待機児童ゼロなのに入れない…東京23区で「保育園に入りにくい駅」ワーストランキング30
プレジデントオンライン / 2023年12月12日 14時15分
■「ノーカウント待機児童」が量産されている実態
東京23区の待機児童数は2018年に3352人だったが、2023年は12人と大幅に減少した(東京都福祉保健局調べ)。待機児童ゼロを宣言している自治体が23区中21となり、残すは世田谷区10人と墨田区2人だけとなった。確かに、2022年は婚姻数の減少等に伴い出生数が低下し、都区部全体の0歳人口は4.4%減少した。これに対して、認可保育園の0歳児定員数は前年比+0.3%とやや増えている。しかし、この数字には注意が必要で、保育園待ちで復職できない状況は大きく変化した訳ではないので、その実態と解決策を提示したい。
行政が発表する待機児童数には、数々のトリックがある。まず、認可保育園に申し込んだ児童が認可に入れなくても、認可外保育園に入れていれば待機児童にはカウントされない。また、自宅から遠い認可・認可外園を自治体から勧められ、それを断ると「特定の保育所等を希望している児童」に分類され、この場合も待機児童にカウントされない。それに加えて、求職中や産休中の需要を含める・含めないなど行政によって基準が異なる。こういったノーカウント待機児童が量産されているのが実態だからである。
■親たちが知りたいのは「駅ごとの」入りやすさ
東京23区では、共働きが増えたこともあり、小学校入学前の児童の50%超が保育園に入園する。つまり、子どもが生まれたら、半数以上の世帯が保育園選びをすることになる。
もし子どもを保育園に入れられず、共働きを続けられないと、世帯の収入とライフスタイルを大きく変えなければならなくなる。そうした事態を避けるべく、保育園に入りやすい立地を求めて引っ越しを行う人も増え、「保育園移民」と呼ばれている。
「保育園移民」が知りたいのは、保育園に子どもを入れやすい駅はどこかという、体系的な情報である。
そこで、認可保育園への入りやすさを、「各駅の0歳児人口」を「各駅の認可保育所の0歳児定員」で割って算出したのが「東京23区 認可保育園入りにくい駅ランキング」である。この方が実態を正確に表すことができる。
■「保育園に入りにくい区」1位は江戸川区
まずは、区ごとの数字を確認しておこう。「子どもを保育園に入れやすい区」の1位は千代田区で、倍率は2.32倍となる。前述のように、小学校前の児童の半数は保育園入園を希望しないため、実質的な倍率はその半分の1.2倍程度となる。そう考えると、希望すれば認可保育園に8割ほどが入れる状況にあり、認可外まで含めると全員入れると考えられる。これは「保育園天国」と言ってもいいだろう。
一方、倍率が最も悪いのは断トツで江戸川区であり、7.85倍にも及ぶ。都区部平均は3.28倍なので、その高さがうかがえる。江戸川区は総じてどの駅でも認可保育園倍率は高い。独自の保育ママ制度で0歳児保育をサポートしているが、区全体の保育ママは126人で、同区の推計0歳人口の4527人に対して絶対的に足らないので、充分に機能しているとは言い難い。
また、このランキングでワースト5に入った大田区・江東区・荒川区・台東区は2022年に「待機児童人数ゼロ」となっており、行政発表のイメージとはかなり異なることがわかる。
7位の世田谷区と8位の墨田区はわずかながらではあるものの、待機児童数がいることが発表されているが、本結果とはかなり違う。
■人の移動が西から東へ、郊外から「都心寄り」に変化
8位までの結果で6区が城東に位置している。これには人の移動エリアの変化が理由にあると思われる。移動人口の年齢は20代が圧倒的に多い。20代が1人暮らしをする際の最大の理由で半数超の52%を占めるのは通勤・通学の時間短縮であることは、独自のアンケート調査から分かっている。現在はオフィスも学校も都心に集中して存在する。
