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「受け身の社員が見違えるほど積極的になった」世界中で静かに拡大中…"ジョブ型の次"の働き方とは

プレジデントオンライン / 2023年12月22日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

社員の能力を引き出せるのはどんな組織なのか。同志社大学教授の太田肇さんは「企業側も働く人も、暗黙のうちに理想的な働き方としてイメージしているものがある。それが“自営型”だ。日本の職場に特有な仕事能力は、自営型でこそ存分に発揮される」という――。

※本稿は、太田肇『「自営型」で働く時代 ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■シリコンバレーで自営業的な働き方→独立へ

アメリカのシリコンバレーで技術系のコンサルタントとして活躍する50代の男性、N氏。新卒で日本の某大手電機メーカーに就職したが、自ら希望してシリコンバレーの拠点に赴任。技術者として勤務し、製品開発をすべて任され業績に連動する報酬が与えられていた。そこへヘッドハンティング会社から声をかけられ、変化を求めて現地の企業へ転職した。その会社でスタートアップへの投資に携わった後、数年前にフリーランスとしてコンサルタントの仕事を始めた。

工業デザイナーのI氏も同じく日本企業からシリコンバレーに派遣され、現地勤務を経て独立した一人だ。一貫して電気製品のデザインに携わってきた彼は、世界各地のグラフィックデザイナー、メカニカルエンジニア、プログラマーなど多様な人たちとネットワークでつながり、テーマごとに必要なメンバーと協力しながら仕事を進めている。仕事場は自宅だったり、カフェだったり、自然のなかだったり、気分よく仕事ができる環境で自由に働く。典型的なノマドワーカーだ。

二人に共通するのは当初、国内の日本的雇用システムのもとで働いていたが、シリコンバレーに移ってきてからは、裁量権の大きな半ば自営業的な働き方ができるようになり、さらにフリーランスすなわち正真正銘の自営業へと自らの意思で転身したことである。そして二人ともいまの働き方に満足していると語る。

■個人主導で仕事の範囲も内容も変えられる働き方

もちろん雇用には雇用のよさがあり、フリーランスにはフリーランスのよさがある。仕事をしてキャリアを形成するうえで、また生活するうえでどのような働き方が適しているかを見定めて選択するのもシリコンバレー流だ。

40代のアメリカ人エンジニアのM氏もその一人。彼はアメリカのIT企業でキャリアをスタートさせ、それから大手メーカーに転職した。そこで10年弱働いた後、会社を辞めてフリーランスになった。そして現在は以前と違う業界のメーカーに勤務している。彼は雇用からフリーランス、そしてまた雇用と就業形態が変わるたびに、安定性、責任、裁量の大きさを伸縮させながらキャリアを形成してきた。

ここにあげた三人のキャリアや働き方は、シリコンバレーではとりたてて珍しいわけではなく、むしろ標準的な部類に入る。またI氏のようにフリーランスやスタートアップ企業の社員たちがネットワーク上で新たな組織をつくるのも、シリコンバレーではごく普通に見られるスタイルだ。

いずれにしても、日本でいまはやりのジョブ型とは明らかにベクトルが違う働き方である。ジョブ型は組織主導で仕事の範囲や内容が決まるのに対し、これらのケースでは個人主導で仕事の範囲も内容も変えられていく。その点、ジョブ型とは真逆といってよい。

留意すべき点は、それがシリコンバレーというある意味で特殊な世界でのみ起きている現象ではないということである。

■「組織は仕事をするための場」に過ぎない

シリコンバレーの起業家やスタートアップで働く人たちに対して自身の組織観について質問すると、異口同音に聞かれるのが「組織は仕事をするための場」だという言葉である。そして日本の組織でも働いた経験のある人たちは、日本では組織からさまざまな制約を受けていると感じ続けていたが、こちらでは組織が自分にとってマイナスになることはないと言い切る。組織に対するイメージがまったく違うのである。「近代組織論の祖」と呼ばれるC.I.バーナードは、一人では動かせない大きな石を動かすという素朴な例をあげながら、「個人ではやれないことを協働ならばやれる場合にのみ協働の理由がある」と述べている。そのうえで「組織とは意図的に調整された人間の活動や諸力の体系」と定義する。

要するに組織の本質を追究すれば、社屋や機械・設備などはもとより人間そのものさえ必要ではなく、私たちがイメージする企業などの組織はあくまで目的追求のための手段に過ぎないことを意味している。したがってシリコンバレーの住人たちが口にする「組織は仕事をするための場」という認識は、バーナードのいう組織づくりの原点に返った、ある意味でオーソドックスな考え方だといえよう。

■仕事をするための場としての「インフラ型組織」

そこに登場するのがまったく新しいタイプの組織である。

「仕事をするための場」としての組織。私はそれを敷衍(ふえん)し、「インフラ型組織」というモデルを提示した。公共交通や道路、通信設備、安全・衛生環境などのインフラストラクチャー(社会基盤)と同じように、「組織は個人が仕事をするためのインフラ」というイメージである。

