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「間違った断熱」を選ぶと結露で家が腐っていく…職人社長が「外断熱を安易に選んではいけない」と断言する理由

プレジデントオンライン / 2024年1月5日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

家の断熱対策はどうするべきなのか。「職人社長」を名乗る平松明展さんは「冬は暖かく、夏は涼しい家にするためには断熱対策がとても大切になる。ただし、断熱性を高めたいからといって、透湿抵抗値の高い断熱材を二重にする『外断熱』はやめたほうがいい」という――。

※本稿は、平松明展『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「新築住宅の悲劇」を招く5つの事態

現在の住宅建築では断熱の施工をすることは常識です。ただ、すべての住宅で断熱性が担保されているかというと、そうでもない事実もあるのです。

断熱性を追求するひとつに、断熱材を増やすことがあります。

断熱材を厚くすると冬は暖かく、夏は涼しくできる理論は間違っていませんが、湿気や結露対策がされていなければ建材が劣化して建物の耐久性もどんどん低くなってしまいます。

その結果、断熱材も劣化して断熱性まで失われることになります。追求した断熱性が実現されず、さらに家の耐久性などに支障が出てしまうことは悲劇としかいいようがありません。悲劇を招く事態は次の5つです。

①湿気を室内にとどめてしまう

昔ながらの日本家屋は木材中心で、壁には土を使っているため通気性に優れていました。現在の住宅は新建材やビニールクロスを使用しており、なにもしなければ湿気がとどまりやすく結露が発生しやすいと思ってください。

■断熱材を二重にする「外断熱」はやってはいけない

例えば断熱材の内側に気密シートを貼っているとします。冬場は室内の湿度が外よりも高いのですが、湿気は気密シートで止まるため断熱材には影響しません。

ところが夏場は外の湿度が高いため、室内に入ってこようとします。すると同じく気密シートのところで湿気がとどまります。室内はエアコンで温度と湿度を下げていますから、温度差によって断熱材の隙間に結露が生じてしまうのです。

湿気は水蒸気でとても細かな物質のため、完全に入らないようにすることはできません。その特性を考えてできる対策としては、断熱材の外側にある耐力面材(※)やプラスターボードを透湿抵抗値の低いものにする方法です。“湿気が入っても抜ける”という原理を働かせるわけです。また、透湿抵抗値の高い(湿気が移動しにくい)断熱材を一層だけ使用することも有効な手段のひとつです。

断熱構造の比較
出典=『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』

ちなみに外断熱など、透湿抵抗値の高い断熱材を二重にして施工すると、外壁からの漏水があった場合に建物のダメージが大きくなるリスクがあります。断熱材に湿気がたまるとシロアリや腐朽菌を発生させることになり、断熱性が落ちるばかりでなく、建物の損傷につながってしまいます。鉄骨造やRC構造は外断熱になるためリスクが高いのです。

※耐力面材:地震などで加わった力を壁全体に分散させる効果のある部材。

■気密性を確認したかったら「宿泊体験」してみる

②気密性のあまさにつながる

かなり高い施工技術がないと断熱構造の隙間を解消できません。また断熱材が増えると外と中との温度差が大きくなるので結露リスクも高まり、隙間があればそこに結露が発生してしまうわけです。

丁寧な施工をしている会社は「気密測定」も念入りに行います。ただ、一般の人が測定値を確認するのは難しいですよね。気密性を確認するには、冬場や夏場にその住宅に宿泊して体感すること。宿泊体験できる住宅会社を選んでおくと安心ですね。

気密性を高めるには断熱の施工精度を高めることと、壁材の構成を完璧(かんぺき)にすること。どちらか一方でよいのではなく、二重の保険をかける意味合いで両方を徹底するべきでしょう。

③漏水のリスクがある

まず一般的な断熱材を入れた壁の構造を解説すると、室内側からプラスターボードという壁下地の建材があり、断熱材、耐力面材、防水シート、通気層、外壁という順になります。どんなに精度が高い外壁を施工したとしても雨で水が入ってくることを想定しておかなければなりせん。防水シートも同様で絶対に防げるという保証はないので、水が入ってきても大丈夫だという観点でお話しします。

■外断熱は「冬カラカラ、夏はジメジメ」になりやすい

水が入ってくると断熱材や耐力面材が損傷します。これを避けるには、防水シートと耐力面材の透湿抵抗値をあまり高くないものにすること。すると水が入っても抜ける仕組みになるので、劣化しにくくなります。

外断熱のケースではさらに悲惨です。プラスターボード、断熱材、耐力面材、断熱材、防水シート、通気層、外壁という構成になり、断熱材が耐力面材を挟んだ状態になります。

断熱材が透湿抵抗値が高いものだと水は抜けなくなります。断熱材の透湿抵抗値の低いものを設置すると、冬場に加湿しても抜けてしまい、夏場に除湿しても湿気がどんどん入ってくる事態に。つまり、透湿抵抗値の高い断熱材をひとつだけ設置するほうが理に適(かな)っているのです。

一般的な断熱方式と外断熱方式の仕組みの違い
出典=『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』

■通気層の流れを確認しておく

④通気層がない

通気層が連続した状態で設置されていれば、万が一水が入っても抜けます。ところが設計によっては通気層の出口が塞ふさがれているケースがあるのです。この通気層は熱気や湿気を抜く役割もあります。

