なぜ話がつまらない人ほど「自分は面白い」と思うのか…コロンビア大教授「能力の低い人ほど自信過剰な理由」
プレジデントオンライン / 2023年12月24日 10時15分
※本稿は、トマス・チャモロ=プリミュージク『「自信がない」という価値』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。
■「無知の知」を説いたのはソクラテスだけではない
どんな分野であれ、その道のプロの特徴の一つは、自分の知識の限界を知っていることだ。現に古今東西の賢人たちは、自信を持ちすぎることの危険を何度も口にしてきた。
たとえば西洋哲学の父であるソクラテスは、「自分が知っているのは、自分は何も知らないということだけだ」という有名な言葉を残している。他の賢人たちも、だいたいソクラテスと同じ考えだ。
そして数世紀がたち、フランスの哲学者で詩人、それに啓蒙時代を代表する知識人の一人であるヴォルテールも、「読めば読むほど、自分は何も知らないという確信が深まる」と言った。そして進化論を生んだ天才であり、歴史に名を残す科学者であるチャールズ・ダーウィンは、「自信は知識から生まれるよりも、無知から生まれることのほうが多い」と言っている。他にも例はたくさんある。私たちは、人類を代表する賢人たちの警告に、もっと耳を傾けるべきではないだろうか。
■話が面白くない人ほど「ユーモアのセンスがある」と思っている
そして最近では、彼ら賢人たちの正しさが、心理学の研究によって証明されるようになった。それらの研究によると、能力の低い人ほど自信過剰になるという。あまりにも能力が低いので、自分に能力がないことさえも理解できないからだ。
この現象は、ユーモアのセンス、趣味のよさ、創造性、知性、各種の体を使うスキルなど、ほぼすべての分野で見ることができる。たとえば、話が面白くない人ほど自分はユーモアのセンスがあると考え、趣味の悪い人ほど自分は趣味がいいと考え、頭の悪い人ほど自分の知性を高く評価する、といった具合だ。
つまり、能力が低いと、パフォーマンスの質が下がるだけでなく、自分の能力のなさを理解できないという事態にもつながるということだ。
たとえば私は、教える仕事を始めたばかりのころ、ただ教壇に立って思いついたことを話せばいいと思っていた。自分には面白い授業ができるという確信があったので、準備もしなかったほどだ。
たしかに学生たちの笑いを取ることはできたが、優秀な学生たちはすぐに欠陥に気がついた。私の授業には、きちんとした骨組みもなければ、中身もなかったからだ。彼らは講義の概要を読み、そこに書かれている内容を私がきちんと教えていないことに気づく。そして、仕方がないので自分で勉強することになる。
■勉強熱心ではない学生の褒め言葉で悦に入っていた
その一方で、あまり勉強熱心でない学生たちは、私の授業を気に入ってくれた。そこには学ぶこともなければ、勉強することもなかったからだ。私も自分の授業に満足していたので、学生からの苦情には耳を貸さず、褒め言葉だけを聞いて喜んでいた。――「授業は面白くなければならないということをわかっている先生がついに現れた」「こんなに活発な討論がある授業は初めてだ」などなど。
もちろん、そういった褒め言葉も本当のことかもしれない。しかしその反面、学生が学ばなければならないことは教えていなかったのだ。
数年がたち、学生からの苦情にも耳を傾けるようになると(単純に数が増えたので、そうせざるを得なかった)、最初は少し意気消沈した。教えることに対する自信が揺らぎ、そこから学者としての資質にも疑問が出てきた。しかし、そうやって現実を直視したことで、授業の質を上げるための重要な一歩を踏み出すことができたのだ。
■自信がなくなると自分に欠けているものに気づける
私は、学生が必ず読むべきものをきちんと確認し、授業の準備を念入りに行うようになった。私の自信のレベルは、教えはじめたばかりのころが最高潮で、その後はそこまで回復することはなかったが、学生からの評価は前よりもずっと高くなった。私の教える能力が向上したからだ。
ここで私が言いたいのは、自信の高さは、成長を妨げる呪いにもなるということだ。自分のパフォーマンスに完全に満足していると、否定的なフィードバックを無視し、自分に都合のいいように現実をゆがめる。
それと同じ意味で、自信が低いのはむしろありがたいことだ。自信がないおかげで、自分に欠けているものを知り、欠点克服のために努力することができる。つまり、自信があるときは、たいてい実力はないということだ。それでも、他者からの評価に気づくことができれば、自分をもっとよく知ることができ、自信のレベルも現実に即してくる。
