なぜ韓国は「トンデモ判決」を出せるのか…慰安婦問題で日本を敗訴させる「河野談話」という汚点
プレジデントオンライン / 2023年12月9日 12時15分
日本の「植民地支配」に反対する独立運動記念日の102周年にあたる2021年3月1日、ソウルの日本大使館近くで、第2次世界大戦中に日本兵の「性奴隷」として働いたとされる「慰安婦」を象徴する10代の少女の像のそばで横断幕を掲げる韓国のデモ隊。 - 写真=AFP/時事通信フォト
■「韓国国民に対して行われた不法行為」
最近の日韓友好ムードに水を差すニュースが11月23日に報じられた。
ソウルの高裁が、韓国の元慰安婦や遺族など16人が日本政府に損害賠償を求めていた裁判で、原告側の訴えを退けた1審の判決を覆し、日本政府に賠償を命じる逆転判決を言い渡したのである。
1審判決(2021年4月)は、主権免除に関する国際慣習法、最高裁判所の判例による外国人被告(日本国)に対する損害賠償提訴は許容できないというものだった。つまり、国家免除、すなわち、国家の行為や財産は、外国の裁判所で被告として裁かれることはない、という国際法上の原則を当てはめ、韓国の裁判所で、日本の行為に対し賠償請求することはできないということだ。
ところが、今回の逆転判決は、国際慣習法上、国家(主権)免除の原則は絶対的免除が適用された過去とは異なり、最近は行為によって例外を認める制限的免除に変わってきているという立場をとった。
裁判官は、その例として、国連・欧州国家免除協約やアメリカ・イギリス・日本の国内法、ブラジル最高裁判所・ウクライナ最高裁判決などの判例を示した。そのうえで、こう結論付けている。
「日本の行為は韓国領土で韓国国民に対して行われた不法行為であり、日本の国家免除を認めないことが妥当」
■日本政府への賠償命令が不当である3つの理由
この判決は、日韓両国政府にとってだけでなく、原告団にとっても驚くべき判決だった。だが、以下に挙げる3つの理由から不当であるといえる。その理由を、歴史的経緯をたどりつつ述べていきたい。
① 日韓間のあらゆる賠償にかかわる問題は、1965年の日韓請求権協定で解決済み
② すでに日本政府は韓国側に経済協力や借款、「償い金」などを支払い、誠意を示している
③ 慰安婦に対する日本軍の不法行為があったとは言えない
まず、基本中の基本である日韓請求権協定を確認しよう。1965年6月22日に締結されたこの協定の第2条の1は次のようになっている。
つまり、日韓の間のあらゆる賠償にかかわる問題は、完全かつ最終的に解決されたということである。
■韓国の経済成長を支えた日本の巨額の支援
この協定でも、日韓基本条約でも、日本が朝鮮半島に対する不法な植民地支配を認めていないにもかかわらず、それでもいいとして韓国側は、協定と条約を結んだ。そして、1080億円の経済援助と108億円の借款を得た。経済援助だけでも当時の韓国の国家予算に匹敵する巨額の支援で、「漢江の奇跡」と呼ばれる韓国経済の急成長の原資となったことはよく知られている。
なお、文中にサンフランシスコ条約への言及があるが、実は、この条約のなかにも、日本が韓国(及び北朝鮮)に対して、莫大な日本の国家・民間の資産を無償で渡すことになった、条項がある。それは第4条の(b)項だ。
第2条の地域とは日本が放棄することになった、朝鮮半島、台湾、澎湖島、千島列島、南樺太で、第3条の地域とはアメリカの統治のもとに置かれた沖縄など南西諸島である。この条項は、この地域でアメリカ軍政府が行った日本・日本国民の財産の処理を日本が承認するとしている。
朝鮮半島にフォーカスを絞っていえば、朝鮮半島に日本・日本国民が所有していた財産は、占領中にアメリカ軍政府が韓国・韓国人に与えてしまっていたのだが、それを事後承認しろということだ。
■国際社会に復帰するため理不尽な要求を呑んだ
とくに私有財産は戦争などによっても奪われない、不可侵であることがハーグ平和会議(1907年)などで確認されている。したがって、アメリカ軍政府が行ったことは国際法違反である。だから、サンフランシスコ条約で、日本に承認させなければならなかった。そのままにすれば日本・日本人に返還しなければならなくなるからだ。
返還すれば、その財産の所有者である日本人は恒久的に朝鮮半島に住み続ける。在日朝鮮人の逆の在朝日本人が何百万人も残ってしまうことになる。これではカイロ宣言にうたった朝鮮半島の完全独立はない。
日本にとっては理不尽きわまりない条項だが、日本はこの条約を結ばない限り国際社会に復帰できないので、やむを得ずこれを呑んでいる。
要するに、日本は想像を絶するほど莫大な資産(「帰属財産」という)を韓国・韓国人に、1965年以前に与えていたのだ。日韓請求権協定の1080億円と108億円は、これに加えて2重に支払ったということだ。
植民地支配を認めたわけでもないのに、これだけ払っている。これでもソウル高裁はまだ賠償金を払えというのである。
■「和解・癒やし財団」に10億円を支払う
次に2015年12月28日の日韓外相会談合意である。それは次のようになっている。
岸田外務大臣
日本政府は、これまでも本問題に真摯(しんし)に取り組んできたところ、その経験に立って、今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には、韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。
尹炳世外交部長官
