自民党とNTTですべてを決めていいはずがない…KDDI、ソフトバンク、楽天が「異例の会見」を開いた本当の理由
プレジデントオンライン / 2023年12月8日 10時45分
■「国民生活にとって重要な決定が密室で行われている」
12月4日、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの通信大手3社は、約180社が加盟する日本ケーブルテレビ連盟と共同で「NTT法の見直しに関する意見表明」の記者会見を開いた。
その3日前の12月1日金曜日、自民党のプロジェクトチームが会合を開き、2025年をめどにNTT法を廃止する提言案が原則、了承されたと報道された。
これをうけて、通信大手3社は「週明けに幹部クラスが出席する記者会見をやる」と2日土曜日にメディアに告知。会見は週明けの月曜日に開かれ、YouTubeでも配信された。登壇者のうち、楽天モバイルの三木谷浩史会長は出張中のインドからオンライン参加だった。通信大手3社が共同記者会見を開くのも異例だが、これだけのスピードでトップ会見が決まるのも異例だ。そこからも各社の危機感が伝わってくる。
会見中、KDDIの髙橋誠社長は「通信会社間のいざこざに見えるかもしれないが、決してそんなことはない」と語気を強めた。確かに「NTT法」と言われても、一般の国民にはピンとこない。4社の幹部からは「いかに国民生活にとって重要な決定が密室で行われているか」の危機感を伝えようと必死の様子が伝わってきた。
実際、ソフトバンクの宮川潤一社長からは「(NTT法を廃止するなら)当然、電話加入権を国民に返すべきという議論もあってしかるべき」と、過去には固定電話を契約するのに必要であった7万2000円(その後、3万6000円)の電話加入権の話を持ち出し、なんとか国民の関心を引きたいという腐心がうかがえた。
そもそも、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルがNTT法の廃止に「絶対反対」というスタンスを取っているのはなぜなのか。
■電電公社時代に培った「特別な資産」
NTTには、公社時代から国民の財産で培った「特別な資産」が存在する。例えば、全国に約7000ある局舎や、ケーブルを這わせるための「管路」が60万キロ(地球15周半)、電柱1190万本といった具合だ。NTTは1985年の民営化後、ここに110万キロの光ファイバー網を敷き、電話や通信のサービスを提供している。
KDDIやソフトバンク、楽天モバイルは、携帯電話のサービスを提供しているが、街中にある基地局(アンテナ)は、このNTTが持つ光ファイバー網に接続させてもらって、ユーザーにサービスを提供している。
自民党のプロジェクトチームはNTT法を廃止しようとしているが、仮にNTT法が廃止され、持株会社のNTTやNTT東日本、西日本、さらにはNTTドコモなどが合併すると、この接続料を値上げする恐れが出てくるのだ。
三木谷会長は「日本では、スマホにおける通信のいちばん重要なバックボーンはすべてNTTの特別な資産に支えられている。(中略)NTT法がなくなったら、NTTはいつでも接続料を上げられる」といい、「そんな環境となれば、楽天グループは携帯事業に参入していなかった」としているほどだ。
■「私がNTTの社長なら値上げで莫大な利益を得る」
実はKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルだけでなく、NTTドコモもNTTが持つ光ファイバー網に接続してもらってサービスを提供している。仮にNTTが光ファイバー網の接続料をすべての会社に対して値上げしたとしても、NTTドコモに対しても同じ値上げが適用される。
値上げによって、NTTドコモは高額な出費を余儀なくされることになるが、一方で、光ファイバー網を貸しているNTTは値上げで収益が増えることになる。NTT全体でみれば、プラスマイナスゼロで収支は変わらない。
しかし、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルにとってみれば、単なる値上げであり、収益を下げる要素になってくる。これでは「公平な競争はできない」というわけだ。
三木谷会長は「100%子会社のほうを優先することになるだろうし、私(がNTTの社長)ならNTT東西の光ファイバー利用料を20%上げて莫大な利益を得るだろう」と、NTTの経営者目線で推測する。
