「ロッキード」「リクルート」そして令和は…自民党が「政治とカネ」問題を性懲りもなく繰り返す本当の理由
プレジデントオンライン / 2023年12月15日 14時15分
■昭和に起きた「ロッキード」と「リクルート」
自民党の「政治とカネ」の問題は、戦後日本政治の最大の課題の一つであったといってもよい。そして、それは時には政権の中枢を直撃してきた。1976年の「ロッキード事件」、1988年の「リクルート事件」を考えるだけでも、常に政権与党である自民党にまつわる「政治とカネ」の問題が取りざたされてきた。
リクルート事件の反省を受けた1990年代の政治改革において、「政治とカネ」の問題にもメスが入り、透明化が図られたはずであった。しかしながら、今回こうした問題が起こったとするとその改革も不十分であったことがわかる。
リクルート事件と同様に政権を直撃し、この事件は「令和のリクルート事件」といってよい。またリクルート事件と同様に、その広がりがどこまでかということが見通せない中で、2020年代の日本政治最大の事件となっている。
■「パーティー券問題」は昨秋から指摘されていた
現在、与党は混乱の極みにある。与党最大派閥の安倍派を中心として、政治資金規正法違反に当たる「政治家のパーティー」の売り上げをめぐり、与党全体、そして岸田政権自体が揺れているのだ。
そもそも「政治資金」を獲得とする目的で開催される、この「政治家のパーティー」は、政治資金規正法第八条の二で規定されており、それ自体が違法とされるものではない。しかしながら、その政治資金にまつわる収入に関しては、政治資金収支報告書において、明らかにする必要がある。
こうした報告書において、収入に関して不記載、あるいは過少記載の疑いがあることが、派閥の政治資金収支報告書に関して明らかとなった。そもそもこの問題は、政党機関紙が昨年11月に問題提起しており、それを発端に大学教授が刑事告発に至ったという背景がある。最近になって明らかになったのではなく、長期的に問題が指摘されてきたものといえる。
■派閥内で語り継がれてきた「錬金術」
こうした問題提起がなされていたにもかかわらず、派閥を有する自民党の総裁であり、自らも派閥の領袖を、首相に就任以後も継続して務めてきた岸田首相は、どのような対応を行ってきたのか。総裁であり派閥の領袖であるにもかかわらず、必ずしも目立った動きを示したとは言い切れないところがある。
つまり、岸田首相の危機感は薄いものがあった。これには第一に、構造的な「錬金術」として長期にわたる実践がある。つまり、これまで数十年にわたり慣習的に行われてきたことであったこと。第二に、国会を取り巻く政党間環境がある。長期にわたる一強多弱状態の中で、自民党は野党には追及する力がないとたかをくくっていたところがあったこと。そして、これが最大のものだろうが、第三に、総裁派閥を取り巻く党内環境がある。
総裁である岸田首相は、党内第4派閥であり、岸田派の会員は最大派閥の安倍派の半分以下の人数しかない。そもそも「岸田内閣」の成立には、最大派閥の安倍派をはじめとした派閥による合従連衡の中で成立した。そこで、何か問題があっても「党内党」である他の派閥に、リーダーシップを持って指示を出すということははばかられる状態であったこと、そうした中で対応が後手に回ってしまったところがあったのだろう。
■内閣支持率は過去最低の23%を記録
結局、岸田首相は、党の派閥の領袖を含む幹部で緊急会合を開き、政治資金パーティーの当面の自粛を、12月6日に決定した。さらに、翌12月7日には、自らが属し、派閥の領袖である宏池会から派閥離脱を表明することとなった。NHKの世論調査(12月8日~10日)では、この岸田首相の行動に対して「遅すぎる」とする回答が66%に上ったという。
こうした問題が大きくなるにつれて、岸田政権の支持率は過去最低を更新することとなった。前掲のNHK世論調査では、2012年の時効の政権奪還以降、過去最低の支持率となり、6ポイント減の23%となった。不支持率も6ポイント増の58%であり、この政治資金の問題が大きく影響を与えていることがわかる。
また、そもそも自民党の派閥のパーティー券の問題であることから、自民党の支持率も急落して8.2ポイント減の29.5%となり、3割を切ったという。政権復帰以降、自民党の支持率が3割を切るのは初である。
野党の支持率も10%を超えるものはなく、支持の上がらない中で、既存の政治に対する不信感の表れなのだろうか、支持政党のない無党派層は43.3%と4.8ポイント増えている。こうした世論に、この「パーティー券」の問題は、多大な影響を与えているといえる。
■連日、新たに報じられるキックバック疑惑
12月1日、安倍派にパーティー券にまつわるキックバック(還流)の問題が報道された後、翌12月2日には二階派にも裏金の疑いが指摘され、ついに12月8日には、松野官房長官に1000万円以上の裏金のキックバックが報じられ、政権の中枢を直撃するに至った。
これ以降も、12月9日には党役員の安倍派の現在の事務総長の高木毅国対委員長、萩生田光一政調会長、世耕弘成参院幹事長、そして座長の塩谷立氏、閣僚でも事務総長経験者の西村康稔経済産業相などにもキックバックの疑いが広がった。
12月12日には最大派閥である安倍派の議員側へのキックバックが5年間で総額5億円に上り、大半の議員がこのキックバック分を政治資金報告書に不記載であるということが大きく報じられ、さらに岸田派にもキックバックの疑いが指摘された。