韓国政府は、日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取組を評価し、日本政府が表明した措置(前の文で岸田外務大臣が言及した「癒しのための事業」)が着実に実施されるとの前提で、今回の発表により、日本政府と共に、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。韓国政府は、日本政府の実施する措置に協力する。
この合意に基づき、日本政府は韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」に対し、10億円の支出を行っている。しかし、周知のように、このあとに大統領に就任した文在寅氏は、不当にも、この合意を反故にした。
■誠意を示す日本に、さらに「賠償金」を要求
この前には、1995年に日本国民と日本政府が協力して財団法人「女性のためのアジア平和国民基金」(略称:「アジア女性基金」)を設立し、韓国を含むアジア各国等の元慰安婦の方々に対し、1人200万円の医療・福祉支援事業及び「償い金」の支給を行っている。また、歴代総理大臣からの「おわびの手紙」を届けたりしている。
ただし、この時は、今回の裁判でも原告となった李容洙氏などは、「日本の国としての賠償でなければ、意味がない。謝罪はこころがこもっていない」として「償い金」の受け取りを拒否している。
![韓国の紙幣](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/4/1200wm/img_94a7246cd94a7fc91e8fe451f8cb073a466393.jpg)
日本政府としては、もともと無理筋の話にとりあって、できる限りの誠意を示してきたがそれでもダメなのである。
帰属財産をアメリカ軍政府を通じて渡し、1080億の経済協力と108億円の借款に、慰安婦1人あたり200万円の「償い金」と「和解・癒やし財団」への10億円の支出をしても、まだ「賠償金」を払えという。まったく不当と言わざるを得ない。
■慰安婦は合意契約の下、高給を得ていた
さて、ここまでは、すべて日本軍が朝鮮人慰安婦に対して不法行為をした前提で交渉がなされている。つまり、日本軍が20万人以上の朝鮮人女性を強制連行して慰安所に監禁し、性奴隷にしたという前提だ。
ソウル高裁の判決も、日本軍による朝鮮人女性に対する不法行為があった、それに国家免除は適用できないので、賠償せよと命じている。
では、この前提は正しいのか。そもそも日本軍による慰安婦に対する不法行為はあったのか、賠償金を支払わなければならない被害を与えたのか。結論から言えば答えはノーだ。
ハーバード大学法学院マーク・ラムザイヤー教授は論文「太平洋戦争における性契約」(2020年、『慰安婦はみな合意契約していた』所蔵)のなかで、慰安婦(日本人のほか当時日本の統治下にあった朝鮮人と台湾人を含む)が合意契約をしており、しかも公娼よりもはるかに高給取りだったことを明らかにした。
要するに、強制連行も性奴隷も嘘で、慰安婦は当時合法だった性産業の従業員で、契約もしており、待遇もかなり良かったということだ。
■彼女たちが「強制連行された」と話した理由
『慰安婦はみな合意契約をしていた』(北天社)で使用した歴史資料をもとに、これに筆者なりの解説を加えると次のようになる。
日本軍は性病と強姦を防止するために1932年から「慰安所」(ほかにもいろいろな名称がある)を設置し、慰安婦の募集を始めた。
慰安婦になるためには、親権者と一緒に警察署へ行き、戸籍謄本、承諾書(慰安婦になる)、調査書(どのような理由で慰安婦になるのか)契約書(抱主との)を提出し、営業許可書をもらわなければならなかった。
これと契約書を見せなければ、海外にある軍の駐屯地に行くための渡航許可証ももらえなかった。たしかに、人集めの段階で、現地の周旋人が甘言を弄することはよくあった。どんな仕事かははっきりいわず、外国へ行って大金がもらえるとだけ強調した。だが、そのあとは、親と一緒に警察署へ行って、前述の手続きをしなければならなかった。
朝鮮人慰安婦の多くは、「親に売られた」と思っていて、そのことがトラウマになっていた。だから、そうは言えず、挺身協(現正義連)にコントロールされていたこともあって、日本軍に強制連行されたと言うようになったのだ。彼女たちの証言が変遷していることは、秦郁彦氏も『慰安婦と戦場の性』(新潮選書)で指摘している。
■日本兵の給料の360倍稼ぐ慰安婦もいた
彼女たちは本当に可哀そうであるが、「親に売られた」という思いは、慰安婦だけでなく、当時合法であった性産業(公娼、私娼)の数十万の従業員たちの多くが経験したことだった。
駐屯地でも、司令官は慰安婦の営業許可書と契約書の有無をしっかり確認した。スパイが紛れ込んでいては自分たちの身が危なくなるからだ。
契約期間、つまり年季はだいたい半年で、延長しても2年ほどだった。公娼の平均5年に比べて極端に短いが、それは戦地が危険だったからだ。ただし、戦争中のことなので、状況によっては、帰れなくなることもあった。
また収入も1・2等兵の給料が5円50銭だったのに対し400円から2000円だった。そのほとんどはチップだった。明日をも知れないと思った日本兵士の多くは、有り金のほとんどをチップとして与えた。
慰安婦のなかには、家や土地を買った人も多かった。ダイヤモンドなど貴金属買う人もいた。ただし、戦後の混乱で、貯金が引き出せず、そうこうしているうちに持っている日本円が無価値になってしまった人も少なくなかったのも事実だった。もちろん、これは日本のせいではない。