図表1はメンバーシップ型、ジョブ型、自営型の働き方と、それぞれに対応する組織の形態を表したものである。

【図表1】組織のイメージ図
画像=『「自営型」で働く時代』

共同体型組織は上下の序列はあるものの、命令―服従の関係が必ずしも明確でなく、個人が組織に溶け込んでいるところに特徴がある。いっぽう機械的組織は階層の序列や、命令と服従の関係、それにメンバー一人ひとりの権限や責任が明確に定められている。文字どおり機械のような構造の組織である。なおT.バーンズとG.M.ストーカーは機械的組織と有機的組織を対比しているが、共同体型組織は有機的組織に近いといえる。

共同体型組織も機械的組織も、実線で表したように組織の内外を隔てる壁があり、市場や顧客などの環境に対する適応の主体は組織である。そのため個人はあくまでも組織の一員として、すなわちバーナードのいう「組織人格」で行動する。顧客に対して「わが社では」「当社としては」などというのはその表れである。

■組織が個人の活動を支援する「インフラ型組織」

それに対してインフラ型組織では、個人が主体となり直接、市場や顧客と対峙(たいじ)する。メンバーどうしの関係は基本的にフラットであり、組織は個人の活動を支援することに重点が置かれる。たとえるなら舞台の上で俳優が演技をするイメージである。

シリコンバレーにかぎらず国内外のIT系企業、スタートアップ、それに営業やサービスといった業種の一部では事実上、インフラ型に近い組織が少なくない。大企業でも顧客に接する現場を上にした、逆ピラミッドの組織図を掲げるところがしばしば見かけられるようになったが、これらも理念としてはインフラ型に近い。

多くのケースに共通するのは、意識してインフラ型の組織を設計したわけではなく、仕事がしやすい環境づくりをめざして試行錯誤した結果、このような組織になったということだ。

新しいビジネスプランの会議
写真=iStock.com/alvarez
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/alvarez

■暗黙のうちに「自営型」を理想としてイメージしている

企業側も働く人の側も、暗黙のうちに理想的な働き方として自営型をイメージしているのである。そして社員一人ひとりにまとまった仕事を任せたら受け身の姿勢が見違えるほど積極的になったとか、若手が会社を辞めなくなったという経験をたびたびしている。にもかかわらずメンバーシップ型かジョブ型かという既成概念に縛られているので、あるいはそれしか知らないので、自営型という働き方が意識されないだけなのである。たとえていうなら「甘い」と「辛い」しか知らない幼児が酸っぱいブドウを口にしても、「甘い」か「辛い」かでしか表現できないようなものだ。

私はここ20年来、国内各地、それに海外20カ国以上の国・地域を訪ね人々の働き方を調査してきた。そこでわかったのは、アメリカのシリコンバレーのような時代の先端を行く地域から、イタリア、台湾、中国などの伝統的な国・地域の職場にまで、自営型が広がってきていることだ。そしてわが国でも情報・ソフト系の企業から、製造業、建設業、サービス業、流通業まで多様な業種の現場に、自営型が浸透しつつある実態が明らかになった。しかもIT化とグローバル化、そして新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、自営型の普及がいちだんと加速している。なかにはそれをジョブ型の広がりととらえる向きもあるが、実態は明らかに自営型なのだ。

■自営型でこそ日本企業の能力は発揮される

注目すべき点が二つある。

一つは、それが新たな経営環境にマッチしているだけでなく、人間にとって理想に近い働き方だということである。たとえば近年明らかになったように、日本人の仕事に対するエンゲージメント(熱意、献身、没頭)は世界最低水準にとどまるが、フリーランスだけを見ると欧米に遜色ないほど高い。

太田肇『「自営型」で働く時代 ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社)
太田肇『「自営型」で働く時代 ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社)

もう一つは、伝統的な日本の職場に特有な仕事能力が、自営型でこそ存分に発揮されるということである。しかもわが国では中小企業の比率が高く、また高度経済成長期までは雇用労働者より自営業者のほうが多かったことから想像できるように、自営型は日本社会になじみやすい。したがって日本の伝統的な「強み」を最大限に生かせる働き方だといってよい。

一人でまとまった仕事をこなす自営型は、企業にとって生産性向上と人材不足対策の切り札になるかもしれないし、エンゲージメントの高さはリテンション(人材確保)につながる。また勘や熟練を生かしマイペースで働けるところは、シニア層の活用にも適している。

世界のビジネス界、労働界の議論がまだジョブ型の先へは進まないいまこそ、日本企業、日本社会が先陣を切って自営型の働き方を発展・普及させれば、“ジャパンアズナンバーワン”の再来もけっして夢物語ではなかろう。世界に通用するのはスポーツ界の新生日本代表チームだけではないはずだ。

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太田 肇(おおた・はじめ)
同志社大学政策学部教授
1954年、兵庫県生まれ。神戸大学大学院経営学研究科修了。京都大学博士(経済学)。必要以上に同調を迫る日本の組織に反対し、「個人を尊重する組織」を専門に研究している。ライフワークは、「組織が苦手な人でも受け入れられ、自由に能力や個性を発揮できるような組織や社会をつくる」こと。著書に『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)をはじめ、『「ネコ型」人間の時代』(平凡社新書)『「超」働き方改革――四次元の「分ける」戦略』(ちくま新書)、『同調圧力の正体』(PHP新書)などがあり、海外でもさまざまな書籍が翻訳されている。近著に『何もしないほうが得な日本 社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP新書)がある。

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(同志社大学政策学部教授 太田 肇)

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