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高市早苗氏が「次の首相」に急浮上か…裏金問題による「安倍派の完全崩壊」で激変する自民党の権力構造を読む

プレジデントオンライン / 2023年12月12日 7時15分

衆院予算委員会で岸田文雄首相(手前)の答弁を聞く高市早苗経済安全保障担当相(奥右)=2023年11月21日、国会内 - 写真=時事通信フォト

自民党最大派閥・安倍派が「政治資金パーティー問題」で揺れている。政治ジャーナリストの鮫島浩さんは「岸田首相は来春には総辞職を迫られるだろう。後継には麻生太郎副総裁が推す茂木敏充幹事長が優勢だが、安倍派の崩壊により、無派閥・非世襲の高市早苗氏が『次の首相候補』に躍り出る可能性もある」という――。

■自民党の「パー券裏金問題」に東京地検特捜部が切り込んだ

自民党の最大派閥・安倍派が存亡の危機を迎えている。

政治資金パーティー券の売り上げノルマを超えた分を政治資金収支報告書に記載せず「裏金」として所属議員にキックバックする不正が長年続いていたことが、東京地検特捜部の捜査で発覚した。

安倍晋三元首相が急逝した後の集団指導体制を主導してきた「5人衆」(松野博一官房長官、西村康稔経済産業相、萩生田光一政調会長、高木毅国会対策委員長、世耕弘成参院幹事長)も裏金を受け取っていたことが明らかになり、世論の批判は沸騰。岸田文雄首相は5人衆全員を更迭する方針を固め、内閣改造・党役員人事に踏み切ると、時事通信や朝日、読売などの報道機関が報じた。

安倍派を標的にした検察当局の裏金捜査は、来年秋の自民党総裁選をにらんで麻生派(第2派閥)・茂木派(第3派閥)・岸田派(第4派閥)の主流3派を後押しする「国策捜査」の色合いが濃いと私は分析している。

今後の捜査は、自民党内の権力闘争と密接に絡みながら進展していくだろう。そのなかで誰が脱落し、誰が浮かび上がるのか。政局を大胆に展望してみよう。

■「ポスト岸田」をめぐる権力闘争である

岸田内閣の支持率は2割台まで落ち込み、解散・総選挙に踏み切れない状況に陥っている。

非主流派のドンである菅義偉前首相(無派閥)は来年秋の自民党総裁選に向けて二階俊博元幹事長(第5派閥・二階派)と連携。マスコミ世論調査で「次の首相」トップに返り咲いた石破茂元幹事長(無派閥)を「選挙の顔」として擁立し、麻生氏ら主流派に対抗する準備を進めている。

麻生氏は岸田首相では総裁選に勝てないとして見切り、来年春の予算成立と国賓待遇での首相訪米を花道に岸田内閣を総辞職させ、緊急の総裁選に茂木敏充幹事長を擁立して勝利し、主流3派体制を維持したい考えだ。

岸田首相が「増税メガネ」のあだ名を嫌って所得税の定額減税を表明したことに財務省が激しく反発して岸田政権を見限ったことも、「財務省の用心棒」的存在である麻生氏の判断を後押ししたとみられる。

総裁任期満了に伴う来年秋の総裁選は、国会議員だけでなく、一般党員も投票権を持ち、国民人気の高い石破氏を担ぐ菅氏に有利となる。これに対し、総裁が任期途中に辞任した場合の緊急の総裁選は、党員投票は行わず、国会議員と都道府県連代表の投票だけで決する仕組みだ。派閥の多数派工作が勝敗を左右し、派閥会長である麻生氏や茂木氏に有利といえる。

それでも主流3派だけでは過半数には届かない。総裁選の鍵を握るのは、最大派閥・安倍派の動向だ。麻生氏ら主流派と、菅氏ら非主流派のどちらが安倍派の大勢を引き込めるかが、ポスト岸田レースを決するといっていい。