■防衛財源の確保がなぜかNTT法の廃止の話に
特にKDDIとソフトバンクが、NTT法の見直しについて危機感を募らせている背景にあるのが、2020年に行われたNTTによるNTTドコモの完全子会社化だ。
そもそも、NTTグループは分離し、競争させていくというのが閣議決定だった。しかし、NTTドコモに対しては「NTT法には含まれない」(当時の澤田純社長)として、しれっと完全子会社化を進めてしまった。
髙橋社長は「2020年に、料金値下げの議論のどさくさに紛れて、NTT分離の趣旨に反してドコモの完全子会社化が審議会もなく通された」と不満を隠さない。
KDDIやソフトバンクは「法律に書いていないからと強行突破するのはおかしい」として、今回のNTT法の見直しについても「NTT東西とNTTドコモを一緒にしないという口約束ではなく、しっかりと法律に書いておくべきだ」と主張する。
今回のNTT法の見直しは、自民党による「防衛財源の確保」を目的に、政府が保有するNTT株を売却できないかという話が発端であった。NTT法で政府がNTT株を保有する義務が存在するため、株を売却するにはNTT法を改正する必要がある。
しかし、時が経つにつれ、NTT株の売却話はうやむやとなり、なぜか「NTT法の廃止」だけが残ったのだ。
■法廃止ではなく一部改正で事足りるはず
KDDIやソフトバンク、楽天モバイルとしては、自民党のプロジェクトチームが一方的に2025年の通常国会までにNTT法を廃止すると決めてしまうことに納得していない。
NTTが有する「特別な資産」は国民のスマートフォンに対する料金やサービスを決める重要な要素であるため、「企業や国民の声を十分聞いていない」(髙橋社長)として、「オープンな場での議論」を求めているのだ。
NTTとしては「社名の変更」や「研究成果の普及義務の撤廃」などを求めているが、これに対して、KDDIらは賛成している。
宮川社長は「NTT法の一部改正で済むところをなぜ廃止にしなければならないのか。その理由を考え始めてしまっている」と語る。
宮川社長としては「2025年を目処に議論するというのなら、一切引くつもりはないし、とことん付き合う。2025年までにまとまるとは思っていないし、10年かかろうが20年かかろうが、議論に付き合うし、次の社長にも必ず伝言する」と意気込むほどだ。
■「これを許せば日本国は本当におかしくなってしまう」
このままNTT法の廃止という流れで進んでいけば、日本の通信業界は「NTTグループとそれ以外」という対立構造が起き、大きく分断することになるだろう。髙橋社長は「すぐにサービスの悪化につながるとは思わないが、5年先10年先、これからのすべてのものに通信が使われる時代に、必ず禍根を残すことになる」と危機感を募らせる。
いまのところ、自民党とNTTグループは独断でNTT法の廃止にこぎ着けようとしているが、やはり、ここはじっくりとNTTの島田明社長、KDDI・髙橋誠社長、ソフトバンク・宮川潤一社長、楽天モバイル・三木谷浩史会長が、NTT法の在り方について、オープンな場で議論をする必要があるのは間違いない。
宮川社長は「通信は技術革新が速い市場。何が起こるかわからない人たちが決めてはダメだ。われわれとしてはありとあらゆる形で保険をかけないと、日本国は本当におかしくなってしまう。そういう意味で、僕は国民を代表して言っている」と語る。
X(旧Twitter)上で、言いたいことをポストし合ったことで、国民の関心をちょっとだけ引くことはできたが、それだけでは、日本の通信の未来にとって何のプラスにもならない。
日本を代表する通信会社の幹部が膝を突き合わせて「日本の通信のあるべき姿」を議論していくところから、スタートすべきではないだろうか。
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ジャーナリスト
1998年、日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、月刊誌『日経トレンディ』編集記者に。2003年に独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、テレビ、雑誌で幅広く活躍。
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(ジャーナリスト 石川 温)
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