■「日本軍は関係ない」と主張していた日本政府
いずれにしても、強制連行などありえず、性奴隷もとうていあり得ないということだ。
ではなぜ、日本政府は、犯してもいない罪を認めることになったのだろうか。
慰安婦のことが初めて日韓政府間で問題とされたのは1992年の宮澤喜一首相訪韓のときだ。それまでは日本政府は、慰安所は民間業者が経営したもので、日本軍は関係ないと主張していた。しかし、朝日新聞が1992年1月11日「慰安所 軍関与示す資料」が報じられると一転して、全面的に日本軍の関与を認めた。
実際には、この記事に引用された陸軍の通達は、日本国内で慰安婦を募集する際、募集を任せていた民間業者が、軍の威光を笠に着て、女性を騙したり、誘拐まがいのことをしないよう官憲に取り締まり強化を求めるものだった。
要するに、女性に対して違法行為が行われないよう、女性が守られるようにという趣旨だった。
■河野談話「本人たちの意思に反して集められた」
ところが、日本政府は、それまで軍の関与は全くなかったという主張の根拠が崩れると、平謝りに謝る態度に転じ、宮澤首相が訪韓の間に8回も謝罪することになった。つまり、全面否定から全面肯定に切り替わってしまった。そして、その翌年にあの悪名高い「河野談話」が出されることになる。その中心となる部分は次のようになっている。
慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。
つまり、軍の関与だけでなく、慰安婦は「本人の意思に反して集められ」たこと、それに官憲等が直接加担したこともあったこと、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものだったこと、まで認めたのだ。
■「日本が人権侵害を行った」が世界の常識に
これには裏話があって、(櫻井よしこ氏などによれば、)当時、韓国側は、証言をした慰安婦たちの面目が立つよう、加害を認めてくれ、認めてくれればもう2度とこのことは持ち出さないと石原信雄官房副長官に約束したとされる。
河野談話が出たことによって、日本軍は強制によって慰安婦を集め、性的搾取をした、少なくとも不当な人権侵害を行ったと認めたと世界で受け止められるようになった。海外でこの問題について触れる日本史、日本研究の大学教員たちもそう学生に教えている。
今回の賠償判決も、日本軍が慰安婦に対して不法行為を行ったとして、国家免除を認めず、日本政府に賠償を求めている。
裁判はなにを争点にするかがすべてだといえる。今回の争点は、日本軍が行ったとされる不法行為を韓国の裁判所が裁くのに、国家免除が適用されるのかどうかだ。不法行為があったかどうかは争われなかった。そして、たしかに国家免除は、いまだそれを適用することが主流であるとはいえ、賠償を命じた裁判官がいうように、国際的にも制限される方向にある。
■河野談話がある限り不法行為の有無は争えない
それでは、不法行為があったか、なかったかを裁判の争点にできるのかといえば、河野談話を破棄しない限り無理である。日本政府が、不法行為はあったと認めているのに、このことを裁判の争点にはできない。
では、河野談話を破棄できるのかといえば(私は以前からそう主張しているが)これまで歴代の政権がずっとこれを継承してきたのに、なぜ今になってそれを変えるのか十分な説明をしなければならなくなる。政府はそれをしないだろう。それをしたときの、韓国政府と世界世論の反応のほうを恐れているからだ。
安倍晋三首相(当時)が破棄を試みたときも、アメリカ、カナダ、オランダの下院、欧州議会がその動きに対する非難決議を可決している。
とはいえ、司法と行政は別である。韓国政府は、依然日本に対して友好的姿勢を変えていない。徴用工裁判のケースのように、裁判で賠償命令が出ても、韓国政府が日本政府に代わって賠償するという可能性はある。また、日韓請求権協定で日本は一括して経済協力金と借款を韓国に出したのだから、個人への賠償は韓国政府がすべきであるといえる。
いずれにしても北朝鮮が軍事衛星を打ち上げ、軌道に乗せた現在、日米韓が一致協力してこれに対処しなければならない。これには東アジアの安全保障がかかっている。日韓関係をこの問題で悪化させるのは、日米韓にとって得策ではない。過去をなおざりにしてはいけないが、未来に前向きに取り組むことはもっと重要だ。
![デスクの上にミニチュアの日章旗と太極旗](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/7/1200wm/img_47b480a789171f56400fdc9ea3d0a9f7247899.jpg)
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早稲田大学社会科学部・社会科学総合学術院教授(公文書研究)
1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『歴史問題の正解』『日本人はなぜ自虐的になったのか』『NHK受信料の研究』(新潮新書)など多数。
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(早稲田大学社会科学部・社会科学総合学術院教授(公文書研究) 有馬 哲夫)
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