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動物園の動物が売却され、「食肉」として流通する…財政難の動物園が手を染める「家畜商との取引」の実態

プレジデントオンライン / 2023年12月13日 14時15分

単位が「1フラミンゴ」「1シマウマ」のような世界に(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Angelika

動物園の動物は、どこから来て、どこへ行くのか。朝日新聞記者3人の共著『岐路に立つ「動物園大国」 動物たちにとっての「幸せ」とは?』(現代書館)より、一部を紹介する――。

※所属や肩書などは取材当時のものです。

■単位が「1フラミンゴ」「1シマウマ」

動物園による動物の移動の実態はどのようなものなのか。

その全体像を明らかにするため、朝日新聞は全国の76自治体(84園)に、動物の搬出・搬入に関する文書の情報開示請求を行った。

余った動物を差し出し、新たな動物を入手する「動物交換」。

朝日新聞が入手した開示文書を集計すると、動物園から搬出された動物の34%にあたる1699頭が交換によるものだった。

こうした取引では、動物が「通貨」の単位のように使われている。

レップジャパンの白輪剛史さんは「動物を手に入れるための通貨単位が『1フラミンゴ』『1シマウマ』のような世界になっている」と明かす。

■「持ちネタのある動物園」は強い

たとえば、豊橋総合動植物公園(愛知県豊橋市)が17年に交わした契約では、レップジャパンが輸入した1頭のミナミシロサイを、20羽のジェンツーペンギンと交換で入手した――といった具合だ。

動物交換の「持ちネタ」がある動物園は少なくない。

たとえば、熊本市動植物園においてはシロクジャクがそうだ。

シロクジャクはインドクジャクが遺伝子変異で白くなったもので、人気が高い。

熊本市動植物園では安定的に繁殖できていて、動物交換でよく使っているという。

戸澤角充(かくみつ)園長は「ほしい動物がいる時に、出せる動物がいるというのは動物園としての強みになっている」と話す。

■アシカがほしい水族館が列をなして待っている

熊本市動植物園では、17年にシロクジャク4羽を、動物商の川原鳥獣貿易に引き渡し、交換でホンドギツネ2頭を入手している。

18年にもやはり川原鳥獣貿易との交換で、シロクジャク5羽を出し、ニホンキジ1羽などを入手。

アシカは、動物園にとっては余剰動物でも、水族館にとっては重要な動物で「垂涎(すいぜん)の的」。そのため動物園は、アシカを「通貨」として使うことが多い。

「水族館は、アシカがほしくてたまらない。ショーに使うからです。動物園が繁殖するアシカは、ウェイティングリストにずらりと水族館名が書いてあるような状態になっている。水族館が、列をなして待っているんです」。ある動物園関係者はそう話す。

アシカ
写真=iStock.com/nicholas_dale
アシカがほしい水族館が列をなして待っている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/nicholas_dale

■アシカが妊娠するとショーに使えなくなる

それほどアシカがほしいなら、水族館は自分たちで繁殖すればいいのではないか?

当然、そんな疑問がわくだろう。

だがもし、繁殖のためにメスを妊娠させてしまえば、1年程度はショーに使えなくなってしまう。その度にトレーニングもやり直しになる。

だから水族館は、動物園からアシカを求めることになる。

東山動植物園(名古屋市)は2015年、カリフォルニアアシカ1頭を福岡市の水族館「マリンワールド海の中道」に出し、代わりにアルパカ1頭を入手した。

東山動植物園がほしい動物が、マリンワールドにはいなかった。そのためマリンワールドに、わざわざ動物商からアルパカを購入してもらい、そのアルパカとの交換という形を取った。

東山動植物園では毎年1、2頭のアシカが産まれていて、水族館から引く手あまただという。

■水族館に「アシカのオス」はいらない

ちなみにウェイティングリストができるアシカは、メスに限る。

なぜなら、体が大きいオスはショーに使うには危険で、水族館側がオスは望まないためだ。

だからオスは余剰になりやすい。

アシカはハーレムを作る動物で、オス1頭につき、メスは複数いても困らない。

だが、オス同士を同じスペースに置くとケンカを始める。その習性も、ネックになっている。

「メスはすぐに出せる。でもオスはなかなか難しい。3歳になるくらいまでには出さないといけないのだが」と、19年夏にオス1頭、メス1頭の繁殖に成功した天王寺動物園(大阪市)の担当者は話した。

■動物購入予算は「50万円あればいいほう」

動物交換が行われる背景には、公立動物園が抱える「財政難」という事情もある。

公立動物園の多くは、入園料やグッズの売り上げだけでは運営費をまかなえない。

自治体の財政も余裕があるところは少ない。動物購入のための予算は、政令指定都市の動物園でも年50万円あればいいほうだ。

「20年以上前から動物の購入予算がついていない。ほしい動物がいる場合、交換に頼らざるを得ない」と話すのは、平川動物公園(鹿児島市)の桜井普子(ひろこ)・飼育展示課長だ。

動物園
写真=iStock.com/filo
「20年以上前から動物の購入予算がついていない」(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/filo

