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世界「死ぬほど残業して高収入」は時代遅れ…欧米の若者が「日本の窓際族」に憧れはじめた理由

プレジデントオンライン / 2023年12月9日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DragonImages

日本で働き方改革が起きているように、海外でも新しい働き方が注目されている。イギリス在住で著述家の谷本真由美さんは「最近の若者は、生きていくだけの収入があれば満足という人が多い。日本の『窓際族』のような働き方が最先端になっている」という――。

※本稿は、谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない5』(ワニブックス【PLUS】新書)の一部を再編集したものです。

■海外のビジネスパーソンの理想は「窓際族」

最近の海外でのトレンドは「いかに働かないか」です。

英語圏でのトレンドワードは「Quiet quitting」――これは「こっそり辞める」という意味で、仕事を完全に辞職せず、ゆるい職場で昇進をめざさず適当にやって窓際状態を維持するという意味です。職場でいかにさぼるか、いかに働かないかが重要です。

日本のメディアでは「海外って定時で仕事が終わり、ワークライフバランスが充実していていいねぇ」と言い張ってきました。さらに海外在住の日本人のなかには同じようなことを吹聴している人がいます。それは低賃金低スキルの中以下の職場の話で、上位層や中以上の階層の仕事は過酷化してきているのです。

とくに中の上を越える知識産業は、市場がグローバルで時差が関係ないため競争相手は海外が多く、自国にも次々と外国人が来るので競争は激化し、そして知識が陳腐化するのも早いので常に勉強です。しかも利益追求の圧力が日本よりハンパないので、リストラや事業整理も厳しくてすぐクビになります。

■「生きていくだけの収入があれば満足」

そういうわけで、海外の先進国ではこれまで時間外や深夜までの労働、週末は同僚とのチームビルディング活動で宿泊をともなう社員旅行に出かけるとか、上司の子どもの行事につきあう滅私奉公が当たり前でした。コネと根回しが日本以上に重要です。

そんな働き方に疲れたZ世代を中心に、会社との関わりは最小限にする動きが流行しています。コロナ禍で仕事と収入に重きをおくライフスタイルに疑問を抱くようになったのも大きいです。仕事ばかりしていても感染症でコロッと死んでしまうこともあるのです。

彼らは趣味や私生活を重視して時間外労働を拒否。同僚や上司ともつきあわず職場のイベントは無視、労働を最小限にすることで仕事から距離を置いています。当然、昇進・昇給は望めませんが、生きていくだけの収入があれば満足という人々なのです。

■ストレスフルな対面の仕事はしたくない

これは実際に世論調査にも傾向が顕著に出ています。

コンサルティング会社のデロイトは、世界46カ国にいる1万4808人のZ世代、さらに8412人のミレニアル世代に調査をおこないました。

その結果、ミレニアル世代の40%、Z世代の32%が仕事でもっとも重視するのが「ワークライフバランス」と回答し、仕事に関して最重要な事柄となっています。2位が「仕事で学べる機会」で29%、3位が「収入」でお金の重要性は低いのが特徴です。

小売やサービス、教育、医療など対面作業の多い業界の人は「今後2年以内に離職したい」という人が40%を占め、就労環境の悪化を挙げています。また30%の人が「もっとも心配しているのが生活費」で、環境問題や失業を超えています。

つまり財政的な不安はあるが、仕事自体よりも生活の質を重視し、ストレスが多い対面の仕事はしたくないという人がけっこう多いのです。MBAを取得し、金融やITなどで華々しく稼ぎ、長時間の激務が当たり前だった世代とは大きな違いです。

仕事に悩む女性
写真=iStock.com/key05
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/key05

■中国政府が削除したがる「あるハッシュタグ」

このようなトレンドは先進国だけではなく、なんと中国でも同じです。中国では激烈労働に疲れ果てた若い世代を中心にソーシャルメディアで「#TangPing」というハッシュタグが流行しています。これは「何もしないで床に横たわる」という意味ですが、幼少期から激しい勉強と競争にさらされた人々がすっかり疲労困憊(こんぱい)で、人生の意味を問い直しているのです。

中国ではとくにスタートアップ企業の労働は苛烈で過労死が出るほどです。

「#TangPing」のムーブメントがあまりに人気のため、若い人が労働意欲を失うことを不安視した政府によってこのハッシュタグが中国では禁止され、次々に削除されています。

ところが、この若い世代のトレンドは「合理的」なのです。過去20年間、とくに若年世代や専門職は長時間労働と強いストレスにさらされることで高い収入を得ることが当たり前でした。とはいえ燃え尽きた人が多く、実は得られるものは少ないのです。

たとえばオックスフォード大学とイギリスの通信大手BTによる2019年の調査「従業員の幸福度は生産性に影響しますか?」(Does Employee Happiness have an Impact on Productivity?)では、定時で仕事を終え労働を最小限にすることで、むしろ仕事のパフォーマンスは上がっているのです。生活の質が高まり人生の満足度が上がるので定着率も高くなり、会社もハッピーになるという結果が出ています。