■主流派の麻生氏vs非主流派の菅氏の代理戦争

菅氏が安倍派のなかで連携してきたのは、萩生田氏だ。安倍政権では菅官房長官のもとで官房副長官を務め、加計学園問題などでともに奔走。政界引退後も安倍派に絶大な影響力を持つ森喜朗元首相に寵愛され、安倍派会長レースのトップを走ってきた。石破政権が誕生すれば、菅氏は萩生田氏を幹事長にねじ込んで安倍派から萩生田派への移行を後押しし、菅―萩生田体制で政権をコントロールする構想を温めてきたのである。

これに対し、麻生氏が安倍派のなかで連携してきたのは、世耕氏だ。世耕氏は地元・和歌山で長年の政敵である二階氏に参院から衆院への鞍替えを阻まれ続け、今すぐに総裁選に出馬する立場になく、萩生田氏に一歩後れを取っている。二階氏と連携する菅氏に近づくわけにはいかず、菅氏の宿敵である麻生氏に接近するのは自然な流れであった。

安倍派内部の主導権争いは、主流派の麻生氏vs非主流派の菅氏の代理戦争の様相を帯びていたのである。

■岸田首相は来春までに総辞職の決断を迫られる

そこで炸裂したのが、安倍派の裏金事件だった。

松野博一官房長官
松野博一官房長官(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

5人衆のなかで捜査線に浮上しているのは、派閥運営に責任を持つ事務総長を務めた松野氏、西村氏、高木氏の3人だ。彼らがキックバック分を収支報告書に記載しないように事務方に指示していたとすれば、政治資金規正法違反(不記載・虚偽記入)で逮捕される可能性が出てくる。

なかでも内閣の要である官房長官の松野氏が検察捜査の標的となったことは、岸田首相に決定的な打撃を与えた。人気回復を優先して所得税減税を表明し、財務省をはじめ霞が関のコントロールが利かなくなった岸田官邸に対するエリート官僚たちの忠誠心はすっかり失われている。検察当局が官房長官を強制捜査することへの抵抗感もなくなったといえるだろう。

岸田首相自身は来年春の内閣総辞職を最終的に受け入れておらず、何とか支持率を回復させて政権を続行する意欲を失っていない。一方で、来年2月には鈴木善幸を抜いて宏池会(岸田派)歴代首相の在任期間の2位に躍り出る。宏池会創始者の池田勇人には及ばないものの、「歴代2位」として老舗派閥の宏池会の歴史に名を刻むことに、岸田首相はとてもこだわってきた。

来年2月に鈴木善幸を超え、来年3月に当初予算が成立し、来春予定の国賓待遇の訪米まで持ち堪えれば、内閣総辞職を受け入れるのではないか――足元の岸田派にもそのような見方が広がっている。松野官房長官への強制捜査は、岸田首相に来年春の内閣総辞職の決断を迫る最後の一撃になるかもしれない。

■検察と麻生氏の利害は「アンチ菅」でぴったり重なる

松野、西村、高木3氏は、自らへの強制捜査をかわすため、キングメーカーの麻生氏ら主流派に刃向かいにくくなった。少なくとも非主流派の菅氏に接近することは避けるはずだ。

検察当局が最も警戒しているのは、菅氏の復権である。菅氏は安倍政権時代、官房長官として検察人事に介入し、「官邸の守護神」と呼ばれた黒川弘毅検事長を検事総長にねじ込もうとした。

検察庁の主流派は抵抗し、菅vs検察の暗闘は激化。最後は黒川氏が検察担当記者と賭け麻雀をしていたスキャンダルで失脚し、検察庁は人事介入を辛うじて免れたのである。以来、検察は菅氏側近議員(河井克行元法相や菅原一秀元経産相)を強制捜査し、菅氏を牽制してきた。検察当局と麻生氏の利害は「アンチ菅」でぴったり重なるのだ。

5人衆のうち事務総長を務めていない萩生田氏と世耕氏は当初、松野氏ら3人に比べて危機感は少なかった。ただ、萩生田氏の「舎弟」として知られる池田佳隆衆院議員が当選4回の中堅ながら安倍派内で最も多いパーティー券を売り捌く「パー券営業部長」と呼ばれ、多額のキックバックを受け取っていたことが『週刊文春』で報じられると、萩生田氏にも強制捜査が及ぶのではないかとの見方が広がった。