この抜け道をつくる材料を通気胴縁(つうきどうぶち)といいますが、その先に窓が設置されていると道が塞がれてしまいます。この場合は通気胴縁を短く切って横に抜ける道をつくるのが適切な施工です。

適正な通気層は、地面の近くにある給気部分から屋根にある棟換気という排気口までが連続していること。日射によって発生する熱気も通気層を流れて屋根から出ていくわけです。暖かい空気は上昇する性質がありますから。

通気層の構図
出典=『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』

内部構造を確認するのは難しいかと思いますが、質問をしてみて腑(ふ)に落ちる回答があるかどうかで判断できるでしょう。いずれにしてもある程度の知識が必要というわけです。

■内部結露は補償してもらえない場合が多い

⑤空気が悪くなる

成人は一日に20㎏も空気を吸っているそうです。空気は気分を左右するだけでなく、建材や家電製品、家具などから発せられている化学物質を吸うことで健康面にも影響します。そこで建築基準法で「機械換気」の設置が義務づけられています。機械設備によって強制的に換気をするシステムですね。

一方で自然換気というものもあります。ただし、断熱性を高めるために気密性を高めてしまうと、空気の出入りがしにくくなってしまいます。そこで有効なのが通気層です。内壁がすべて通気層になっていれば、空気は自然に循環します。

高断熱高気密が一概にダメというわけではありません。かなり高い精度であれば5つの要因を避けられますが、家づくりに絶対はありません。どんなに腕のいい職人でも完璧ではないのです。そのリスクを避けるのに最も適しているのがWB工法です。『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』(KADOKAWA)で何度も紹介している工法ですが、結露の発生リスクがとても低い構造です。

補足ですが漏水に関しては保険に入れば補償があります。万が一損傷した場合も保険で修復できるのです。ただし、一般的に内部結露は補償の対象外です。断熱性を高めるために初期費用をかけたのに、湿気や漏水によって断熱性が低くなり光熱費が増し、損傷した部分を修復するためにメンテナンスコストがかかり、場合によっては建て替えることに。そんな悲劇を招かないためにも正しい知識を持っておきましょう。

建設中の家のインテリアビュー
写真=iStock.com/photovs
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/photovs

■西側には窓をつけない

間違った断熱性の追求による悲劇をお伝えしましたが、みなさんを恐怖にさらそうとしているわけではありません。住まいはさまざまな要因によって変化し、私たちはそこで生活していることを認識してほしいだけです。

日射もそのひとつ。家には日射を防ぐためにひさしがありますよね。サンシェードやすだれで日射を防ぐ方法もあります。

あとは窓が重要です。窓が大きければ室内にダイレクトに日射が入ってきます。明るい部屋にできたとしても、夏場は日射で暑くなってしまうのです。その場合、小さな窓にして光だけを取り入れる設計にするのが有効。

また西側に窓をつけないことも対策です。建物が熱せられた状態で、さらに西日が入ってくると室温を下げるのにエアコンのエネルギー量が増します。

夏場の断熱性を高める窓の配置
出典=『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』

■断熱材は、厚く高性能なものを1枚だけでいい

気温も室温と関係してきますが、日射、気温の影響を防ぐには断熱材を厚く、性能のよいものにすることです。断熱材の性能と壁構造が湿気対策にも関係することは先に述べたとおり。冬場は室内の湿気が外に出てしまいますが、室内から外に出したいのは湿気ではありません。臭いや化学物質などです。

夏場は内部発熱を考慮しなければなりません。冷蔵庫、テレビ、パソコンなどの家電から熱が出ています。さらに人間からも熱が発せられています。成人だと100Wくらいの熱量を発しています。狭い空間に大勢が集まって暑く感じた経験があるでしょう。

室内は断熱材の内部です。なにも対処しなければ内部発熱は室内にこもったまま。熱を外に逃す換気が必要です。

平松明展『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』(KADOKAWA)
平松明展『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』(KADOKAWA)

温度の高い空気は上昇するので、窓を高い位置につけて熱気を排出する方法もあります。

最も有効なのが、やはりWB工法。湿気を外に出す構図と同じです。二重構造の通気層があるわけですから、自然に室内の熱量を外に排出できるわけです。

これは臭いにおいても同様。先述の「⑤空気が悪くなる」のところで解説したとおりです。WB工法はこうした空気の流れもよくでき、「形状記憶式自動開閉装置」で温度を感知し、換気口を自動的に開閉できるわけですから、室内の空気も常にきれいなんですよね。

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平松 明展(ひらまつ・あきのぶ)
職人社長
平松建築株式会社代表取締役。建築歴23年。19歳から大工として10年間で100軒以上の住宅を解体、修繕し、住宅の性能の特徴を理解する。2009年創業。会社経営を行いながらもドイツを訪れて省エネ住宅を学ぶほか、地震後の現地取材を行い、気候風土に合った家づくりの研究を行う。YouTube チャンネル「職人社長の家づくり工務店」(登録者数は9万人以上)も配信中。

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(職人社長 平松 明展)

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