心理学の研究によると、自信が高くなるほど、否定的なフィードバックを無視するようになる。せっかく忠告してくれる人を軽く扱い、自分を褒める人ばかり高く評価する。自分の能力に自信を持っている人に向かって、「実際はそれほどでもないですよね」と言ったら、いったいどうなるだろうか。相手は冗談だと思うか、または真っ向から反論してくるはずだ。
■自己評価の高い人は否定的な反応をゆがめて受け取ってしまう
楽観的で、自分を高く評価している人ほど、否定的なフィードバックを受け取ると、現実を自分に都合のいいようにゆがめる傾向がある。この現象には、「補償的自己肥大」という名前がついている。
自信が現実をゆがめるというこの現象は、実際に目で見ることができる。脳スキャンを使った研究によって、他者からのフィードバックを処理する脳の部位が明らかになったからだ。自信の高い人と低い人とでは、実際にフィードバックへの反応が異なっていたのである。
ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの神経科学者、タリ・シャロット博士の研究チームもまた、現実を楽観的にゆがめる脳の部位を特定することに成功した。シャロット博士らによると、楽観的な人(現実を実際よりもポジティブに解釈する人)の脳は、ネガティブな出来事を無視する能力(または意思)が高く、問題があることを脳に知らせるシグナルが実際に出なくなるという。
砂に頭だけ突っ込んで隠れた気になっているダチョウと同じで、自信家の脳は、危険を無視することで自分を「守る」ように元からプログラムされているのだ。もちろんそれでは、最終的には自分の不利益になる。それに加えて、自信が高すぎると、人の意見を気にしなくなるので、自分を知る能力がさらに下がる。
■たいていの大人は表向きではいいことしか言わない
実力のない人ほど自信が高くなる理由は他にもある。たいていの人は相手に気を遣うので、面と向かって否定的なフィードバックを与えることはあまりない(実際は、能力のなさを指摘してもらったほうが向上のきっかけになる)。
その代わり、まるで能力があるかのようにお世辞を言い、その結果、相手の勘違いはますます大きくなる。大人はよく子供に向かって、いいことが言えないなら黙ってなさいと言うが、たいていの大人は普段の生活でそれを実践し、表向きはいいことしか言わないことが多い。
私たちが普段の生活でいかに社交辞令に縛られているかは、「アメリカン・アイドル」などの素人オーディション番組を見るとよくわかる(※)。そういった番組では、たいてい実力のない出場者ほど自信満々だ。まるでプロのように堂々と登場しても、実際のパフォーマンスはお粗末ということはよくある。特に早いラウンドではその傾向が顕著だ。
※2006年5月24日、番組の投票に参加した視聴者は6300万人にのぼった。この数字は、アメリカ史上もっとも票を集めた大統領(1984年の選挙でのロナルド・レーガン〈訳注:原書発刊当時〉)よりもほぼ1000万票も多い。
■リアリティ番組では自信過剰な人が現実を突きつけられる
そして、「アメリカン・アイドル」の面白さも実はそこにある。あまりにもお粗末な人が出てくると、どう頑張っても褒めようがない。どんなに優しいジャッジでも、ごめんなさいと言いながらやはり酷評するのだ。
リアリティ番組がこんなに人気があるのは、現実の世界では言えないようなことをはっきり言ってくれるからでもあるだろう。実力もないのに自信過剰な人が、厳しい現実を突きつけられる――普段の生活ではめったに見られないことだ。
一方で現実の世界では、褒められる資格のない人を、せっせと褒めなければならない。その結果、褒められた人はさらに自信が大きくなるが、実力は低いままだ。ちなみに、同じようなオーディション番組の「ザ・ヴォイス」では、ジャッジがみな礼儀正しく、ヘタな出場者に対しても現実世界と同じでお世辞しか言わない。だからこちらは視聴率が振るわないのだろう。
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社会心理学者。ロンドン大学教授、コロンビア大学教授。パーソナリティ分析、人材・組織分析、リーダーシップ開発の権威として知られる。J.P.モルガン、Yahoo、ユニリーバ、英国軍ほか組織コンサルタントとしても活躍。
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(社会心理学者 トマス・チャモロ=プリミュージク)
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