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ちゃんと「小さなデリカ」になっている…三菱デリカミニが「ただのSUV風の軽ワゴン」に終わらなかったワケ

プレジデントオンライン / 2023年12月24日 12時15分

筆者撮影

三菱自動車の軽自動車「デリカミニ」が好調だ。自動車ライターの大音安弘さんは「競合車と比べ、高い走行性を持ちながら室内は広々としている点が評価されたのだろう。三菱の看板車種『デリカ』の名に恥じない車だ」という――。

■軽自動車市場で存在感を示した「デリカミニ」

ダイハツ、スズキ、ホンダなどが厳しい戦いを続ける軽自動車市場で、存在感の薄い三菱自動車だが、今年5月に発売した新型軽スーパーハイトワゴン「デリカミニ」が健闘している。

発売前日までに、三菱自動車としては異例の約1万6000台を受注。これは月間販売目標2500台の6倍を超える数字だ。2023年11月はデリカミニとeKシリーズ合算で4927台を販売し、軽乗用車ランキングの10位に入った。このうち3901台がデリカミニなのだ。

これは三菱の最新軽乗用車の中では、ダントツトップのセールスであり、今年4月~9月までの登録台数では、三菱軽乗用車全体の約61%を占めるほど。

ちなみに、従来型に相当するeKクロススペースの累計販売台数が3万1377台に対して、デリカミニは、デビューの今年5月から11月で、累計販売台数は1万9256台に達している。

さらに、今年12月10日には「2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー」において、秀でた内外装デザインを持つクルマを選出する「デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。三菱自動車がこの賞を受けるのは初めてだという。

■「軽スーパーハイトワゴン」+「SUV」

三菱自動車の最新軽乗用車である「デリカミニ」は、近年、軽市場でも人気が高まっているSUV風味の軽自動車だ。同車には、三菱が得意とする悪路走破性の高さを武器とした国産唯一のクロカン系ミニバン「デリカD:5」の名を受け継ぐべく、軽スーパーハイトワゴンに、SUV風味のデザインや機能を与えた。

まずエクステリアだが、力強い顔つきのフロントマスクに加え、ゴツゴツしたデザインのバンパー、リヤ周りやボディ下部をブラック塗装などのアクセントで、SUV風に仕上げている。

ルーフレールもSUV感を演出するパーツだが、スキーやルーフボックスなどを積載する際のベースとなる機能部品でもある。もちろん、軽らしい親しみやすさや愛らしさもデザインには盛り込まれている。

アウトドアシーンでの機能性を高めるべく、インテリアは汚れや傷が目立ちにくい黒色のみ。シートには汚れが付きにくい撥水加工を施し、折り畳める後席のシートバックとラゲッジスペースは、荷物を積載した際に汚れが付着しても拭き取りやすい素材を採用している。

インテリアは黒で統一
筆者撮影
インテリアは黒で統一 - 筆者撮影

キャンプなどアウトドアシーンでの未舗装路での走行も意識し、滑りやすい路面でのスムーズな発進を助ける「グリップコントロール」や下り坂で車速を一定に保つ「ヒルディセントコントロール」などのSUV的な機能も備えている。

特にアクティブユーザーを想定した4WD車では、165/60R15サイズの大径タイヤと専用ショックアブソーバーを装備。荒れた路面や未舗装路での乗り心地と走行安定性を高めたという。また大径タイヤの恩恵として、最低地上高も+5ミリの160ミリまで拡大された。

■試乗してみて最も驚いたこと

今回、私が試乗したのは、力強いターボエンジンと走行性能を高めた4WDを組み合わせた最上級グレード「Tプレミアム(4WD)」だ。

未舗装路となるキャンプ場内の移動から、市街地と高速道路を走らせた。

昨今、目覚ましい進化を遂げる軽乗用車だけに、乗り心地は良好。背の高い軽スーパーハイトワゴンなのでガラスエリアも広いことから視界も良く、頭上空間にもゆとりがあるので、車内も広い。

性能面でゆとりのあるターボエンジンだけに、市街地での走行でも静かだ。驚いたのは、より条件が厳しくなる高速道路だ。

加速性能にも不足がないだけでなく、静かな上で乗り心地が良いことだ。これならば、趣味の相棒として長距離に連れ出しても不足はないだろう。

最上位の「プレミアム」ならば、高速道路で使える同一車線運転支援機能「マイパイロット」が装備されるので、長距離運転や渋滞時などにドライバーの疲れの軽減も図ってくれる。

後席空間も広いので、荷物をたくさん積んだり、休憩スペースに活用したりと、ギアとしての使い勝手も良さそうだ。

リアシートを倒せばラッゲジルームはかなり広々。
筆者撮影
リアシートを倒せばラッゲジルームはかなり広々。 - 筆者撮影

発売前の予約注文では、全体の58%が4WDを選び、最上位となる「Tプレミアム」が、65%を占めたという。ここからは、多くのユーザーが、遊びや生活を豊かにするギアとしてデリカミニを選んでいることが伺える。

またデリカミニをキャラクター化した「デリ丸」が多くの女性の心を掴んだ。デリ丸グッズが欲しくて、三菱の販売店を訪れる女性や家族がいるという話もあり、PRにも成功している。

CMでもおなじみの「デリ丸」
筆者撮影
CMでもおなじみの「デリ丸」 - 筆者撮影

■三菱自動車の苦しみ

デリカミニは、どういった経緯で生まれたのだろうか。その背景には、三菱自動車の技術者の苦しみがあった。

現在の三菱自動車の軽乗用車は、日産自動車と三菱自動車工業の合弁会社「NMKV」による共同開発だ。開発は、日産側と三菱側の技術者が協力して行い、それぞれの得意分野を活かした体制をとる。このため、部品調達や企画などは日産が、生産は三菱自動車が受け持っている。