菅氏と連携する萩生田氏にも検察捜査は重くのしかかり、菅氏と組んで麻生氏ら主流派に挑むことをためらわせる効果は十分にあったとみるべきだろう。

曇天の国会議事堂
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

■総裁選は主流3派が担ぐ茂木氏が優勢になる

そのなかで最も余裕をみせていたのが、麻生氏に近い世耕氏だった。

松野氏や高木氏と並ぶ「5年で1000万円超」の裏金を受け取っていた疑いが報じられた後も「私自身は職責を全うしたい」と強気の姿勢をみせていた。西村氏も5人衆のなかでキックバックが最も少ない100万円にとどまり、松野氏の陰で風圧をかわしてきた。

世耕氏と西村氏は安倍派に激震が広がる12月5日夜、東京都内のホテルで森氏と会食し、今後の安倍派の主導権はこの二人が握るのではないかとの臆測も流れていた。

しかし、岸田首相は安倍派への世論の批判が高まる中、5人衆全員を更迭する方向に傾いた。麻生氏も同調したのだろう。ここまで安倍派への批判が噴出すれば世耕氏や西村氏を引き込んで安倍派を間接的に掌握するよりも、いっそのこと安倍派に壊滅的打撃を与え、あわよくば派閥分裂に追い込んで最大派閥から転落させるほうが主流3派にとっては都合がよい。四分五裂した安倍派の議員たちは「勝ち馬に乗れ」とばかりに向こうから主流3派へ近づいてくるだろう。

安倍派の凋落で、総裁選は主流3派が担ぐ茂木氏が俄然優勢になる。検察捜査の行方がポスト岸田レースを大きく左右するのは間違いない。

■自民党主流派の死角…無派閥の「首相候補」の存在感

2001年の小泉純一郎政権誕生で幕を開けた清和会(現在の安倍派)支配はいよいよ終焉(しゅうえん)する。入れ替わるように、清和会に駆逐され弱体化した経世会(平成研究会・現在の茂木派)と宏池会(現在の岸田派)、そして宏池会から枝分かれした麻生派の時代が復活する――。そんな自民党派閥史の転換期を迎えているのかもしれない。

だが、麻生氏ら主流派には死角がある。菅氏が総裁選に担ぐ石破氏も、第三極の立場から出馬を目指す高市早苗経済安保担当相も、無派閥であることだ。

第2次岸田文雄再改造内閣で経済安全保障担当相に留任した高市氏
第2次岸田文雄再改造内閣で経済安全保障担当相に留任した高市氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

安倍派の裏金事件で派閥政治への批判が高まれば、主流3派に担がれた派閥会長の茂木氏に対する逆風が吹き荒れ、無派閥の石破氏や高市氏に追い風が吹く動乱の展開も否定できない。

石破氏は安倍政権に干され、総裁選に負け続け、石破派も解体に追い込まれたことが幸いするかもしれない。安倍派など5派閥の政治資金問題が発覚した後、メディア出演を重ねて総裁選出馬への意欲を隠さず、「政治とカネ」を争点に据える構えをみせている。

自らの政治資金は透明に管理しており、鳥取県知事などを歴任した父親から政治資金を受け継がなかったことも強調。安倍氏の妻昭恵氏が政治資金2億円超を相続税を免れるかたちで受け継いだこととの違いをアピールした。自民党にはびこる「派閥・世襲・裏金」の闇を一掃することを争点に掲げ、麻生氏ら主流3派が担ぐ茂木氏に対抗する戦略だ。

■無派閥・非世襲の高市早苗氏が「台風の目」になる

しかし、石破氏には決定的な弱点がある。党内基盤が弱く、菅氏や二階氏に担がれなければ総裁選に出馬できないことだ。

菅氏は安倍政権中枢に陣取り、東京五輪誘致をめぐる汚職事件などでも批判を浴びた。二階派は今回の裏金疑惑でも捜査対象に浮上している。しかも菅氏と連携する河野太郎デジタル担当相や小泉進次郎元環境相は世襲政治家の象徴だ。石破氏が派閥・世襲・裏金をどんなに批判したところで、旧態依然たる自民党文化にどっぷり浸かっている勢力に支えられている矛盾は隠しようがない。