平川動物公園では2016年春、コツメカワウソ2頭が余剰になっていた。

毎年2、3頭生まれるが、園内で両親やきょうだいと一緒に飼育し続けると、近親交配や闘争のリスクが出てくる。

その一方、カピバラとベネットアカクビワラビーを新たに入手したいと考えていた。

「繁殖を考えていたが、ほかの動物園で出してくれるところがなかった」(桜井さん)

■交換の57%が「動物商」との間で成立

通常はまず、動物園同士での交換を探る。だが、このときは条件があう動物園が見つからなかった。

そこで頼ったのが、動物商という存在だった。

国内の多くの動物園は、加盟する日本動物園水族館協会(JAZA)を通じて、余剰動物の情報をやりとりしている。

ただ、交換にこだわると、希望の動物種、雌雄の別などがうまくマッチングしないことが少なくない。タイミングを逃すと動物は成長し、近親交配や闘争のリスクが高まる。

そこで交換をあきらめ、無償譲渡が行われるが、一方で、動物商との交換も有力な選択肢になる。

朝日新聞の集計では、交換の57%が動物商との間で成立していた。

■25%の動物が動物商に売却されていた

先述の平川動物公園では、大手だった有竹鳥獣店(東京都大田区、18年に倒産)に相談し、コツメカワウソ2頭、オナガザルの仲間のブラッザグエノン1頭、アライグマの仲間であるキンカジュー2頭、アカカンガルー1頭と引き換えに、カピバラ1頭、ベネットアカクビワラビー1頭を迎え入れた。

相手が動物園でも動物商でも、交換される動物の見積額の総額は、「等価」になっている。

情報開示請求をして入手した資料をより細かく分析すると、ほかにも多くのことがわかってきた。

「交換」を含めた、動物の移動先として、国内の別の動物園や水族館が62%で最も多かった。

動物商と呼ばれる鳥獣売買業者やペットショップなどの業者も25%を占めた。

犬
写真=iStock.com/joshblake
鳥獣売買業者やペットショップなどの業者も25%を占めた(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/joshblake

■オオサンショウウオがハワイへ行ったケースも

海外に送られた動物も3%いる。

太田匡彦、北上田剛、鈴木彩子『岐路に立つ「動物園大国」 動物たちにとっての「幸せ」とは?』(現代書館)

札幌市のキリンがミャンマーへ、静岡市のレッサーパンダがカナダへ、広島市のオオサンショウウオがハワイへ行っている。

出ていった動物の中で最も多かったのはテンジクネズミ(モルモットなど)で、学校や子ども用の施設への譲渡が目立つ。このほか、ルーセットオオコウモリ、アカアシガメなどの爬虫(はちゅう)類、小型のサルなどペット需要のある動物は業者へ渡っていた。

繁殖目的での移動が多かったのは、レッサーパンダやカピバラなどだった。

対価の有無でみると、無償での譲渡が全体の47%。

「動物交換」が34%。

繁殖のために所有権を移さず貸し借りする「ブリーディングローン(BL)」関連が9%だった。

対価として金銭を得る「売却」も2%あった。

【図表1】どんな動物が出て行った?
出所=『岐路に立つ「動物園大国」 動物たちにとっての「幸せ」とは?』

■「生まれて間もない子ウシ」が家畜商に売却されるケースも

ちなみに、売却された動物で最も多かったのはイノシシ、次いでウシだった。

中には、生まれて間もない子ウシが、家畜商と呼ばれる業者に売却されるケースもあった。

ウシの乳搾り体験を行っているある動物園では、お乳を出すために定期的にウシを繁殖させているという。

生まれた子ウシは間もなく売却され、最終的には肉として食べられることになる。

畜産の普及啓蒙(けいもう)活動の一環として、質問があれば来場者にも伝えているといい、担当者は「家畜と野生動物は別のもの。私たちの食生活の足元に家畜がいるということを伝えていきたい」と話していた。

スーパーで肉を買う
写真=iStock.com/gilaxia
最終的には肉として食べられることになる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/gilaxia

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太田 匡彦(おおた・まさひこ)
朝日新聞記者
同業他社を経て2001年朝日新聞社に入社。東京経済部で流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の2008年に犬の殺処分問題の取材を始めた。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日文庫)、『「奴隷」になった犬、そして猫』(朝日新聞出版)、共著に『動物のいのちを考える』(朔北社)など。

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北上田 剛(きたうえだ・ごう)
朝日新聞記者
同業他社を経て2007年朝日新聞社に入社。大阪社会部や名古屋報道センター、東京特別報道部などで取材。かつてヘルパーの仕事をしていたことがあり、福祉分野に関心がある。

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鈴木 彩子(すずき・あやこ)
朝日新聞記者
2003年に朝日新聞社入社。科学医療部で自然災害や環境問題、身近な病気や健康の話題を取材。

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(朝日新聞記者 太田 匡彦、朝日新聞記者 北上田 剛、朝日新聞記者 鈴木 彩子)

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