日産との協業により、両者の軽自動車の性能や品質が高まり、開発コストも抑えられるなど多くのメリットを生んだ。三菱自動車側としては、両社の全ての軽乗用車が生産できるため、生産性の向上に加え、日産側の製造分の利益もあるため、メリットは大きい。

しかし、ブランド力や販売力の差があるため、例えば日産デイズと三菱ekワゴンなど基本的な構造や装備が同じ姉妹車であっても、販売比率は圧倒的に日産の方が上だ。

■「デリカ」だからこそのこだわり

そんな中で、三菱自動車は、軽乗用車市場で主力となった軽スーパーハイトワゴン市場で戦え、かつSUVテイストを加えたクロスオーバースタイルである「ekクロススペース」の良さをより前面に打ち出す新たな軽乗用車を企画した。

実は、社内では「いつかは小さなデリカを作りたい」という思いもあり、「デリカミニ」の商標は取得済みだったという。

技術者たちはまず原点に立ち返ることから始めた。そもそも「ekクロススペース」で実現したかったのは、小さな「デリカ」。三菱が持っているデリカの世界観を改めて追求することを決めたのである。

とはいえ、デリカミニのベースとなるのは、軽スーパーハイトワゴン「ekクロススペース」だ。そのため、大きな仕様変更はなく、ビジュアルや悪路走行のための「グリップコントロール」「ヒルディセントコントロール」に、新制御など便利機能を中心とした内外装の仕様変更がメインになる。

看板車種として高い人気を誇るデリカの名を受け継ぐために、中途半端なクルマにはできないと、開発や製造など関係する社内の部署が団結して、商品化が進められたという。

そのこだわりが最も表現されたのが、コストに厳しい軽自動車ながらも専用サスペンションと専用タイヤを備えた4WD車だ。サスペンションで専用化されたのはダンパーと呼ばれる部分だ。基本構造は、他の三菱の軽乗用車と同じだが、内部の部品を変更することで改良しているという。

■単なる4WDではない

デリカを名乗る以上、4WDが選べるだけでは、顧客を裏切ることになる、そんな思いが感じられる。

このデリカミニ4WD専用の「足回り」で活かされたのが、三菱がパリダカの時代から培ってきた悪路走行性能のノウハウだ。

だからといって本格4WDを目指すのではなく、バランス感も大事にしている。

普段は「スニーカー」として使われる軽乗用車からこそ、日常の快適性を大切にしつつ、時々、必要になるアウトドアシーンなどの未舗装路走行で、「デリカミニは、他の軽より乗り心地や運転した感じが良いね」と言ってもらえる味付けを目指したという。

■軽ワゴンではなく小さなデリカ

デリカの名に期待する声が反映され、発売前の予約注文で全体の58%が4WDを選んだ。国内で販売される新車のうち4WDの割合は2割程度に留まるのが一般的だ。これはクロスオーバーSUVでも同様で、日本人の多くの人が2WD車を選んでいる。

開発陣も、デリカだけに4割くらいかと予想していたそうだが、6割という結果には驚いたそう。この結果は、4WDを強みにするという戦略が実度と成功したことを意味する。

さらに乗り換えは、ホンダ N-BOXとスズキ ハスラーが多いという。いずれもこだわりの強いモデルだが、それらとも競えるキャラクターに仕上がっているのだ。

開発者は、「デリカというのは、ひとつの世界観だ。デリカミニは、軽ワゴンというスタンスではなく、小さなデリカという点を重視している。それが評価され、これだけの支持に繋がったと感じている」と話す。

デリカミニの開発時期は、折しもパジェロやデリカD:5など三菱の看板車種を製造していた岐阜県加茂郡坂祝町にある「パジェロ製造」の閉鎖と重なっており、社内にも寂しさや厳しい空気が漂っていたという。

もしかしたらデリカミニには自身の強みを見つめ直すことで、三菱自動車自体を元気にするという裏テーマもあったのかもしれない。

■4WDでありながら広々

デリカミニの強みはどこにあるのか。

軽乗用車の中には、アウトドアシーンでの活用を意識したものはある。本格性能でいえば、スズキ ジムニーがある。より日常の使い勝手や広さを求める層には、SUV風味の強いスズキ ハスラーやダイハツ タフトといったクロスオーバーワゴンが支持されている。

しかし、ファミリー利用や趣味を楽しむベースキャンプとして活用する場合は、どれも室内高が低いため、車内で着替えがしにくい。また、ラゲッジスペースの容量の手狭に感じる人もいるのも確かだ。その点、デリカミニはスーパーハイトワゴンをベースにしているため、車内は広い。

一方、N-BOXなどのスーパーハイトワゴンと比較すると、、地上高にゆとりがあるため、未舗装路走行でデリカミニが有利といえる。

つまり、デリカの名を冠した4WD車の信頼と広々ワゴン性能を併せ持つことから支持を集めたと推測できる。

いわゆるコスメチューンで終わらなかったこそ、デリカミニは激戦の軽自動車市場で存在感を放つことができたのだ。

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大音 安弘(おおと・やすひろ)
自動車ライター
1980年埼玉県生まれ。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後、フリーランスになり、現在は自動車雑誌やウェブを中心に活動中。主な活動媒体に「GOONETマガジン」「ベストカーWEB」「webCG」「モーターファン.jp」「マイナビニュース」「日経クロストレンド」『GQ』「ゲーテWEB」など。歴代の愛車は、国産輸入車含め、ほとんどがMT車という大のMT好き。

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(自動車ライター 大音 安弘)

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