こうした報道の連続は、国民に対して十分にインパクトのあるものである。もちろんパーティー収入の不記載は、与党だけではなく野党にもあり、立憲民主党の安住淳国対委員長も40万円の不記載を訂正したという。
■「派閥と政党の連座制ペナルティ」が効果的か
このような問題が起こる背景には、第一に政治資金規正法の規定が不十分であること、第二には、派閥を中心とした自民党の政権運営の在り方があると考えられる。
第一の問題に関しては、今回の件で政治資金規正法の改正は不可避となったといえる。記載金額の下限をさらに引き下げるとか、あるいは政治資金収支報告書の不記載、虚偽記載の場合には「事務局と事務総長の連座制」を導入するなどの厳罰化によって再発防止に努める必要があるだろう。
政治家の側で政治資金の問題に対して透明性の確保ができないとすれば、政治資金を管理する第三者機関の設置も必要かもしれない。
第二の問題に関しては、派閥を中心とした政治資金の取り扱いに対して必ずしも十分なチェック機能が働かなかった可能性がある。政党や個人への監査は徹底して行われるが、「党内党」として隠然たる影響力を行使している派閥においては、他の派閥からもチェックが効かないほどに独立性が高いところもある。
さらに自民党の総裁が派閥の合従連衡で生み出されるとするならば、この派閥にまつわる問題の解消は難しい可能性もあるものの、政党に属する派閥、個人の不適切な問題が浮上した場合には、いわば「派閥と政党の連座制」ペナルティを課すことで、派閥の政治資金の透明性を担保できるかもしれない。例えば、国民が支払う税金が原資である「政党交付金」の政党に対する交付を減額するといった方法が考えられる。
■「安倍派」更迭で政権延命を図った岸田首相
この臨時国会終盤になってから、にわかにクローズアップされてきた「政治とカネ」の問題であるが、年末の来年度予算編成の時期を直撃している。これは「リクルート事件」の対応を行ってきた竹下内閣と同様のタイムスケジュールである。
岸田首相は12月14日、内閣改造を行い、疑惑が指摘された松野博一官房長官、西村康稔経済産業相、高木毅国対委員長らを事実上更迭した。
この人事は、閣僚から今般の「政治とカネ」の問題に関する罪を「安倍派」に背負わせることによって、政権を延命させるという岸田首相の意図があるだろう。実際、前日の13日には安倍派の宮澤博行防衛副大臣が「安倍派の組織ぐるみの裏金作り」であったことをメディアに公言していることもあり、この岸田氏の行動は一定の評価を得る可能性がある。
■人心一新のための内閣改造が裏目に出た
しかしながら、新たな顔ぶれを見ると、無派閥の斎藤健新経済産業相はいるものの、やはり、後任人事も自派の岸田派(林芳正新官房長官)、実質政権オーナーの麻生派(松本剛明新総務相)、総裁選に色目のない少数派閥森山派(坂本哲志新農林水産相)など、岸田首相が派閥の論理から抜けられていないことは明らかだ。
さらに、この内閣改造には、平成のリクルート事件をみれば懸念もないわけではない。当時の竹下内閣は人心一新のために1988年12月に内閣改造を行ったが、かえってこれが裏目に出た。
改造した内閣においてもリクルートからの献金を受けていた疑惑が噴出し、昭和から平成をまたいだ竹下内閣も、平成初の予算を決定して退陣に追い込まれたのだ。
■「岸田政権の終わりの始まり」かもしれない
この「平成のリクルート事件」を念頭に入れると、「令和のリクルート事件」といえるパーティー収入をめぐる「政治とカネ」の問題も、同様の展開をたどる可能性がある。つまり、岸田首相が政権延命のために、内閣改造を行ったところで、疑惑を払拭し、政権を浮揚させられるかどうかは不透明なところがある。
また、解散総選挙で岸田内閣の継続についての国民の信を問うということで政権の延命を図ることも可能だが、そもそも、これだけ支持率が低くなってしまっては、解散総選挙を打つ体力は、現在の岸田政権には残っていない。
そうするならば、内閣総辞職も視野に入ってくるだろう。自民党の再生ができるかはこれからだ。これは「岸田政権の終わりの始まり」なのかもしれない。
■過去の反省が踏みにじられ、再改革が必要に
今回の「政治とカネ」をめぐる問題は、1990年代のリクルート事件の反省の上に立つ公費助成による政治の透明性の確保のための政治資金規正法の改正を踏みにじるものであった。
問題を起こした政党に対する公費の助成の在り方や、更なる法改正と厳罰化に向かって、また1990年代にはできなかった、政治資金の更なる公開や電子帳簿化などの「見える化」に向かっての動きに一石を投じるものとなるだろう。
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法政大学大学院教授
1968年生まれ。博士(政治学)。日本学術振興会特別研究員、長崎県立大学専任講師、静岡大学助教授を経て、現在、法政大学大学院公共政策研究科教授。専攻は現代政治分析。ノルウェー王国オスロ大学政治研究所客員研究員、ドイツ連邦マンハイム大学客員教授、英国オックスフォード大学客員フェローなどを歴任。著書に『市民・選挙・政党・国家』(東海大学出版会)、『都市対地方の日本政治』(芦書房)など、編著として『政権交代選挙の政治学』『統一地方選挙の政治学』(ミネルヴァ書房)ほか。
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(法政大学大学院教授 白鳥 浩)
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