その点、台風の目に浮上する可能性があるのは、無派閥で非世襲の高市氏だ。

高市氏は前回総裁選で安倍氏に担ぎ出され、安倍支持層の熱狂的支持を集めた。5人衆は安倍氏が無派閥の高市氏を擁立したことに不満を募らせた。安倍氏が健在な時は表面化しなかったが、安倍氏が急逝した後は高市氏を露骨に遠ざけた。高市氏は自民党内で孤立感を深めたのである。

とはいえ、右派言論界やインターネットの右派インフルエンサーら安倍支持層の支持は根強く、世論調査の「次の首相」でも石破氏や河野氏、小泉氏に続く順位を維持している。茂木氏や岸田派ナンバー2の林芳正前外相よりも国民人気ははるかに高い。

■「安倍支持層」との連携が存在感を高める

最大の課題は、総裁選出馬に必要な推薦人20人を確保できるかどうかだ。前回は安倍氏の支持を得て推薦人確保に苦労しなかったが、今回は自力で集めなければならない。そこで現職閣僚としては異例となる勉強会を旗揚げし、露骨に推薦人確保に動き出した。初回は安倍派3人を含む13人が参加。世耕氏は「現職閣僚がこういう形で勉強会を立ち上げるのは、いかがなものか」と公然と批判し高市氏を牽制した。

安倍支持層に人気の作家・百田尚樹氏が日本保守党を旗揚げしたことも高市氏には追い風になった。同党は各地の街頭演説で大勢の人を集め、X(旧ツイッター)のフォロワー数で自民党を追い抜いて既存政党のトップに躍り出た。同党支持層には高市氏との連携に期待する声も多い。菅氏が維新と、麻生氏が連合と連携して政局の主導権をつかもうとしてきたのと同様、高市氏も日本保守党との連携をちらつかせながら自民党内での存在感を高めることが可能になったのだ。

そこで炸裂した安倍派の裏金事件は、さらなる追い風になるとみられる。石破氏と同様、無派閥の立場から「脱派閥」を訴えることができるだけではない。高市氏をライバル視して敬遠してきた5人衆が「全滅」して影響力を失えば、安倍派は分裂含みとなる。安倍派でも右寄りの議員に高市氏支持が広がり、安倍派分裂→高市派結成の動きに発展する可能性もあるのだ。

自由民主党本部
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

■高市氏が「次の首相候補」に躍り出る可能性も

来年の総裁選で「麻生氏が担ぐ茂木氏vs.菅氏が担ぐ石破氏」に第三極として参入し、キャスティングボートを握ることは十分に可能である。どちらが勝っても高市氏が新政権で要職に踏みとどまる公算が高まるだろう。

さらに派閥政治や世襲政治への批判が過熱し、麻生氏が担ぐ茂木氏だけではなく菅氏や二階氏に担がれる石破氏も失速する展開になれば、行き場を失った安倍派の右派議員たちが「脱派閥・脱世襲」を掲げる高市氏支持に雪崩れ込み、有力候補に躍り出る展開もあながち否定できない。

安倍派の裏金事件は自民党の勢力地図を大きく塗り替え、シナリオなき党内闘争の幕開けとなろう。主流3派を後押しする「国策捜査」は、その思惑を超えて予期せぬ方向へ日本政界を導くかもしれない。動乱の政局が始まった。

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鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト
1994年京都大学を卒業し朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部や特別報道部でデスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2021年5月に49歳で新聞社を退社し、ウェブメディア『SAMEJIMA TIMES』創刊。2022年5月、福島原発事故「吉田調書報道」取り消し事件で巨大新聞社中枢が崩壊する過程を克明に描いた『朝日新聞政治部』(講談社)を上梓。YouTubeで政治解説も配信している。

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(ジャーナリスト 鮫島 浩)

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