■日本の「窓際族」は働き方の最先端だった

仕事や会社に入れ込まず必要最小限のことしかやらず、定時上がりの「Quiet quitting」をめざす従業員は一見問題がありそうです。でも自分の責任範囲がはっきりしており、やるべきことは定時内にきちんと済ませるので信頼に値する人だとの指摘もあります。

このような社員は会社に過度の期待をしないので、昇進や権限についても感情的にならないうえに裏工作をするようなこともなく、コンプライアンス違反もしません。やることが決まっているので透明性も高いのです。

たとえばソフトウェア業界のコムピット(Compt)のジョー・アリム氏は、2022年8月に『ワークライフ』(worklife)のインタビューに答え、「定期的に給料が支払われることに完全に満足している人もいるし、彼らは決められた範囲の責任をきちんと果たすんですよ。この人たちはもっとも信用できる」と述べています。

日本では以前より役所や大企業で、朝から濃い緑茶を飲み一日中スポーツ新聞を読み漁り、窓際状態を維持する趣味人が存在していました。この人々は時代の最先端を歩んでいた「人生の意味を理解している人々であった」ということです。日本はポストモダン社会で、なんでも先取りしているのです。

■綺麗事が大好きな欧米の経営者たち

Twitter(現X)の買収で話題になっているイーロン・マスク社長。

私は「ツイッター廃人」(ツイ廃)なので、彼の改革がどのように進むか目が離せず、毎日欠かさずイーロン・マスク社長のツイートをウオッチし、音声を使ったリアルタイムの会話機能であるTwitterの「Space」も逃さず聞いていました。

彼の発言に触れれば触れるほど大変おもしろいことがわかります。

欧米の経営者はかなり表層的で、軋轢を生みたくないので外交的な発言ばかりします。ようするに綺麗事が大好きなのです。なぜなら綺麗事を言っておかないと、ありとあらゆるところに敵をつくり攻撃されるからです。

これらの国の企業はCSR(企業の社会的責任)や差別反対、環境への配慮などに熱心なように見せかけています。あくまでリスク回避のためです。とはいえ本心で思っている経営者は多くはないでしょう。なにしろ会社で実際に働けば利害関係バリバリ、思いやりなど一切なく冷徹で、とにかく自己中心的だからです。

■イーロン・マスクは昭和スタイルの熱血社長

ところがマスク社長はXでの発言もSpaceでも実に単刀直入。良いものは良い、良くないものは良くないとはっきり言います。見ず知らずの一般ユーザーの質問にも返答します。まるで大学のイベントやラボのメーリングリストです。彼のタイムラインにいると、一般ユーザーの自分も同じプロジェクトにいるような気になります。

私はこんな経営者を見たことがありません。納得しないことがあれば、Appleの社長でもマスコミでも、いきなりXでメンションを飛ばして質問します。単刀直入です。相手の会社にたった一人で出かけていって話をします。まるで昭和の中小企業のおやじさんではないですか。こうして彼は以下のことをXでやっています。

・経費の無駄遣いはするな
・無駄な会議はやめろ
・嘘をつくな
・透明化しろ
・会社に来てみんなで一生懸命働け
・製品の品質をアップしろ
・ユーザーの声を聞け

作業着にしているオタク向けのTシャツで、ピザとSFが大好きな社員と汗を流し、オフィスのソファで寝て、ラーメン二郎とカフェイン抜きのダイエットコークが大好きで、メッセージは一行のみ。ユーザーになにか頼まれれば「俺がやってやるよ」という。世界一の富豪は、実は昭和スタイルな熱血社長だったのです。

■リスク回避に忙しい人は変革をもたらさない

ハイテク社長の本質は、世界一速いバイクをつくりたかった本田宗一郎、外に音楽を持ち出したかった盛田昭夫でした。この熱意と泥臭さは、零細自営業者やイラストレーターなどを少額決済が可能になったことで自活できるようにし、地上に戻ってくるロケットを創り出し、自動運転が可能なトラックを走らせているのです。

谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない5』(ワニブックスPLUS新書)
谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない5』(ワニブックス【PLUS】新書)

これまでもてはやされてきた金融ゲームやアボカドスムージーを飲みながらヨガをやるマネジメントは終焉(しゅうえん)を告げるでしょう。彼らはタピオカ入りドリンクを飲みながら、差別と環境に関するおしゃべりをするのに多忙すぎて変革をもたらさなかったのです。

ウクライナで命をかけて泥だらけの塹壕で戦う人々と同じように、世界を動かすのはシンプルさ、真摯(しんし)さ、熱意、正直さなのです。

欧米でも若い人たちに日本の昭和歌謡やシティポップが流行っていますが、それは彼らがダサいけれども熱意があった時代に惹かれているからではないでしょうか。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)
著述家、元国連職員
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。

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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)

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