30代以降の移住エリアもひと世代前と比較して都心からさほど離れなくなっている。その理由は1世帯の人数が減少し、共働きが増えているからで、職場へのアクセスを重視しているからである。世帯人員の減少は都心回帰を起こすもので、不動産価格が上がると世帯は郊外に行くというバブル期にあった「ドーナツ化現象」は過去のものでしかないことは理解しておく必要がある。
2013年に始まるアベノミクス以降の不動産価格の高騰は、単純な郊外化ではなく、世田谷区を代表する城南地域よりも不動産価格が相対的に安い江東区を代表する城東地域への人の移動を助長している。4人ファミリーには城南で一戸建てがいいかもしれないが、3人ファミリーには城東でマンションの方が選好されているというニーズの変化でもある。
■ファミリー向け住宅が増えたものの保育園整備が追いつかない
また、オフィスは都心3区(千代田区・中央区・港区)に床面積の50%超が存在しており、そこへ鉄道を乗り換えせずに1本で行けるエリアは城東側に集中する。これは時間距離や通勤利便性の問題でもある。独身時代から城東に住んでいる世代はそこで子育てを始めている。近年、新築のマンションは分譲も賃貸も城東地域で相対的に増えた。ファミリー向け住宅ストックが増えたことから、そのエリアでの出生人口が増える要因になっている。しかし、認可保育園はすぐに整備できるわけではない。そのギャップは待機児童の形で表れることになる。
■最寄り駅単位で見ないと「本当の入りやすさ」はわからない
さらに、区単位で見た場合と自分が住んでいる駅単位で見た場合とでは、事情が異なることも多い。結局のところ、保育園に入りたい人数と受け入れ可能人数のバランスは、最寄り駅単位まで落とし込んで分析しないとわからないのだ。
ワースト1位は、江戸川区の篠崎駅で、0歳児人口は440名と都区部有数の需要があるにもかかわらず、0歳児定員は35名と少ない。結果として、認可保育園倍率は12.56倍となり、東京23区で「保活最難関」の駅となった。同じ江戸川区の中でも船堀駅は4.55倍とかなり違うので、駅ごとのチェックは欠かせない。
筆者が主宰する無料会員制サイト「住まいサーフィン」では独自にこの「認可保育園倍率」という指標を設定し、23区内400駅の全データを公開しているので参考にするのもいいだろう。
今年の認可保育園入りにくい駅ランキングは、1位篠崎(前年1位)2位西葛西(同2位)3位本所吾妻橋(同ランキング外)となった。上位2駅の顔ブレに変化は無いが、本所吾妻橋は2つの園で0歳児の受け入れがなくなり、定員数が45人から24人に21人も減って、ワースト3位に急浮上している。入りやすさは需要÷供給の需給バランスなので、供給減少は一気に順位を上げることになりやすい。
一方で、需要が急増する場合もある。新豊洲駅の0歳児人口が523人から571人に48人増えて18位に、町屋駅が247人から354人に107人増えて21位にジャンプアップしている。この様に、新築マンション建設で急増した駅も注意が必要だ。最終的には、駅単位に確認することを推奨しておきたい。
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スタイルアクト代表
1988年、慶應義塾大学経済学部卒業後、監査法人系・不動産系のコンサルティング会社を経て、1998年に現スタイルアクトを設立。住宅分野において、マーケティング・統計・ITの3分野を統合し、日本最大級の不動産ビッグデータを駆使した調査・コンサルティング・事業構築を得意としている。設立当初から運営している分譲マンション価格情報サイト「住まいサーフィン」(https://www.sumai-surfin.com/)の会員数は、現在30万人を超える。中でも、自宅投資の基礎などを沖自ら解説している「沖レク動画」は人気コンテンツとなっている。『マンションは10年で買い替えなさい』(朝日新書)、『タワーマンション節税! 相続対策は東京の不動産でやりなさい』(朝日新書)など著書多数。
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(スタイルアクト代表 沖 有人)
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