梨里さんは「これをきっかけに仕事を辞める人は多く、日本全体にとって損失が大きい。子どもを学童施設に入れれば解決という単純な問題ではない」という――。(第2回)

※本稿は、加藤梨里『世帯年収1000万円』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

■共働きを諦める「小1の壁」とは

未就学児の頃は時間管理や体力面でかなりの負担と不安に苛まれることがありますが、数年たって小学生になると、子どもが風邪をひく回数も減ってきて、共働きでの子育てもなんとかなるのではないかと思い始める人も多いでしょう。

そんな希望もつかの間、子どもが小学生になると、朝から夕方まで、長期の夏休みや冬休みもなく子どもを預かってくれる保育園がいかに恵まれた環境であったかを痛感することになります。

未就学児のうちはなんとかなっていたはずなのに、小学校に上がった途端どうにもならずに共働きでの子育てを諦めてしまう。それが「小1の壁」です。

2023年3月、「#学童落ちた」というハッシュタグがツイッターのトレンドに入りました。前述の「保育園落ちた日本死ね」から7年経ち、今度は「学童落ちた」のトレンド入り。多くの働く親たちが溜め息をもらしたことでしょう。

時を同じくして岸田首相は、公設の学童である放課後児童クラブの待機児童が1.5万人いることについて言及し、「待機児童解消を目指し、『小1の壁』の問題にも向き合っていく」と発言しました。

このように、新たな社会問題となりつつある「小1の壁」ですが、ただ施設が増えれば解決するという単純な問題でもなさそうです。「壁」の本当の原因はどこにあるのでしょうか。

■学童に入れればOKではない

小学生になると下校時間が早く、入学したての1年生はお昼前には帰ってきます。2学期以降になると午後の授業が増えてきますが、それでも3時頃には下校するのが一般的です。

保育園のように毎日、朝から夕方まで子どもを学校に預けることは原則としてできません。かつての共働き家庭には自分で鍵を持って親が留守の自宅に帰宅する「カギっ子」が多くいましたが、昨今は防犯上の観点から特に低学年の子どもに一人で留守番をさせることは少なくなりました。

そのような共働き家庭の子どもたちのために、上述の学童保育施設(放課後児童クラブ・育成室)があります。学校から子どもが直接学童へ行けば日中に一人で帰宅することはありません。多くは校内に設置されているか、離れていても学童の先生が放課後の時間に合わせて学校へ迎えに行ってくれます。

公設の学童でも基本的には下校後から17時~18時30分前後まで過ごすことができるので、利用すれば保育園時代とほぼ同じように、親がフルタイムで仕事をしていても自宅外に子どもの居場所を確保することができます。

利用時間中に勉強の時間が設けられている施設も多いので、宿題を済ませてから帰宅させることも可能です。

■親のやるべき仕事が増える

しかし、施設の面倒見の良さにもよりますが、学童できちんと宿題を仕上げてくる子ばかりではありません。低学年のうちは抜け漏れがないかのチェックや答え合わせなどには親のサポートが必要です。

また宿題だけではなく、小学校に上がると子どもが自宅で済ませておくべきタスクが一気に増えます。

翌日の時間割に合わせて教科書とノートを全科目分ランドセルに揃えるだけでも、毎日忘れずにやるのは簡単ではありません。図工の授業で使うトイレットペーパーの芯を用意するとか、鍵盤ハーモニカのホースのパーツを洗っておくといった小さなタスクも挙げればきりがありません。

多くの子にとって、小学1年生のはじめはまだ自分で身の回りのことをしたり、時計を見て自ら進んで宿題を始めるようなことは難しいので、小学校生活をつつがなく過ごすという一見なんでもないことも、きちんと実現するには、親が全く関わらないわけにはいきません。

夕食の支度や家事をこなしながら、子どもの宿題や持ち物の準備のサポートをするのは、子どもの性格や人数などにもよりますが、親にとっても一仕事です。自身の本業で働いた後のことともなると、親が疲れないはずがありません。

■泣く泣く仕事を辞める

小学生になれば習い事や塾通いも増え、教育費の出費が増えがちです。そのためには仕事をして少しでも収入を確保したいというのが本音でしょう。しかし、あまりに忙しい生活に限界を感じて、子どもが小学校1年生になったタイミングで泣く泣く仕事を辞めるケースは、共働きの家庭では少なくない話です。

子育てと仕事の両立について論じられるときには、主に育児休業の充実や待機児童対策についてなど、子どもが生まれた直後や幼児期に目を向けられることがほとんどでした。

その結果、第一子の出産後に仕事を継続している妻の割合は38.3%と、2000年代の初めから10ポイント上昇していて、産前から働いていた人のなかでは半数を超えています(内閣府令和4年版少子化社会対策白書)。

その点では、未就学の子どものいる親が仕事と子育てを両立しやすい環境整備は確実に進んできていると言えそうです。しかし子育てと仕事の両立はそれで終わりではありません。

学習や学校生活のサポート負担も増えるので、小学校に上がってからの方がむしろ親は仕事をしづらくなる面もあるのです。

■月に10万円の民間学童も

希望した公設の学童施設に空きがない場合は民間の施設を利用する方法もあります。民間の学童施設は、21時や22時まで子どもを預けることができたり、晩ご飯を出してくれたり、学童から習い事への送迎もしてくれたりと、公的な学童に比べて保育内容が充実しています。

