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バカほど「要するに○○でしょ」と話をまとめたがる…ソクラテスが説く「本当に賢い人」の話の聞き方

プレジデントオンライン / 2023年12月31日 10時15分

ソクラテス(写真=アルテス博物館蔵/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

高い知力を身につけるには、どうすればいいのか。コンサルタントの山口周さんは「相手の話を聞いて『要するに○○でしょ』とわかったフリをしないほうがいい。それではせっかくの成長の機会を逸してしまう」という――。

※本稿は、山口周『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

ソクラテス(紀元前469~紀元前399)
古代ギリシアの哲学者。デルポイで受けた「ソクラテス以上の賢者はいない」という神託を反証するため、様々な賢者と対話を繰り返した。しかし、対話を繰り返すうちにそれらの賢者は自分の話すら完全には理解していないことに気づき、やがてそれら「知者を気取る者の無知」を暴くことをライフワークとするようになった。

■人は「わからない」からこそ成長する

無知の知とは、平たく言えば「知らないということを知っている」ということです。なぜこれが重要かというと、そもそも「自分は知らないのだ」という認識を持てないと学習がスタートしないからです。当たり前のことですが「僕はわかっているもんね」と考えている人は知的に怠惰になってしまう。「自分はわかっていない」と思うから調べたり、人に話を聞いたりという努力が駆動されるわけです。

これを達人=マスタリーへの道として整理すると、次のようになります。

①知らないことを知らない
②知らないことを知っている
③知っていることを知っている
④知っていることを知らない

■「知ったかぶり」は学びの欲求が生まれない

最初の「知らないことを知らない」という状態はスタート以前ということになります。「知らない」ということすら「知らない」わけですから、学びへの欲求や必要性は生まれません。ソクラテスが指摘したのは、多くの「知者」と言われる人は「知ったかぶり」をしているだけで、本当は「知らないことを知らない」状態にある、ということですね。

次に、なんらかの契機から「知らないことを知っている」という状態に移行すると、ここで初めて、学びへの欲求や必要性が生まれることになります。

その後、学習や経験を重ねることで「知っていることを知っている」という状態に移行します。「自分が知っていることについて、自分で意識的になっている」という状態です。

そして最後は本当の達人=マスタリーの領域である「知っていることを知らない(忘れている)」という状態になります。つまり、知っていることについて意識的にならなくても、自動的に体が反応してこなせるくらいのレベルということです。

■本物のプロは「知っていることを知らない」

コンサルティングのプロジェクトではよく「ベストプラクティス」をベンチマークとします。ベストプラクティスというのは「最もウマイやり方」という意味で、これを実践しているのがマスタリーということになるわけですが、このマスタリーへのインタビューはとても苦戦するケースが多い。

なぜかというと、マスタリーには「なぜこんなに上手にできるんですか?」と聞いても、「知っていることを知らない」ので、「はあ、特に何もしていないんですが……」というような答えが返ってくることが多いんですね。なので、こういう場合にはインタビューで話してもらうよりも、実際の仕事現場を見させていただいて、観察からマスタリーの秘密を引き出す方が有効な場合が多いんです。

■「わかった」と思うことにもっと謙虚になるべき

私たちは容易に「わかった」と思ってしまいがちです。しかし、本当にそうなのか? 英文学者で名著『知的生活の方法』の著者である渡部昇一は「ゾクゾクするほどわからなければ、わかっていないのだ」と指摘しています。あるいは、歴史学者の阿部謹也が、その師である上原専禄から「解るということはそれによって自分が変わるということでしょう」と言われたというエピソードがあります。

ひらめいた女性のイメージ
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

両者ともに「わかる」ということの深遠さ、自分へのインパクトを指摘しているわけです。私たちの学びは「わかった」と思った時には停滞してしまう。本当に「ゾクゾクするほど」わかったのか、わかることによって「自分が変わった」と思えるほどにわかったのか。私たちは「わかった」と思うことについて、もう少し謙虚になってもいいのかも知れません。

