「やせたい」→「毎朝ランニング」は全然ダメ…キーエンス社員が課題解決のために"真っ先に取り組むこと"
プレジデントオンライン / 2024年1月2日 9時15分
※本稿は、岩田圭弘『数値化の魔力』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■キーエンスの数値化は「プロセスの数値化」
前回の記事でもお伝えしましたが、キーエンスの数値化について、再度おさらいしましょう。
“キーエンスの数値化”とは、いわば「プロセスの数値化」です。
たとえば、「受注件数○件」を目標とする営業であれば、受注(結果)に至るまでの「DM→電話→アポ→面談→商談化」の各プロセス(行動)を分解します。
「採用人数○人」を目標とする人事であれば、採用(結果)に至るまでの「応募→書類選考→一次面接→二次面接→最終面接→内定承諾」の各プロセス(行動)を分解します。
そして、それぞれのプロセス(行動)に数字的目標を立て、日々その実績を記録していきます。
こうして、結果に至るまでの自分の行動を分解し、数値化することで、自分の行動のどこにボトルネックがあるのかが見えてきます。そのボトルネックを解消していくことで、「仕事の結果」を最大化していきます。
これが“キーエンスの数値化”です。
■「もっと受注件数を上げるように」と言われても…
そもそも、なぜこうして「自分の行動」を見える化しないといけないのでしょうか。その理由を簡単にご説明します。
たとえば、あなたが営業担当だとします。会社としての売上目標を達成するために、上司から「○○さん、今月も受注が未達だよ。もっと受注件数を上げるように」と指示されたら、どう思うでしょうか。
既にあなたは業務を真面目に遂行してきているわけですから、「これ以上何をすればいいのかわからない」という状況にあることが多いでしょう。
「それならクロージングトークを強化しよう」といった意見も出ますが、「果たして、それが本当に受注増加につながるのだろうか」というモヤッとした疑問を持ちながら、明確な努力の方法もわからず、気持ちだけが追い詰められてしまいます。
そうです。「結果(ここでは、受注が未達)」だけをいくら見ていても、その「原因(課題)」が明らかになることはありません。当然ながら、「原因」がわからなければ、改善のしようはありません。
■「結果」をプロセスで分解して数値化すると「原因」がわかる
では、「原因」を明らかにするには、どうしたらいいのか。それが、「結果に至るプロセス(行動)」を数字で見える化することです。なぜなら、「結果」というものは必ず、何かしらの「行動」によって生まれるものだからです。
あなたが出した「結果」の原因は必ず、その前のあなたの「行動」に隠れています。今回の営業の例であれば、受注という「結果」を、「DM→電話→アポ→面談→商談化」の各プロセス(行動)に分解します。
そして、「電話100件」「アポ50件」といったように、それぞれについて、自分の日々の行動を数字で記録して、見えるようにするのです。
そうして、「行動」に客観的な数字を与えることで、その「良し悪し」が判断できるようになります。
営業:「今月の受注が足りなかったのは、アポの件数が先月よりも○件下がったからだ」
人事:「昨年よりも採用率が良くない。内定者への条件提示の内容に問題があるはずだ」
「結果」を「プロセス(行動)」で分解して数値化したことで、「原因」を特定することができるようになりました。
このように、結果が振るわない「原因」を客観的に特定するために「数字で『自分の行動』を見える化する」のです。
■原因がわからなければ、どんな解決策も無意味
先ほど、原因の特定もなしに、「それならクロージングトークを強化しよう」という意見が出た例を出しました。
このように、多くの人は「行動の見える化」をせずに、すぐに「How(解決策)」を考えることに注目してしまいますが、そうすると成果の出ない「無駄な努力」ばかりをすることになってしまいます。
たとえば、私はダイエットを試みたことがありますが、当初は「動いていれば痩せるだろう」という大雑把な考えで朝のランニングを始めました。ところが一向に効果が出ません。
そこで、調べてみると、そもそも私はランニング程度では補えないほどに、1日の摂取カロリーが高いことがわかりました。つまり、最初から課題設定が間違っていたのです。
「結果」を出すためには、「結果が出せない原因(課題)」を特定し、改善する必要がありますが、ここで最も重要なのは「How(解決策)」よりも「Where(どこに原因があるのか)」の特定です。
「Where」がずれていたら、どんなにすばらしい「How」も徒労に終わりますし、逆に言うと、「Where」が特定できれば、あとはそれを改善するだけですから、「成果の出る正しい努力」をすることができます。
そして、この最も重要な「Where」を客観的に特定できるのが、「『自分の行動』の見える化」であり、「数値化」なのです。
こうして、数字で客観的に「原因(課題)」を特定し、改善していくことで、お伝えした「再現性」を担保することができるのです。
■数値化することはむしろ「人間味」をもたらす
私たちは「数値化すべき」と言われると、何か非人間的な印象を受けてしまいがちですが、実は逆なのです。行動を数値化することで無駄な努力を減らせますし、成果もはっきりしますから手応えを感じられます。
実際、キーエンスの離職率は3~5%台で推移していますが、これは厚生労働省が発表した令和3年度の離職率である13.9%よりもかなり低い数値になっています。
同じく厚生労働省が発表している同年度の産業別離職率では製造業が9.7%となっていますから、業界内で比べても大きく下回っています。
この離職率の低さの要因の一つに、数値化によって逆に社員の「不要なストレスやプレッシャー」を排除できていることが関係しているかもしれません。
仮に「結果」が振るわない場合でも、「原因」が客観的にわかりますから、安心して次の手を打つことができます。
つまり、「行動を数値化する」ことは、むしろ仕事に人間味をもたらすと言えます。
数値化で努力が報われるようになるのは営業部門だけではありません。たとえば人事部であれば、採用において入社人数が少なかった場合、人材採用活動のプロセスを分解して数値化すればいいのです。
数値化することで、原因が「面接での通過率が低かったこと」にあったのか、「内定後の入社率が低かったこと」にあったのかなど、一番大事な「Where(どこに原因があるのか)」が見えてきます。
「Where」が特定できたら、あとはそれを一つ一つ改善していくだけです。
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アスエネ共同創業者 兼 取締役COO
慶應義塾大学経済学部卒業後、2009年にキーエンスに新卒入社。マイクロスコープ事業部の営業を担当。2010年新人ランキング1位を獲得。その後、2012年下期から3期連続で全社営業ランキング1位を獲得し、マネージャーに就任。その後本社販売促進グループへ異動、営業戦略立案・販売促進業務を担当。2015年、三菱UFJリサーチ&コンサルティングに転職。小売、医薬、建設業界の戦略策定、新規事業戦略策定に従事。2016年にキーエンスに戻り新規事業の立上げに携わる。2020年アスエネに参画。
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(アスエネ共同創業者 兼 取締役COO 岩田 圭弘)
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