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ついに世界中で「不動産バブル崩壊」が始まった…「中国の不動産大手破綻」が日米欧にも波及する根本原因

プレジデントオンライン / 2023年12月11日 9時15分

中国安徽省阜陽市にある碧桂園(カントリー・ガーデン)の住宅=2023年8月16日 - 写真=CFoto/時事通信フォト

■死に体だが、大きくてつぶすこともできない

中国や欧米諸国で、大手不動産関連企業の破綻が続いている。中国では、碧桂園(カントリー・ガーデン)のドル建て社債がデフォルトに認定された。恒大集団(エバーグランデ)の経営再建も事実上の行き詰まりだ。現在、債務再編に関する協議は難航しており、香港の高等法院は同社に対する清算申し立ての判断を2024年1月に先送りした。大きくてつぶせないものの政策的な対応も難しい。手詰まり状態だ。

欧米では、オーストリアの大手不動産企業、シグナ・ホールディングスが破綻を申請した。米国では、一時、高い成長期待を集めたシェアオフィス大手ウィーワークが破綻した。海外の大手不動産企業の経営悪化、デフォルトリスク上昇や破綻の影響は、わが国にも波及し始めたようだ。今年の夏以降、海外の大手投資ファンドは保有してきた都内のオフィスビルの売却に動き始めた。

コロナ禍をきっかけに、“テレワーク”は当たり前になった。世界的にオフィスの空室率は上昇傾向だ。世界的に物価も高止まりしている。11月、主要先進国の金利上昇は一服したが、米欧の中銀が利下げを実施するか否か不透明だ。住宅市況も含め世界的に不動産市況は悪化することが懸念される。景気の足を引っ張ることも懸念される。

■中国国内だけで500社近くの企業が破綻

足許、経営悪化に陥る大手不動産企業は増加している。報道によると、2019年、中国では500社近くの不動産業者が破綻したという。2020年1~2月だけでも、100社程度が破綻した。足許、カントリーガーデン、エバーグランデ、融創中国(サナック)、万達集団(ワンダ・グループ)など、大手不動産デベロッパーの経営不安は大きく高まった。事実上の破綻に近い状態にある不動産企業も多いようだ。

米国でも商業用不動産市況の軟化懸念が高まった。2023年3月、シリコンバレー銀行などの中堅銀行が破綻したことは大きかった。銀行は、与信審査の基準を引き上げた。多くのITスタートアップ企業は資金繰りのためオフィスの賃貸契約を解除し、事務所向けの不動産需要は減少した。11月、賃料の減少などによる業績悪化懸念の高まりからウィーワークは経営再建をあきらめ、経営破綻した。

■日本の不動産市場から引き上げる動きも

2022年頃から、欧州でも不動産大手企業の経営不安が表面化した。ドイツのアドラー、スウェーデンのサムハスビッグナスボラゲティ・ノルデン(SBB)、オーストリアのシグナ・ホールディングスなどはその代表例といえるだろう。いずれも世界の大手資産運用会社などから資金調達し、積極的に不動産の開発や取得を進めた。11月下旬、シグナは資金調達に行き詰まり経営破綻した。

中国や欧米ほどではないが、わが国の不動産市場にも変調の兆しが出ている。不動産業界の専門家によると、今年夏ごろから一部の海外投資ファンドは保有するオフィスビスなどの売却を模索し始めた。

そうした動きは秋口あたりから本格化し、2023年の海外投資家による国内不動産取引額は減少する公算が大きい。海外投資家は、日本の商業用不動産投資で手に入れた利得を確定し、欧米のオフィスビルなどへの投資で発生した損失を埋め合わせようとしているようだ。

■東京都心5区の平均賃料も下がり続けている

中国不動産企業の破綻増加には、2020年8月に政府が実施した“3つのレッドライン”とよばれる不動産融資規制が、決定的影響を与えた。先端分野での米中対立の先鋭化、台湾問題の緊迫化などに対応するため、中国から自国、インドやASEAN地域の新興国に事業拠点を移す企業が増えたことも一因だ。

中国、欧米などに共通の要因として、テレワークの増加は大きい。2020年の年初以降、世界全体で新型コロナウイルスの感染は急拡大した。感染再拡大も長引いた。感染抑制のために、世界的に在宅勤務やテレワークは増えた。多くの人が、オフィスに行かなくても仕事をこなせることに気づいた。通勤から解放され、自己研鑽などに励むこともできる。仕事はオフィスでするのが当たり前という常識は崩れた。

その結果、世界的にオフィスの空室率は上昇した。供給が過剰になり、賃料は下落した。2023年10月まで39カ月連続で、東京都心の千代田、中央、港、新宿、渋谷区の平均賃料は下落した。オフィスの所有者は、当初想定したキャッシュフローを手に入れづらくなった。価格が高値水準にあるうちに売却しようとする投資ファンドなどは増え、市況は調整し始めた。

■背景には急速な金利引き上げがある

世界的な金利上昇も、不動産市況を追加的に下押しした。2022年3月以降、米国の連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)などは、物価安定をめざし急速に政策金利を引き上げた。短期から超長期まで、国債の利回りは上昇した。国債は無リスク資産だ。一方、不動産のリスクは高い。オフィスなどの賃料は変動する。流動性も低い。

テレワーク増加による需要減少、金利上昇などは、商業用不動産の価値下落リスクを高めた。リスクに見合った利得を確保するために、大手の金融機関などは不動産向けの融資金利を引き上げた。

ウィーワークやシグナなどは利払い費用の増加に直面した。新規の借り入れも難しくなった。両社は保有資産の売却などリストラを進めて目先の資金繰りをつなごうとしたが、万策尽き果て破綻した。

ソルトレークシテーのウィーワーク
写真=iStock.com/JHVEPhoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JHVEPhoto

■不動産業界の負の影響は金融、株式市場にも

今後、世界的に、不動産関連企業のデフォルトや経営破綻は増えるだろう。商業用不動産分野でのクレジット関連商品(債券、ローン、証券化商品)の価値下落リスクは高まり、世界経済全体に負の影響が及ぶ恐れも高まる。特に、株価の下落リスクは上昇しそうだ。

シグナの経営不安が高まる中、スイスの富裕層向け資産管理会社である“ジュリアス・ベア・グループ”が同社に約6億ユーロ(960億円)の資金を貸し付けたと報じられた。11月20日、ジュリアスベアは破綻に備えて貸倒引当金を計上した。業績悪化懸念は高まり、ジュリアスベアの株価は下落した。株価下落により信用力も低下する。

類似のケースは、中国や米国などでも増えるだろう。投資先の破綻、そのリスク上昇によって、資金を投じたファンドのバランスシートは傷む。低金利環境下で借り入れを行い(レバレッジをかけて)資金を運用したファンド運営会社も多い。商業用不動産の価格下落、それに投資したファンドのクレジットリスク上昇を避けるために、主要投資家や大手の金融機関は、関連する株式などの持ち高(ポジション)削減を急ぐとみられる。

■日本のマンション価格の調整リスクも高まる

懸念されるのは、商業用不動産のクレジット悪化をきっかけに、世界の不動産関連株式が売られ、リスク回避が鮮明となる展開だ。そのタイミングで、中国の不動産バブルの対応がさらに遅れて不良債権問題が深刻化する恐れもある。米国の住宅市況の悪化が鮮明化するリスクも高い。

一方、米欧のインフレ率は依然として2%を上回っている。商業用不動産市況が急速に悪化したとしても、中央銀行が迅速に利下げに動くかは不透明だ。

中国、米欧で商業用不動産市況は悪化し、クレジットリスクは上昇するだろう。主要国の金融規制が強化され大手銀行の財務内容が強化されたため、それがリーマンショックのような世界的な金融危機を引き起こすとは考えづらい。ただ、株価下落など世界経済の足を引っ張ることは避けられないだろう。世界的にリスク回避に動く投資家は増え、わが国の商業用不動産、マンション価格の調整リスクも高まるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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