■「要は○○でしょ」と言ってはいけない

この忠告はまた、短兵急にモノゴトをまとめたがる危険性をも思い起こさせます。私が長年所属しているコンサルティング業界の人々には特有の口癖がいくつかありますが、中でも「要するに○○ってことでしょ」はその筆頭と言えます。

コンサルタントは、物事を一般化してパターン認識するのが好きな人種ですから、人の話を聞いて、最後にこのように「まとめたい欲」を抑えるのが難しいようです。しかし、相手の話の要点を抽出し、一般化してまとめることは、常に良い結果をもたらすとは限りません。

まず対話において、話し手が一生懸命にいろいろな説明を交えて説明したのちに、最後に相手から単純化されて「要は○○ってことでしょ」と言われると、たとえそれが要領を得たものであったとしても、何か消化不良のような、あるいは何かこぼれ落ちてしまうように感じるかもしれません。あるいは「聞き手」にとっても、いつも「要は○○でしょう」で済ませる習慣は、世界観を拡大する機会を制限してしまうことになります。

私たちは、無意識レベルにおいて、心の中で「メンタルモデル」を形成します。メンタルモデルというのは、私たち一人ひとりが心の中に持っている「世界を見る枠組み」のことです。そして、現実の外的世界から五感を通じて知覚した情報は、そのメンタルモデルで理解できる形にフィルタリング・歪曲(わいきょく)された上で受け取られます。

「要するに○○でしょ」というまとめ方は、相手から聞いた話を自分の持っているメンタルモデルに当てはめて理解する、という聞き方にすぎません。

■コミュニケーションの深さに関する4つのレベル

しかし、そのような聞き方ばかりしていては、「自分が変わる」契機は得られません。マサチューセッツ工科大学のC・オットー・シャーマーが提唱した「U理論」においては、人とのコミュニケーションにおける聞き方の深さに関して、4つのレベルがあると説明されています。

レベル1 自分の枠内の視点で考える

新しい情報を過去の思い込みの中に流し込む。将来が過去の延長上にあれば有効だが、そうでない場合、状況は壊滅的に悪化する

レベル2 視点が自分と周辺の境界にある

事実を客観的に認識できる。未来が過去の延長上にある場合は有効だが、そうでない場合は本質的な問題にたどり着けず対症療法のモグラたたきとなる

レベル3 自分の外に視点がある

顧客の感情を、顧客が日常使っている言葉で表現できるほど一体化する。相手とビジネス取引以上の関係を築ける

レベル4 自由な視点

何か大きなものとつながった感覚を得る。理論の積み上げではなく、今まで生きてきた体験、知識が全部つながるような知覚をする

■安易に「わかった」と思い込まないほうがいい

これら4段階のコミュニケーションレベルのうち、「要するに○○でしょ」とまとめるというのは、最も浅い聞き方である「レベル1:ダウンローディング」にすぎないということがわかります。このような聞き方では、聞き手はこれまでの枠組みから脱する機会を得ることができません。

山口周『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』(KADOKAWA)
山口周『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』(KADOKAWA)

より深いコミュニケーションによって、相手との対話から深い気付きや創造的な発見・生成を起こすには、「要するに◯◯だ」とパターン認識し、自分の知っている過去のデータと照合することはなるべく戒めないといけないのです。

もしも「要は◯◯でしょ」とまとめてしまいたくなったときには、そうすることで新たな気付き・発見が失われてしまう可能性があるのだ、ということを思い出しましょう。

容易に「わかる」ことは、過去の知覚の枠組みを累積的に補強するだけの効果しかありません。本当に自分が変わり、成長するためには、安易に「わかった」と思うことを、もう少し戒めてみてもいいのではないでしょうか。

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山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者・著述家/パブリックスピーカー
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て現在は独立研究者・著述家・パブリックスピーカーとして活動。神奈川県葉山町在住。著書に『ニュータイプの時代』など多数。

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(独立研究者・著述家/パブリックスピーカー 山口 周)

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