親の仕事中に施設内で子どもに習い事や宿題、受験勉強までさせられることを売りにしている民間学童も多数あります。子どものお世話から勉強の指導まで、かなりの部分を親の代わりに担ってくれますから、手厚い民間学童に通わせている保護者に聞くと、「小1の壁」にもそれほど直面せずに済んでいるようです。

ただ、その分料金は高額です。公的な学童施設は地域により月額数千円から1万円程度で利用できますが、民間学童は週5日利用すると月に4~6万円が相場です。送迎や習い事、塾などのサービスの利用料が別途必要な場合には、費用が月に10万円近くになるケースもあります。

それでも、保育園時代よりも早く下校する子どもの居場所を確保するために、どうしても学童に入れなければならないという状況は、多くの共働き世帯が直面する課題です。

入会申込後に公的な学童施設に入れることになって入会を辞退しても、入会金が返金されない民間学童もありますが、それを覚悟で申し込む人も少なくありません。

■親の努力とお金ではどうにもならない難問

学童に行かせても、それだけで「小1の壁」問題がすべて解決するとは限りません。今度は「子ども自身が学童に行きたがらない」という問題が出てくることがあるからです。

保育園のように全員が夕方まで一緒に過ごすわけではなく、学童を利用していない子どもたちは学校が終われば家に帰っていくのに、「なぜ自分だけ学童に」という思いを抱くのは自然なことですし、友達関係の悩みやトラブルも起こり始める時期です。

実際、学童に入れたもののしばらくすると本人が行くことを渋るようになり、早々にやめてしまったという話をしょっちゅう聞きます。多少無理をしてでもお金を出してサービスの手厚い民間学童に行かせさえすれば、小1の壁を乗り越えられるのではと期待していても、子どもにとって学童が必ずしも居心地の良い居場所になるとは限りません。

親の努力とお金だけではどうにも解決できない問題です。幼い子どもの子育てとは違う、小学生ならではの難しい局面といえます。

しかし、もし実家を頼れるのなら話が違ってくるかもしれません。自宅から実家が近ければ、学校帰りに子どもが祖父母宅に立ち寄って親の帰りを待つという選択肢もあり得ます。

タブレットを見ているおばあちゃんと孫
写真=iStock.com/georgeclerk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/georgeclerk

当然ながら祖父母が心身ともに健康であり、かつ本人たちの同意があって初めて取り得る手段ではありますが、他人と違って気心の知れた家族なら安心して子どもを預けられますし、かわいい孫が日常的に家に来てくれるとなれば、喜ぶ祖父母も多いでしょう。

筆者の周囲でも、小学生に限らず実家が子育ての多大な縁の下の力持ちとなっている例が数知れません。「スープの冷めない距離」というように近隣に住んでいる人だけでなく、事あるごとに電話1本で実家の親が新幹線で駆けつけている家もあります。

■近くに住む祖父母という隠れた格差

頻繁に預ける場合は多少のお礼を渡す人もいるでしょうが、民間学童に預けたりベビーシッターを利用したりするのに比べればはるかに安く済むので、ある知人は「経済的にもかなり助かっている」と本音を漏らしていました。いざとなったときに頼るあてがあるというだけでも、親の精神的な負担はかなり軽減されます。

子どもがいると、仕事の繁忙期や急なトラブル対応が発生したときでも上司や同僚に頭を下げて定時で帰らなければなりません。そんなときに「最後の手段」として祖父母を頼ることができれば、親のストレスはまったく違ってきます。

加藤梨里『世帯年収1000万円』(新潮新書)
加藤梨里『世帯年収1000万円』(新潮新書)

子どもの発熱で保育園や学校から呼び出しがあったときに、問答無用で即座に早退しなければならないか、とりあえず祖父母に引き取りに行ってもらえるかというのも大きな違いです。

最近は、そんな「孫育て」をリタイア後の生きがいにしている祖父母も少なくありません。一方で、長生きリスクや先細る年金への懸念から、再雇用やパートで働く祖父母もいます。晩婚、晩産の影響からか祖父母が高齢で病気を抱えていたり、要介護状態で孫育ての余裕などないケースも多いため、実家を頼れるかどうかはきわめてセンシティブな話でもあります。

表向きは共働きの夫婦と子どもという同じ家族構成でも、子育てにかかわるすべてに夫婦2人だけで対応しなければならない状況と、近くに住む祖父母という、いざというときのセーフティネットがある状況では、内情は全く違います。

何事もなく保育園や学童を利用できる平時はそれほど違いがわかりませんが、実は隠れた格差があるのです。

----------

加藤 梨里(かとう・りり)
ファイナンシャルプランナー(CFP®)
マネーステップオフィス代表。保険会社、信託銀行、ファイナンシャルプランナー会社を経て2014年に独立。慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科修士課程修了。著書(監修)に『ガッツリ貯まる貯金レシピ』(主婦と生活社)など。

----------

(ファイナンシャルプランナー(CFP®) 加藤 梨里)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください